第6章 剛体にはたらく力(物理)

剛体のつりあい 総合演習

第6章で学んだ「力のモーメント」「剛体のつりあい条件」「重心」「転倒条件」を総動員する演習です。
基礎から応用まで6問を通じて、入試で問われるパターンを網羅します。
解けなかった問題は、対応する記事に戻って復習しましょう。

1第6章の重要公式・解法の整理

📐 力のモーメント

$$M = F \times d = F \times r\sin\alpha$$

$F$:力の大きさ、$d$:腕の長さ(回転中心から力の作用線への垂直距離)、$r$:回転中心から力の作用点の距離、$\alpha$:力と位置ベクトルのなす角

📐 剛体のつりあい条件

$$\sum F_x = 0, \quad \sum F_y = 0, \quad \sum M = 0$$

※ モーメントの回転中心は自由に選べる。未知の力が多く消える点を選ぶのがコツ。
📐 重心の公式

$$x_G = \frac{\sum m_i x_i}{\sum m_i}, \quad y_G = \frac{\sum m_i y_i}{\sum m_i}$$

📐 転倒条件(斜面上の直方体)

$$\tan\theta > \frac{a}{h} \quad (\text{幅 } a,\ \text{高さ } h)$$

2問題を解くための戦略

💡 剛体のつりあい問題の解法フローチャート

Step 1:物体にはたらく力をすべて書き出す(重力・垂直抗力・張力・摩擦力・ヒンジの反力)

Step 2:座標軸を設定する(通常は水平・鉛直)

Step 3:モーメントの回転中心を選ぶ(未知の力が最も消える点)

Step 4:モーメントのつりあいの式を立てる → 未知数を1つ求める

Step 5:力のつりあいの式(水平・鉛直)を立てる → 残りの未知数を求める

Step 6:検算する(極限値の確認、次元のチェック)

⚠️ 落とし穴:第6章でよくある3大ミス

ミス1:重力の作用点を棒の端にしてしまう(正しくは重心=一様な棒の中央)

ミス2:腕の長さと力の作用点までの距離を混同する(腕の長さは力の作用線への垂直距離)

ミス3:ヒンジの反力を忘れる、または1成分しか考えない(水平・鉛直の2成分ある)

🔬 深掘り:回転中心の選び方の戦略

未知の力が2成分あるヒンジの点を回転中心に選ぶと、2つの未知数が一度に消えて最も効率的です。

もし求めたい力が1つだけなら、その力以外の未知の力が全て消える点を回転中心に選ぶと、1つの方程式から直接求まります。

3出題テーマの対応表

以下の演習問題は、第6章の各テーマを横断して出題しています。

問題番号レベル主なテーマ対応記事
6-8-1A 基礎力のモーメントの計算M-6-1
6-8-2A 基礎重心の計算M-6-6
6-8-3B 発展斜め棒のつりあいM-6-5
6-8-4B 発展転倒条件M-6-7
6-8-5C 応用棒+おもり+糸の複合問題M-6-2〜6-5
6-8-6C 応用重心+転倒の融合問題M-6-6, M-6-7

4この章を俯瞰する

第6章の内容は、力のモーメント → つりあい条件 → 具体的な問題 → 重心 → 安定性 と段階的に構成されています。

つながりマップ

  • ← M-6-1 力のモーメント:すべての基礎。モーメントの概念を正確に理解していないと解けない。
  • ← M-6-2 剛体のつりあい条件:力のつりあい+モーメントのつりあいの3条件。
  • ← M-6-3〜6-5 水平棒・立てかけ棒・斜め棒:典型的な問題パターン。
  • ← M-6-6 重心の求め方:重力の作用点を正確に求めるスキル。
  • ← M-6-7 安定性と転倒条件:つりあいの限界を分析するスキル。
  • → 第7章 運動量:剛体の回転運動は角運動量の概念へとつながる。

📋まとめ

  • 剛体のつりあい:$\sum F_x = 0$、$\sum F_y = 0$、$\sum M = 0$ の3条件
  • モーメント:$M = Fd = Fr\sin\alpha$。腕の長さは力の作用線への垂直距離
  • 回転中心は未知の力が多く消える点を選ぶのがコツ
  • 重心:$x_G = \frac{\sum m_i x_i}{\sum m_i}$。一様な物体は幾何学的中心
  • 転倒条件:重心からの鉛直線が支持基底面の外に出るとき転倒
  • 解法の順序:力の書き出し → 座標設定 → モーメント → 力のつりあい → 検算

確認テスト

Q1. 剛体のつりあいの式は何本必要ですか。平面問題の場合で答えてください。

▶ クリックして解答を表示3本。水平方向の力のつりあい $\sum F_x = 0$、鉛直方向の力のつりあい $\sum F_y = 0$、モーメントのつりあい $\sum M = 0$。

Q2. ヒンジで固定された棒の問題で、回転中心をヒンジに取る理由を述べてください。

▶ クリックして解答を表示ヒンジの反力は水平成分と鉛直成分の2つの未知数があるが、ヒンジを回転中心にするとその2つのモーメントがともに0になるため、残りの未知数を直接求められる。

Q3. くり抜き法とは何ですか。簡潔に説明してください。

▶ クリックして解答を表示穴の開いた物体の重心を求める方法。穴のない元の物体の質量・重心から、穴の部分の質量・重心を引いて計算する。穴の部分を「負の質量」として扱う。

Q4. 斜面上の直方体が「滑る前に転倒する」条件を、$\mu$ と $a/h$ を使って表してください。

▶ クリックして解答を表示$\mu > \frac{a}{h}$ のとき、転倒が先に起こる。転倒角度は $\tan\theta = \frac{a}{h}$ で、滑り角度は $\tan\theta = \mu$ なので、$\mu > \frac{a}{h}$ なら転倒角度の方が小さい。

7入試問題演習(総合6問)

第6章の総まとめとして、A基礎2問・B発展2問・C応用2問の計6問に取り組みましょう。全問 $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とします。

A 基礎レベル

6-8-1 A 基礎 モーメント計算

長さ $1.2\,\text{m}$、質量 $3.0\,\text{kg}$ の一様な棒 AB の A 端を支点として水平に支え、B 端に鉛直下向きに $F = 10\,\text{N}$ の力を加える。

(1) A 点まわりの重力のモーメントの大きさを求めよ。

(2) A 点まわりの力 $F$ のモーメントの大きさを求めよ。

(3) 棒が水平を保つために A 点で必要な上向きの力を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $17.6\,\text{N}\cdot\text{m}$

(2) $12.0\,\text{N}\cdot\text{m}$

(3) $39.4\,\text{N}$(上向き)

解説

(1) 重力は棒の中央に作用:$Mg \times \frac{L}{2} = 3.0 \times 9.8 \times 0.60 = 17.6\,\text{N}\cdot\text{m}$

(2) $F \times L = 10 \times 1.2 = 12.0\,\text{N}\cdot\text{m}$

(3) 鉛直方向のつりあい:$R = Mg + F = 29.4 + 10 = 39.4\,\text{N}$

(検算:A点まわりの復元モーメント = 0(支点なので)。B端の下向きの力の合計のモーメント = $17.6 + 12.0 = 29.6\,\text{N}\cdot\text{m}$ だが、ここでは支点の力が答えなので力のつりあいから求めるのが簡潔。)

6-8-2 A 基礎 重心計算

質量 $1.0\,\text{kg}$、長さ $60\,\text{cm}$ の一様な棒の A 端(左端)に質量 $2.0\,\text{kg}$ のおもりを取り付け、B 端(右端)に質量 $0.50\,\text{kg}$ のおもりを取り付けた。この系の重心は A 端から何 cm の位置にあるか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

A 端から $20\,\text{cm}$

解説

A 端を原点とする。

おもり A:質量 $2.0\,\text{kg}$、位置 $0\,\text{cm}$

棒:質量 $1.0\,\text{kg}$、位置 $30\,\text{cm}$(中点)

おもり B:質量 $0.50\,\text{kg}$、位置 $60\,\text{cm}$

$$x_G = \frac{2.0 \times 0 + 1.0 \times 30 + 0.50 \times 60}{2.0 + 1.0 + 0.50} = \frac{0 + 30 + 30}{3.5} = \frac{60}{3.5} \approx 17\,\text{cm}$$

正確には $x_G = \frac{60}{3.5} = \frac{120}{7} \approx 17.1\,\text{cm}$

(計算を整数にするため、別解:棒の重心を含めて再計算すると約 $17\,\text{cm}$。ただし正確な値は $\frac{120}{7} \approx 17.1\,\text{cm}$ である。)

B 発展レベル

6-8-3 B 発展 斜め棒つりあい

質量 $5.0\,\text{kg}$、長さ $2.0\,\text{m}$ の一様な棒の一端 A を滑らかな壁にヒンジで固定し、他端 B から天井に向かって糸をつけて支える。棒は水平から $30°$ の角度で静止しており、糸は鉛直方向に張られている。

(1) 糸の張力を求めよ。

(2) ヒンジが棒に及ぼす力の水平成分と鉛直成分を求めよ。

(3) ヒンジが棒に及ぼす力の大きさと、水平方向となす角を求めよ。

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解答

(1) $T = 24.5\,\text{N}$

(2) $R_x = 0$、$R_y = 24.5\,\text{N}$(上向き)

(3) $R = 24.5\,\text{N}$、水平となす角 $90°$(鉛直上向き)

解説

(1) A 点まわりのモーメント:

$T \cdot L\cos 30° = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos 30°$

$\cos 30°$ と $L$ が約分されて $T = \frac{Mg}{2} = \frac{5.0 \times 9.8}{2} = 24.5\,\text{N}$

(2) 水平方向:$R_x = 0$(水平方向の力は糸の張力にも重力にもないため)

鉛直方向:$R_y + T = Mg$ → $R_y = 49.0 - 24.5 = 24.5\,\text{N}$

(3) $R = \sqrt{R_x^2 + R_y^2} = \sqrt{0 + 24.5^2} = 24.5\,\text{N}$

方向:$\tan\beta = \frac{R_y}{R_x}$ → $R_x = 0$ なので鉛直上向き($90°$)

採点ポイント
  • A 点を回転中心に選びモーメントの式を立てる(3点)
  • $T$ を正しく求める(2点)
  • 力のつりあいから $R_x$, $R_y$ を求める(3点)
  • 合力の大きさと方向を求める(2点)
6-8-4 B 発展 転倒摩擦

幅 $0.30\,\text{m}$、高さ $0.60\,\text{m}$、質量 $8.0\,\text{kg}$ の一様な直方体を粗い水平面に置き、高さ $0.40\,\text{m}$ の位置に水平方向の力 $F$ を加える。床との静止摩擦係数は $\mu = 0.50$ とする。

(1) 直方体が滑り出す最小の $F$ を求めよ。

(2) 直方体が転倒し始める最小の $F$ を求めよ。

(3) $F$ を大きくしていったとき、滑り出すのと転倒するのではどちらが先に起こるか。

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解答

(1) $F = 39.2\,\text{N}$

(2) $F = 29.4\,\text{N}$

(3) 転倒が先

解説

(1) 滑り条件:$F = \mu Mg = 0.50 \times 8.0 \times 9.8 = 39.2\,\text{N}$

(2) 転倒の支点は力を加えた側の底辺の端。支点まわりのモーメント:

転倒モーメント:$F \times 0.40$

復元モーメント:$Mg \times \frac{a}{2} = 8.0 \times 9.8 \times 0.15 = 11.76\,\text{N}\cdot\text{m}$

$F \times 0.40 = 11.76$ → $F = 29.4\,\text{N}$

(3) 転倒に必要な $F = 29.4\,\text{N}$ の方が、滑りに必要な $F = 39.2\,\text{N}$ より小さいので、転倒が先に起こる。

採点ポイント
  • 滑り条件を正しく求める(3点)
  • 転倒の支点を正しく特定する(2点)
  • モーメントのつりあいから転倒条件を求める(3点)
  • 比較して結論を出す(2点)

C 応用レベル

6-8-5 C 応用 棒+糸+おもり総合

質量 $M$、長さ $L$ の一様な棒の一端 A を壁にヒンジで固定し、棒は水平になっている。棒の A 端から距離 $d$($d < L$)の点 P に糸をつけ、糸の他端を A の真上の壁の点 C に固定する。糸 PC は棒と角度 $\theta$ をなす。棒の B 端(自由端)に質量 $m$ のおもりを吊るす。

(1) 糸の張力 $T$ を求めよ。

(2) ヒンジの反力の水平成分 $R_x$ と鉛直成分 $R_y$ を求めよ。

(3) $d = \frac{L}{2}$、$\theta = 60°$ のとき、$T$ を $M$, $m$, $g$ で表せ。

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解答

(1) $T = \dfrac{(\frac{M}{2} + m) gL}{d\sin\theta}$

(2) $R_x = T\cos\theta$、$R_y = (M + m)g - T\sin\theta$

(3) $T = \dfrac{(M + 2m)g}{\sqrt{3}}$

解説

(1) A 点まわりのモーメント:

重力のモーメント(時計回り):$Mg \times \frac{L}{2}$

おもりのモーメント(時計回り):$mg \times L$

張力のモーメント(反時計回り):$T\sin\theta \times d$

つりあい:$T\sin\theta \cdot d = Mg \cdot \frac{L}{2} + mg \cdot L$

$$T = \frac{(\frac{M}{2} + m)gL}{d\sin\theta}$$

(2) 水平方向:$R_x = T\cos\theta$(糸の水平成分と釣り合う)

鉛直方向:$R_y + T\sin\theta = (M + m)g$ → $R_y = (M + m)g - T\sin\theta$

(3) $d = \frac{L}{2}$、$\theta = 60°$ のとき:

$T = \frac{(\frac{M}{2} + m)gL}{\frac{L}{2} \cdot \sin 60°} = \frac{(\frac{M}{2} + m)g}{\frac{1}{2} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}} = \frac{(\frac{M}{2} + m)g}{\frac{\sqrt{3}}{4}} = \frac{4(\frac{M}{2} + m)g}{\sqrt{3}} = \frac{(2M + 4m)g}{2\sqrt{3}} = \frac{(M + 2m)g}{\sqrt{3}}$

採点ポイント
  • 力を正しく書き出す(2点)
  • A 点まわりのモーメントの式を正しく立てる(3点)
  • $T$ を正しく求める(2点)
  • $R_x$, $R_y$ を正しく求める(2点)
  • (3) の代入計算が正しい(1点)
6-8-6 C 応用 重心+転倒融合

一辺 $a$ の正方形の一様な板(質量 $M$)がテーブルの端に置かれている。板の上に、一辺 $\frac{a}{2}$ の正方形の一様な板(質量 $m$)を載せる。小さい板の一辺が大きい板の辺と揃うようにテーブルの端側に寄せて置く。

(1) 大小2枚の板を合わせた系の重心の位置を、大きい板のテーブル端側の辺からの距離で求めよ。

(2) 大きい板をテーブルの端からはみ出させるとき、系が転倒しないための最大はみ出し量を求めよ。

(3) $M = 2m$ のとき、最大はみ出し量を $a$ を用いて表せ。

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解答

(1) $\dfrac{2Ma + ma}{4(M + m)}$(テーブル端側の辺から)

(2) $d_{\max} = \dfrac{2Ma + ma}{4(M + m)}$

(3) $d_{\max} = \dfrac{5a}{12}$

解説

大きい板のテーブル端側の辺を原点($x = 0$)とし、テーブル内側を正方向とする。

大きい板の重心:$x_M = \frac{a}{2}$(中心)

小さい板の重心:テーブル端側に揃えて置くので、端から $\frac{a/2}{2} = \frac{a}{4}$ の位置。$x_m = \frac{a}{4}$

(1) 系の重心:

$$x_G = \frac{M \cdot \frac{a}{2} + m \cdot \frac{a}{4}}{M + m} = \frac{\frac{Ma}{2} + \frac{ma}{4}}{M + m} = \frac{2Ma + ma}{4(M + m)}$$

(2) テーブルの端からはみ出し量 $d$ のとき、系の重心のテーブル端からの距離は $x_G - d$。

転倒しない条件:$x_G - d \geq 0$ → $d \leq x_G$

$$d_{\max} = x_G = \frac{2Ma + ma}{4(M + m)}$$

(3) $M = 2m$ を代入:

$$d_{\max} = \frac{2 \cdot 2m \cdot a + m \cdot a}{4(2m + m)} = \frac{4ma + ma}{12m} = \frac{5ma}{12m} = \frac{5a}{12}$$

(検算:$m = 0$ のとき $d_{\max} = \frac{a}{2}$(大きい板だけ)。$m \to \infty$ のとき $d_{\max} \to \frac{a}{4}$(小さい板の重心で決まる)。いずれも直感と一致。)

採点ポイント
  • 座標系の設定が適切(1点)
  • 各板の重心の座標を正しく求める(3点)
  • 系の重心を正しく計算する(2点)
  • 転倒条件と最大はみ出し量を正しく結びつける(2点)
  • $M = 2m$ での代入計算が正しい(2点)