第3章 運動の法則(物理基礎)

運動の法則 総合演習
─ 第3章の力を試す6題

第3章「運動の法則」で学んだ内容を、入試レベルの総合問題で仕上げましょう。
水平面・斜面・エレベーター・2物体・滑車——さまざまな場面を横断する問題を通じて、運動方程式を立てる力を完成させます。
A基礎2問、B発展2問、C応用2問の計6題。すべて解ければ、第3章は完璧です。

1第3章の重要公式チェック

総合演習に取り組む前に、第3章で登場した重要公式を一覧で確認しましょう。

📐 運動の3法則と重要公式

第1法則(慣性の法則):合力が $0$ の物体は等速直線運動を続ける(静止を含む)。

第2法則(運動方程式):

$$ma = F \quad \text{(合力 $F$、質量 $m$、加速度 $a$)}$$

第3法則(作用反作用):物体 A が B に力を及ぼすと、B は A に大きさ等しく逆向きの力を及ぼす。

重力:$W = mg$

見かけの重さ:$N = m(g + a)$(鉛直上向きを正)

接触した2物体の加速度:$a = \dfrac{F}{m_1 + m_2}$

※ 運動方程式はベクトルの式。各方向ごとに成分で立てるのが基本。
💡 ここが本質:すべてのパターンの出発点は「運動方程式」

水平面、斜面、エレベーター、2物体、滑車——場面は変わっても、やることは常に同じです。

(1) 着目する物体を決める → (2) 力をすべて書き出す → (3) 座標を設定して運動方程式を立てる → (4) 解く

この手順を自然に実行できれば、どんな問題にも対応できます。

2運動方程式を立てる手順の確認

第3章の全パターンに共通する「運動方程式を立てる手順」を確認します。

  1. 着目する物体を選ぶ:2物体の問題では「一体」と「個別」を使い分ける
  2. 力をすべて書き出す:重力、垂直抗力、張力、摩擦力、外力
  3. 座標を設定する:加速度の方向を正にするのが定石
  4. 運動方程式を立てる:$ma = $ (正の向きの力)$-$(負の向きの力)
  5. 連立方程式を解く:2物体なら式が2本
🔬 深掘り:座標の正の向きの決め方

座標の正の向きは自由に選べますが、加速度の向きを正にとるのが最も計算しやすい方法です。

斜面の問題:斜面を下る向きを正にとれば、$a > 0$ で自然。

滑車の問題:重い方の物体が下がる向きを正にとれば、$a > 0$。

もし正の向きを間違えても、答えの符号が負になるだけで間違いではありません。符号を読み替えれば正解にたどり着けます。

パターン別チェックリスト

パターンポイント注意事項
水平面上の1物体水平方向に運動方程式$N = mg$(垂直方向はつりあい)
斜面上の1物体斜面方向に運動方程式$N = mg\cos\theta$($mg$ ではない)
エレベーター鉛直方向に運動方程式$N = m(g+a)$。速度ではなく加速度で決まる
接触した2物体一体 → 個別の2段階一体では内力を含めない
糸でつながった2物体(滑車)各物体の運動方程式+拘束条件糸の張力は両端で等しい(軽い滑車)

3よくある間違いと対策

⚠️ 落とし穴1:斜面で $N = mg$ とする

✕ 誤:斜面角度 $\theta$ でも $N = mg$

○ 正:$N = mg\cos\theta$(斜面に垂直な方向のつりあいから)

垂直抗力は常に「つりあいの式」または「運動方程式」から求める量です。

⚠️ 落とし穴2:作用反作用とつりあいを混同する

✕ 誤:「物体に働く重力 $mg$ と垂直抗力 $N$ は作用反作用の関係」

○ 正:重力と垂直抗力は同じ物体にはたらく2力なので、つりあいの関係。作用反作用は異なる物体間の力

作用反作用の例:人が床を押す力と、床が人を押す力(垂直抗力)。

⚠️ 落とし穴3:滑車で張力と重力を直接等しくする

✕ 誤:「質量 $m$ の物体にはたらく張力は $T = mg$」(加速しているのに)

○ 正:加速度がある場合は $T \neq mg$。運動方程式 $ma = mg - T$ から $T$ を求める。

$T = mg$ が成り立つのは、物体が静止または等速のとき($a = 0$)だけです。

💡 ここが本質:「$N = mg$」「$T = mg$」は特殊な場合にすぎない

$N = mg$ も $T = mg$ も、加速度がゼロのとき限定の結果です。一般には $N$ も $T$ も運動方程式を立てて初めて求まる未知数です。

公式を「当てはめる」のではなく、毎回「運動方程式を立てて求める」習慣を身につけましょう。

4問題への取り組み方

以下の入試問題演習に取り組む際のアドバイスです。

A 基礎レベルの使い方

基本的な運動方程式の立て方と計算力を確認する問題です。 ここでミスが出る場合は、該当する記事に戻って復習しましょう。目安は1問5分以内

B 発展レベルの使い方

複数の知識を組み合わせる問題です。力の書き出し→座標設定→式の立式を丁寧に行いましょう。 目安は1問8分以内

C 応用レベルの使い方

入試本番レベルの総合問題です。状況把握→方針決定→計算実行の流れを意識しましょう。 目安は1問12分以内

🔬 深掘り:解けなかったときの復習法

答えを見てすぐ次の問題に進むのは非効率です。次の手順で復習しましょう。

(1) 解説を読んで「どこで詰まったか」を特定する

(2) その箇所に対応する記事に戻って理解を深める

(3) 翌日、もう一度同じ問題を解く(何も見ずに)

「見て分かる」と「自分で解ける」は全く異なります。

5この章を俯瞰する

第3章の運動の法則は、物理の全分野の土台です。ここでの「運動方程式を立てる力」が、円運動、万有引力、電磁気に至るまですべてに直結します。

つながりマップ

  • ← 第2章 力のつりあい:つりあい($a = 0$ の特殊ケース)から、$a \neq 0$ の一般ケースへ拡張した。
  • ← M-3-9 エレベーターの見かけの重さ:鉛直方向の運動方程式で見かけの重さを扱った。
  • ← M-3-10 接触した2物体:「一体化と分離」の2段階戦略を学んだ。
  • → 第4章 摩擦力と運動:摩擦力のある場面での運動方程式へ発展。
  • → 第5章 円運動:加速度が速度に垂直な場合。向心力として運動方程式を適用する。
  • → 第7章 仕事とエネルギー:運動方程式を距離について積分すると、仕事とエネルギーの関係が得られる。

📋まとめ

  • 運動方程式 $ma = F$ がすべてのパターンの出発点
  • 手順:物体選択 → 力の書き出し → 座標設定 → 式を立てる → 解く
  • 垂直抗力も張力も「式から求める未知数」。$N = mg$、$T = mg$ と決めつけない
  • 2物体の問題は一体化で加速度分離で抗力(張力)を求める
  • 座標の正の向きは加速度の向きにとると計算がスムーズ
  • 作用反作用(異なる物体間)とつりあい(同一物体上)を混同しない

確認テスト

Q1. 運動方程式を立てるとき、最初にやるべきことは何ですか。

▶ クリックして解答を表示着目する物体を決め、その物体にはたらくすべての力を書き出すこと。力の書き漏れは最も多いミスの原因です。

Q2. 「重力と垂直抗力は作用反作用の関係」は正しいですか。

▶ クリックして解答を表示正しくありません。重力と垂直抗力は同一物体にはたらく力なので「つりあい」の関係です。作用反作用は異なる2物体間の力の関係(例:人が床を押す力と床が人を押す力)。

Q3. 接触した2物体の問題で「一体として考える」利点は何ですか。

▶ クリックして解答を表示物体間の抗力(内力)が打ち消し合うため、未知数が減り、加速度を直接求められること。

Q4. 加速度がある場合に $T = mg$ としてよいですか。理由を述べてください。

▶ クリックして解答を表示よくありません。$T = mg$ は $a = 0$(静止または等速)のときの特殊ケースです。一般には運動方程式 $ma = mg - T$(鉛直下向き正)から $T = m(g - a)$ のように求めます。

8入試問題演習

第3章の総まとめとして、6題の入試レベル問題に挑戦しましょう。

A 基礎レベル

3-11-1 A 基礎 水平面摩擦

動摩擦係数 $\mu' = 0.30$ の水平面上に質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体を置き、水平方向に $12\,\text{N}$ の力で引く。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。

(1) 物体にはたらく動摩擦力の大きさを求めよ。

(2) 物体の加速度を求めよ。

(3) 静止状態から $3.0\,\text{s}$ 後の速さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $f = 5.88\,\text{N} \approx 5.9\,\text{N}$

(2) $a \approx 3.1\,\text{m/s}^2$

(3) $v \approx 9.2\,\text{m/s}$

解説

(1) 水平面上なので $N = mg = 2.0 \times 9.8 = 19.6\,\text{N}$

$$f = \mu' N = 0.30 \times 19.6 = 5.88\,\text{N}$$

(2) 水平方向の運動方程式:$ma = F - f$

$$a = \frac{F - f}{m} = \frac{12 - 5.88}{2.0} = \frac{6.12}{2.0} \approx 3.1\,\text{m/s}^2$$

(3) $v = at = 3.06 \times 3.0 \approx 9.2\,\text{m/s}$

3-11-2 A 基礎 斜面加速度

角度 $30°$ の滑らかな斜面上に質量 $4.0\,\text{kg}$ の物体を置いて静かに放した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。

(1) 物体にはたらく垂直抗力を求めよ。

(2) 物体の加速度を求めよ。

(3) 滑り始めてから $2.0\,\text{s}$ 後に斜面を下った距離を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $N \approx 33.9\,\text{N}$

(2) $a = 4.9\,\text{m/s}^2$

(3) $x = 9.8\,\text{m}$

解説

斜面に平行(下向き正)と垂直に座標を取る。

(1) 垂直方向のつりあい:$N = mg\cos 30° = 4.0 \times 9.8 \times \dfrac{\sqrt{3}}{2} \approx 33.9\,\text{N}$

(2) 斜面方向の運動方程式:$ma = mg\sin 30°$

$$a = g\sin 30° = 9.8 \times 0.50 = 4.9\,\text{m/s}^2$$

(3) $x = \dfrac{1}{2}at^2 = \dfrac{1}{2} \times 4.9 \times 2.0^2 = 9.8\,\text{m}$

B 発展レベル

3-11-3 B 発展 滑車2物体

図のように、滑らかな水平面上に質量 $M = 3.0\,\text{kg}$ の物体 A を置き、軽い糸で滑車を通して質量 $m = 2.0\,\text{kg}$ の物体 B をぶら下げた。糸は伸びず、滑車と糸の質量は無視でき、滑車の摩擦はないものとする。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。

(1) 糸の張力 $T$ を求めよ。

(2) 物体 A, B の加速度を求めよ。

(3) 物体 B を静かに放してから $1.0\,\text{s}$ 後の B の速さと落下距離を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $T \approx 11.8\,\text{N}$

(2) $a \approx 3.92\,\text{m/s}^2$

(3) 速さ $v \approx 3.9\,\text{m/s}$、落下距離 $x \approx 2.0\,\text{m}$

解説

A の水平方向の運動方程式(右向き正):$Ma = T$ …①

B の鉛直方向の運動方程式(下向き正):$ma = mg - T$ …②

糸が伸びないので A と B の加速度の大きさは等しい(拘束条件)。

①+②:$(M + m)a = mg$

$$a = \frac{mg}{M + m} = \frac{2.0 \times 9.8}{3.0 + 2.0} = \frac{19.6}{5.0} = 3.92\,\text{m/s}^2$$

①より:$T = Ma = 3.0 \times 3.92 = 11.76 \approx 11.8\,\text{N}$

(3) $v = at = 3.92 \times 1.0 \approx 3.9\,\text{m/s}$

$x = \dfrac{1}{2}at^2 = \dfrac{1}{2} \times 3.92 \times 1.0^2 \approx 2.0\,\text{m}$

採点ポイント
  • A, B それぞれの運動方程式を正しく立てる(各3点)
  • 拘束条件(加速度が等しい)を使う(2点)
  • $T$ と $a$ を正しく求める(各2点)
3-11-4 B 発展 エレベーター2物体

加速度 $a = 2.0\,\text{m/s}^2$ で上向きに加速するエレベーター内に、質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体 A を置き、その上に質量 $1.0\,\text{kg}$ の物体 B を載せた。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。

(1) エレベーターの床が A を押す垂直抗力 $N_1$ を求めよ。

(2) A と B の間の垂直抗力 $N_2$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $N_1 = 47.2\,\text{N}$

(2) $N_2 = 11.8\,\text{N}$

解説

方法1:一体 → 個別

(1) A+B を一体として、鉛直上向き正。

$$(m_A + m_B)a = N_1 - (m_A + m_B)g$$

$$N_1 = (m_A + m_B)(g + a) = 4.0 \times (9.8 + 2.0) = 4.0 \times 11.8 = 47.2\,\text{N}$$

(2) B のみに着目。B の運動方程式:

$$m_B \cdot a = N_2 - m_B g$$

$$N_2 = m_B(g + a) = 1.0 \times 11.8 = 11.8\,\text{N}$$

検算:A のみの運動方程式 $m_A a = N_1 - N_2 - m_A g$ に代入すると、$3.0 \times 2.0 = 47.2 - 11.8 - 29.4 = 6.0$。正しい。

採点ポイント
  • 一体の運動方程式を正しく立てる(3点)
  • B のみの運動方程式を正しく立てる(3点)
  • $N_1$, $N_2$ を正しく求める(各2点)

C 応用レベル

3-11-5 C 応用 斜面+滑車2物体

角度 $30°$ の滑らかな斜面上に質量 $M = 4.0\,\text{kg}$ の物体 A を置き、軽い糸で斜面上端の滑車を通して質量 $m = 3.0\,\text{kg}$ の物体 B をぶら下げた。糸は斜面に平行で、伸びないものとする。滑車の質量と摩擦は無視できる。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。

(1) 物体 A, B の加速度の大きさと向きを求めよ。

(2) 糸の張力を求めよ。

(3) $M$ をどのような値にすれば A, B が静止したままになるか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $a = 1.4\,\text{m/s}^2$、A は斜面を上り B は下降

(2) $T \approx 25.2\,\text{N}$

(3) $M = 6.0\,\text{kg}$

解説

$Mg\sin 30° = 4.0 \times 9.8 \times 0.50 = 19.6\,\text{N}$、$mg = 3.0 \times 9.8 = 29.4\,\text{N}$

$mg > Mg\sin 30°$ なので B が下降し、A は斜面を上る。B の下降方向を正とする。

A の運動方程式(斜面上向き正、すなわち正の向き):$Ma = T - Mg\sin 30°$ …①

B の運動方程式(下向き正):$ma = mg - T$ …②

①+②:$(M + m)a = mg - Mg\sin 30°$

$$a = \frac{mg - Mg\sin 30°}{M + m} = \frac{29.4 - 19.6}{7.0} = \frac{9.8}{7.0} = 1.4\,\text{m/s}^2$$

②より:$T = m(g - a) = 3.0 \times (9.8 - 1.4) = 3.0 \times 8.4 = 25.2\,\text{N}$

(3) 静止条件:$a = 0$ → $mg = Mg\sin 30°$ → $M = \dfrac{m}{\sin 30°} = \dfrac{3.0}{0.50} = 6.0\,\text{kg}$

採点ポイント
  • 運動の向きを正しく判断する(2点)
  • A, B の運動方程式を正しく立てる(各3点)
  • 加速度と張力を正しく求める(各2点)
  • 静止条件を求める(2点)
3-11-6 C 応用 2物体斜面論述

角度 $\theta$ の滑らかな斜面上に質量 $m_1$ の物体 A を置き、A の斜面下側に質量 $m_2$ の物体 B を接触させて置いた(B が A の下にある)。初め静止していた状態から手を放した。重力加速度を $g$ として、次の問いに答えよ。

(1) 2物体の加速度を求めよ。

(2) A と B の間の抗力を求めよ。

(3) (2) の結果から、A と B の間の抗力がゼロになる条件を述べ、その物理的意味を説明せよ。

(4) もし A が B の上側にあり、B の方が斜面の上側にある配置の場合、抗力はどうなるか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $a = g\sin\theta$

(2) $f = 0$

(3) 滑らかな斜面では質量によらず加速度が同じ($g\sin\theta$)なので、抗力は常にゼロ。

(4) 配置を変えても抗力はゼロ。

解説

(1) 一体として考える。斜面下向きを正。

$$(m_1 + m_2)a = (m_1 + m_2)g\sin\theta$$

$$a = g\sin\theta$$

(2) B の運動方程式(斜面下向き正)。B にはたらく力は重力の斜面成分 $m_2 g\sin\theta$(下向き)と A からの抗力 $f$(上向き、A が後ろから押す)。

$$m_2 a = m_2 g\sin\theta - f$$

$a = g\sin\theta$ を代入すると、

$$m_2 g\sin\theta = m_2 g\sin\theta - f \quad \Rightarrow \quad f = 0$$

(3) 滑らかな斜面では全ての物体が質量によらず $a = g\sin\theta$ で加速する(ガリレイの発見の斜面版)。同じ加速度で動くので、物体同士が押し合う必要がなく、抗力はゼロになる。これは「自由落下中に無重力になる」のと同じ原理です。

(4) A と B の配置を入れ替えても、加速度は $g\sin\theta$ のまま変わらないため、抗力はゼロ。摩擦がなければ、どの物体もバラバラに同じ加速度で滑り落ちる。

採点ポイント
  • 一体の運動方程式を立て、加速度が質量によらないことを示す(3点)
  • 個別の運動方程式から $f = 0$ を導く(3点)
  • 物理的意味の説明(「質量によらず加速度が同じ」)(3点)
  • 配置変更でも結論が変わらないことの説明(1点)