ばねを引っ張ると、引けば引くほど強い力で戻ろうとします。
この「伸びと力の比例関係」こそが、17世紀にロバート・フックが発見した法則です。
力を測るばかりの原理であり、エネルギーの議論へもつながる大切な法則を学びましょう。
ばねを自然長(何もつけていないときの長さ)から伸ばしたり縮めたりすると、 ばねは元の長さに戻ろうとする力を発揮します。 この力が弾性力(復元力)です。
日常でもこの力は至るところで使われています。 ボールペンのカチッと戻るバネ、トランポリン、車のサスペンション。 どれもばねの弾性力を利用した仕組みです。
弾性力の向きは、常に自然長に戻る向きです。
弾性力は変位と逆向きです。ばねを右に伸ばせば弾性力は左向き、左に縮めれば弾性力は右向き。
この「変位と逆向き」という性質は、物理全体で繰り返し登場する復元力の典型例です。 振動や波動の分野でも、この考え方が基礎になります。
ばねの弾性力の大きさは、ばねの自然長からの伸び(または縮み)に比例します。 これをフックの法則といいます。
$$F = kx$$
この式は「ばねの伸び $x$ が2倍になれば、弾性力 $F$ も2倍になる」ことを意味します。 グラフに描くと、$F$ と $x$ の関係は原点を通る直線になります。
フックの法則の本質は $F \propto x$(力が変位に比例する)という比例関係です。
比例定数が $k$(ばね定数)であり、この値がばねの「硬さ」を表します。 $k$ が大きいばねは、同じ伸びでも大きな力を発揮する「硬いばね」です。
フックの法則の $x$ は自然長からの伸び(変形量)であり、ばねの全長ではありません。
✕ 誤:自然長 $20\,\text{cm}$ のばねが $25\,\text{cm}$ に伸びた → $x = 25\,\text{cm}$
○ 正:自然長 $20\,\text{cm}$ のばねが $25\,\text{cm}$ に伸びた → $x = 25 - 20 = 5\,\text{cm} = 0.05\,\text{m}$
ばね定数 $k$ の単位は $\text{N/m}$ です。$x$ は $\text{m}$ に変換して計算します。
✕ 誤:$k = 100\,\text{N/m}$、$x = 5\,\text{cm}$ → $F = 100 \times 5 = 500\,\text{N}$
○ 正:$k = 100\,\text{N/m}$、$x = 0.05\,\text{m}$ → $F = 100 \times 0.05 = 5.0\,\text{N}$
ばね定数 $k$ は、「ばねを $1\,\text{m}$ 伸ばすのに必要な力」を表します。 $k$ が大きいほど硬いばね、小さいほど柔らかいばねです。
フックの法則 $F = kx$ を変形すると、
$$k = \frac{F}{x}$$
実験では、既知の質量のおもりをばねに吊るし、伸びを測定します。 $F = mg$(おもりの重力)と $x$(伸び)から $k$ を計算できます。
$F$-$x$ グラフ(縦軸:弾性力、横軸:伸び)を描くと、原点を通る直線になります。 この直線の傾きがばね定数 $k$ です。
グラフで傾き $k$ を求めるとき、軸の単位に注意しましょう。
✕ 誤:横軸が $\text{cm}$ なのに $\text{m}$ と思って計算する → $k$ が100倍ずれる
○ 正:軸の単位を確認し、SI単位($\text{N}$ と $\text{m}$)に変換してから傾きを求める
複数のばねをつなげて使う場合、つなぎ方によって全体のばね定数が変わります。
2つのばね(ばね定数 $k_1$、$k_2$)を一列に(直列に)つなぐと、 全体としては柔らかくなります。
$$\frac{1}{k} = \frac{1}{k_1} + \frac{1}{k_2}$$
直列つなぎでは、両方のばねに同じ大きさの力 $F$ がはたらきます。
各ばねの伸び:$x_1 = \dfrac{F}{k_1}$、$x_2 = \dfrac{F}{k_2}$
全体の伸び:$x = x_1 + x_2 = \dfrac{F}{k_1} + \dfrac{F}{k_2}$
合成ばね定数 $k$ は $x = \dfrac{F}{k}$ を満たすので、
$\dfrac{F}{k} = \dfrac{F}{k_1} + \dfrac{F}{k_2}$ → $\dfrac{1}{k} = \dfrac{1}{k_1} + \dfrac{1}{k_2}$
2つのばねを並べて(並列に)つなぐと、全体としては硬くなります。
$$k = k_1 + k_2$$
並列つなぎでは、両方のばねの伸びが同じ $x$ です。
各ばねの弾性力:$F_1 = k_1 x$、$F_2 = k_2 x$
全体の弾性力:$F = F_1 + F_2 = k_1 x + k_2 x = (k_1 + k_2)x$
合成ばね定数 $k$ は $F = kx$ を満たすので、$k = k_1 + k_2$
直列つなぎは、力を受ける長さが長くなるので柔らかくなります。並列つなぎは、力を分担するので硬くなります。
電気回路の抵抗の合成と対比すると面白い関係があります。 ばねの直列は抵抗の直列と逆(ばねは逆数の和、抵抗はそのまま和)になっています。
フックの法則はすべての変形量で成り立つわけではありません。 ばねを伸ばしすぎると、力と伸びの比例関係が崩れます。
比例関係が成り立つ範囲を弾性限界(比例限界)といいます。 弾性限界を超えると、ばねは元の長さに戻らなくなり(塑性変形)、やがて破断します。
問題文に「ばねは弾性限界内にあるものとする」と書かれている場合のみ、$F = kx$ を使います。
高校物理の問題では通常この条件が仮定されていますが、「フックの法則が成り立つ範囲で」という限定を意識しておきましょう。
フックの法則に従うばねに蓄えられる弾性エネルギーは、$F$-$x$ グラフの面積(三角形)から、
$$U = \frac{1}{2}kx^2$$
と求められます。これは第3章(仕事とエネルギー)で詳しく扱いますが、 $F = kx$(比例関係)が前提であることを覚えておきましょう。
Q1. ばね定数 $200\,\text{N/m}$ のばねを $0.10\,\text{m}$ 伸ばしたとき、弾性力の大きさを求めてください。
Q2. $49\,\text{N}$ の力で $0.20\,\text{m}$ 伸びるばねのばね定数を求めてください。
Q3. ばね定数 $100\,\text{N/m}$ と $200\,\text{N/m}$ のばねを直列につないだとき、合成ばね定数を求めてください。
Q4. フックの法則の $x$ は何を表しますか。「ばねの長さ」ですか。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
自然長 $0.20\,\text{m}$ のばねに質量 $0.50\,\text{kg}$ のおもりをつるしたところ、ばねの長さが $0.25\,\text{m}$ になった。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、このばねのばね定数を求めよ。
$98\,\text{N/m}$
伸び $x = 0.25 - 0.20 = 0.05\,\text{m}$
おもりにはたらく重力 $F = mg = 0.50 \times 9.8 = 4.9\,\text{N}$
つりあいより弾性力 $= 4.9\,\text{N}$ なので、$k = \dfrac{F}{x} = \dfrac{4.9}{0.05} = 98\,\text{N/m}$
ばね定数 $k_1 = 200\,\text{N/m}$、$k_2 = 300\,\text{N/m}$ の2つのばねを直列につなぎ、一端を天井に固定して他端に質量 $1.2\,\text{kg}$ のおもりをつるした。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 合成ばね定数を求めよ。
(2) 全体の伸びを求めよ。
(3) $k_1$ のばねの伸びを求めよ。
(1) $120\,\text{N/m}$
(2) $0.098\,\text{m}$
(3) $0.0588\,\text{m}$
(1) $\dfrac{1}{k} = \dfrac{1}{200} + \dfrac{1}{300} = \dfrac{3+2}{600} = \dfrac{5}{600}$ → $k = 120\,\text{N/m}$
(2) $F = mg = 1.2 \times 9.8 = 11.76\,\text{N}$、$x = \dfrac{F}{k} = \dfrac{11.76}{120} = 0.098\,\text{m}$
(3) 直列つなぎでは各ばねに同じ力 $F = 11.76\,\text{N}$ がはたらくので、$x_1 = \dfrac{F}{k_1} = \dfrac{11.76}{200} = 0.0588\,\text{m}$
天井にばね定数 $k$ のばねをつけ、その下端に質量 $m$ の物体Aを、さらにAの下に軽い糸で質量 $M$ の物体Bをつるして静止させた。重力加速度を $g$ とする。
(1) ばねの伸びを求めよ。
(2) 糸の張力を求めよ。
(3) 糸を切った直後の物体Aの加速度を求めよ。
(1) $x = \dfrac{(m+M)g}{k}$
(2) $T = Mg$
(3) 上向きに $\dfrac{Mg}{m}$
(1) AとBを一体として考えると、ばねが支えるのは合計の重力 $(m+M)g$ です。$kx = (m+M)g$ → $x = \dfrac{(m+M)g}{k}$
(2) Bに注目すると、Bにはたらく力は重力 $Mg$(下向き)と張力 $T$(上向き)。つりあいから $T = Mg$。
(3) 糸を切った直後、ばねの伸びは変わらないので弾性力は $kx = (m+M)g$ のまま。Aにはたらく力は、弾性力(上向き)$(m+M)g$ と重力(下向き)$mg$。合力は上向きに $(m+M)g - mg = Mg$。$ma = Mg$ → $a = \dfrac{Mg}{m}$(上向き)。