第3章「運動の法則」で学んだ内容を、入試レベルの総合問題で仕上げましょう。
水平面・斜面・エレベーター・2物体・滑車——さまざまな場面を横断する問題を通じて、運動方程式を立てる力を完成させます。
A基礎2問、B発展2問、C応用2問の計6題。すべて解ければ、第3章は完璧です。
総合演習に取り組む前に、第3章で登場した重要公式を一覧で確認しましょう。
第1法則(慣性の法則):合力が $0$ の物体は等速直線運動を続ける(静止を含む)。
第2法則(運動方程式):
$$ma = F \quad \text{(合力 $F$、質量 $m$、加速度 $a$)}$$
第3法則(作用反作用):物体 A が B に力を及ぼすと、B は A に大きさ等しく逆向きの力を及ぼす。
重力:$W = mg$
見かけの重さ:$N = m(g + a)$(鉛直上向きを正)
接触した2物体の加速度:$a = \dfrac{F}{m_1 + m_2}$
水平面、斜面、エレベーター、2物体、滑車——場面は変わっても、やることは常に同じです。
(1) 着目する物体を決める → (2) 力をすべて書き出す → (3) 座標を設定して運動方程式を立てる → (4) 解く
この手順を自然に実行できれば、どんな問題にも対応できます。
第3章の全パターンに共通する「運動方程式を立てる手順」を確認します。
座標の正の向きは自由に選べますが、加速度の向きを正にとるのが最も計算しやすい方法です。
斜面の問題:斜面を下る向きを正にとれば、$a > 0$ で自然。
滑車の問題:重い方の物体が下がる向きを正にとれば、$a > 0$。
もし正の向きを間違えても、答えの符号が負になるだけで間違いではありません。符号を読み替えれば正解にたどり着けます。
| パターン | ポイント | 注意事項 |
|---|---|---|
| 水平面上の1物体 | 水平方向に運動方程式 | $N = mg$(垂直方向はつりあい) |
| 斜面上の1物体 | 斜面方向に運動方程式 | $N = mg\cos\theta$($mg$ ではない) |
| エレベーター | 鉛直方向に運動方程式 | $N = m(g+a)$。速度ではなく加速度で決まる |
| 接触した2物体 | 一体 → 個別の2段階 | 一体では内力を含めない |
| 糸でつながった2物体(滑車) | 各物体の運動方程式+拘束条件 | 糸の張力は両端で等しい(軽い滑車) |
✕ 誤:斜面角度 $\theta$ でも $N = mg$
○ 正:$N = mg\cos\theta$(斜面に垂直な方向のつりあいから)
垂直抗力は常に「つりあいの式」または「運動方程式」から求める量です。
✕ 誤:「物体に働く重力 $mg$ と垂直抗力 $N$ は作用反作用の関係」
○ 正:重力と垂直抗力は同じ物体にはたらく2力なので、つりあいの関係。作用反作用は異なる物体間の力。
作用反作用の例:人が床を押す力と、床が人を押す力(垂直抗力)。
✕ 誤:「質量 $m$ の物体にはたらく張力は $T = mg$」(加速しているのに)
○ 正:加速度がある場合は $T \neq mg$。運動方程式 $ma = mg - T$ から $T$ を求める。
$T = mg$ が成り立つのは、物体が静止または等速のとき($a = 0$)だけです。
$N = mg$ も $T = mg$ も、加速度がゼロのとき限定の結果です。一般には $N$ も $T$ も運動方程式を立てて初めて求まる未知数です。
公式を「当てはめる」のではなく、毎回「運動方程式を立てて求める」習慣を身につけましょう。
以下の入試問題演習に取り組む際のアドバイスです。
基本的な運動方程式の立て方と計算力を確認する問題です。 ここでミスが出る場合は、該当する記事に戻って復習しましょう。目安は1問5分以内。
複数の知識を組み合わせる問題です。力の書き出し→座標設定→式の立式を丁寧に行いましょう。 目安は1問8分以内。
入試本番レベルの総合問題です。状況把握→方針決定→計算実行の流れを意識しましょう。 目安は1問12分以内。
答えを見てすぐ次の問題に進むのは非効率です。次の手順で復習しましょう。
(1) 解説を読んで「どこで詰まったか」を特定する
(2) その箇所に対応する記事に戻って理解を深める
(3) 翌日、もう一度同じ問題を解く(何も見ずに)
「見て分かる」と「自分で解ける」は全く異なります。
第3章の運動の法則は、物理の全分野の土台です。ここでの「運動方程式を立てる力」が、円運動、万有引力、電磁気に至るまですべてに直結します。
Q1. 運動方程式を立てるとき、最初にやるべきことは何ですか。
Q2. 「重力と垂直抗力は作用反作用の関係」は正しいですか。
Q3. 接触した2物体の問題で「一体として考える」利点は何ですか。
Q4. 加速度がある場合に $T = mg$ としてよいですか。理由を述べてください。
第3章の総まとめとして、6題の入試レベル問題に挑戦しましょう。
動摩擦係数 $\mu' = 0.30$ の水平面上に質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体を置き、水平方向に $12\,\text{N}$ の力で引く。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 物体にはたらく動摩擦力の大きさを求めよ。
(2) 物体の加速度を求めよ。
(3) 静止状態から $3.0\,\text{s}$ 後の速さを求めよ。
(1) $f = 5.88\,\text{N} \approx 5.9\,\text{N}$
(2) $a \approx 3.1\,\text{m/s}^2$
(3) $v \approx 9.2\,\text{m/s}$
(1) 水平面上なので $N = mg = 2.0 \times 9.8 = 19.6\,\text{N}$
$$f = \mu' N = 0.30 \times 19.6 = 5.88\,\text{N}$$
(2) 水平方向の運動方程式:$ma = F - f$
$$a = \frac{F - f}{m} = \frac{12 - 5.88}{2.0} = \frac{6.12}{2.0} \approx 3.1\,\text{m/s}^2$$
(3) $v = at = 3.06 \times 3.0 \approx 9.2\,\text{m/s}$
角度 $30°$ の滑らかな斜面上に質量 $4.0\,\text{kg}$ の物体を置いて静かに放した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 物体にはたらく垂直抗力を求めよ。
(2) 物体の加速度を求めよ。
(3) 滑り始めてから $2.0\,\text{s}$ 後に斜面を下った距離を求めよ。
(1) $N \approx 33.9\,\text{N}$
(2) $a = 4.9\,\text{m/s}^2$
(3) $x = 9.8\,\text{m}$
斜面に平行(下向き正)と垂直に座標を取る。
(1) 垂直方向のつりあい:$N = mg\cos 30° = 4.0 \times 9.8 \times \dfrac{\sqrt{3}}{2} \approx 33.9\,\text{N}$
(2) 斜面方向の運動方程式:$ma = mg\sin 30°$
$$a = g\sin 30° = 9.8 \times 0.50 = 4.9\,\text{m/s}^2$$
(3) $x = \dfrac{1}{2}at^2 = \dfrac{1}{2} \times 4.9 \times 2.0^2 = 9.8\,\text{m}$
図のように、滑らかな水平面上に質量 $M = 3.0\,\text{kg}$ の物体 A を置き、軽い糸で滑車を通して質量 $m = 2.0\,\text{kg}$ の物体 B をぶら下げた。糸は伸びず、滑車と糸の質量は無視でき、滑車の摩擦はないものとする。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 糸の張力 $T$ を求めよ。
(2) 物体 A, B の加速度を求めよ。
(3) 物体 B を静かに放してから $1.0\,\text{s}$ 後の B の速さと落下距離を求めよ。
(1) $T \approx 11.8\,\text{N}$
(2) $a \approx 3.92\,\text{m/s}^2$
(3) 速さ $v \approx 3.9\,\text{m/s}$、落下距離 $x \approx 2.0\,\text{m}$
A の水平方向の運動方程式(右向き正):$Ma = T$ …①
B の鉛直方向の運動方程式(下向き正):$ma = mg - T$ …②
糸が伸びないので A と B の加速度の大きさは等しい(拘束条件)。
①+②:$(M + m)a = mg$
$$a = \frac{mg}{M + m} = \frac{2.0 \times 9.8}{3.0 + 2.0} = \frac{19.6}{5.0} = 3.92\,\text{m/s}^2$$
①より:$T = Ma = 3.0 \times 3.92 = 11.76 \approx 11.8\,\text{N}$
(3) $v = at = 3.92 \times 1.0 \approx 3.9\,\text{m/s}$
$x = \dfrac{1}{2}at^2 = \dfrac{1}{2} \times 3.92 \times 1.0^2 \approx 2.0\,\text{m}$
加速度 $a = 2.0\,\text{m/s}^2$ で上向きに加速するエレベーター内に、質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体 A を置き、その上に質量 $1.0\,\text{kg}$ の物体 B を載せた。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) エレベーターの床が A を押す垂直抗力 $N_1$ を求めよ。
(2) A と B の間の垂直抗力 $N_2$ を求めよ。
(1) $N_1 = 47.2\,\text{N}$
(2) $N_2 = 11.8\,\text{N}$
方法1:一体 → 個別
(1) A+B を一体として、鉛直上向き正。
$$(m_A + m_B)a = N_1 - (m_A + m_B)g$$
$$N_1 = (m_A + m_B)(g + a) = 4.0 \times (9.8 + 2.0) = 4.0 \times 11.8 = 47.2\,\text{N}$$
(2) B のみに着目。B の運動方程式:
$$m_B \cdot a = N_2 - m_B g$$
$$N_2 = m_B(g + a) = 1.0 \times 11.8 = 11.8\,\text{N}$$
検算:A のみの運動方程式 $m_A a = N_1 - N_2 - m_A g$ に代入すると、$3.0 \times 2.0 = 47.2 - 11.8 - 29.4 = 6.0$。正しい。
角度 $30°$ の滑らかな斜面上に質量 $M = 4.0\,\text{kg}$ の物体 A を置き、軽い糸で斜面上端の滑車を通して質量 $m = 3.0\,\text{kg}$ の物体 B をぶら下げた。糸は斜面に平行で、伸びないものとする。滑車の質量と摩擦は無視できる。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 物体 A, B の加速度の大きさと向きを求めよ。
(2) 糸の張力を求めよ。
(3) $M$ をどのような値にすれば A, B が静止したままになるか。
(1) $a = 1.4\,\text{m/s}^2$、A は斜面を上り B は下降
(2) $T \approx 25.2\,\text{N}$
(3) $M = 6.0\,\text{kg}$
$Mg\sin 30° = 4.0 \times 9.8 \times 0.50 = 19.6\,\text{N}$、$mg = 3.0 \times 9.8 = 29.4\,\text{N}$
$mg > Mg\sin 30°$ なので B が下降し、A は斜面を上る。B の下降方向を正とする。
A の運動方程式(斜面上向き正、すなわち正の向き):$Ma = T - Mg\sin 30°$ …①
B の運動方程式(下向き正):$ma = mg - T$ …②
①+②:$(M + m)a = mg - Mg\sin 30°$
$$a = \frac{mg - Mg\sin 30°}{M + m} = \frac{29.4 - 19.6}{7.0} = \frac{9.8}{7.0} = 1.4\,\text{m/s}^2$$
②より:$T = m(g - a) = 3.0 \times (9.8 - 1.4) = 3.0 \times 8.4 = 25.2\,\text{N}$
(3) 静止条件:$a = 0$ → $mg = Mg\sin 30°$ → $M = \dfrac{m}{\sin 30°} = \dfrac{3.0}{0.50} = 6.0\,\text{kg}$
角度 $\theta$ の滑らかな斜面上に質量 $m_1$ の物体 A を置き、A の斜面下側に質量 $m_2$ の物体 B を接触させて置いた(B が A の下にある)。初め静止していた状態から手を放した。重力加速度を $g$ として、次の問いに答えよ。
(1) 2物体の加速度を求めよ。
(2) A と B の間の抗力を求めよ。
(3) (2) の結果から、A と B の間の抗力がゼロになる条件を述べ、その物理的意味を説明せよ。
(4) もし A が B の上側にあり、B の方が斜面の上側にある配置の場合、抗力はどうなるか。
(1) $a = g\sin\theta$
(2) $f = 0$
(3) 滑らかな斜面では質量によらず加速度が同じ($g\sin\theta$)なので、抗力は常にゼロ。
(4) 配置を変えても抗力はゼロ。
(1) 一体として考える。斜面下向きを正。
$$(m_1 + m_2)a = (m_1 + m_2)g\sin\theta$$
$$a = g\sin\theta$$
(2) B の運動方程式(斜面下向き正)。B にはたらく力は重力の斜面成分 $m_2 g\sin\theta$(下向き)と A からの抗力 $f$(上向き、A が後ろから押す)。
$$m_2 a = m_2 g\sin\theta - f$$
$a = g\sin\theta$ を代入すると、
$$m_2 g\sin\theta = m_2 g\sin\theta - f \quad \Rightarrow \quad f = 0$$
(3) 滑らかな斜面では全ての物体が質量によらず $a = g\sin\theta$ で加速する(ガリレイの発見の斜面版)。同じ加速度で動くので、物体同士が押し合う必要がなく、抗力はゼロになる。これは「自由落下中に無重力になる」のと同じ原理です。
(4) A と B の配置を入れ替えても、加速度は $g\sin\theta$ のまま変わらないため、抗力はゼロ。摩擦がなければ、どの物体もバラバラに同じ加速度で滑り落ちる。