第3章 運動の法則(物理基礎)

糸でつながれた2物体の運動
─ 加速度と張力の求め方

1つの物体の運動方程式はマスターしました。次は2つの物体が糸でつながった系に挑戦します。
物体が2つになると、運動方程式も2本。未知数は加速度 $a$ と張力 $T$ の2つです。
「それぞれの物体について運動方程式を立て、連立して解く」——この手順が力学問題の定石になります。

12物体問題の基本方針

糸でつながれた2物体の問題を解くには、次の3つのステップを踏みます。

  1. 各物体について力を書き出す(糸の張力 $T$ は糸の両端で大きさが等しい)
  2. 各物体について運動方程式を立てる(加速度は共通)
  3. 2本の式を連立して $a$ と $T$ を求める
💡 ここが本質:糸の2大仮定

高校物理では、糸について次の2つの仮定を置きます。

1. 糸は伸び縮みしない(非伸縮性):糸でつながった2物体は同じ大きさの加速度で動く。

2. 糸の質量は無視できる(軽い糸):糸の両端の張力の大きさは等しい。

この2つの仮定により、未知数が $a$ と $T$ の2つだけになり、2本の運動方程式で解けるようになります。

⚠️ 落とし穴:加速度の向きと正の向きの混乱

2つの物体は運動方向が異なる場合があります(一方は水平、他方は鉛直など)。

✕ 誤:両方の物体で同じ向きを正にする

○ 正:各物体で運動の向きを正に取り、「加速度の大きさが等しい」ことを利用する

運動方程式は各物体について別々に立てます。正の向きは物体ごとに設定してかまいません。

2水平面上の2物体(糸で直結)

滑らかな水平面上に質量 $m_1$ と $m_2$ の物体が糸でつながれており、$m_1$ 側に力 $F$ を加えて引く場合を考えます。

各物体の運動方程式

引く向き(右向き)を正とします。糸の張力を $T$ とすると、

物体 $m_1$(引っ張られる側):

$$m_1 a = F - T \quad \cdots ①$$

物体 $m_2$(糸で引かれる側):

$$m_2 a = T \quad \cdots ②$$

▷ 加速度と張力の導出

①+②(辺々加える):

$$(m_1 + m_2)a = F$$

$$a = \frac{F}{m_1 + m_2}$$

②に代入:

$$T = m_2 a = \frac{m_2}{m_1 + m_2}\,F$$

📐 水平面上の2物体(糸で直結)

$$a = \frac{F}{m_1 + m_2}$$

$$T = \frac{m_2}{m_1 + m_2}\,F$$

※ 加速度は「全体の質量に外力」。張力は $F$ より小さい。2つの式を足すと $T$ が消える(作用・反作用で打ち消し合う内力だから)。
💡 ここが本質:式を足すと内力が消える

物体 $m_1$ にとって張力は $-T$(後ろに引かれる力)、物体 $m_2$ にとって張力は $+T$(前に引かれる力)。

2本の式を足すと $T$ が消え、全体を1つの物体と見なした運動方程式 $(m_1 + m_2)a = F$ が得られます。

これは「系全体の運動方程式」と呼ばれ、まず加速度を求めるのに便利です。その後、個別の式に戻って張力を求めます。

🔬 深掘り:張力の物理的意味

$T = \frac{m_2}{m_1 + m_2}F$ は「力 $F$ のうち $m_2$ を加速させるために使われる分」を意味します。

$m_2 = 0$ なら $T = 0$(何もつながっていない)、$m_1 = 0$ なら $T = F$($m_2$ に直接力を加えているのと同じ)。極端な場合で確認すると理解が深まります。

3机の端から垂らす問題

滑らかな机の上に質量 $m_1$ の物体が置かれ、糸が机の端にかけた滑車を通して、ぶら下がった質量 $m_2$ の物体とつながっています。 これは入試で最も頻出のパターンの一つです。

各物体の運動方程式

$m_2$ が下がる向きを正とします($m_1$ は机上を右に進む向き)。

物体 $m_1$(水平面上、右向きが正):

$$m_1 a = T \quad \cdots ①$$

物体 $m_2$(鉛直方向、下向きが正):

$$m_2 a = m_2 g - T \quad \cdots ②$$

▷ 加速度と張力の導出

①+②:

$$(m_1 + m_2)a = m_2 g$$

$$a = \frac{m_2}{m_1 + m_2}\,g$$

①に代入:

$$T = m_1 a = \frac{m_1 m_2}{m_1 + m_2}\,g$$

📐 机の端から垂らす問題

$$a = \frac{m_2}{m_1 + m_2}\,g$$

$$T = \frac{m_1 m_2}{m_1 + m_2}\,g$$

※ $m_1 \gg m_2$ のとき $a \to 0$(重い物体は動きにくい)。$m_2 \gg m_1$ のとき $a \to g$($m_2$ はほぼ自由落下)。
⚠️ 落とし穴:正の向きの統一

$m_1$ と $m_2$ は運動方向が異なります(水平と鉛直)。

✕ 誤:$m_2$ の運動方程式で重力を正にし、$m_1$ でも右向きを正にしつつ加速度に負号をつける

○ 正:「糸が張られて加速する向き」を両方とも正に揃える。$m_1$ が右、$m_2$ が下に動くとき、両方を正とする

こうすると両方の運動方程式で同じ $a$(正の値)を使えます。

4斜面と糸の組合せ

角度 $\theta$ の滑らかな斜面上の質量 $m_1$ の物体と、糸で滑車を通してつながった質量 $m_2$ のおもりがぶら下がっている場合を考えます。

各物体の運動方程式

$m_2$ が下がる($m_1$ が斜面を上る)向きを正とします。

物体 $m_1$(斜面上、上りを正):

$$m_1 a = T - m_1 g\sin\theta \quad \cdots ①$$

物体 $m_2$(鉛直方向、下向きを正):

$$m_2 a = m_2 g - T \quad \cdots ②$$

▷ 加速度と張力の導出

①+②:

$$(m_1 + m_2)a = m_2 g - m_1 g\sin\theta$$

$$a = \frac{m_2 - m_1 \sin\theta}{m_1 + m_2}\,g$$

②に代入:

$$T = m_2 g - m_2 a = m_2 g\left(1 - \frac{m_2 - m_1\sin\theta}{m_1 + m_2}\right) = \frac{m_1 m_2 (1 + \sin\theta)}{m_1 + m_2}\,g$$

📐 斜面+おもりの系

$$a = \frac{m_2 - m_1 \sin\theta}{m_1 + m_2}\,g$$

※ $a > 0$($m_2$ が下がる)の条件は $m_2 > m_1\sin\theta$。$\theta = 90°$ のときアトウッドの機械に帰着する。
💡 ここが本質:系全体の「駆動力」と「全質量」

2物体の問題では、まず系全体の運動方程式を考えると見通しがよくなります。

駆動力:系を動かそうとする力 → $m_2 g - m_1 g\sin\theta$

全質量:系全体の慣性 → $m_1 + m_2$

$$a = \frac{\text{駆動力}}{\text{全質量}}$$

この考え方は、滑車やアトウッドの機械など、すべての連結系に共通して使えます。

🔬 深掘り:摩擦がある場合への拡張

斜面に摩擦がある場合、$m_1$ の運動方程式に動摩擦力を加えるだけです。

$m_1 a = T - m_1 g\sin\theta - \mu' m_1 g\cos\theta$

系全体では:$a = \dfrac{m_2 g - m_1 g(\sin\theta + \mu'\cos\theta)}{m_1 + m_2}$

このように、基本パターンに摩擦力を「追加」していく形で複雑な問題を組み立てられます。

5この章を俯瞰する

糸でつながれた2物体の問題は、運動方程式の連立という力学の中核的な手法を学ぶ重要な単元です。

つながりマップ

  • ← M-3-5 斜面+摩擦力の運動方程式:斜面上の運動方程式をここで2物体系に拡張する。
  • ← M-2-8 糸の張力と垂直抗力:糸の張力の基本的性質がここで活きる。
  • → M-3-7 滑車を使った問題:定滑車・動滑車を使った問題で糸の拘束条件を学ぶ。
  • → M-3-8 アトウッドの実験装置:机の端の問題を鉛直方向に発展させた典型問題。
  • → 第4章 仕事とエネルギー:糸の張力がする仕事と力学的エネルギー保存を結びつける。

📋まとめ

  • 糸の仮定:伸び縮みしない(加速度共通)、質量無視(張力の大きさが両端で等しい)
  • 解法手順:各物体に運動方程式を立て、連立して解く
  • 式を足すと内力(張力)が消え、系全体の運動方程式が得られる
  • 加速度は $a = \dfrac{\text{駆動力}}{\text{全質量}}$ で見通しよく求まる
  • 正の向きは「加速する向き」で統一すると式が立てやすい
  • 張力は外力 $F$ より小さい。極限を確認する習慣をつける

確認テスト

Q1. 「軽い糸」の仮定から導かれる重要な性質は何ですか。

▶ クリックして解答を表示糸の両端の張力の大きさが等しい。糸の質量が0なので、糸自身に作用する力の合力は0でなければならず、両端の張力は等しくなる。

Q2. 糸でつながれた2物体の運動方程式を足すと、なぜ張力が消えるのですか。

▶ クリックして解答を表示張力は系の内力であり、作用・反作用の関係にあるため。一方の物体には $+T$、他方には $-T$ が働くので、足すと相殺される。

Q3. 滑らかな机の上に質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体が置かれ、糸が滑車を通して質量 $2.0\,\text{kg}$ のおもりにつながっている。加速度を求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$

▶ クリックして解答を表示$a = \frac{m_2}{m_1 + m_2}g = \frac{2.0}{3.0 + 2.0} \times 9.8 = 3.9\,\text{m/s}^2$

Q4. 上の問題で、糸の張力はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$T = m_1 a = 3.0 \times 3.9 = 11.8\,\text{N}$。別解:$T = \frac{m_1 m_2}{m_1 + m_2}g = \frac{3.0 \times 2.0}{5.0} \times 9.8 = 11.8\,\text{N}$

8入試問題演習

糸でつながれた2物体の問題を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

3-6-1 A 基礎 水平面計算

滑らかな水平面上に質量 $m_1 = 3.0\,\text{kg}$、$m_2 = 2.0\,\text{kg}$ の2物体が軽い糸でつながれて置かれている。$m_1$ 側を $F = 10\,\text{N}$ の力で水平に引く。

(1) 2物体の加速度を求めよ。

(2) 糸の張力を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $a = 2.0\,\text{m/s}^2$

(2) $T = 4.0\,\text{N}$

解説

(1) 系全体:$(m_1 + m_2)a = F$ → $a = \frac{10}{3.0 + 2.0} = 2.0\,\text{m/s}^2$

(2) $m_2$ の運動方程式:$T = m_2 a = 2.0 \times 2.0 = 4.0\,\text{N}$

確認:$m_1$ の運動方程式 $m_1 a = F - T$ → $3.0 \times 2.0 = 10 - 4.0 = 6.0$ ✓

採点ポイント
  • 各物体の運動方程式を正しく立てる(各3点)
  • 加速度・張力を正しく求める(各2点)

B 発展レベル

3-6-2 B 発展 机の端計算

滑らかな水平な机の上に質量 $4.0\,\text{kg}$ の物体 A が置かれ、軽い糸が机の端の滑車を通して、質量 $1.0\,\text{kg}$ の物体 B につながっている。静かに手を離したとき、$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として次の問いに答えよ。

(1) 加速度を求めよ。

(2) 糸の張力を求めよ。

(3) 物体 B が $0.50\,\text{m}$ 落下したときの速さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $a = 1.96\,\text{m/s}^2$

(2) $T = 7.84\,\text{N}$

(3) $v = 1.4\,\text{m/s}$

解説

(1) $a = \frac{m_B}{m_A + m_B}g = \frac{1.0}{4.0 + 1.0} \times 9.8 = 1.96\,\text{m/s}^2$

(2) $T = m_A a = 4.0 \times 1.96 = 7.84\,\text{N}$

(別解:$T = m_B(g - a) = 1.0 \times (9.8 - 1.96) = 7.84\,\text{N}$)

(3) $v^2 = 2as$ より $v = \sqrt{2 \times 1.96 \times 0.50} = \sqrt{1.96} = 1.4\,\text{m/s}$

採点ポイント
  • 運動方程式を正しく立てる(各2点)
  • 等加速度運動の公式を使える(3点)
  • 数値計算が正しい(3点)

C 応用レベル

3-6-3 C 応用 斜面+おもり論述

角度 $30°$ の滑らかな斜面上に質量 $m_1 = 3.0\,\text{kg}$ の物体 A が置かれ、軽い糸が斜面頂上の滑車を通して質量 $m_2$ の物体 B につながっている。A が斜面を上り、B が下がる向きに運動するための $m_2$ の条件を求めよ。また、$m_2 = 2.0\,\text{kg}$ のとき、加速度と張力を求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

条件:$m_2 > m_1 \sin 30° = 1.5\,\text{kg}$

$m_2 = 2.0\,\text{kg}$ のとき:$a = 0.98\,\text{m/s}^2$、$T = 17.6\,\text{N}$

解説

条件:$a > 0$ となる条件は $m_2 g - m_1 g\sin 30° > 0$ → $m_2 > m_1 \sin 30° = 3.0 \times 0.50 = 1.5\,\text{kg}$

加速度:$a = \frac{m_2 - m_1\sin 30°}{m_1 + m_2}g = \frac{2.0 - 1.5}{3.0 + 2.0} \times 9.8 = \frac{0.5}{5.0} \times 9.8 = 0.98\,\text{m/s}^2$

張力:$T = m_2(g - a) = 2.0 \times (9.8 - 0.98) = 2.0 \times 8.82 = 17.6\,\text{N}$

確認:A の式 $m_1 a = T - m_1 g\sin 30°$ → $3.0 \times 0.98 = 17.6 - 3.0 \times 9.8 \times 0.5 = 17.6 - 14.7 = 2.9$ → $2.94 \approx 2.9$ ✓

採点ポイント
  • $a > 0$ の条件を正しく導出する(3点)
  • 各物体の運動方程式を正しく立てる(各2点)
  • 加速度・張力を正しく求める(各2点)