1つの物体の運動方程式はマスターしました。次は2つの物体が糸でつながった系に挑戦します。
物体が2つになると、運動方程式も2本。未知数は加速度 $a$ と張力 $T$ の2つです。
「それぞれの物体について運動方程式を立て、連立して解く」——この手順が力学問題の定石になります。
糸でつながれた2物体の問題を解くには、次の3つのステップを踏みます。
高校物理では、糸について次の2つの仮定を置きます。
1. 糸は伸び縮みしない(非伸縮性):糸でつながった2物体は同じ大きさの加速度で動く。
2. 糸の質量は無視できる(軽い糸):糸の両端の張力の大きさは等しい。
この2つの仮定により、未知数が $a$ と $T$ の2つだけになり、2本の運動方程式で解けるようになります。
2つの物体は運動方向が異なる場合があります(一方は水平、他方は鉛直など)。
✕ 誤:両方の物体で同じ向きを正にする
○ 正:各物体で運動の向きを正に取り、「加速度の大きさが等しい」ことを利用する
運動方程式は各物体について別々に立てます。正の向きは物体ごとに設定してかまいません。
滑らかな水平面上に質量 $m_1$ と $m_2$ の物体が糸でつながれており、$m_1$ 側に力 $F$ を加えて引く場合を考えます。
引く向き(右向き)を正とします。糸の張力を $T$ とすると、
物体 $m_1$(引っ張られる側):
$$m_1 a = F - T \quad \cdots ①$$
物体 $m_2$(糸で引かれる側):
$$m_2 a = T \quad \cdots ②$$
①+②(辺々加える):
$$(m_1 + m_2)a = F$$
$$a = \frac{F}{m_1 + m_2}$$
②に代入:
$$T = m_2 a = \frac{m_2}{m_1 + m_2}\,F$$
$$a = \frac{F}{m_1 + m_2}$$
$$T = \frac{m_2}{m_1 + m_2}\,F$$
物体 $m_1$ にとって張力は $-T$(後ろに引かれる力)、物体 $m_2$ にとって張力は $+T$(前に引かれる力)。
2本の式を足すと $T$ が消え、全体を1つの物体と見なした運動方程式 $(m_1 + m_2)a = F$ が得られます。
これは「系全体の運動方程式」と呼ばれ、まず加速度を求めるのに便利です。その後、個別の式に戻って張力を求めます。
$T = \frac{m_2}{m_1 + m_2}F$ は「力 $F$ のうち $m_2$ を加速させるために使われる分」を意味します。
$m_2 = 0$ なら $T = 0$(何もつながっていない)、$m_1 = 0$ なら $T = F$($m_2$ に直接力を加えているのと同じ)。極端な場合で確認すると理解が深まります。
滑らかな机の上に質量 $m_1$ の物体が置かれ、糸が机の端にかけた滑車を通して、ぶら下がった質量 $m_2$ の物体とつながっています。 これは入試で最も頻出のパターンの一つです。
$m_2$ が下がる向きを正とします($m_1$ は机上を右に進む向き)。
物体 $m_1$(水平面上、右向きが正):
$$m_1 a = T \quad \cdots ①$$
物体 $m_2$(鉛直方向、下向きが正):
$$m_2 a = m_2 g - T \quad \cdots ②$$
①+②:
$$(m_1 + m_2)a = m_2 g$$
$$a = \frac{m_2}{m_1 + m_2}\,g$$
①に代入:
$$T = m_1 a = \frac{m_1 m_2}{m_1 + m_2}\,g$$
$$a = \frac{m_2}{m_1 + m_2}\,g$$
$$T = \frac{m_1 m_2}{m_1 + m_2}\,g$$
$m_1$ と $m_2$ は運動方向が異なります(水平と鉛直)。
✕ 誤:$m_2$ の運動方程式で重力を正にし、$m_1$ でも右向きを正にしつつ加速度に負号をつける
○ 正:「糸が張られて加速する向き」を両方とも正に揃える。$m_1$ が右、$m_2$ が下に動くとき、両方を正とする
こうすると両方の運動方程式で同じ $a$(正の値)を使えます。
角度 $\theta$ の滑らかな斜面上の質量 $m_1$ の物体と、糸で滑車を通してつながった質量 $m_2$ のおもりがぶら下がっている場合を考えます。
$m_2$ が下がる($m_1$ が斜面を上る)向きを正とします。
物体 $m_1$(斜面上、上りを正):
$$m_1 a = T - m_1 g\sin\theta \quad \cdots ①$$
物体 $m_2$(鉛直方向、下向きを正):
$$m_2 a = m_2 g - T \quad \cdots ②$$
①+②:
$$(m_1 + m_2)a = m_2 g - m_1 g\sin\theta$$
$$a = \frac{m_2 - m_1 \sin\theta}{m_1 + m_2}\,g$$
②に代入:
$$T = m_2 g - m_2 a = m_2 g\left(1 - \frac{m_2 - m_1\sin\theta}{m_1 + m_2}\right) = \frac{m_1 m_2 (1 + \sin\theta)}{m_1 + m_2}\,g$$
$$a = \frac{m_2 - m_1 \sin\theta}{m_1 + m_2}\,g$$
2物体の問題では、まず系全体の運動方程式を考えると見通しがよくなります。
駆動力:系を動かそうとする力 → $m_2 g - m_1 g\sin\theta$
全質量:系全体の慣性 → $m_1 + m_2$
$$a = \frac{\text{駆動力}}{\text{全質量}}$$
この考え方は、滑車やアトウッドの機械など、すべての連結系に共通して使えます。
斜面に摩擦がある場合、$m_1$ の運動方程式に動摩擦力を加えるだけです。
$m_1 a = T - m_1 g\sin\theta - \mu' m_1 g\cos\theta$
系全体では:$a = \dfrac{m_2 g - m_1 g(\sin\theta + \mu'\cos\theta)}{m_1 + m_2}$
このように、基本パターンに摩擦力を「追加」していく形で複雑な問題を組み立てられます。
糸でつながれた2物体の問題は、運動方程式の連立という力学の中核的な手法を学ぶ重要な単元です。
Q1. 「軽い糸」の仮定から導かれる重要な性質は何ですか。
Q2. 糸でつながれた2物体の運動方程式を足すと、なぜ張力が消えるのですか。
Q3. 滑らかな机の上に質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体が置かれ、糸が滑車を通して質量 $2.0\,\text{kg}$ のおもりにつながっている。加速度を求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$
Q4. 上の問題で、糸の張力はいくらですか。
糸でつながれた2物体の問題を入試形式で確認しましょう。
滑らかな水平面上に質量 $m_1 = 3.0\,\text{kg}$、$m_2 = 2.0\,\text{kg}$ の2物体が軽い糸でつながれて置かれている。$m_1$ 側を $F = 10\,\text{N}$ の力で水平に引く。
(1) 2物体の加速度を求めよ。
(2) 糸の張力を求めよ。
(1) $a = 2.0\,\text{m/s}^2$
(2) $T = 4.0\,\text{N}$
(1) 系全体:$(m_1 + m_2)a = F$ → $a = \frac{10}{3.0 + 2.0} = 2.0\,\text{m/s}^2$
(2) $m_2$ の運動方程式:$T = m_2 a = 2.0 \times 2.0 = 4.0\,\text{N}$
確認:$m_1$ の運動方程式 $m_1 a = F - T$ → $3.0 \times 2.0 = 10 - 4.0 = 6.0$ ✓
滑らかな水平な机の上に質量 $4.0\,\text{kg}$ の物体 A が置かれ、軽い糸が机の端の滑車を通して、質量 $1.0\,\text{kg}$ の物体 B につながっている。静かに手を離したとき、$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として次の問いに答えよ。
(1) 加速度を求めよ。
(2) 糸の張力を求めよ。
(3) 物体 B が $0.50\,\text{m}$ 落下したときの速さを求めよ。
(1) $a = 1.96\,\text{m/s}^2$
(2) $T = 7.84\,\text{N}$
(3) $v = 1.4\,\text{m/s}$
(1) $a = \frac{m_B}{m_A + m_B}g = \frac{1.0}{4.0 + 1.0} \times 9.8 = 1.96\,\text{m/s}^2$
(2) $T = m_A a = 4.0 \times 1.96 = 7.84\,\text{N}$
(別解:$T = m_B(g - a) = 1.0 \times (9.8 - 1.96) = 7.84\,\text{N}$)
(3) $v^2 = 2as$ より $v = \sqrt{2 \times 1.96 \times 0.50} = \sqrt{1.96} = 1.4\,\text{m/s}$
角度 $30°$ の滑らかな斜面上に質量 $m_1 = 3.0\,\text{kg}$ の物体 A が置かれ、軽い糸が斜面頂上の滑車を通して質量 $m_2$ の物体 B につながっている。A が斜面を上り、B が下がる向きに運動するための $m_2$ の条件を求めよ。また、$m_2 = 2.0\,\text{kg}$ のとき、加速度と張力を求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。
条件:$m_2 > m_1 \sin 30° = 1.5\,\text{kg}$
$m_2 = 2.0\,\text{kg}$ のとき:$a = 0.98\,\text{m/s}^2$、$T = 17.6\,\text{N}$
条件:$a > 0$ となる条件は $m_2 g - m_1 g\sin 30° > 0$ → $m_2 > m_1 \sin 30° = 3.0 \times 0.50 = 1.5\,\text{kg}$
加速度:$a = \frac{m_2 - m_1\sin 30°}{m_1 + m_2}g = \frac{2.0 - 1.5}{3.0 + 2.0} \times 9.8 = \frac{0.5}{5.0} \times 9.8 = 0.98\,\text{m/s}^2$
張力:$T = m_2(g - a) = 2.0 \times (9.8 - 0.98) = 2.0 \times 8.82 = 17.6\,\text{N}$
確認:A の式 $m_1 a = T - m_1 g\sin 30°$ → $3.0 \times 0.98 = 17.6 - 3.0 \times 9.8 \times 0.5 = 17.6 - 14.7 = 2.9$ → $2.94 \approx 2.9$ ✓