シーソーで体重の違う二人がバランスを取る光景は、誰もが知っているでしょう。
重い人は支点に近く、軽い人は支点から遠く ── この素朴な知恵こそ「てこの原理」です。
水平な棒のつりあいを通して、モーメントの計算を実戦的に練習しましょう。
古代ギリシャのアルキメデスは、「支点さえあれば地球をも動かせる」と語ったと伝えられます。 てこの原理は、力のモーメントのつりあいを最もシンプルに体現する例です。
支点から距離 $d_1$ の位置に力 $F_1$ を、反対側の距離 $d_2$ の位置に力 $F_2$ を加えます。 棒が水平につりあうためには、両方のモーメントが等しくなる必要があります。
$$F_1 d_1 = F_2 d_2$$
支点まわりの時計回りモーメントと反時計回りモーメントが等しい。
$F_1 d_1 = F_2 d_2$ を変形すると $\dfrac{F_1}{F_2} = \dfrac{d_2}{d_1}$ です。
支点からの距離の比を変えることで、小さな力で大きな力を生み出せます。 しかし力を節約した分、移動距離が大きくなる ── 仕事の原理と矛盾しません。
問題文に「軽い棒」とあれば、棒の質量を無視します。 「一様な棒」とあれば、棒には質量があり、重心(中央)に重力がはたらきます。
✕ 誤:「一様な棒」なのに棒の重力を無視する
○ 正:「一様な棒」は棒の重力を重心(中央)に書き込む
実際の棒には質量があります。 一様な棒の場合、重力は棒の中央にはたらくとして扱います。
質量 $M$、長さ $L$ の一様な棒を、左端から距離 $a$ の支点で支えます。 左端に質量 $m$ のおもりを吊るして水平につりあわせるとき、$a$ を求めましょう。
支点まわりのモーメントのつりあいを考えます。 おもりの重力 $mg$ は支点から左に距離 $a$ の位置にはたらきます。 棒の重力 $Mg$ は棒の中央、つまり支点から $\left(\frac{L}{2} - a\right)$ 右の位置にはたらきます。
$$mg \times a = Mg \times \left(\frac{L}{2} - a\right)$$
これを $a$ について解くと、
$$a = \frac{ML}{2(m + M)}$$
一様な棒のすべての部分に重力がはたらいていますが、 モーメントを計算するとき、棒の重力はすべて重心にまとめて考えてよいのです。
これは非常に強力な単純化であり、剛体のつりあい問題を解くための核心的な考え方です。
支点が棒の端にあるとは限りません。問題文をよく読み、支点の位置を正確に把握しましょう。
○ ポイント:支点が棒の途中にある場合、その両側にモーメントが生じます。
棒を2つの支点($\text{A}$ と $\text{B}$)で支える場合、各支点の垂直抗力を求めます。 この設定は、橋や棚板の力学的モデルとして実用的です。
未知数が $N_A$ と $N_B$ の2つなので、2本の方程式が必要です。
たとえば $\text{A}$ まわりのモーメントを取ると、$N_A$ のうでの長さがゼロになるため、 $N_B$ だけを含む式が得られます。 $N_B$ を求めたら、力のつりあいの式から $N_A$ を逆算できます。
長さ $L$、質量 $M$ の一様な棒を $\text{A}$(左端)と $\text{B}$(右端)で支え、 $\text{A}$ から距離 $a$ の位置に質量 $m$ のおもりを吊るす場合:
$\text{A}$ まわりのモーメントのつりあい:
$$N_B \times L = Mg \times \frac{L}{2} + mg \times a$$
$$N_B = \frac{M}{2}g + \frac{ma}{L}g$$
力のつりあい:$N_A = (M + m)g - N_B$
モーメントを計算するとき、力の作用点は「回転軸(モーメントを取る点)」からの距離で測ります。
✕ 誤:おもりが $\text{A}$ から $0.5\,\text{m}$ の位置 → $\text{B}$ まわりのモーメントでもうでの長さを $0.5\,\text{m}$ とする
○ 正:$\text{B}$ まわりならうでの長さは $L - 0.5\,\text{m}$
棒に複数のおもりを吊るした場合も、考え方は同じです。 各おもりの重力によるモーメントをそれぞれ計算し、合計します。
おもりが $n$ 個あるとき、支点 $\text{O}$ まわりの合モーメントは、
$$\sum M = \sum_{i=1}^{n} m_i g \times d_i$$
ただし $d_i$ は支点から各おもりまでの距離(符号付き)です。
棒が水平な場合、水平方向の力のうでの長さはゼロです。 したがって、モーメントに寄与するのは鉛直方向の力(重力・垂直抗力・糸の張力)だけです。
水平な棒の問題では、この単純化を利用して計算を効率化しましょう。
おもりの重力にばかり注目して、棒自体の重力を忘れてしまうミスが多いです。
○ チェック:問題文に「一様な棒」とあれば、棒の重力 $Mg$ を中央に書き込むことを最初に行いましょう。
上皿天秤は、てこの原理を利用した精密な質量測定器です。 等腕天秤では左右のうでの長さが等しいので、つりあったとき両側の質量が等しくなります。
実際には腕の長さのわずかなずれが誤差の原因になります。 この誤差を打ち消す「交換法」(左右を入れ替えて2回測定する)も知っておくとよいでしょう。
水平な棒のつりあいは、剛体のつりあい問題の最も基本的なケースです。 ここで身につけた手順は、斜めの棒や壁に立てかけた棒にもそのまま応用できます。
Q1. 軽い棒の支点から $0.3\,\text{m}$ に $20\,\text{N}$、反対側 $0.6\,\text{m}$ に $F$ を加えてつりあった。$F$ を求めよ。
Q2. 「一様な棒」と「軽い棒」の違いを説明してください。
Q3. 長さ $2.0\,\text{m}$、質量 $3.0\,\text{kg}$ の一様な棒を中央で支えるとき、支点の抗力はいくらか。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
軽い棒の支点から左に $0.40\,\text{m}$ の位置に $50\,\text{N}$ の力を下向きに加える。支点から右に何 $\text{m}$ の位置に $25\,\text{N}$ の力を下向きに加えれば棒は水平につりあうか。
$0.80\,\text{m}$
$50 \times 0.40 = 25 \times d$ より $d = 0.80\,\text{m}$
質量 $2.0\,\text{kg}$、長さ $1.0\,\text{m}$ の一様な棒を左端 $\text{A}$ と右端 $\text{B}$ で水平に支える。$\text{A}$ から $0.30\,\text{m}$ の位置に質量 $5.0\,\text{kg}$ のおもりを吊るす。$\text{A}$、$\text{B}$ の抗力を求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$
$N_A = 44\,\text{N}$、$N_B = 25\,\text{N}$
$\text{A}$ まわり:$N_B \times 1.0 = 2.0 \times 9.8 \times 0.50 + 5.0 \times 9.8 \times 0.30$
$N_B = 9.8 + 14.7 = 24.5 \approx 25\,\text{N}$
$N_A = (2.0 + 5.0) \times 9.8 - 24.5 = 68.6 - 24.5 = 44.1 \approx 44\,\text{N}$
質量 $4.0\,\text{kg}$、長さ $2.0\,\text{m}$ の一様な棒を、左端 $\text{A}$ から $0.80\,\text{m}$ の支点 $\text{P}$ で支える。左端 $\text{A}$ に質量 $3.0\,\text{kg}$、右端 $\text{B}$ に質量 $m\,\text{kg}$ のおもりを吊るしたところ、棒は水平につりあった。$m$ を求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$
$m = 1.3\,\text{kg}$
方針:$\text{P}$ まわりのモーメントのつりあい。
$\text{A}$ の重り:$\text{P}$ の左 $0.80\,\text{m}$ → 時計回り
棒の重力:中央($\text{A}$ から $1.0\,\text{m}$)は $\text{P}$ の右 $0.20\,\text{m}$ → 反時計回り
$\text{B}$ の重り:$\text{P}$ の右 $1.20\,\text{m}$ → 反時計回り
$$3.0g \times 0.80 = 4.0g \times 0.20 + mg \times 1.20$$
$$2.4 = 0.80 + 1.20m$$
$$m = \frac{1.6}{1.20} = 1.33 \approx 1.3\,\text{kg}$$