第4章で学んだ仕事の定義、運動エネルギー、位置エネルギー、力学的エネルギー保存則、ばね、斜面、摩擦──これらを組み合わせた問題に挑戦しましょう。
入試では個々の知識だけでなく、複数のテーマを横断する力が問われます。
第4章の知識を総動員し、実戦力を仕上げましょう。
まず、第4章で登場したすべての重要公式を一覧にまとめます。
仕事:$W = Fd\cos\alpha$
運動エネルギー:$K = \frac{1}{2}mv^2$
仕事と運動エネルギーの関係:$W_{\text{合}} = \Delta K = K_2 - K_1$
重力による位置エネルギー:$U_g = mgh$
弾性力による位置エネルギー:$U_e = \frac{1}{2}kx^2$
力学的エネルギー保存則:$K_1 + U_1 = K_2 + U_2$
摩擦がある場合:$K_1 + U_1 = K_2 + U_2 + fd$
仕事とエネルギーの問題はすべて、「エネルギーがどこからどこへ移動したか」を追跡する問題です。
運動エネルギー、重力PE、弾性PE、そして摩擦による熱エネルギー。この4つの「エネルギーの貯蔵庫」の間の出入りを正確に記述することが、すべての問題に共通する本質です。
入試問題で最初に行うべきは、何を求めるかと何が使えるかの判断です。
| 求めたいもの | 使う手法 |
|---|---|
| 速さ・高さ | エネルギー保存則 |
| 加速度・力 | 運動方程式 |
| 時間・距離(等加速度) | 運動方程式 + 等加速度の公式 |
| 摩擦による発熱 | $fd$(エネルギーの差) |
入試の総合問題では、一つの問題の中でエネルギー保存と運動方程式の両方を使うことが多いです。
✕ 誤:「エネルギーの問題だから運動方程式は使わない」と決めつける
○ 正:小問ごとに最適な手法を選ぶ。速さはエネルギー、力は運動方程式
「仕事と運動エネルギーの関係」($W_{\text{合}} = \Delta K$)と「力学的エネルギー保存則」は本質的に同じことを言っています。
エネルギー保存則は、保存力の仕事を位置エネルギーの変化に置き換えたものです。どちらを使っても同じ答えが出ますが、位置エネルギーが定義できる力(重力、弾性力)がある場合は、エネルギー保存則の方が見通しがよくなります。
入試でよく出る、複数テーマを融合した問題のパターンを整理します。
水平ばねで押し出された物体が、斜面を駆け上がる問題。弾性PE → KE → 重力PE の変換を追跡します。
振り子の最下点での速さ、糸の張力を求める問題。エネルギー保存で速さを求め、運動方程式で張力を求めるのが定番です。
粗い斜面を滑り降りた物体がばねに衝突する問題。重力PE → KE → 弾性PE の変換に、摩擦による発熱を加えて考えます。
融合問題でも、解法の基本は同じです。始点と終点を決め、それぞれの状態でのエネルギーを書き出す。
途中でどんな複雑なことが起きていても、始点と終点のエネルギー + 摩擦の発熱で式が立ちます。
振り子の糸の張力はエネルギー保存則だけでは求まりません。
✕ 誤:エネルギー保存から張力を直接求める
○ 正:まずエネルギー保存で速さを求め、次に円運動の運動方程式 $T - mg\cos\theta = mv^2/L$ から張力を求める
張力は仕事をしない力なので、エネルギーの式には現れません。別途、運動方程式が必要です。
総合問題を確実に解くためのチェックリストをまとめます。
$$\frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}kx_1^2 + mgh_1 = \frac{1}{2}mv_2^2 + \frac{1}{2}kx_2^2 + mgh_2 + fd$$
導出した答えが正しいか確認する方法:
次元チェック:速さの答えが [m/s] の次元になっているか。
極限チェック:$\mu' = 0$ なら摩擦なしの結果に戻るか。$k = 0$ ならばねがない場合に戻るか。
符号チェック:速さの二乗が負になっていないか(物理的にありえない)。
第4章「仕事とエネルギー」は、力学の根幹をなすテーマです。ここで身につけた考え方は、今後のあらゆる分野で活躍します。
Q1. 力学的エネルギー保存則が成り立つ条件は何か。
Q2. 振り子の最下点での速さを求めるにはどの手法を使うか。糸の張力を求めるにはどうするか。
Q3. 最も一般的なエネルギーの式を書け(KE、弾性PE、重力PE、摩擦を含む)。
Q4. 答えの妥当性をチェックする方法を3つ挙げよ。
第4章の知識を総動員する入試形式の総合問題です。A基礎×2、B発展×2、C応用×2の計6問で仕上げましょう。
質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体を、地面から高さ $3.0\,\text{m}$ の棚に持ち上げた。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 重力に逆らってした仕事を求めよ。
(2) 棚の上から静かに物体を落としたとき、地面に到達する直前の速さを求めよ。
(1) $W = 58.8\,\text{J}$
(2) $v \approx 7.7\,\text{m/s}$
(1) 重力に逆らう仕事 = 位置エネルギーの増加分:
$$W = mgh = 2.0 \times 9.8 \times 3.0 = 58.8\,\text{J}$$
(2) エネルギー保存:$mgh = \frac{1}{2}mv^2$
$$v = \sqrt{2gh} = \sqrt{2 \times 9.8 \times 3.0} = \sqrt{58.8} \approx 7.7\,\text{m/s}$$
滑らかな水平面上で、ばね定数 $k = 200\,\text{N/m}$ のばねに質量 $0.50\,\text{kg}$ の物体を押しつけ、ばねを $0.30\,\text{m}$ 縮めて放した。次の問いに答えよ。
(1) ばねに蓄えられた弾性力による位置エネルギーを求めよ。
(2) 物体がばねから離れた直後の速さを求めよ。
(1) $U_e = 9.0\,\text{J}$
(2) $v = 6.0\,\text{m/s}$
(1) $U_e = \frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2} \times 200 \times 0.30^2 = 9.0\,\text{J}$
(2) エネルギー保存:$\frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2}mv^2$
$$v = x\sqrt{\frac{k}{m}} = 0.30 \times \sqrt{\frac{200}{0.50}} = 0.30 \times 20 = 6.0\,\text{m/s}$$
長さ $L = 1.0\,\text{m}$ の軽い糸の一端を天井に固定し、他端に質量 $m = 0.50\,\text{kg}$ の小球をつけた。糸が鉛直と $60°$ の角度をなす位置から小球を静かに放した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 最下点での小球の速さを求めよ。
(2) 最下点での糸の張力を求めよ。
(1) $v \approx 3.1\,\text{m/s}$
(2) $T \approx 9.8\,\text{N}$
(1) 放す位置の高さ(最下点基準):$h = L - L\cos 60° = L(1 - \cos 60°) = 1.0 \times (1 - 0.50) = 0.50\,\text{m}$
エネルギー保存:$mgh = \frac{1}{2}mv^2$
$$v = \sqrt{2gh} = \sqrt{2 \times 9.8 \times 0.50} = \sqrt{9.8} \approx 3.1\,\text{m/s}$$
(2) 最下点での円運動の運動方程式(向心方向を正):
$$T - mg = \frac{mv^2}{L}$$
$$T = mg + \frac{mv^2}{L} = 0.50 \times 9.8 + \frac{0.50 \times 9.8}{1.0} = 4.9 + 4.9 = 9.8\,\text{N}$$
一般に $v^2 = 2gL(1-\cos\theta)$ を代入すると $T = mg(3 - 2\cos\theta)$ が得られる。$\theta = 60°$ では $T = mg(3-1) = 2mg$ と確認できる。
角度 $30°$ の粗い斜面(動摩擦係数 $\mu' = 0.20$)の底に、ばね定数 $k = 500\,\text{N/m}$ のばねが壁に固定されている。質量 $1.0\,\text{kg}$ の物体が斜面に沿って高さ $h = 2.0\,\text{m}$ の位置から静止状態で滑り降り、ばねに衝突する。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、ばねの最大縮みを求めよ。
$d \approx 0.24\,\text{m}$
斜面の長さ:$l = h/\sin 30° = 2.0/0.50 = 4.0\,\text{m}$
摩擦力:$f = \mu' mg\cos 30° = 0.20 \times 1.0 \times 9.8 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \approx 1.70\,\text{N}$
ばねが最大に縮んだとき $v = 0$。高さの変化に注意:物体はさらに $d\sin 30° = 0.5d$ だけ下降する。
始点(高さ $h$)→ 終点(ばね最大縮み、高さ $0 - 0.5d$)のエネルギー式:
$$mgh + mg \cdot 0.5d = \frac{1}{2}kd^2 + f(l + d)$$
$$1.0 \times 9.8 \times 2.0 + 1.0 \times 9.8 \times 0.5d = \frac{1}{2} \times 500 \times d^2 + 1.70(4.0 + d)$$
$$19.6 + 4.9d = 250d^2 + 6.8 + 1.70d$$
$$250d^2 - 3.2d - 12.8 = 0$$
二次方程式の解の公式より
$$d = \frac{3.2 + \sqrt{3.2^2 + 4 \times 250 \times 12.8}}{2 \times 250} = \frac{3.2 + \sqrt{10.24 + 12800}}{500}$$
$$\approx \frac{3.2 + 113.3}{500} \approx 0.23\,\text{m}$$
したがって、ばねの最大縮みは約 $0.24\,\text{m}$。
長さ $L$ の軽い糸に質量 $m$ の小球をつけた振り子がある。鉛直と角度 $\theta_0$ の位置から静かに放したところ、空気抵抗のため1往復後に鉛直と角度 $\theta_1$($\theta_1 < \theta_0$)の位置までしか上がらなかった。重力加速度を $g$ として、次の問いに答えよ。
(1) 放した位置から最下点に達するまでに小球が失った力学的エネルギーを $m$, $g$, $L$, $\theta_0$, $\theta_1$ で表せ。(ただし、1往復で失うエネルギーの半分とする。)
(2) 1往復で失われた力学的エネルギーの総量を求めよ。
(3) この過程で空気抵抗が小球にした仕事は正か負か。理由を説明せよ。
(1) $\Delta E_{\text{半}} = \frac{1}{2}mgL(\cos\theta_1 - \cos\theta_0)$
(2) $\Delta E = mgL(\cos\theta_1 - \cos\theta_0)$
(3) 負。空気抵抗は常に運動と逆向きにはたらくので、仕事は常に負である。
(2) 初期の力学的エネルギー(最下点基準):$E_0 = mgL(1-\cos\theta_0)$
1往復後の力学的エネルギー:$E_1 = mgL(1-\cos\theta_1)$
失われたエネルギー:
$$\Delta E = E_0 - E_1 = mgL(1-\cos\theta_0) - mgL(1-\cos\theta_1) = mgL(\cos\theta_1 - \cos\theta_0)$$
$\theta_1 < \theta_0$ なので $\cos\theta_1 > \cos\theta_0$ であり、$\Delta E > 0$ で確かに正(エネルギーが減少している)。
(1) 1往復の半分で失われるエネルギーは $\Delta E / 2 = \frac{1}{2}mgL(\cos\theta_1 - \cos\theta_0)$
(3) 空気抵抗は速度と常に逆向きにはたらく非保存力である。力と変位が逆向きなので、仕事は常に負。つまり空気抵抗は力学的エネルギーを奪い、熱エネルギーに変換する。
下の図のように、滑らかな水平面上にばね定数 $k$ のばねの一端を壁に固定し、他端に質量 $m$ の物体Aを押しつけて $x_0$ だけ縮めて放す。水平面の右端から角度 $\theta$ の粗い斜面(動摩擦係数 $\mu'$)が続いている。ばねの右端から斜面の始まりまでの水平距離は十分短いとする(摩擦なし)。$g$ を重力加速度として、次の問いに答えよ。
(1) 物体Aが斜面の底に達したときの速さを $k$, $m$, $x_0$ で表せ。
(2) 物体Aが斜面を上がる最大の高さ $H$ を $k$, $m$, $x_0$, $\mu'$, $\theta$, $g$ で表せ。
(3) 物体Aが斜面を上がって静止した後、斜面上で静止し続ける条件を $\mu'$, $\theta$ で表せ。
(1) $v = x_0\sqrt{\dfrac{k}{m}}$
(2) $H = \dfrac{kx_0^2}{2mg(1 + \mu'\cot\theta)}$
(3) $\mu' \geq \tan\theta$
(1) 水平面は滑らかなので、ばねの弾性PEがすべてKEに変換される:
$$\frac{1}{2}kx_0^2 = \frac{1}{2}mv^2 \quad \Rightarrow \quad v = x_0\sqrt{\frac{k}{m}}$$
(2) 斜面の底から最高点までのエネルギー式を立てる。斜面に沿った距離を $l$ とすると $H = l\sin\theta$。
$$\frac{1}{2}mv^2 = mgH + \mu'mg\cos\theta \cdot l = mgH + \mu'mg\cos\theta \cdot \frac{H}{\sin\theta}$$
$$\frac{1}{2}kx_0^2 = mgH\left(1 + \frac{\mu'\cos\theta}{\sin\theta}\right) = mgH(1 + \mu'\cot\theta)$$
$$H = \frac{kx_0^2}{2mg(1 + \mu'\cot\theta)}$$
$\mu' = 0$ のとき $H = kx_0^2/(2mg)$ となり、摩擦なしの場合に一致する(極限チェック OK)。
(3) 物体が斜面上で静止し続けるには、斜面方向の重力成分以上の静止摩擦力が必要。最大静止摩擦力 $\geq$ 重力の斜面成分より:
$$\mu' mg\cos\theta \geq mg\sin\theta \quad \Rightarrow \quad \mu' \geq \tan\theta$$
(ここでは動摩擦係数 $\mu'$ と静止摩擦係数がほぼ等しいとした簡略化。厳密には静止摩擦係数 $\mu$ で議論する。)