第3章 運動の法則(物理基礎)

接触した2物体の運動方程式
─ 抗力と一体化の考え方

横に並んだ2つの箱を押して動かすとき、手が箱を押す力と、箱同士が押し合う力は同じでしょうか?
実は、2物体の問題を解くには「一体として扱う方法」と「各物体に分けて考える方法」の2段階の戦略を使い分けることが鍵です。
ここでは、接触した物体間の抗力(接触力)を正確に求める方法をマスターします。

12物体の問題の基本設定

滑らかな水平面上に、質量 $m_1$ の物体 A と質量 $m_2$ の物体 B が接触して置かれています。 物体 A の左側から水平に力 $F$ を加えて押します。

このとき求めたいのは次の2つです。

  1. 2物体の加速度 $a$(2物体は接触したまま一緒に動くので、同じ加速度)
  2. A と B の間の抗力 $f$(A が B を押す力 = B が A を押す力)
💡 ここが本質:2物体が接触 → 加速度は共通

2物体が離れずに接触しながら動くとき、両者の加速度は等しい。これが2物体の問題のスタート地点です。

もし加速度が異なれば、一方がもう一方にめり込むか離れるかのどちらかです。接触を維持している以上、加速度は共通と設定できます。

力の洗い出し

各物体にはたらく力を整理しましょう。水平方向のみ考えます(鉛直方向はつりあっている)。

物体 A(左側):外力 $F$(右向き)、B から受ける抗力 $f$(左向き)

物体 B(右側):A から受ける抗力 $f$(右向き)

⚠️ 落とし穴:抗力の作用反作用を忘れる

A が B を右向きに押す力と、B が A を左向きに押す力は作用反作用の関係にあり、大きさが等しい。

✕ 誤:A が B を押す力と B が A を押す力が異なると考える

○ 正:作用反作用の法則により、大きさは等しく向きは逆($f_{\text{AがBを押す}} = f_{\text{BがAを押す}}$)

ただし、これらは別の物体にはたらく力なので、1つの物体の運動方程式にはどちらか一方だけが登場します。

2一体として考える ─ 加速度を求める

まずは2物体をひとまとめ(=系全体)として運動方程式を立てます。

なぜ一体として考えるのか

一体として考えると、A と B の間の抗力 $f$ は内力になります。 内力は作用反作用の関係で打ち消し合うため、運動方程式には現れません。 これにより、未知数が $a$ だけの簡単な式が得られます。

📐 一体として考えた運動方程式

全体の質量は $m_1 + m_2$、外力は $F$ のみ。右向きを正として、

$$(m_1 + m_2)\,a = F$$

したがって、

$$a = \frac{F}{m_1 + m_2}$$

※ 内力(物体間の抗力 $f$)は一体の運動方程式には現れない。外力のみを考えればよい。
▷ 「内力が消える」ことの確認

物体 A の運動方程式:$m_1 a = F - f$ …①

物体 B の運動方程式:$m_2 a = f$ …②

①+②を辺々足すと:

$$(m_1 + m_2)\,a = F - f + f = F$$

このように、$f$ が消えて全体の運動方程式が得られます。「一体として考える」とは、実は各物体の運動方程式を足し合わせることに相当しています。

💡 ここが本質:一体化で「加速度」、分離で「抗力」

2物体の問題には2つの未知数($a$ と $f$)があります。これを効率よく求めるための戦略は、

Step 1:一体として考え、内力を消して加速度 $a$ を求める

Step 2:各物体に分けて考え、$a$ を代入して抗力 $f$ を求める

この2段階が「接触した2物体の問題」の定石です。

3各物体で考える ─ 抗力を求める

Step 1 で加速度 $a$ が求まったら、次は各物体の運動方程式を使って抗力 $f$ を求めます。

物体 B の運動方程式から求める(推奨)

物体 B にはたらく水平方向の力は、A からの抗力 $f$(右向き)のみです。

📐 物体 B の運動方程式から抗力を求める

$$m_2\,a = f$$

$a = \dfrac{F}{m_1 + m_2}$ を代入すると、

$$f = m_2 \cdot \frac{F}{m_1 + m_2} = \frac{m_2}{m_1 + m_2}\,F$$

※ 抗力 $f$ は外力 $F$ より必ず小さい($f < F$)。外力のうち、B を加速するのに必要な分だけが B に伝わる。

物体 A の運動方程式で検算する

物体 A の式 $m_1 a = F - f$ に $a$ と $f$ を代入して検算しましょう。

$$m_1 \cdot \frac{F}{m_1 + m_2} = F - \frac{m_2\,F}{m_1 + m_2} = \frac{(m_1 + m_2)\,F - m_2\,F}{m_1 + m_2} = \frac{m_1\,F}{m_1 + m_2}$$

左辺と右辺が一致するので、正しいことが確認できます。

🔬 深掘り:どちらの物体の式を使うべきか

抗力を求めるとき、物体 B の式($m_2 a = f$)を使う方が簡単です。力が $f$ だけで式がシンプルだからです。

物体 A の式($m_1 a = F - f$)は力が2つあるため、計算が一手間多くなります。

一般に、力の数が少ない物体の運動方程式を使うのがコツです。

⚠️ 落とし穴:外力 $F$ がそのまま B に伝わると思う

A を押す外力 $F$ がそのまま B に作用するわけではありません。

✕ 誤:B にはたらく力は $F$

○ 正:B にはたらく力は $f = \dfrac{m_2}{m_1 + m_2}F$($F$ の一部のみ)

外力 $F$ のうち、A 自身を加速する分を差し引いた残りが抗力として B に伝わります。

4使い分けの戦略と応用

押す側を変えるとどうなるか

今度は物体 B の右側から力 $F$ で押す場合を考えましょう。

一体としての運動方程式は同じです(外力 $F$、全質量 $m_1 + m_2$)。

$$a = \frac{F}{m_1 + m_2}$$

しかし、物体間の抗力は変わります。今度は物体 A に注目すると、

$$m_1\,a = f' \quad \Rightarrow \quad f' = \frac{m_1}{m_1 + m_2}\,F$$

💡 ここが本質:加速度は同じでも抗力は違う

A 側から押す場合の抗力:$f = \dfrac{m_2}{m_1 + m_2}F$

B 側から押す場合の抗力:$f' = \dfrac{m_1}{m_1 + m_2}F$

$m_1 \neq m_2$ なら $f \neq f'$ です。加速度は同じでも、どちら側から押すかで物体間の抗力は変わる。これは、押される側の物体の質量が大きいほど、大きな抗力が必要になるからです。

3物体以上への拡張

3つの物体 A($m_1$)、B($m_2$)、C($m_3$)が横一列に接触している場合も同じ考え方です。

  1. 一体として加速度を求める:$a = \dfrac{F}{m_1 + m_2 + m_3}$
  2. A-B 間の抗力:$f_{AB} = (m_2 + m_3)\,a = \dfrac{m_2 + m_3}{m_1 + m_2 + m_3}\,F$
  3. B-C 間の抗力:$f_{BC} = m_3\,a = \dfrac{m_3}{m_1 + m_2 + m_3}\,F$
🔬 深掘り:抗力は「後ろの物体の質量」に比例する

接触面よりも前方(力が押す方向の先)にある物体の総質量を $M_{\text{先}}$ とすると、その接触面の抗力は、

$$f = M_{\text{先}} \cdot a = \frac{M_{\text{先}}}{M_{\text{全体}}} \cdot F$$

押す力 $F$ が各接触面で「配分」されるイメージです。先にある物体が重いほど、その接触面に大きな力が必要です。

摩擦がある場合

水平面に動摩擦力がはたらく場合、一体としての運動方程式は、

$$(m_1 + m_2)\,a = F - \mu'(m_1 + m_2)g$$

各物体の垂直抗力を考慮して摩擦力を正しく書くことが重要です。

⚠️ 落とし穴:一体で考えるときに内力を含めてしまう

一体の運動方程式には外力のみを書きます。物体間の抗力は内力なので含めません。

✕ 誤:$(m_1 + m_2)a = F + f$(抗力 $f$ を含めてしまう)

○ 正:$(m_1 + m_2)a = F$(外力のみ)

内力を含めるのは「各物体の運動方程式」を書くときだけです。

5この章を俯瞰する

接触した2物体の問題は、「系全体」と「個別の物体」を使い分ける力学の基本戦略を学ぶ最良の題材です。

つながりマップ

  • ← M-3-7 運動方程式の立て方:1物体の運動方程式を、2物体に拡張したもの。
  • ← M-3-9 エレベーター内の見かけの重さ:加速度によって物体間の力が変わる点が共通。エレベーターでは人と床の抗力が変わった。
  • → M-4 滑車と糸でつながった2物体:接触ではなく糸で結ばれた2物体。張力が抗力の役割を果たす。
  • → M-3-11 運動の法則 総合演習:ここまでの知識を横断的に使う総合問題。
  • → 第5章 摩擦力:摩擦のある2物体の問題へ発展する。

📋まとめ

  • 接触した2物体は同じ加速度で運動する
  • Step 1:一体として考え、内力を消して加速度 $a = \dfrac{F}{m_1 + m_2}$ を求める
  • Step 2:各物体で考え、$a$ を代入して抗力 $f$ を求める
  • 抗力は $f = \dfrac{m_2}{m_1 + m_2}F$(A を押す場合)。外力 $F$ より必ず小さい
  • 押す側を変えると加速度は同じだが抗力は変わる
  • 一体の運動方程式には外力のみを書く(内力は含めない)

確認テスト

Q1. 接触した2物体を「一体として考える」とき、物体間の抗力はどう扱いますか。

▶ クリックして解答を表示内力として打ち消し合うため、運動方程式には現れません。外力のみを考えます。

Q2. 質量 $3\,\text{kg}$ の A と質量 $2\,\text{kg}$ の B が接触して置かれ、A を $10\,\text{N}$ で押す。加速度はいくらか。

▶ クリックして解答を表示$a = \dfrac{F}{m_1 + m_2} = \dfrac{10}{3 + 2} = 2.0\,\text{m/s}^2$

Q3. 上の設定で、A と B の間の抗力はいくらか。

▶ クリックして解答を表示$f = m_2 \cdot a = 2.0 \times 2.0 = 4.0\,\text{N}$(B の運動方程式から)。外力 $10\,\text{N}$ の $\frac{2}{5}$ が B に伝わっています。

Q4. B 側から同じ力 $10\,\text{N}$ で押す場合、物体間の抗力はいくらか。

▶ クリックして解答を表示$f' = m_1 \cdot a = 3.0 \times 2.0 = 6.0\,\text{N}$。A 側から押す場合($4.0\,\text{N}$)と異なることに注意。

8入試問題演習

接触した2物体の運動を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

3-10-1 A 基礎 2物体計算

滑らかな水平面上に質量 $4.0\,\text{kg}$ の物体 A と質量 $6.0\,\text{kg}$ の物体 B が接触して置かれている。A の左側から水平に $20\,\text{N}$ の力を加える。

(1) 2物体の加速度を求めよ。

(2) A と B の間の抗力を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $a = 2.0\,\text{m/s}^2$

(2) $f = 12\,\text{N}$

解説

(1) 一体として運動方程式を立てる。

$$(4.0 + 6.0) \times a = 20 \quad \Rightarrow \quad a = \frac{20}{10} = 2.0\,\text{m/s}^2$$

(2) B の運動方程式より、

$$f = m_2 \cdot a = 6.0 \times 2.0 = 12\,\text{N}$$

検算:A の式 $m_1 a = F - f$ → $4.0 \times 2.0 = 20 - 12 = 8.0$。正しい。

3-10-2 A 基礎 2物体押す側変更

問題 3-10-1 と同じ設定で、今度は B の右側から水平に $20\,\text{N}$ の力で押す場合を考える。

(1) 2物体の加速度を求めよ。

(2) A と B の間の抗力を求めよ。

(3) 問題 3-10-1 の結果と比較し、抗力が異なる理由を説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $a = 2.0\,\text{m/s}^2$

(2) $f' = 8.0\,\text{N}$

(3) 下記参照

解説

(1) 一体としての式は同じ。$a = \dfrac{20}{10} = 2.0\,\text{m/s}^2$

(2) A の運動方程式:$m_1 a = f'$ → $f' = 4.0 \times 2.0 = 8.0\,\text{N}$

(3) A を押すとき抗力は $12\,\text{N}$、B を押すとき $8.0\,\text{N}$。抗力は「押される側の先にある物体の質量」に比例する。A を押す場合は B($6.0\,\text{kg}$)を加速させる力が必要、B を押す場合は A($4.0\,\text{kg}$)を加速させる力が必要。重い物体が先にあるほど大きな抗力が必要になる。

B 発展レベル

3-10-3 B 発展 3物体計算

滑らかな水平面上に質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体 A、$3.0\,\text{kg}$ の物体 B、$5.0\,\text{kg}$ の物体 C が左からこの順に接触して置かれている。A の左側から $30\,\text{N}$ の力で水平に押す。

(1) 3物体の加速度を求めよ。

(2) A-B 間の抗力を求めよ。

(3) B-C 間の抗力を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $a = 3.0\,\text{m/s}^2$

(2) $f_{AB} = 24\,\text{N}$

(3) $f_{BC} = 15\,\text{N}$

解説

(1) 一体の運動方程式:$(2.0 + 3.0 + 5.0) \times a = 30$ → $a = 3.0\,\text{m/s}^2$

(2) B+C を一体として見ると、$f_{AB} = (m_B + m_C) \cdot a = (3.0 + 5.0) \times 3.0 = 24\,\text{N}$

(3) C の運動方程式:$f_{BC} = m_C \cdot a = 5.0 \times 3.0 = 15\,\text{N}$

確認:$F > f_{AB} > f_{BC}$($30 > 24 > 15$)で、押す力は接触面を通るたびに小さくなる。

採点ポイント
  • 一体としての運動方程式を正しく立てる(3点)
  • A-B 間、B-C 間の抗力を正しく求める(各3点)
  • $F > f_{AB} > f_{BC}$ の大小関係を理解(1点)

C 応用レベル

3-10-4 C 応用 摩擦あり論述

動摩擦係数 $\mu' = 0.20$ の水平面上に、質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体 A と質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体 B が接触して置かれている。A の左側から水平に力 $F = 20\,\text{N}$ を加えた。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として次の問いに答えよ。

(1) 2物体の加速度を求めよ。

(2) A と B の間の抗力を求めよ。

(3) 力 $F$ を $0$ から徐々に大きくしたとき、2物体が動き出す最小の力 $F_0$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $a = 2.04\,\text{m/s}^2$

(2) $f = 7.99\,\text{N} \approx 8.0\,\text{N}$

(3) $F_0 = \mu'(m_1 + m_2)g = 9.8\,\text{N}$

解説

(1) 一体として運動方程式を立てる。摩擦力は全質量に対してはたらく。

$$(m_1 + m_2)a = F - \mu'(m_1 + m_2)g$$

$$5.0 \times a = 20 - 0.20 \times 5.0 \times 9.8 = 20 - 9.8 = 10.2$$

$$a = \frac{10.2}{5.0} = 2.04\,\text{m/s}^2$$

(2) B の運動方程式:$m_2 a = f - \mu' m_2 g$

$$f = m_2(a + \mu' g) = 2.0 \times (2.04 + 0.20 \times 9.8) = 2.0 \times (2.04 + 1.96) = 2.0 \times 4.0 = 8.0\,\text{N}$$

(3) $a = 0$ となる条件:$F_0 = \mu'(m_1 + m_2)g = 0.20 \times 5.0 \times 9.8 = 9.8\,\text{N}$

採点ポイント
  • 一体の運動方程式に摩擦力を正しく含める(3点)
  • B の運動方程式で B 自身の摩擦力を正しく書く(3点)
  • $F_0$ を正しく求める(2点)
  • 物理的な説明(2点)