高速道路で隣の車線を走る車が、ほとんど止まって見えたことはありませんか。
同じ速度で並走していれば、相手は静止しているのと同じです。
「誰の目から見るか」で速度は変わる。この当たり前の感覚を、数式で捉えましょう。
駅のホームに立って電車を見ると、電車は猛スピードで走り去ります。 しかし電車の中に座っている人から見れば、隣の席の乗客は静止しています。 同じ物体でも、どこから観測するかによって速度は異なるのです。
ある観測者から見た別の物体の速度を相対速度といいます。 地面に固定した観測者から見た速度を「絶対速度」と呼ぶこともありますが、物理では「地面基準の速度」と表現するのが一般的です。
AさんがBさんを観測するとき、Bの相対速度 = Bの速度 − Aの速度です。
観測者自身の速度を「引く」ことで、観測者を基準(静止)にした世界が見えます。 これは「自分を止めて、相手だけが動く世界をつくる」操作にほかなりません。
たとえば、AさんとBさんが同じ向きに走っているとします。 Aの速度が $5\,\text{m/s}$、Bの速度が $8\,\text{m/s}$ なら、Aから見たBの相対速度は $8 - 5 = 3\,\text{m/s}$ です。 Bは毎秒3 mずつAから離れていくように見えます。
相対速度の問題で最も多いミスは、引き算の順番を逆にすることです。
✕ 誤:「AからみたBの速度」= $v_A - v_B$
○ 正:「AからみたBの速度」= $v_B - v_A$(見られる側 − 見る側)
「AからみたBの速度」では、Aが観測者(引く側)、Bが対象(引かれる側)です。
一直線上を運動する2つの物体A、Bについて、地面から見た速度をそれぞれ $v_A$、$v_B$ とします。 正の向きを決め、速度に符号をつけて考えます。
AからみたBの相対速度:
$$v_{BA} = v_B - v_A$$
BからみたAの相対速度:
$$v_{AB} = v_A - v_B$$
時刻 $t = 0$ でAの位置を $x_{A0}$、Bの位置を $x_{B0}$ とします。
時刻 $t$ でのそれぞれの位置は $x_A = x_{A0} + v_A t$、$x_B = x_{B0} + v_B t$ です。
AからみたBの位置(BとAの距離)は
$$x_B - x_A = (x_{B0} - x_{A0}) + (v_B - v_A)t$$
この式で $t$ の係数が、AからみたBの位置の変化率、すなわち相対速度です。
$$v_{BA} = v_B - v_A$$
$v_{BA} > 0$ ならBはAから正の向きに遠ざかっています。 $v_{BA} < 0$ ならBはAに近づいています。$v_{BA} = 0$ ならAとBは等速で並走しており、互いに静止して見えます。
相対速度の符号を正しく読み取ることが、追いつき問題やすれ違い問題を解く鍵です。
AとBが正面から近づく場合、一方の速度は負になります。
✕ 誤:Aが右向き $10\,\text{m/s}$、Bが左向き $5\,\text{m/s}$ → 相対速度 $5 - 10 = -5\,\text{m/s}$
○ 正:右向きを正とすると $v_A = +10$、$v_B = -5$。AからみたBの相対速度は $v_{BA} = (-5) - (+10) = -15\,\text{m/s}$
向かい合って近づくとき、相対速度の大きさは各速さの和になります。
$v_{BA}$ の添字の読み方には注意が必要です。
✕ 誤:$v_{BA}$ = 「Bから見たAの速度」
○ 正:$v_{BA}$ = 「Aに対するBの速度」= 「Aから見たBの速度」
「B of A」(Aから見たB)と英語で読むと間違えにくくなります。
一直線上の相対速度は、場面によって「速さの和」になったり「速さの差」になったりします。 ここで代表的なパターンを整理しておきましょう。
AもBも右向きに進み、$v_A = 10\,\text{m/s}$、$v_B = 15\,\text{m/s}$ のとき、AからみたBの相対速度は $15 - 10 = 5\,\text{m/s}$(右向き)です。 BはAから毎秒5 mずつ離れていきます。
逆に、BからみたAの相対速度は $10 - 15 = -5\,\text{m/s}$ です。 Aは左向きに遠ざかるように見えます。
Aが右向き $10\,\text{m/s}$、Bが左向き $8\,\text{m/s}$ のとき、右向きを正とすると $v_B = -8\,\text{m/s}$ です。 AからみたBの相対速度は $(-8) - 10 = -18\,\text{m/s}$ です。
Bは毎秒18 mの速さでAに向かってくる(左向き)ように見えます。 すれ違うときの相対速度の大きさは、2人の速さの和に等しいのです。
$v_A = v_B$ のとき、相対速度は $v_B - v_A = 0$ です。 お互いに静止して見えます。 高速道路で隣の車が止まって見えるのは、このパターンです。
| パターン | 相対速度の大きさ | 見え方 |
|---|---|---|
| 同じ向き(追いかけ) | 速さの差 $|v_B - v_A|$ | ゆっくり離れる・近づく |
| 向かい合い(すれ違い) | 速さの和 $|v_A| + |v_B|$ | 猛スピードで近づく |
| 同速度で並走 | $0$ | 静止して見える |
AがBを追いかける場合、追いつくまでの時間は「初期の距離差」を「相対速度」で割れば求まります。
$$t = \frac{d}{|v_{BA}|} = \frac{d}{|v_B - v_A|}$$
ここで $d$ は最初の距離差です。相対速度の考え方を使えば、追いつき問題は「等速直線運動の距離と時間の問題」に帰着します。
上の追いつき公式は、AもBも等速で動くときにのみ有効です。
✕ 誤:加速している物体の追いつき問題に $t = d / |v_B - v_A|$ を使う
○ 正:加速する場合は相対加速度も考慮して、等加速度運動の公式を使う
「等速直線運動をする観測者の中では、物理法則の形が変わらない」という原理をガリレイの相対性原理といいます。
電車の中でボールを投げても、地上で投げたときと同じように放物線を描きます。 これは、等速で動く電車内の物理法則が地上と同じであることを意味します。
ただし、光の速さに近い領域ではガリレイ変換は破綻し、アインシュタインの特殊相対性理論が必要になります。
一直線上の相対速度は、平面上の相対速度や投射運動の基礎になります。 ここで身につけた「引き算で自分を止める」発想は、力学全般で活用されます。
Q1. 東向きを正とします。$v_A = +8\,\text{m/s}$、$v_B = +3\,\text{m/s}$ のとき、AからみたBの相対速度を求めてください。
Q2. 右向きを正とし、$v_A = +10\,\text{m/s}$、$v_B = -6\,\text{m/s}$(左向き)のとき、AからみたBの相対速度の大きさを求めてください。
Q3. 相対速度が $0$ になるのは、どのような場合ですか。
Q4. $v_{BA} = -v_{AB}$ が成り立つことを、言葉で説明してください。
相対速度を使う入試形式の問題に挑戦しましょう。
一直線上の道路を、自動車Aが $72\,\text{km/h}$ で東に、自動車Bが $54\,\text{km/h}$ で東に走っている。次の問いに答えよ。
(1) AからみたBの相対速度を求めよ。
(2) BからみたAの相対速度を求めよ。
(1) $-5.0\,\text{m/s}$(西向き)
(2) $+5.0\,\text{m/s}$(東向き)
まず単位を変換します。$v_A = 72\,\text{km/h} = 20\,\text{m/s}$、$v_B = 54\,\text{km/h} = 15\,\text{m/s}$(東向きを正)
(1) $v_{BA} = v_B - v_A = 15 - 20 = -5.0\,\text{m/s}$(西向き)
(2) $v_{AB} = v_A - v_B = 20 - 15 = +5.0\,\text{m/s}$(東向き)
一直線上をAが $15\,\text{m/s}$、Bが $10\,\text{m/s}$ で同じ向きに走っている。ある時刻でAはBの $100\,\text{m}$ 後方にいる。AがBに追いつくまでの時間を求めよ。
$20\,\text{s}$
方針:相対速度を使って追いつき問題を解く。
BからみたAの相対速度は $v_{AB} = 15 - 10 = 5\,\text{m/s}$(Aが毎秒5 mずつ近づく)。
距離差 $100\,\text{m}$ を相対速度 $5\,\text{m/s}$ で埋めるので、$t = \dfrac{100}{5} = 20\,\text{s}$
長さ $200\,\text{m}$ の列車Aが $20\,\text{m/s}$ で、長さ $150\,\text{m}$ の列車Bが $15\,\text{m/s}$ で、反対方向から近づいている。2つの列車がすれ違い始めてから、すれ違い終わるまでの時間を求めよ。
$10\,\text{s}$
方針:すれ違いに必要な距離は両列車の長さの合計。相対速度は速さの和。
すれ違いに要する距離は $200 + 150 = 350\,\text{m}$
向かい合う場合の相対速度の大きさは $20 + 15 = 35\,\text{m/s}$
すれ違い時間は $t = \dfrac{350}{35} = 10\,\text{s}$