エレベーターが動き出す瞬間、体がふわっと軽くなったり、ずしっと重くなったりした経験はありませんか?
実はこの感覚は「気のせい」ではなく、運動方程式で正確に説明できます。体重計の読みが変わるのは、垂直抗力が変化するからです。
この記事では、加速するエレベーター内で体重計が示す値の仕組みを、運動方程式から完全に理解します。
私たちが「体重」として感じているのは、実は重力そのものではありません。 床や体重計が体を押し上げている力——すなわち垂直抗力 $N$——を感じているのです。
静止しているとき、つりあいの条件から $N = mg$ となるため、垂直抗力と重力が一致します。 しかし、エレベーターが加速すると $N \neq mg$ になり、「いつもと違う重さ」を感じます。 この垂直抗力 $N$ のことを見かけの重さ(apparent weight)といいます。
体重計は人にはたらく重力 $mg$ を直接測っているのではありません。体重計が人から受ける力(=作用反作用の法則により、体重計が人を押す垂直抗力 $N$ に等しい)を表示しています。
加速度がゼロのときだけ $N = mg$ となり、体重計の読みが「本当の重さ」と一致します。
鉛直上向きを正とし、エレベーターの加速度を $a$ とする。人(質量 $m$)の運動方程式は、
$$ma = N - mg$$
したがって、
$$N = m(g + a)$$
見かけの重さを決めるのは、エレベーターの速度ではなく加速度です。
✕ 誤:エレベーターが上昇しているとき、常に重く感じる
○ 正:上向きに加速しているとき重く感じる(上昇中でも減速なら軽く感じる)
等速で上昇・下降しているときは $a = 0$ なので、$N = mg$ となり「いつも通り」です。
エレベーターが1階から最上階へ上昇する過程を3つのフェーズに分けて考えましょう。
加速度は上向き($a > 0$)です。運動方程式 $N = m(g + a)$ より、
$$N = m(g + a) > mg$$
体重計の読みは実際の体重より大きくなります。体が床に押しつけられる感覚です。
加速度は $a = 0$ です。
$$N = mg$$
体重計の読みは実際の体重と同じです。動いていることすら感じません。
上昇中に速度を落とすので、加速度は下向き($a < 0$)です。
$$N = m(g + a) < mg$$
体重計の読みは実際の体重より小さくなります。体がふわっと浮き上がる感覚です。
上昇中の減速では、速度は上向きですが加速度は下向きです。速度と加速度の向きが逆になると減速します。
「上昇=加速度が上向き」ではないことに注意してください。速度が変化する向きが加速度の向きです。
| フェーズ | 速度 | 加速度 | $N$ と $mg$ の関係 | 感覚 |
|---|---|---|---|---|
| 上向きに加速 | 上向き・増加 | 上向き($a > 0$) | $N > mg$ | 重い |
| 等速上昇 | 上向き・一定 | $0$ | $N = mg$ | 普通 |
| 上向きに減速 | 上向き・減少 | 下向き($a < 0$) | $N < mg$ | 軽い |
下降する場合も同じ式 $N = m(g + a)$ で分析できます。下降で加速する場合は $a < 0$(下向きの加速度)です。
加速度は下向き($a < 0$)なので、
$$N = m(g + a) = m(g - |a|) < mg$$
体重計の読みは小さくなり、体が軽く感じます。
もしエレベーターのワイヤーが切れて自由落下すると、$a = -g$ となります。
$$N = m(g + a) = m(g - g) = 0$$
自由落下中の無重力状態でも、重力 $mg$ はしっかりはたらいています。人もエレベーターも同じ加速度 $g$ で落下するので、両者の相対加速度がゼロになるだけです。
ISS(国際宇宙ステーション)内の宇宙飛行士が無重力なのも同じ原理です。ISS は地球の周りを「落ち続けて」いるのです。
下向きの加速度が $g$ を超えると、式の上では $N < 0$ になります。しかし垂直抗力は押す力であり、引く力にはなれません。
✕ 誤:$N < 0$ だから床が人を下に引く
○ 正:$N < 0$ は物理的にあり得ない。人は床から離れ、$N = 0$ のまま自由落下に移行する
体重計の読みは最小で $0$ です。負にはなりません。
ISSは高度約 $400\,\text{km}$ を周回しており、そこでの重力加速度は地表の約 $89\%$ です。重力はほとんど弱まっていません。
それでも宇宙飛行士が無重力なのは、ISS自体が地球に向かって「自由落下」しながら、同時に水平方向に飛んでいるからです(これが円運動の本質です)。
具体的な数値で見かけの重さを計算してみましょう。
$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、エレベーターが加速度 $a = 2.0\,\text{m/s}^2$ で上向きに加速するとき、体重計の読み $N$ を求めます。
鉛直上向きを正として、人の運動方程式を立てる。
$$ma = N - mg$$
$$N = m(g + a) = 60 \times (9.8 + 2.0) = 60 \times 11.8 = 708\,\text{N}$$
体重計が「kg表示」なら、$\dfrac{708}{9.8} \approx 72\,\text{kg}$ を示します。
本当の体重は $60\,\text{kg}$ なのに、$12\,\text{kg}$ 重く表示されることになります。
| 加速度 $a$ [$\text{m/s}^2$] | $N$ [N] | 体重計(kg表示) | 状態 |
|---|---|---|---|
| $+3.0$(上向き) | $768$ | $78.4$ | かなり重い |
| $+2.0$(上向き) | $708$ | $72.2$ | 重い |
| $0$(等速) | $588$ | $60.0$ | 普通 |
| $-2.0$(下向き) | $468$ | $47.8$ | 軽い |
| $-4.9$(下向き) | $294$ | $30.0$ | 半分の体重 |
| $-9.8$(自由落下) | $0$ | $0$ | 無重力 |
体重計の読みが実際の体重の何倍かを表す量を考えると、
$$\frac{N}{mg} = \frac{m(g+a)}{mg} = 1 + \frac{a}{g}$$
静止しているとき($a = 0$)の $N = mg$ は、つりあいの条件そのものです。加速度があるとき $N = m(g + a)$ は、つりあいが崩れた分を $ma$ として定量化しています。
エレベーターの問題は、運動方程式がつりあいの式を包含することを実感できる最良の題材です。
エレベーターの問題は運動方程式の基本パターンであり、多くの入試問題の出発点になります。
Q1. 体重計が測定しているのは、重力と垂直抗力のどちらですか。
Q2. エレベーターが等速で上昇しているとき、体重計の読みは実際の体重より大きいですか、等しいですか、小さいですか。
Q3. 自由落下中のエレベーター内で体重計の読みはいくらですか。
Q4. エレベーターが上昇中に減速しているとき、体重計の読みは実際の体重より大きいですか、小さいですか。理由も述べてください。
エレベーター内の見かけの重さを入試形式で確認しましょう。
質量 $50\,\text{kg}$ の人がエレベーター内の体重計に乗っている。エレベーターが加速度 $1.0\,\text{m/s}^2$ で上向きに加速しているとき、体重計の読みは何 N か。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。
$N = 540\,\text{N}$
鉛直上向きを正として人の運動方程式を立てる。
$$ma = N - mg$$
$$N = m(g + a) = 50 \times (9.8 + 1.0) = 50 \times 10.8 = 540\,\text{N}$$
エレベーターが最上階から1階へ下降する場合を考える。以下の各場面で、体重計の読みは実際の体重 $mg$ より大きいか、等しいか、小さいか。
(1) 下向きに加速し始めた瞬間
(2) 一定の速さで下降しているとき
(3) 1階に到着する前の減速中
(1) $mg$ より小さい (2) $mg$ と等しい (3) $mg$ より大きい
(1) 下向きに加速するとき $a < 0$(下向き)。$N = m(g + a) < mg$。
(2) 等速のとき $a = 0$。$N = mg$。
(3) 下降中の減速では加速度は上向き($a > 0$)。$N = m(g + a) > mg$。
ポイント:下降中の減速は「上向きの加速」と同じ効果をもつ。
質量 $60\,\text{kg}$ の人がエレベーター内の体重計に乗ったところ、体重計の読みが $528\,\text{N}$ を示した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) エレベーターの加速度の大きさと向きを求めよ。
(2) このとき、人はどのような感覚を覚えるか。
(1) 加速度の大きさ $1.0\,\text{m/s}^2$、向きは鉛直下向き
(2) 体が軽く感じる(ふわっとする感覚)
$N = m(g + a)$ より、
$$a = \frac{N}{m} - g = \frac{528}{60} - 9.8 = 8.8 - 9.8 = -1.0\,\text{m/s}^2$$
$a = -1.0\,\text{m/s}^2$(負なので下向き)。
$N = 528\,\text{N} < mg = 588\,\text{N}$ なので、人は実際の体重より軽く感じます。
質量 $m$ の人がエレベーター内の体重計に乗っている。エレベーターは静止状態から出発し、一定の加速度 $a_1$(上向き)で $t_1$ 秒間加速した後、等速で $t_2$ 秒間上昇し、一定の加速度 $a_2$(下向き)で $t_3$ 秒間減速して停止した。
(1) 3つの区間における体重計の読み $N_1$、$N_2$、$N_3$ を $m$、$g$、$a_1$、$a_2$ で表せ。
(2) $v$-$t$ グラフと $N$-$t$ グラフの概形を描け。
(3) $a_1 t_1 = a_2 t_3$ が成り立つことを示し、その物理的意味を説明せよ。
(1) $N_1 = m(g + a_1)$、$N_2 = mg$、$N_3 = m(g - a_2)$
(2) $v$-$t$ グラフは台形型。$N$-$t$ グラフは3段の階段型で、$N_1 > mg > N_3$。
(3) 加速区間で得た速度 $v = a_1 t_1$ と、減速区間で失う速度 $v = a_2 t_3$ が等しいことを意味する(最終的に停止するため)。
(1) 各区間の運動方程式より、
加速区間:$ma_1 = N_1 - mg$ → $N_1 = m(g + a_1)$
等速区間:$0 = N_2 - mg$ → $N_2 = mg$
減速区間:$-ma_2 = N_3 - mg$ → $N_3 = m(g - a_2)$
(2) $v$-$t$ グラフ:$0 \to t_1$ で直線的に増加、$t_1 \to t_1+t_2$ で一定、$t_1+t_2 \to t_1+t_2+t_3$ で直線的に減少して $0$ に戻る。
$N$-$t$ グラフ:$N_1$($mg$ より大)→ $N_2 = mg$ → $N_3$($mg$ より小)の3段階。
(3) エレベーターは最終的に停止するので、加速で得た速度をすべて減速で失う必要がある。加速後の速度は $v = a_1 t_1$、減速で失う速度は $a_2 t_3$ なので、$a_1 t_1 = a_2 t_3$。