自由落下のエネルギー保存では、運動エネルギーと重力による位置エネルギーの2者間の変換を扱いました。
ここにばね(弾性力による位置エネルギー)が加わると、エネルギーの「貯蔵庫」が3つになります。
水平ばね、鉛直ばねの2パターンを通じて、エネルギー保存則の強力さを実感しましょう。
ばね定数 $k$ のばねを自然長から $x$ だけ伸ばした(または縮めた)とき、ばねに蓄えられる弾性力による位置エネルギーは次の式で表されます。
$$U_e = \frac{1}{2}kx^2$$
この式は、ばねの弾性力 $F = -kx$ が物体にする仕事を積分して得られるものです。グラフで考えると、$F$-$x$ グラフ(直線)と $x$ 軸で囲まれた三角形の面積にあたります。
ばねを縮めると、物体の運動エネルギーがばねの弾性力による位置エネルギーに変換されて蓄えられます。ばねが伸びて元に戻るとき、蓄えていたエネルギーを運動エネルギーとして返します。
ばねは「エネルギーの預け入れと払い出し」を行う銀行のような存在です。摩擦がなければ、預けた分はそっくり返ってきます。
弾性力による位置エネルギーの $x$ は、必ず自然長からの変位です。
✕ 誤:ばねの長さ(全長)を $x$ に代入する
○ 正:自然長からどれだけ伸びた(縮んだ)かを $x$ に代入する
問題文で「ばねの長さが $L$ 」と書いてあるとき、自然長 $L_0$ を引いて $x = L - L_0$ としましょう。
滑らかな水平面上で、ばね定数 $k$ のばねの一端を壁に固定し、他端に質量 $m$ の物体をつけます。ばねを $x_0$ だけ縮めて手を放すと、物体はどのような運動をするでしょうか。
水平面上の運動では、物体の高さが変わらないので重力による位置エネルギーは一定です。したがって、エネルギー保存則は運動エネルギーと弾性PEの2者間のやりとりになります。
$$\frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}kx_1^2 = \frac{1}{2}mv_2^2 + \frac{1}{2}kx_2^2$$
例えば、ばねを $x_0$ 縮めて静かに放した瞬間($v_1 = 0$, $x_1 = x_0$)から、自然長に戻った瞬間($x_2 = 0$)を考えると、
$$\frac{1}{2}kx_0^2 = \frac{1}{2}mv_2^2$$
$$\therefore\quad v_2 = x_0\sqrt{\frac{k}{m}}$$
ばねの一端に物体を押しつけて縮め、手を放す場合(物体がばねに接着されていない場合)、物体はばねが自然長に戻った瞬間にばねから離れます。
離れた後はばねの力がはたらかないので、物体は等速直線運動をします(滑らかな面の場合)。
このときの速さが $v = x_0\sqrt{k/m}$ です。ばねを大きく縮めるほど、また $k$ が大きいほど速くなります。
物体がばねに接着されていると、物体は自然長を通過した後、ばねが伸びる側へ移動し、やがて止まって引き戻されます。これを繰り返すのが単振動です。
単振動では、弾性PE → 運動エネルギー → 弾性PE → ... と、エネルギーが交互に変換され続けます。第7章で詳しく扱います。
ばねが鉛直に取り付けられている場合、物体の高さが変わるので重力による位置エネルギーも変化します。エネルギーの「貯蔵庫」が3つになるのがこの問題の特徴です。
$$\frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}kx_1^2 + mgh_1 = \frac{1}{2}mv_2^2 + \frac{1}{2}kx_2^2 + mgh_2$$
自然長の鉛直ばねの上端に質量 $m$ の物体を静かに置いて手を放すとき、物体が最も下がる位置を求めてみましょう。
手を放した瞬間を状態1($v_1 = 0$, $x_1 = 0$)、最も下がった瞬間を状態2($v_2 = 0$, $x_2 = d$)とします。物体は $d$ だけ下がったので、$h_1 - h_2 = d$ です。
$$0 + 0 + mgd = 0 + \frac{1}{2}kd^2 + 0$$
$$mgd = \frac{1}{2}kd^2 \quad \therefore\quad d = \frac{2mg}{k}$$
ばねのつりあい位置(物体が静止する位置)は $mg = kx_0$ より $x_0 = mg/k$ です。
一方、静かに置いて放したときの最大沈み込みは $d = 2mg/k = 2x_0$ です。
最大沈み込みは、つりあい位置の2倍。つりあい位置を中心とした単振動をしているのです。この関係は覚えておくと非常に便利です。
物体を静かに置いて放すと、つりあい位置を通過するときに速度が最大になります。止まるのはつりあい位置ではなく、さらに下の位置です。
✕ 誤:静かに置いたからつりあい位置 $mg/k$ で止まる
○ 正:つりあい位置を通過して $2mg/k$ まで下がってから戻る
エネルギー保存則を使えば、つりあい位置で $v = 0$ にならないことが確認できます。
重力PEの基準点($h = 0$ とする位置)はどこに取っても結果は同じです。ただし、計算が楽になる位置を選ぶのがコツです。
複数の状態を比較するとき、高さの基準点は一度決めたら全状態で同じにしなければなりません。状態ごとに基準を変えると、エネルギー保存則が成り立たなくなります。
迷ったら「最も低い位置」を $h = 0$ にすると、すべての高さが正になり、符号ミスが減ります。
ばねのエネルギー保存の問題を確実に解くための手順を整理します。
$$\frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}kx_1^2 + mgh_1 = \frac{1}{2}mv_2^2 + \frac{1}{2}kx_2^2 + mgh_2$$
| パターン | 考えるエネルギー | ポイント |
|---|---|---|
| 水平ばね | KE + 弾性PE | 重力PEは変化しない |
| 鉛直ばね | KE + 弾性PE + 重力PE | 3つのエネルギーを漏れなく |
| 斜面+ばね | KE + 弾性PE + 重力PE | 高さの変化に注意 |
弾性PE の式 $\frac{1}{2}kx^2$ では $x^2$ を使うので、$x$ が正でも負でも弾性PEは正です。
✕ 誤:ばねが縮んでいるから弾性PEは負
○ 正:ばねが伸びていても縮んでいても弾性PEは正($x^2$ だから)
ばねのエネルギー保存は、力学全体で頻出するテーマです。ここで得た考え方は、単振動や衝突の問題でも活躍します。
Q1. ばね定数 $k = 200\,\text{N/m}$ のばねを自然長から $0.10\,\text{m}$ 縮めたとき、弾性力による位置エネルギーはいくらか。
Q2. 水平面上でばねを $x_0$ 縮めて質量 $m$ の物体を放すと、自然長の位置で物体の速さはいくらか。
Q3. 鉛直ばねの上端に質量 $m$ の物体を静かに置いて放すと、最大沈み込みはいくらか。
Q4. ばねが縮んでいるときの弾性力による位置エネルギーは正・負のどちらか。理由も答えよ。
ばねのエネルギー保存を入試形式で確認しましょう。
滑らかな水平面上で、ばね定数 $k = 400\,\text{N/m}$ のばねの一端を壁に固定し、他端に質量 $m = 0.50\,\text{kg}$ の物体を押しつけ、ばねを $0.20\,\text{m}$ 縮めて静かに放した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) ばねに蓄えられていた弾性力による位置エネルギーを求めよ。
(2) 物体がばねから離れた瞬間の速さを求めよ。
(1) $U_e = 8.0\,\text{J}$
(2) $v \approx 5.7\,\text{m/s}$
(1) $U_e = \frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2} \times 400 \times 0.20^2 = 8.0\,\text{J}$
(2) 物体はばねが自然長に戻った瞬間に離れる。エネルギー保存より
$$\frac{1}{2}kx_0^2 = \frac{1}{2}mv^2$$
$$v = x_0\sqrt{\frac{k}{m}} = 0.20 \times \sqrt{\frac{400}{0.50}} = 0.20 \times \sqrt{800} \approx 5.7\,\text{m/s}$$
自然長が $0.30\,\text{m}$、ばね定数 $k = 500\,\text{N/m}$ の鉛直ばねの上端に質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体を静かに置いて手を放した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、物体が最も下がったときのばねの縮みを求めよ。
$d \approx 0.078\,\text{m}$(約 $7.8\,\text{cm}$)
初期状態:$v = 0$, ばねの変位 $= 0$。最下点:$v = 0$, ばねの縮み $= d$、高さが $d$ 低下。
エネルギー保存(初期位置を高さの基準):
$$0 + 0 + 0 = 0 + \frac{1}{2}kd^2 + mg(-d)$$
$$mgd = \frac{1}{2}kd^2$$
$$d = \frac{2mg}{k} = \frac{2 \times 2.0 \times 9.8}{500} \approx 0.078\,\text{m}$$
つりあい位置 $x_0 = mg/k = 0.039\,\text{m}$ の2倍であることも確認できる。
滑らかな水平面上で、ばね定数 $k = 800\,\text{N/m}$ のばねを $0.10\,\text{m}$ 縮めて質量 $0.20\,\text{kg}$ の小球を放した。水平面の右端には高さ $h = 1.5\,\text{m}$ のテーブルの端がある。小球はテーブルの端から飛び出す。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) テーブルの端から飛び出す直前の小球の速さを求めよ。
(2) 小球が地面に着くまでの時間を求めよ。
(3) 小球が地面に着くときの速さを求めよ。
(1) $v_0 \approx 6.3\,\text{m/s}$
(2) $t \approx 0.55\,\text{s}$
(3) $v \approx 7.9\,\text{m/s}$
(1) ばねから離れるまでのエネルギー保存:
$$\frac{1}{2}kx_0^2 = \frac{1}{2}mv_0^2$$
$$v_0 = x_0\sqrt{\frac{k}{m}} = 0.10\sqrt{\frac{800}{0.20}} \approx 6.3\,\text{m/s}$$
(2) 水平投射。鉛直方向:$h = \frac{1}{2}gt^2$ より
$$t = \sqrt{\frac{2h}{g}} = \sqrt{\frac{2 \times 1.5}{9.8}} \approx 0.55\,\text{s}$$
(3) テーブルの端から地面まで、エネルギー保存を使うと
$$\frac{1}{2}mv_0^2 + mgh = \frac{1}{2}mv^2$$
$$v = \sqrt{v_0^2 + 2gh} = \sqrt{6.3^2 + 2 \times 9.8 \times 1.5} \approx \sqrt{39.69 + 29.4} \approx 7.9\,\text{m/s}$$
ばね定数 $k$ の軽いばねを鉛直に立て、上端に質量 $m$ の物体を静かに置いて手を放した。物体は下がったのち再び上昇し、やがて最高点に達した。$g$ を重力加速度として、次の問いに答えよ。
(1) 物体が最も下がった位置での、ばねの自然長からの縮み $d$ を求めよ。
(2) 物体の速さが最大になる位置を求め、そのときの速さ $v_{\max}$ を $m$, $g$, $k$ で表せ。
(3) (2)の位置で速さが最大になる理由を、力のつりあいの観点から説明せよ。
(1) $d = \dfrac{2mg}{k}$
(2) つりあい位置($x = mg/k$)で速さ最大。$v_{\max} = \dfrac{mg}{\sqrt{mk}} = g\sqrt{\dfrac{m}{k}}$
(3) つりあい位置では重力とばねの弾性力がつりあい、合力が0になるため、加速度が0となり、速さの増加が止まる(極大になる)。
(1) 初期位置を基準。$v_1 = v_2 = 0$, ばねの変位 $0 \to d$, 高さ変化 $-d$:
$$mgd = \frac{1}{2}kd^2 \quad \Rightarrow \quad d = \frac{2mg}{k}$$
(2) つりあい位置 $x_0 = mg/k$ でのエネルギー保存:
$$mgx_0 = \frac{1}{2}kx_0^2 + \frac{1}{2}mv_{\max}^2$$
$$mg \cdot \frac{mg}{k} = \frac{1}{2}k\left(\frac{mg}{k}\right)^2 + \frac{1}{2}mv_{\max}^2$$
$$\frac{m^2g^2}{k} = \frac{m^2g^2}{2k} + \frac{1}{2}mv_{\max}^2$$
$$\frac{1}{2}mv_{\max}^2 = \frac{m^2g^2}{2k} \quad \Rightarrow \quad v_{\max} = g\sqrt{\frac{m}{k}}$$
(3) 物体がつりあい位置より上にあるとき、重力 $mg$ > ばねの力 $kx$ なので下向きに加速。つりあい位置では $mg = kx_0$ で合力 = 0。つりあい位置より下では $kx > mg$ で上向きに減速。したがって、つりあい位置で加速から減速に切り替わるため、速さが最大になる。