糸でつながれた2物体の問題をさらに発展させ、滑車が登場する問題に取り組みます。
定滑車は力の向きを変えるだけですが、動滑車は力の大きさまで変えてしまいます。
そのカギとなるのが糸の拘束条件——糸の長さが一定であることから生まれる加速度の関係です。
定滑車とは、軸の位置が固定された滑車です。 天井や壁に取り付けて使います。
糸の両側の張力:$T_{\text{左}} = T_{\text{右}} = T$
糸の両側の加速度の大きさ:$|a_{\text{左}}| = |a_{\text{右}}|$
前の記事で学んだ「机の端から垂らす問題」では、机の端に定滑車があります。 定滑車のおかげで、水平方向の力が鉛直方向に伝わっていたわけです。
定滑車は力の大きさ・距離・速さ・加速度をすべてそのまま伝えます。変わるのは向きだけです。
したがって、定滑車のみの問題では、糸の拘束条件は「加速度の大きさが等しい」という単純なものです。前の記事と同じ方法で解けます。
動滑車とは、滑車自体が物体と一緒に動く滑車です。 物体を動滑車に吊るし、糸の一端を天井に固定、もう一端を手で引きます。
動滑車に質量 $M$ の物体がぶら下がっているとき、滑車を支える糸は2本分あります。 糸の張力を $T$ とすると、動滑車(質量無視)のつりあいは:
$$2T = Mg$$
$$T = \frac{Mg}{2}$$
$$T = \frac{Mg}{2}$$
(つりあいの場合。動滑車を支える糸は2本分なので、必要な張力は半分)
動滑車にかかる糸の長さに注目します。物体を高さ $h$ だけ持ち上げると、動滑車も $h$ だけ上がります。
動滑車の左右で糸がそれぞれ $h$ ずつ短くなるので、合計 $2h$ の糸が必要です。
つまり、手で糸を $2h$ 引かなければなりません。
仕事の確認:手がする仕事 $= T \times 2h = \frac{Mg}{2} \times 2h = Mgh$
これは物体を高さ $h$ だけ持ち上げるのに必要な仕事 $Mgh$ と一致します。
動滑車で力が半分になると聞くと、仕事も半分に思えますが、そうではありません。
✕ 誤:動滑車を使うと仕事が半分で済む
○ 正:力は半分だが距離が2倍なので、仕事は同じ($W = Mgh$)
これは仕事の原理(道具を使っても仕事の総量は変わらない)の典型例です。
| 定滑車 | 動滑車 | |
|---|---|---|
| 滑車の動き | 固定(動かない) | 物体と一緒に動く |
| 必要な力 | $Mg$(変わらない) | $\frac{Mg}{2}$(半分) |
| 引く距離 | $h$(変わらない) | $2h$(2倍) |
| 仕事 | $Mgh$ | $Mgh$(同じ) |
| 加速度の関係 | 等しい | 物体は糸の半分 |
滑車の問題で最も重要なのが糸の拘束条件です。 糸は伸び縮みしないので、糸の全長は一定。この条件から物体間の変位・速度・加速度の関係が決まります。
動滑車に糸がかかっている場合、動滑車(物体)の変位を $x$、糸の端の変位を $y$ とすると:
$$y = 2x$$
時間微分して速度:$v_{\text{糸端}} = 2v_{\text{滑車}}$
さらに微分して加速度:$a_{\text{糸端}} = 2a_{\text{滑車}}$
糸の拘束条件は力学の法則ではなく、幾何学的な条件(糸が伸びない)から導かれます。
導き方:糸の各区間の長さを変位で表し、それらの和が一定であるという式を立てます。その式を時間で微分すると速度の関係、さらにもう一度微分すると加速度の関係が得られます。
天井の固定点から動滑車までの左側の糸の長さを $l_1$、右側の糸の長さを $l_2$ とします。
糸の全長は一定なので:$l_1 + l_2 = L$(一定)
動滑車が $\Delta x$ だけ下がると、$l_1$ も $l_2$ もそれぞれ $\Delta x$ だけ長くなります。
糸の全長が一定なので、糸の自由端が $\Delta y = 2\Delta x$ だけ上がらなければなりません。
よって $\Delta y = 2\Delta x$。時間で割ると $v_y = 2v_x$、さらに微分すると $a_y = 2a_x$。
動滑車を $n$ 個直列に組合せると、力は $\frac{1}{2^n}$、距離は $2^n$ 倍になります。
例:動滑車2個なら、力は $\frac{1}{4}$、距離は $4$ 倍。仕事は常に $Mgh$ で変わりません。
このような構成を滑車装置(タックル)と呼び、クレーンやエレベーターの原理になっています。
動滑車にぶら下がった質量 $M$ の物体を、定滑車を通して質量 $m$ のおもりで引き上げる問題を考えます。
天井に定滑車を固定し、糸の一端に質量 $m$ のおもりをつけ、糸を動滑車にかけて、もう一端を天井に固定します。動滑車には質量 $M$ の物体がぶら下がっています。
動滑車の加速度を $a$(上向きを正)とすると、拘束条件より、おもり $m$ の加速度は $2a$(下向き)です。
物体 $M$(動滑車と一体、上向きを正):
$$Ma = 2T - Mg \quad \cdots ①$$
おもり $m$(下向きを正):
$$m \cdot 2a = mg - T \quad \cdots ②$$
②より $T = mg - 2ma$ …②'
②'を①に代入:$Ma = 2(mg - 2ma) - Mg$
$Ma = 2mg - 4ma - Mg$
$Ma + 4ma = 2mg - Mg$
$$(M + 4m)a = (2m - M)g$$
$$a = \frac{(2m - M)}{M + 4m}\,g$$
$T = mg - 2ma = mg\left(1 - \frac{2(2m - M)}{M + 4m}\right) = \frac{3mM}{M + 4m}\,g$
$$a = \frac{2m - M}{M + 4m}\,g$$
動滑車を支える糸は2本分です。動滑車にかかる上向きの力は $T$ ではなく $2T$ です。
✕ 誤:$Ma = T - Mg$
○ 正:$Ma = 2T - Mg$(動滑車には糸が2本かかっている)
定滑車を通した糸は1本の連続した糸なので張力は一定の $T$ ですが、動滑車にはその糸が2回かかるため、力は $2T$ です。
Step 1. 拘束条件を求める(動滑車の加速度 $a$ ↔ 糸端の加速度 $2a$)
Step 2. 各物体の運動方程式を立てる(動滑車には $2T$ がかかる!)
Step 3. 連立して $a$ と $T$ を求める
この3ステップをマスターすれば、どんな滑車の問題も解けます。
滑車の問題は糸の拘束条件を正確に把握できるかがカギです。
Q1. 定滑車と動滑車の違いを、「力の大きさ」と「引く距離」の観点から説明してください。
Q2. 動滑車にぶら下がった物体の加速度が $a$ のとき、糸の自由端の加速度はいくらですか。
Q3. 動滑車(質量無視)にかかる糸の張力が $T$ のとき、動滑車が物体を引き上げる力はいくらですか。
Q4. 動滑車を使うと力が半分で済みますが、仕事は半分にはなりません。なぜですか。
滑車を使った問題を入試形式で確認しましょう。
天井に固定した定滑車に軽い糸をかけ、一端に動滑車を取り付け、その動滑車に質量 $10\,\text{kg}$ の物体をつるした。糸のもう一端を人が持っている。滑車はすべて軽いとする。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 物体を静止させるために人が糸を引く力はいくらか。
(2) 物体を $1.0\,\text{m}$ 持ち上げるには、糸を何 m 引けばよいか。
(1) $T = 49\,\text{N}$
(2) $2.0\,\text{m}$
(1) 動滑車のつりあい:$2T = Mg$ → $T = \frac{Mg}{2} = \frac{10 \times 9.8}{2} = 49\,\text{N}$
(2) 動滑車の拘束条件より、物体を $h = 1.0\,\text{m}$ 上げるには糸を $2h = 2.0\,\text{m}$ 引く。
天井に定滑車を固定し、軽い糸の一端に質量 $m = 2.0\,\text{kg}$ のおもりをつけた。糸を動滑車(質量無視)にかけ、もう一端を天井に固定した。動滑車に質量 $M = 6.0\,\text{kg}$ の物体をつるし、静かに放した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 物体 $M$ の加速度を求めよ。
(2) 糸の張力を求めよ。
(1) $a \approx 1.4\,\text{m/s}^2$(下向き)
(2) $T \approx 17\,\text{N}$
$M$ が下がるので $a > 0$ は下向き。拘束条件より $m$ の加速度は $2a$(上向き)。
$M$:$Ma = Mg - 2T$ …①
$m$:$m \cdot 2a = T - mg$ …②
②より $T = mg + 2ma$、①に代入:
$Ma = Mg - 2(mg + 2ma) = Mg - 2mg - 4ma$
$(M + 4m)a = (M - 2m)g$
$a = \frac{M - 2m}{M + 4m}g = \frac{6.0 - 4.0}{6.0 + 8.0} \times 9.8 = \frac{2.0}{14.0} \times 9.8 = 1.4\,\text{m/s}^2$
$T = mg + 2ma = 2.0 \times 9.8 + 2 \times 2.0 \times 1.4 = 19.6 + 5.6 = 25.2\,\text{N}$
確認:①で $Ma = 6.0 \times 1.4 = 8.4$、$Mg - 2T = 58.8 - 50.4 = 8.4$ ✓
動滑車1個を使い、質量 $M$ の物体を一定の加速度 $a$ で引き上げたい。このとき、糸を引く力 $F$、糸を引く速度 $v_{\text{引}}$、糸を引く加速度 $\alpha_{\text{引}}$ をそれぞれ $M$、$a$、$g$、物体の速度 $v$ で表せ。また、手がする仕事率を求めよ。
$F = \dfrac{M(g + a)}{2}$、$v_{\text{引}} = 2v$、$\alpha_{\text{引}} = 2a$
仕事率:$P = Fv_{\text{引}} = M(g + a)v$
力:動滑車の運動方程式 $Ma = 2T - Mg$ より $T = \frac{M(g + a)}{2}$。人が引く力 $F = T = \frac{M(g + a)}{2}$
速度・加速度:拘束条件より $v_{\text{引}} = 2v$、$\alpha_{\text{引}} = 2a$
仕事率:$P = F \cdot v_{\text{引}} = \frac{M(g + a)}{2} \cdot 2v = M(g + a)v$
これは物体側で確認できる:$P = (Mg + Ma) \cdot v = M(g + a)v$ ✓