振り子は、力学的エネルギー保存則の最も美しい応用例です。
おもりは最高点で一瞬止まり、最下点で最も速くなる——位置エネルギーと運動エネルギーが絶えず入れ替わるこの運動を、エネルギーの視点から完全に理解しましょう。
さらに、入試頻出の「糸がたるまない条件」まで踏み込みます。
長さ $l$ の糸の先に質量 $m$ のおもりをつけた単振り子を考えます。 おもりには重力 $mg$ と糸の張力 $T$ がはたらきます。
糸の張力は常に糸の方向(おもりの円運動の半径方向)にはたらきます。 おもりの運動方向は円の接線方向なので、張力と運動方向は常に直交しています。
したがって、糸の張力は仕事をしません($W = T \cos 90° \times d = 0$)。 重力は保存力なので、力学的エネルギー保存則がそのまま成り立ちます。
振り子の問題で保存則が使える理由は、張力が仕事をしないからです。
張力は運動方向に対して常に垂直にはたらくため、おもりを加速も減速もしません。張力はおもりの運動の向きを変えるだけで、エネルギーの授受には関与しません。
エネルギーのやりとりに関与するのは重力だけなので、$K + U_g = \text{一定}$ が成り立ちます。
「力がはたらいている = 保存則が使えない」という誤解は多いです。
✕ 誤:糸の張力がはたらいているから力学的エネルギーは保存しない
○ 正:張力は運動方向に垂直なので仕事をしない → 保存則に影響しない
保存則を「壊す」のは仕事をする非保存力(摩擦力など)であり、仕事をしない力は保存則に影響しません。
振り子の問題では、最下点を基準($h = 0$)とするのが最も便利です。 糸が鉛直から角度 $\theta$ 傾いたとき、おもりの最下点からの高さは:
$$h = l - l\cos\theta = l(1 - \cos\theta)$$
支点から最下点までの鉛直距離は $l$(糸の長さそのもの)です。
糸が角度 $\theta$ 傾いたとき、支点からおもりまでの鉛直距離は $l\cos\theta$ です。
したがって、おもりの最下点からの高さは:
$$h = l - l\cos\theta = l(1 - \cos\theta)$$
検算:$\theta = 0$ のとき $h = l(1 - 1) = 0$(最下点)。$\theta = 90°$ のとき $h = l(1 - 0) = l$(支点と同じ高さ)。正しい。
角度 $\theta_0$ から静かに手を離したとき、最下点でのおもりの速さを求めましょう。
最下点を基準として、初期状態(角度 $\theta_0$、速さ $0$)と最下点の状態を比較します。
初期状態:$K_A = 0$、$U_A = mgl(1 - \cos\theta_0)$
最下点:$K_B = \frac{1}{2}mv^2$、$U_B = 0$
保存則 $K_A + U_A = K_B + U_B$ より:
$$0 + mgl(1 - \cos\theta_0) = \frac{1}{2}mv^2 + 0$$
$$v = \sqrt{2gl(1 - \cos\theta_0)}$$
最下点での速さの式に質量 $m$ が含まれていないことに注目してください。
これは保存則の両辺を $m$ で割れることから明らかです。重いおもりも軽いおもりも、同じ高さから離せば最下点での速さは同じです。
これは自由落下で落下速度が質量に依存しないのと同じ原理です。
角度ではなく「最下点からの高さ $h$」が直接与えられている場合は、もっと簡単です。
$$mgh = \frac{1}{2}mv^2 \quad \Rightarrow \quad v = \sqrt{2gh}$$
これは自由落下で高さ $h$ から落としたときの速さとまったく同じです。振り子は「円弧に沿った自由落下」ともいえます。
振り子は最下点を通過した後、反対側に上がっていきます。 空気抵抗がなければ、初めと同じ高さまで上がって折り返します。
最下点を通過した後、角度 $\theta$(高さ $h = l(1 - \cos\theta)$)の位置での速さは:
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv^2 + mgl(1 - \cos\theta)$$
$$v = \sqrt{v_0^2 - 2gl(1 - \cos\theta)}$$
ここで $v_0$ は最下点での速さです。$v = 0$ となる角度が最高到達角度です。
最高点で速さが $0$ になりますが、これは一瞬だけ静止するのであって永久に止まるわけではありません。
✕ 誤:速さが $0$ になったのでおもりはそこで停止する
○ 正:速さが $0$ でも重力がはたらいているので、すぐに逆方向に動き出す
これは鉛直投げ上げで最高点に達した瞬間と同じ状況です。
| 位置 | 運動エネルギー $K$ | 位置エネルギー $U$ | 力学的エネルギー $E$ |
|---|---|---|---|
| 最高点(角度 $\theta_0$) | $0$ | $mgl(1-\cos\theta_0)$ | $mgl(1-\cos\theta_0)$ |
| 途中(角度 $\theta$) | $mgl(\cos\theta - \cos\theta_0)$ | $mgl(1-\cos\theta)$ | $mgl(1-\cos\theta_0)$ |
| 最下点($\theta = 0$) | $mgl(1-\cos\theta_0)$ | $0$ | $mgl(1-\cos\theta_0)$ |
どの位置でも $E = K + U$ は同じ値で一定です。これが力学的エネルギー保存則の本質です。
振り子を大きく振ったり、最下点で速い速度を与えたりすると、おもりが上まで回ろうとすることがあります。 このとき、糸がたるむ(張力が $0$ になる)可能性があります。 糸がたるまないための条件は入試で頻出です。
糸が角度 $\theta$ のとき、おもりは半径 $l$ の円運動をしています。 半径方向(糸の方向、中心向き)の運動方程式は:
$$T - mg\cos\theta = \frac{mv^2}{l}$$
ここで $T$ は糸の張力、$mg\cos\theta$ は重力の糸方向の成分です。
$$T = mg\cos\theta + \frac{mv^2}{l}$$
おもりが鉛直面内で1周する(糸の代わりに棒、またはループ・ザ・ループ型の問題)場合、最高点($\theta = 180°$、つまり支点の真上)で張力が最も小さくなります。
最高点では $\cos 180° = -1$ なので:
$$T_{\text{top}} = -mg + \frac{mv_{\text{top}}^2}{l} = \frac{mv_{\text{top}}^2}{l} - mg$$
たるまない条件 $T_{\text{top}} \geq 0$ より:
$$\frac{mv_{\text{top}}^2}{l} \geq mg \quad \Rightarrow \quad v_{\text{top}}^2 \geq gl$$
最下点から最高点(高さ $2l$)までエネルギー保存則を適用すると:
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv_{\text{top}}^2 + mg \cdot 2l$$
$v_{\text{top}}^2 \geq gl$ を代入すると:
$$\frac{1}{2}mv_0^2 \geq \frac{1}{2}m \cdot gl + mg \cdot 2l = \frac{5}{2}mgl$$
$$v_0^2 \geq 5gl$$
$$v_0 \geq \sqrt{5gl}$$
$$v_0 \geq \sqrt{5gl}$$
糸がたるまない条件は、エネルギー保存則(速さと高さの関係)と円運動の運動方程式(張力と速さの関係)の2つを連立して導きます。
どちらか一方だけでは解けません。「エネルギー保存」で各地点の速さを求め、「運動方程式」でその速さから張力を計算する——この2段階の思考が重要です。
$v_0 \geq \sqrt{5gl}$ は「鉛直面内で1周する」場合の条件です。
✕ 誤:振り子の問題なら何でも $\sqrt{5gl}$ を使う
○ 正:$\sqrt{5gl}$ は最高点が支点の真上(高さ $2l$)の場合。途中でたるむかどうかは、各地点で $T \geq 0$ を確認する
たとえば水平位置(高さ $l$)で糸がたるまない条件は $v_0 \geq \sqrt{3gl}$ と異なります。
糸は引くことしかできない($T \geq 0$)のに対し、棒は押すことも引くこともできます($T$ は正でも負でもよい)。
棒でおもりをつないだ場合、「たるむ」ことがないので、条件は「最高点で速度が $0$ 以上」($v_{\text{top}} \geq 0$) だけになります。
このとき最下点での条件は $v_0 \geq \sqrt{4gl} = 2\sqrt{gl}$ となり、糸の場合($\sqrt{5gl}$)より緩くなります。
振り子のエネルギー保存は、力学の集大成ともいえるテーマです。
Q1. 長さ $l$ の振り子が鉛直から角度 $\theta$ 傾いたとき、最下点からの高さを求めよ。
Q2. 振り子の問題で力学的エネルギー保存則が使える理由を述べよ。
Q3. 長さ $0.80\,\text{m}$ の振り子を $60°$ から静かに離したとき、最下点での速さを求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。
Q4. 鉛直面内で1周するための最下点の最小速さはいくらか。糸の長さを $l$ とせよ。
振り子のエネルギー保存を入試形式で確認しましょう。
長さ $l = 1.0\,\text{m}$ の糸に質量 $0.20\,\text{kg}$ のおもりをつけた振り子がある。鉛直から $\theta_0 = 60°$ の位置で静かに手を離した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。
(1) 初期位置の最下点からの高さを求めよ。
(2) 最下点でのおもりの速さを求めよ。
(3) 最下点でのおもりの運動エネルギーを求めよ。
(1) $h = 0.50\,\text{m}$
(2) $v \approx 3.1\,\text{m/s}$
(3) $K \approx 0.98\,\text{J}$
(1) $h = l(1-\cos 60°) = 1.0 \times (1 - 0.50) = 0.50\,\text{m}$
(2) $v = \sqrt{2gh} = \sqrt{2 \times 9.8 \times 0.50} = \sqrt{9.8} \approx 3.1\,\text{m/s}$
(3) $K = \frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2} \times 0.20 \times 9.8 = 0.98\,\text{J}$
または $K = mgh = 0.20 \times 9.8 \times 0.50 = 0.98\,\text{J}$(位置エネルギーがすべて運動エネルギーに変換)
長さ $l = 0.50\,\text{m}$ の糸に質量 $m = 0.10\,\text{kg}$ のおもりをつけた振り子を、鉛直から $\theta_0 = 90°$(水平)の位置から静かに離した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。
(1) 最下点でのおもりの速さを求めよ。
(2) 最下点での糸の張力を求めよ。
(1) $v \approx 3.1\,\text{m/s}$
(2) $T \approx 2.9\,\text{N}$
(1) $h = l(1-\cos 90°) = l \times 1 = 0.50\,\text{m}$
$v = \sqrt{2gl} = \sqrt{2 \times 9.8 \times 0.50} = \sqrt{9.8} \approx 3.1\,\text{m/s}$
(2) 最下点($\theta = 0$)での円運動の運動方程式(中心向きを正):
$T - mg = \frac{mv^2}{l}$
$T = mg + \frac{mv^2}{l} = mg + \frac{m \cdot 2gl}{l} = mg + 2mg = 3mg$
$T = 3 \times 0.10 \times 9.8 = 2.94 \approx 2.9\,\text{N}$
最下点での張力は重力の3倍になる($\theta_0 = 90°$ の場合)。
長さ $l$ の糸におもり(質量 $m$)をつけ、最下点で水平方向に速さ $v_0$ を与える。おもりが鉛直面内で1周するとき、以下を求めよ。
(1) 最高点(支点の真上)でのおもりの速さを $v_0$、$g$、$l$ で表せ。
(2) 最高点での糸の張力を求めよ。
(3) 糸がたるまずに1周するための $v_0$ の最小値を求めよ。
(1) $v_{\text{top}} = \sqrt{v_0^2 - 4gl}$
(2) $T = \frac{m(v_0^2 - 4gl)}{l} - mg = \frac{mv_0^2}{l} - 5mg$
(3) $v_0 = \sqrt{5gl}$
(1) エネルギー保存則(最下点 → 最高点、高さ差 $2l$):
$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv_{\text{top}}^2 + mg \cdot 2l$
$v_{\text{top}}^2 = v_0^2 - 4gl$
$v_{\text{top}} = \sqrt{v_0^2 - 4gl}$
(2) 最高点での円運動の運動方程式(中心向き=下向きを正):
$T + mg = \frac{mv_{\text{top}}^2}{l}$
$T = \frac{mv_{\text{top}}^2}{l} - mg = \frac{m(v_0^2 - 4gl)}{l} - mg = \frac{mv_0^2}{l} - 5mg$
(3) たるまない条件 $T \geq 0$:
$\frac{mv_0^2}{l} - 5mg \geq 0$
$v_0^2 \geq 5gl$
$v_0 \geq \sqrt{5gl}$
最小値は $v_0 = \sqrt{5gl}$(このとき最高点で $T = 0$、$v_{\text{top}} = \sqrt{gl}$)