第4章 仕事とエネルギー(物理基礎)

ばねのエネルギー保存
─ 弾性力学的エネルギーの世界

自由落下のエネルギー保存では、運動エネルギーと重力による位置エネルギーの2者間の変換を扱いました。
ここにばね(弾性力による位置エネルギー)が加わると、エネルギーの「貯蔵庫」が3つになります。
水平ばね、鉛直ばねの2パターンを通じて、エネルギー保存則の強力さを実感しましょう。

1弾性力による位置エネルギーの復習

ばね定数 $k$ のばねを自然長から $x$ だけ伸ばした(または縮めた)とき、ばねに蓄えられる弾性力による位置エネルギーは次の式で表されます。

📐 弾性力による位置エネルギー

$$U_e = \frac{1}{2}kx^2$$

※ $k$:ばね定数 [N/m]、$x$:自然長からの変位 [m]。伸びでも縮みでも $x^2$ なので必ず正の値。

この式は、ばねの弾性力 $F = -kx$ が物体にする仕事を積分して得られるものです。グラフで考えると、$F$-$x$ グラフ(直線)と $x$ 軸で囲まれた三角形の面積にあたります。

💡 ここが本質:ばねは「エネルギーの銀行」

ばねを縮めると、物体の運動エネルギーがばねの弾性力による位置エネルギーに変換されて蓄えられます。ばねが伸びて元に戻るとき、蓄えていたエネルギーを運動エネルギーとして返します。

ばねは「エネルギーの預け入れと払い出し」を行う銀行のような存在です。摩擦がなければ、預けた分はそっくり返ってきます。

⚠️ 落とし穴:$x$ は「自然長からの変位」

弾性力による位置エネルギーの $x$ は、必ず自然長からの変位です。

✕ 誤:ばねの長さ(全長)を $x$ に代入する

○ 正:自然長からどれだけ伸びた(縮んだ)かを $x$ に代入する

問題文で「ばねの長さが $L$ 」と書いてあるとき、自然長 $L_0$ を引いて $x = L - L_0$ としましょう。

2水平ばね+物体のエネルギー保存

滑らかな水平面上で、ばね定数 $k$ のばねの一端を壁に固定し、他端に質量 $m$ の物体をつけます。ばねを $x_0$ だけ縮めて手を放すと、物体はどのような運動をするでしょうか。

水平面では重力PEが変化しない

水平面上の運動では、物体の高さが変わらないので重力による位置エネルギーは一定です。したがって、エネルギー保存則は運動エネルギーと弾性PEの2者間のやりとりになります。

📐 水平ばねのエネルギー保存

$$\frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}kx_1^2 = \frac{1}{2}mv_2^2 + \frac{1}{2}kx_2^2$$

※ 添字1は初期状態、添字2は後の状態。重力PEは両辺で同じなので消えている。

例えば、ばねを $x_0$ 縮めて静かに放した瞬間($v_1 = 0$, $x_1 = x_0$)から、自然長に戻った瞬間($x_2 = 0$)を考えると、

$$\frac{1}{2}kx_0^2 = \frac{1}{2}mv_2^2$$

$$\therefore\quad v_2 = x_0\sqrt{\frac{k}{m}}$$

▷ ばねから離れた後の物体の速さ

ばねの一端に物体を押しつけて縮め、手を放す場合(物体がばねに接着されていない場合)、物体はばねが自然長に戻った瞬間にばねから離れます。

離れた後はばねの力がはたらかないので、物体は等速直線運動をします(滑らかな面の場合)。

このときの速さが $v = x_0\sqrt{k/m}$ です。ばねを大きく縮めるほど、また $k$ が大きいほど速くなります。

🔬 深掘り:ばねに接着されている場合

物体がばねに接着されていると、物体は自然長を通過した後、ばねが伸びる側へ移動し、やがて止まって引き戻されます。これを繰り返すのが単振動です。

単振動では、弾性PE → 運動エネルギー → 弾性PE → ... と、エネルギーが交互に変換され続けます。第7章で詳しく扱います。

3鉛直ばね+物体のエネルギー保存

ばねが鉛直に取り付けられている場合、物体の高さが変わるので重力による位置エネルギーも変化します。エネルギーの「貯蔵庫」が3つになるのがこの問題の特徴です。

📐 鉛直ばねのエネルギー保存(3つのエネルギー)

$$\frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}kx_1^2 + mgh_1 = \frac{1}{2}mv_2^2 + \frac{1}{2}kx_2^2 + mgh_2$$

※ 運動エネルギー + 弾性PE + 重力PE = 一定。高さの基準点は任意に設定してよい。

典型例:鉛直ばねの上に物体を置いて放す

自然長の鉛直ばねの上端に質量 $m$ の物体を静かに置いて手を放すとき、物体が最も下がる位置を求めてみましょう。

手を放した瞬間を状態1($v_1 = 0$, $x_1 = 0$)、最も下がった瞬間を状態2($v_2 = 0$, $x_2 = d$)とします。物体は $d$ だけ下がったので、$h_1 - h_2 = d$ です。

$$0 + 0 + mgd = 0 + \frac{1}{2}kd^2 + 0$$

$$mgd = \frac{1}{2}kd^2 \quad \therefore\quad d = \frac{2mg}{k}$$

💡 ここが本質:最大沈み込みはつりあい位置の2倍

ばねのつりあい位置(物体が静止する位置)は $mg = kx_0$ より $x_0 = mg/k$ です。

一方、静かに置いて放したときの最大沈み込みは $d = 2mg/k = 2x_0$ です。

最大沈み込みは、つりあい位置の2倍。つりあい位置を中心とした単振動をしているのです。この関係は覚えておくと非常に便利です。

⚠️ 落とし穴:「つりあい位置で止まる」と思い込む

物体を静かに置いて放すと、つりあい位置を通過するときに速度が最大になります。止まるのはつりあい位置ではなく、さらに下の位置です。

✕ 誤:静かに置いたからつりあい位置 $mg/k$ で止まる

○ 正:つりあい位置を通過して $2mg/k$ まで下がってから戻る

エネルギー保存則を使えば、つりあい位置で $v = 0$ にならないことが確認できます。

高さの基準点の取り方

重力PEの基準点($h = 0$ とする位置)はどこに取っても結果は同じです。ただし、計算が楽になる位置を選ぶのがコツです。

  • 初期位置を基準にする → 下がった分だけ重力PEが減少
  • 最下点を基準にする → 初期位置での重力PEが正の値
  • つりあい位置を基準にする → 対称性が見やすい
🔬 深掘り:高さ基準の統一ルール

複数の状態を比較するとき、高さの基準点は一度決めたら全状態で同じにしなければなりません。状態ごとに基準を変えると、エネルギー保存則が成り立たなくなります。

迷ったら「最も低い位置」を $h = 0$ にすると、すべての高さが正になり、符号ミスが減ります。

4ばねの問題を解く手順

ばねのエネルギー保存の問題を確実に解くための手順を整理します。

  1. 初期状態と最終状態を明確にする(どこからどこまでのエネルギー保存か)
  2. 各状態での速さ・ばねの変位・高さを整理する
  3. 高さの基準点を決める(一度決めたら統一)
  4. エネルギー保存則を立式する(KE + 弾性PE + 重力PE = 一定)
  5. 未知数を求める
📐 エネルギー保存則(一般形)

$$\frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}kx_1^2 + mgh_1 = \frac{1}{2}mv_2^2 + \frac{1}{2}kx_2^2 + mgh_2$$

※ 水平面では $h_1 = h_2$ なので重力PE項が消える。ばねがないときは弾性PE項が消える。場合に応じて不要な項を落とせばよい。

よくある設定パターン

パターン考えるエネルギーポイント
水平ばねKE + 弾性PE重力PEは変化しない
鉛直ばねKE + 弾性PE + 重力PE3つのエネルギーを漏れなく
斜面+ばねKE + 弾性PE + 重力PE高さの変化に注意
⚠️ 落とし穴:ばねの変位 $x$ の符号と $x^2$

弾性PE の式 $\frac{1}{2}kx^2$ では $x^2$ を使うので、$x$ が正でも負でも弾性PEは正です。

✕ 誤:ばねが縮んでいるから弾性PEは負

○ 正:ばねが伸びていても縮んでいても弾性PEは正($x^2$ だから)

5この章を俯瞰する

ばねのエネルギー保存は、力学全体で頻出するテーマです。ここで得た考え方は、単振動や衝突の問題でも活躍します。

つながりマップ

  • ← M-4-7 運動エネルギーと位置エネルギー:弾性PEの定義と、エネルギー保存則の基礎をここで学んだ。
  • ← M-4-8 力学的エネルギー保存則:重力のみのエネルギー保存を拡張し、ばねを加えた。
  • → M-4-10 斜面でのエネルギー保存:ばねがない場合の重力PE+KEの保存を斜面で扱う。
  • → M-4-11 摩擦力がある場合のエネルギー:摩擦がある場合、力学的エネルギーが保存しない場合を学ぶ。
  • → 第7章 単振動:ばねに接着された物体の往復運動を本格的に扱う。

📋まとめ

  • 弾性力による位置エネルギーは $U_e = \frac{1}{2}kx^2$($x$ は自然長からの変位)
  • 水平ばねでは KE + 弾性PE = 一定(重力PEは変化しない)
  • 鉛直ばねでは KE + 弾性PE + 重力PE = 一定(3つのエネルギーを管理)
  • 静かに置いて放した物体の最大沈み込みは つりあい位置の2倍
  • 高さの基準点は一度決めたら全状態で統一する
  • 弾性PEは伸びでも縮みでも常に正($x^2$ だから)

確認テスト

Q1. ばね定数 $k = 200\,\text{N/m}$ のばねを自然長から $0.10\,\text{m}$ 縮めたとき、弾性力による位置エネルギーはいくらか。

▶ クリックして解答を表示$U_e = \frac{1}{2} \times 200 \times 0.10^2 = 1.0\,\text{J}$

Q2. 水平面上でばねを $x_0$ 縮めて質量 $m$ の物体を放すと、自然長の位置で物体の速さはいくらか。

▶ クリックして解答を表示$v = x_0\sqrt{k/m}$。弾性PEがすべて運動エネルギーに変換されます。

Q3. 鉛直ばねの上端に質量 $m$ の物体を静かに置いて放すと、最大沈み込みはいくらか。

▶ クリックして解答を表示$d = 2mg/k$。つりあい位置 $mg/k$ の2倍になります。

Q4. ばねが縮んでいるときの弾性力による位置エネルギーは正・負のどちらか。理由も答えよ。

▶ クリックして解答を表示正。$U_e = \frac{1}{2}kx^2$ で $x^2$ は常に正だから、伸びでも縮みでも弾性PEは正になります。

8入試問題演習

ばねのエネルギー保存を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

4-9-1 A 基礎 水平ばね計算

滑らかな水平面上で、ばね定数 $k = 400\,\text{N/m}$ のばねの一端を壁に固定し、他端に質量 $m = 0.50\,\text{kg}$ の物体を押しつけ、ばねを $0.20\,\text{m}$ 縮めて静かに放した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。

(1) ばねに蓄えられていた弾性力による位置エネルギーを求めよ。

(2) 物体がばねから離れた瞬間の速さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $U_e = 8.0\,\text{J}$

(2) $v \approx 5.7\,\text{m/s}$

解説

(1) $U_e = \frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2} \times 400 \times 0.20^2 = 8.0\,\text{J}$

(2) 物体はばねが自然長に戻った瞬間に離れる。エネルギー保存より

$$\frac{1}{2}kx_0^2 = \frac{1}{2}mv^2$$

$$v = x_0\sqrt{\frac{k}{m}} = 0.20 \times \sqrt{\frac{400}{0.50}} = 0.20 \times \sqrt{800} \approx 5.7\,\text{m/s}$$

4-9-2 A 基礎 鉛直ばね計算

自然長が $0.30\,\text{m}$、ばね定数 $k = 500\,\text{N/m}$ の鉛直ばねの上端に質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体を静かに置いて手を放した。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、物体が最も下がったときのばねの縮みを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$d \approx 0.078\,\text{m}$(約 $7.8\,\text{cm}$)

解説

初期状態:$v = 0$, ばねの変位 $= 0$。最下点:$v = 0$, ばねの縮み $= d$、高さが $d$ 低下。

エネルギー保存(初期位置を高さの基準):

$$0 + 0 + 0 = 0 + \frac{1}{2}kd^2 + mg(-d)$$

$$mgd = \frac{1}{2}kd^2$$

$$d = \frac{2mg}{k} = \frac{2 \times 2.0 \times 9.8}{500} \approx 0.078\,\text{m}$$

つりあい位置 $x_0 = mg/k = 0.039\,\text{m}$ の2倍であることも確認できる。

B 発展レベル

4-9-3 B 発展 ばね+高さ計算

滑らかな水平面上で、ばね定数 $k = 800\,\text{N/m}$ のばねを $0.10\,\text{m}$ 縮めて質量 $0.20\,\text{kg}$ の小球を放した。水平面の右端には高さ $h = 1.5\,\text{m}$ のテーブルの端がある。小球はテーブルの端から飛び出す。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。

(1) テーブルの端から飛び出す直前の小球の速さを求めよ。

(2) 小球が地面に着くまでの時間を求めよ。

(3) 小球が地面に着くときの速さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $v_0 \approx 6.3\,\text{m/s}$

(2) $t \approx 0.55\,\text{s}$

(3) $v \approx 7.9\,\text{m/s}$

解説

(1) ばねから離れるまでのエネルギー保存:

$$\frac{1}{2}kx_0^2 = \frac{1}{2}mv_0^2$$

$$v_0 = x_0\sqrt{\frac{k}{m}} = 0.10\sqrt{\frac{800}{0.20}} \approx 6.3\,\text{m/s}$$

(2) 水平投射。鉛直方向:$h = \frac{1}{2}gt^2$ より

$$t = \sqrt{\frac{2h}{g}} = \sqrt{\frac{2 \times 1.5}{9.8}} \approx 0.55\,\text{s}$$

(3) テーブルの端から地面まで、エネルギー保存を使うと

$$\frac{1}{2}mv_0^2 + mgh = \frac{1}{2}mv^2$$

$$v = \sqrt{v_0^2 + 2gh} = \sqrt{6.3^2 + 2 \times 9.8 \times 1.5} \approx \sqrt{39.69 + 29.4} \approx 7.9\,\text{m/s}$$

採点ポイント
  • エネルギー保存の式を正しく立てる(3点)
  • 水平投射の落下時間の計算(2点)
  • 着地速さをエネルギー保存で求める(3点)
  • 各数値が正しい(2点)

C 応用レベル

4-9-4 C 応用 鉛直ばね論述

ばね定数 $k$ の軽いばねを鉛直に立て、上端に質量 $m$ の物体を静かに置いて手を放した。物体は下がったのち再び上昇し、やがて最高点に達した。$g$ を重力加速度として、次の問いに答えよ。

(1) 物体が最も下がった位置での、ばねの自然長からの縮み $d$ を求めよ。

(2) 物体の速さが最大になる位置を求め、そのときの速さ $v_{\max}$ を $m$, $g$, $k$ で表せ。

(3) (2)の位置で速さが最大になる理由を、力のつりあいの観点から説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $d = \dfrac{2mg}{k}$

(2) つりあい位置($x = mg/k$)で速さ最大。$v_{\max} = \dfrac{mg}{\sqrt{mk}} = g\sqrt{\dfrac{m}{k}}$

(3) つりあい位置では重力とばねの弾性力がつりあい、合力が0になるため、加速度が0となり、速さの増加が止まる(極大になる)。

解説

(1) 初期位置を基準。$v_1 = v_2 = 0$, ばねの変位 $0 \to d$, 高さ変化 $-d$:

$$mgd = \frac{1}{2}kd^2 \quad \Rightarrow \quad d = \frac{2mg}{k}$$

(2) つりあい位置 $x_0 = mg/k$ でのエネルギー保存:

$$mgx_0 = \frac{1}{2}kx_0^2 + \frac{1}{2}mv_{\max}^2$$

$$mg \cdot \frac{mg}{k} = \frac{1}{2}k\left(\frac{mg}{k}\right)^2 + \frac{1}{2}mv_{\max}^2$$

$$\frac{m^2g^2}{k} = \frac{m^2g^2}{2k} + \frac{1}{2}mv_{\max}^2$$

$$\frac{1}{2}mv_{\max}^2 = \frac{m^2g^2}{2k} \quad \Rightarrow \quad v_{\max} = g\sqrt{\frac{m}{k}}$$

(3) 物体がつりあい位置より上にあるとき、重力 $mg$ > ばねの力 $kx$ なので下向きに加速。つりあい位置では $mg = kx_0$ で合力 = 0。つりあい位置より下では $kx > mg$ で上向きに減速。したがって、つりあい位置で加速から減速に切り替わるため、速さが最大になる。

採点ポイント
  • (1) エネルギー保存の式を正しく立てる(3点)
  • (2) つりあい位置を正しく求め、エネルギー保存で $v_{\max}$ を導出(4点)
  • (3) 合力が0であることと速さ極大の関係を論理的に説明(3点)