第5章 平面内の運動

水平投射
─ 水平と鉛直を分けて考える

崖の上からボールを水平に投げると、ボールは弧を描きながら落ちていきます。
一見複雑なこの運動も、水平と鉛直に分けて見れば驚くほどシンプルです。
「独立に考える」という物理の強力な武器を、水平投射で手に入れましょう。

1水平投射とは ─ 放物運動の入り口

高さ $h$ の崖から、水平方向に初速度 $v_0$ でボールを投げ出す運動を水平投射といいます。 空気抵抗を無視すると、ボールは放物線を描いて落下します。

水平投射は、斜方投射の特別な場合(投射角 $0°$)として位置づけられます。 しかし、その単純さゆえに「2方向への分解」の考え方を学ぶ最適な題材です。

💡 ここが本質:水平と鉛直は独立

水平投射のポイントは、水平方向の運動と鉛直方向の運動が互いに独立であることです。

水平方向には力が働かないので等速直線運動。 鉛直方向には重力だけが働くので自由落下。 この2つは互いに影響し合いません。

平面の運動を「2つの独立な1次元の運動」に分解するこの発想は、物理全般で使う最重要テクニックです。

2水平方向と鉛直方向を分離する

投げ出す点を原点にとり、水平方向を $x$ 軸(正:投射方向)、鉛直方向を $y$ 軸(正:下向き)とします。

水平方向($x$ 方向)

水平方向に力は働かない(空気抵抗を無視)ので、速度は一定です。

  • 速度:$v_x = v_0$(一定)
  • 位置:$x = v_0 t$

鉛直方向($y$ 方向)

鉛直方向は初速度 $0$ の自由落下です。加速度は重力加速度 $g$ です。

  • 速度:$v_y = gt$
  • 位置:$y = \frac{1}{2}gt^2$
⚠️ 落とし穴:$y$ 軸の正の向きを取り違える

$y$ 軸を上向きに取ると、加速度は $-g$、変位も負の値になります。

✕ 誤:$y$ 軸を上向きに取ったのに $y = \frac{1}{2}gt^2$(符号が矛盾)

○ 正:$y$ 軸を下向きに取れば $y = \frac{1}{2}gt^2$。上向きに取れば $y = -\frac{1}{2}gt^2$

座標軸の向きを決めたら、加速度と変位の符号を必ず合わせましょう。

⚠️ 落とし穴:水平方向にも加速度があると思い込む

水平投射では、水平方向に力が働きません。したがって水平方向の加速度は $0$ です。

✕ 誤:$x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2$(水平方向に加速度を入れる)

○ 正:$x = v_0 t$(等速直線運動)

3水平投射の公式と軌跡

📐 水平投射の公式

位置($y$ 軸下向き正):

$$x = v_0 t, \quad y = \frac{1}{2}gt^2$$

速度

$$v_x = v_0, \quad v_y = gt$$

合成速度の大きさ

$$v = \sqrt{v_0^2 + g^2 t^2}$$

速度が水平となす角

$$\tan\alpha = \frac{v_y}{v_x} = \frac{gt}{v_0}$$

※ $v_0$:初速度(水平)、$g$:重力加速度、$t$:経過時間。

軌跡の方程式 ─ 放物線

$x = v_0 t$ から $t = x / v_0$ を求め、$y = \frac{1}{2}gt^2$ に代入します。

▷ 軌跡の方程式の導出

$t = x / v_0$ を $y = \frac{1}{2}gt^2$ に代入すると、

$$y = \frac{1}{2}g\left(\frac{x}{v_0}\right)^2 = \frac{g}{2v_0^2}x^2$$

これは原点を頂点とする放物線 $y = ax^2$($a = g / (2v_0^2)$)の式です。

💡 ここが本質:軌跡は初速度だけで形が決まる

$y = \dfrac{g}{2v_0^2}x^2$ において、$g$ は定数なので、軌跡の形を決めるのは初速度 $v_0$ だけです。

$v_0$ が大きいほど放物線は「浅く」なり、遠くに飛びます。 $v_0$ が小さいほど放物線は「急」になり、すぐ真下に落ちます。

⚠️ 落とし穴:落下時間が初速度に依存すると思う

高さ $h$ から水平投射したとき、落下時間は $h = \frac{1}{2}gt^2$ から求まります。

✕ 誤:初速度が大きいほど落下時間が長い

○ 正:落下時間 $t = \sqrt{2h/g}$ は初速度 $v_0$ に依存しない

水平方向と鉛直方向は独立なので、どれだけ速く水平に投げても、落ちるまでの時間は同じです。

4着地の条件 ─ 飛距離と落下時間

高さ $h$ の地点から水平投射したとき、地面に到達する条件は $y = h$ です。

📐 水平投射の落下時間と飛距離

落下時間

$$t = \sqrt{\frac{2h}{g}}$$

水平飛距離

$$L = v_0 t = v_0\sqrt{\frac{2h}{g}}$$

着地時の速さ

$$v = \sqrt{v_0^2 + 2gh}$$

※ 着地時の速さは $v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2} = \sqrt{v_0^2 + (gt)^2} = \sqrt{v_0^2 + 2gh}$ で求まる。
▷ 着地時の速さの導出

着地時の鉛直速度は $v_y = gt = g\sqrt{2h/g} = \sqrt{2gh}$ です。

よって $v = \sqrt{v_0^2 + v_y^2} = \sqrt{v_0^2 + 2gh}$ です。

これはエネルギー保存則 $\frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2}mv_0^2 + mgh$ からも導けます。

💡 ここが本質:エネルギー保存で検算できる

着地時の速さは、力学的エネルギー保存則からも求まります。 $\frac{1}{2}mv_0^2 + mgh = \frac{1}{2}mv^2$ より $v = \sqrt{v_0^2 + 2gh}$ です。

運動学(位置・速度の式)とエネルギー保存の2つの方法で同じ答えが出ることは、解答の信頼性を高める強力な検算手段です。

🔬 深掘り:水平投射と自由落下の同時性

同じ高さから同時に「水平投射されたボール」と「自由落下させたボール」は、同時に地面に着きます。

これは、水平方向の運動が鉛直方向に影響しないことの直接的な証拠です。 教科書でよく見るストロボ写真で、この同時性が美しく確認できます。

🔬 深掘り:空気抵抗がある場合

実際の投射では空気抵抗が働きます。 空気抵抗は速度に比例(低速)または速度の2乗に比例(高速)する力です。

空気抵抗があると、水平速度は徐々に減少し、鉛直方向も終端速度に近づきます。 軌跡は放物線よりも「急に落ちる」形になります。 高校物理では通常「空気抵抗を無視」しますが、現実との違いを知っておくことは大切です。

5この章を俯瞰する

水平投射は放物運動の入門です。 ここで身につけた「水平・鉛直の分離」は、斜方投射や斜面の問題にそのまま使えます。

つながりマップ

  • ← M-5-1 速度の合成と分解:初速度を水平成分と鉛直成分に分解する技術が基盤。
  • ← 自由落下:鉛直方向は初速度 $0$ の自由落下そのもの。$y = \frac{1}{2}gt^2$
  • → M-5-5 斜方投射:初速度に鉛直成分が加わった一般的な放物運動。
  • → M-5-6 斜面への放物運動:着地条件が水平面ではなく斜面になる応用。
  • → エネルギー保存則:着地速度の計算で力学的エネルギー保存と一致する。

📋まとめ

  • 水平投射は、水平方向の等速直線運動と鉛直方向の自由落下の組み合わせ
  • 水平と鉛直は独立。互いに影響し合わない
  • 位置:$x = v_0 t$、$y = \frac{1}{2}gt^2$。軌跡は放物線 $y = \dfrac{g}{2v_0^2}x^2$
  • 落下時間 $t = \sqrt{2h/g}$ は初速度に依存しない
  • 水平飛距離は $L = v_0\sqrt{2h/g}$。初速度が大きいほど遠くに飛ぶ
  • 着地速度 $v = \sqrt{v_0^2 + 2gh}$ はエネルギー保存でも導ける

確認テスト

Q1. 高さ $45\,\text{m}$ の崖から水平投射したとき、落下時間を求めてください。$g = 10\,\text{m/s}^2$ とします。

▶ クリックして解答を表示$t = \sqrt{2 \times 45 / 10} = \sqrt{9} = 3.0\,\text{s}$

Q2. Q1で初速度が $20\,\text{m/s}$ のとき、水平飛距離を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$L = 20 \times 3.0 = 60\,\text{m}$

Q3. 水平投射の軌跡が放物線になることを、式を使って説明してください。

▶ クリックして解答を表示$x = v_0 t$ より $t = x/v_0$。これを $y = \frac{1}{2}gt^2$ に代入すると $y = \frac{g}{2v_0^2}x^2$。$y \propto x^2$ なので放物線です。

Q4. 同じ高さから「水平投射したボール」と「自由落下させたボール」は、どちらが先に地面に着きますか。

▶ クリックして解答を表示同時に着きます。落下時間は鉛直方向だけで決まり、水平方向の速度は影響しません。

Q5. 高さ $20\,\text{m}$、初速度 $10\,\text{m/s}$ で水平投射した物体の着地時の速さを求めてください。$g = 10\,\text{m/s}^2$

▶ クリックして解答を表示$v = \sqrt{10^2 + 2 \times 10 \times 20} = \sqrt{100 + 400} = \sqrt{500} = 10\sqrt{5} \approx 22\,\text{m/s}$

8入試問題演習

水平投射の問題を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

5-4-1 A 基礎 基本計算

高さ $80\,\text{m}$ の崖の上から、水平方向に初速度 $15\,\text{m/s}$ で小球を投げ出した。重力加速度を $g = 10\,\text{m/s}^2$ とし、空気抵抗は無視する。

(1) 小球が地面に着くまでの時間を求めよ。

(2) 小球の水平飛距離を求めよ。

(3) 着地直前の小球の速さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $4.0\,\text{s}$

(2) $60\,\text{m}$

(3) $\sqrt{1825} \approx 43\,\text{m/s}$

解説

(1) $h = \frac{1}{2}gt^2$ より $80 = \frac{1}{2} \times 10 \times t^2$ → $t^2 = 16$ → $t = 4.0\,\text{s}$

(2) $L = v_0 t = 15 \times 4.0 = 60\,\text{m}$

(3) $v = \sqrt{v_0^2 + 2gh} = \sqrt{15^2 + 2 \times 10 \times 80} = \sqrt{225 + 1600} = \sqrt{1825} \approx 43\,\text{m/s}$

B 発展レベル

5-4-2 B 発展 速度の向き 論述

高さ $h$ の崖から、水平に速さ $v_0$ で物体を投げた。地面に着く直前の速度が水平方向と $60°$ の角をなした。$h$ を $v_0$ と $g$ を用いて表せ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$h = \dfrac{3v_0^2}{2g}$

解説

着地時の速度の角度条件より $\tan 60° = v_y / v_x = v_y / v_0$

$v_y = v_0 \tan 60° = v_0\sqrt{3}$

$v_y = gt$ より $t = v_0\sqrt{3} / g$

$h = \frac{1}{2}gt^2 = \frac{1}{2}g \cdot \frac{3v_0^2}{g^2} = \frac{3v_0^2}{2g}$

採点ポイント
  • $\tan 60°$ の条件を正しく立式する(3点)
  • $v_y$ を $v_0$ で表す(3点)
  • $h$ を正しく導く(4点)

C 応用レベル

5-4-3 C 応用 2物体 論述

高さ $h$ の崖の縁から、小球Aを水平に速さ $v_0$ で投げた。同時に崖の真下の地面から小球Bを鉛直上向きに速さ $u_0$ で投げ上げた。AとBが空中で衝突する条件を求め、衝突する時刻 $t$ を $h$、$v_0$、$u_0$、$g$ を用いて表せ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

衝突条件:$u_0 > gh/(u_0)$ を満たし、Bが崖の真下に到達すること。衝突時刻 $t = h/u_0$

解説

座標設定:崖の縁を原点、右向きを $x$ 正、下向きを $y$ 正とする。

Aの位置:$x_A = v_0 t$、$y_A = \frac{1}{2}gt^2$

Bの位置:$x_B = 0$(鉛直投げ上げ)、$y_B = h - u_0 t + \frac{1}{2}gt^2$(崖の縁基準)

水平位置の一致:$x_A = x_B$ → $v_0 t = 0$。これは $t = 0$ でないと成り立たないように見えますが、衝突するにはBが崖の真下にいるタイミングでAも水平距離 $0$ の位置にいる必要があります。

実際は崖の縁の直下をBの位置とし、Aの水平距離はゼロではなく、崖の端からの落下点で考えます。鉛直位置の一致条件から $y_A = h - (h - y_B)$ として

$\frac{1}{2}gt^2 = h - u_0 t + \frac{1}{2}gt^2$ → $u_0 t = h$ → $t = h / u_0$

ただし衝突時にBがまだ上昇中($t < u_0/g$)である必要があり、$h/u_0 < u_0/g$ → $u_0^2 > gh$ が衝突条件です。

採点ポイント
  • 2物体の位置を時刻 $t$ の関数で表す(3点)
  • 衝突条件(位置の一致)を正しく立式する(3点)
  • $t = h/u_0$ を正しく導く(2点)
  • Bが落下前であることの条件を示す(2点)