弾性衝突では運動エネルギーが保存されましたが、現実の衝突ではエネルギーの一部が熱や音、変形に変わります。
特に、衝突後に2物体がくっついて一体となる完全非弾性衝突は、運動量保存だけで速度が求まる最もシンプルな衝突です。
「どれだけエネルギーが失われるか」を定量的に計算する方法を身につけましょう。
衝突を運動エネルギーの保存の観点から分類すると、次の3種類になります。
| 衝突の種類 | 運動エネルギー | 反発係数 $e$ |
|---|---|---|
| 弾性衝突 | 保存される | $e = 1$ |
| 非弾性衝突 | 一部が失われる | $0 < e < 1$ |
| 完全非弾性衝突 | 最大限に失われる | $e = 0$ |
非弾性衝突とは、衝突前後で運動エネルギーが保存されない衝突のことです。 失われたエネルギーは、物体の変形、熱、音などに変換されます。
その極端なケースが完全非弾性衝突($e = 0$)で、衝突後に2物体が一体となって動きます。 粘土の衝突、弾丸が木片に突き刺さる場合などが典型例です。
完全非弾性衝突では、衝突後の速度は1つだけ(一体で動くから)です。未知数が1つなので、運動量保存の式1本で解けます。
弾性衝突では運動量保存+エネルギー保存の2式が必要でしたが、完全非弾性衝突はより簡単です。
質量 $m_1$ の物体が速度 $v_1$ で、質量 $m_2$ の静止している物体に衝突し、一体となる場合を考えます。
運動量保存則:
$$m_1 v_1 + m_2 v_2 = (m_1 + m_2)\,V$$
衝突後の速度:
$$V = \frac{m_1 v_1 + m_2 v_2}{m_1 + m_2}$$
質量 $10\,\text{g}$ の弾丸が速度 $400\,\text{m/s}$ で、質量 $1.99\,\text{kg}$ の静止した木片に撃ち込まれ、一体となった場合を計算します。
$m_1 = 0.010\,\text{kg}$、$v_1 = 400\,\text{m/s}$、$m_2 = 1.99\,\text{kg}$、$v_2 = 0$ とすると、
$$V = \frac{0.010 \times 400 + 1.99 \times 0}{0.010 + 1.99} = \frac{4.0}{2.0} = 2.0\,\text{m/s}$$
弾丸の速度は $400\,\text{m/s}$ から $2.0\,\text{m/s}$ へと激減します。これは質量比が大きいからです。
弾丸の問題では質量が g で与えられることが多いです。必ず kg に統一しましょう。
✕ 誤:$V = \dfrac{10 \times 400}{10 + 1990}$(g と kg が混在)
○ 正:$V = \dfrac{0.010 \times 400}{0.010 + 1.99}$(すべて kg に統一)
両方の物体が動いている場合も、運動量保存の式は同じです。 向きを正負で区別することを忘れないでください。
例:質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体 A が $+4.0\,\text{m/s}$ で、質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体 B が $-1.0\,\text{m/s}$ で正面衝突し、一体となった場合、
$$V = \frac{3.0 \times 4.0 + 2.0 \times (-1.0)}{3.0 + 2.0} = \frac{12 - 2.0}{5.0} = 2.0\,\text{m/s}$$
完全非弾性衝突後の速度 $V$ は、実は衝突前の重心速度に等しくなっています。
$$V_G = \frac{m_1 v_1 + m_2 v_2}{m_1 + m_2}$$
これは運動量保存の必然的な結果です。外力が働かなければ重心速度は一定なので、衝突後の一体の速度は重心速度そのものです。
完全非弾性衝突では、運動エネルギーの一部が失われます。失われたエネルギーを定量的に求めましょう。
衝突前の運動エネルギーの合計:
$$K_{\text{前}} = \frac{1}{2}m_1 v_1^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2^2$$
衝突後の運動エネルギー:
$$K_{\text{後}} = \frac{1}{2}(m_1 + m_2)\,V^2$$
エネルギー損失:
$$\Delta K = K_{\text{前}} - K_{\text{後}}$$
静止物体への完全非弾性衝突の場合、エネルギー損失率を計算すると非常にきれいな式が得られます。
$v_2 = 0$ のとき、$V = \dfrac{m_1 v_1}{m_1 + m_2}$ より、
$$K_{\text{前}} = \frac{1}{2}m_1 v_1^2$$
$$K_{\text{後}} = \frac{1}{2}(m_1 + m_2)\left(\frac{m_1 v_1}{m_1 + m_2}\right)^2 = \frac{m_1^2 v_1^2}{2(m_1 + m_2)}$$
損失率:
$$\frac{\Delta K}{K_{\text{前}}} = 1 - \frac{K_{\text{後}}}{K_{\text{前}}} = 1 - \frac{m_1}{m_1 + m_2} = \frac{m_2}{m_1 + m_2}$$
$$\frac{\Delta K}{K_{\text{前}}} = \frac{m_2}{m_1 + m_2}$$
先ほどの弾丸と木片の例では、$\dfrac{\Delta K}{K_{\text{前}}} = \dfrac{1.99}{2.0} = 0.995$ つまり 99.5% のエネルギーが失われます。
非弾性衝突で最も大切なポイントは、運動量は常に保存されるが、運動エネルギーは減少するということです。
運動量はベクトル量(方向がある)、運動エネルギーはスカラー量(常に正)であることが、この違いの本質的な理由です。内力(衝突力)は作用・反作用の法則で運動量を保存しますが、エネルギーは内部の変形などに変換されうるのです。
非弾性衝突で運動エネルギー保存の式を立てるのは誤りです。
✕ 誤:$\dfrac{1}{2}m_1 v_1^2 = \dfrac{1}{2}(m_1+m_2)V^2$(エネルギーが保存されるとした)
○ 正:$\dfrac{1}{2}m_1 v_1^2 > \dfrac{1}{2}(m_1+m_2)V^2$(エネルギーは減少する)
衝突問題でエネルギー保存が使えるのは弾性衝突($e = 1$)のときだけです。
非弾性衝突は反発係数 $e$($0 \le e \le 1$)で特徴づけられます。
$$e = -\frac{v_1' - v_2'}{v_1 - v_2} = \frac{\text{衝突後の相対速度の大きさ}}{\text{衝突前の相対速度の大きさ}}$$
完全非弾性衝突では $v_1' = v_2' = V$ なので $e = 0$ となります。 一般の非弾性衝突($0 < e < 1$)では、運動量保存と反発係数の式を連立して衝突後の速度を求めます。
運動量保存の式と反発係数の式の2本を連立します。
$$\begin{cases} m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1' + m_2 v_2' \\ v_1' - v_2' = -e(v_1 - v_2) \end{cases}$$
これを $v_1'$、$v_2'$ について解くと、
$$v_1' = \frac{m_1 v_1 + m_2 v_2 + m_2 e(v_2 - v_1)}{m_1 + m_2}$$
$$v_2' = \frac{m_1 v_1 + m_2 v_2 + m_1 e(v_1 - v_2)}{m_1 + m_2}$$
反発係数 $e$ とエネルギー損失には次の関係があります。$v_2 = 0$ の場合、
$$\frac{\Delta K}{K_{\text{前}}} = \frac{m_2(1 - e^2)}{m_1 + m_2}$$
$e = 1$ のとき損失 $0$(弾性衝突)、$e = 0$ のとき損失最大(完全非弾性衝突)であることが確認できます。
非弾性衝突は、運動量保存とエネルギー変換の理解を深める重要なテーマです。
Q1. 完全非弾性衝突の反発係数 $e$ の値はいくつですか。
Q2. 質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体 A が速度 $6.0\,\text{m/s}$ で、静止している質量 $4.0\,\text{kg}$ の物体 B に衝突し一体となった。衝突後の速度を求めよ。
Q3. Q2の衝突で失われた運動エネルギーはいくらですか。
Q4. 非弾性衝突で保存されるのは運動量と運動エネルギーのどちらですか。
非弾性衝突の問題を入試形式で演習しましょう。
なめらかな水平面上で、質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体 A が速度 $4.0\,\text{m/s}$ で右向きに進み、静止している質量 $1.0\,\text{kg}$ の物体 B に衝突して一体となった。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 衝突後の速度を求めよ。
(2) 衝突で失われた運動エネルギーを求めよ。
(1) $V = 3.0\,\text{m/s}$(右向き)
(2) $\Delta K = 6.0\,\text{J}$
(1) 運動量保存:$3.0 \times 4.0 = (3.0 + 1.0)\,V$
$12 = 4.0\,V$ → $V = 3.0\,\text{m/s}$
(2) $K_{\text{前}} = \dfrac{1}{2} \times 3.0 \times 4.0^2 = 24\,\text{J}$
$K_{\text{後}} = \dfrac{1}{2} \times 4.0 \times 3.0^2 = 18\,\text{J}$
$\Delta K = 24 - 18 = 6.0\,\text{J}$
なめらかな水平面上で、質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体 A が $+5.0\,\text{m/s}$ で、質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体 B が $-3.0\,\text{m/s}$ で正面衝突し一体となった。衝突後の速度と向きを求めよ。
$V = 0.20\,\text{m/s}$(正の向き=A の初速の向き)
運動量保存:$2.0 \times 5.0 + 3.0 \times (-3.0) = (2.0 + 3.0)\,V$
$10 - 9.0 = 5.0\,V$ → $V = 0.20\,\text{m/s}$
$V > 0$ なので、A の初速の向き(正の向き)に動く。
質量 $20\,\text{g}$ の弾丸が速度 $v_0$ で飛び、静止している質量 $1.98\,\text{kg}$ の木片に撃ち込まれて一体となった。衝突後、一体は速度 $2.0\,\text{m/s}$ で動き出した。
(1) 弾丸の初速度 $v_0$ を求めよ。
(2) 衝突で失われた運動エネルギーを求めよ。
(3) エネルギー損失率を求めよ。
(1) $v_0 = 200\,\text{m/s}$
(2) $\Delta K = 396\,\text{J}$
(3) 約 $99\%$
(1) 運動量保存:$0.020 \times v_0 = (0.020 + 1.98) \times 2.0$
$0.020\,v_0 = 4.0$ → $v_0 = 200\,\text{m/s}$
(2) $K_{\text{前}} = \dfrac{1}{2} \times 0.020 \times 200^2 = 400\,\text{J}$
$K_{\text{後}} = \dfrac{1}{2} \times 2.0 \times 2.0^2 = 4.0\,\text{J}$
$\Delta K = 400 - 4.0 = 396\,\text{J}$
(3) $\dfrac{396}{400} = 0.99 = 99\%$
公式 $\dfrac{m_2}{m_1+m_2} = \dfrac{1.98}{2.0} = 0.99$ でも確認できる。
なめらかな水平面上で、質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体 A が速度 $8.0\,\text{m/s}$ で右向きに進み、静止している質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体 B に衝突した。反発係数 $e = 0.50$ のとき、衝突後の A、B の速度をそれぞれ求めよ。
$v_A' = 2.0\,\text{m/s}$、$v_B' = 6.0\,\text{m/s}$(ともに右向き)
運動量保存:$2.0 \times 8.0 = 2.0\,v_A' + 2.0\,v_B'$
$v_A' + v_B' = 8.0$ …①
反発係数:$v_A' - v_B' = -0.50 \times (8.0 - 0) = -4.0$ …②
①+②:$2\,v_A' = 4.0$ → $v_A' = 2.0\,\text{m/s}$
①より $v_B' = 8.0 - 2.0 = 6.0\,\text{m/s}$
質量 $m$ の弾丸が速度 $v_0$ で、静止している質量 $M$ の木片に撃ち込まれた。弾丸は木片を貫通し、速度 $\dfrac{v_0}{3}$ で飛び出した。
(1) 貫通後の木片の速度を求めよ。
(2) 衝突で失われた運動エネルギーを求めよ。
(3) 弾丸が貫通せずに木片内に留まった場合と比べて、エネルギー損失は大きいか小さいか。理由とともに答えよ。
(1) $V = \dfrac{2m\,v_0}{3M}$
(2) $\Delta K = \dfrac{m\,v_0^2}{2}\left(\dfrac{8}{9} - \dfrac{2m}{9M}\right) = \dfrac{4m\,v_0^2(M - \dfrac{m}{4})}{9M}$
(3) 貫通した場合の方がエネルギー損失は小さい。
(1) 運動量保存:$m\,v_0 = m \cdot \dfrac{v_0}{3} + M\,V$
$M\,V = m\,v_0 - \dfrac{m\,v_0}{3} = \dfrac{2m\,v_0}{3}$
$V = \dfrac{2m\,v_0}{3M}$
(2) $K_{\text{前}} = \dfrac{1}{2}m\,v_0^2$
$K_{\text{後}} = \dfrac{1}{2}m\left(\dfrac{v_0}{3}\right)^2 + \dfrac{1}{2}M\left(\dfrac{2m\,v_0}{3M}\right)^2 = \dfrac{m\,v_0^2}{18} + \dfrac{2m^2\,v_0^2}{9M}$
$\Delta K = K_{\text{前}} - K_{\text{後}}$(整理して具体的な値を出す)
(3) 完全非弾性衝突では運動エネルギーが最大限に失われる(重心系でのエネルギーがすべて失われる)。貫通する場合は相対運動が残るため、エネルギー損失は完全非弾性衝突より小さい。
長さ $L$ の糸で天井から吊るされた質量 $M$ の木片(弾道振り子)に、質量 $m$ の弾丸を水平に速度 $v_0$ で撃ち込む。弾丸は木片に埋まり、一体となった木片が高さ $h$ まで上がった。
(1) 衝突直後の一体の速度 $V$ を $m$、$M$、$v_0$ で表せ。
(2) $V$ を $g$、$h$ で表せ。
(3) (1)(2)から弾丸の初速度 $v_0$ を $m$、$M$、$g$、$h$ で表せ。
(1) $V = \dfrac{m\,v_0}{m + M}$
(2) $V = \sqrt{2gh}$
(3) $v_0 = \dfrac{m + M}{m}\sqrt{2gh}$
(1) 衝突は瞬間的なので、衝突前後で運動量保存が成り立つ。
$m\,v_0 = (m + M)\,V$ → $V = \dfrac{m\,v_0}{m + M}$
(2) 衝突後はエネルギー保存が成り立つ(糸の張力は仕事をしない)。
$\dfrac{1}{2}(m + M)\,V^2 = (m + M)\,gh$ → $V = \sqrt{2gh}$
(3) (1)と(2)を等置して、
$\dfrac{m\,v_0}{m + M} = \sqrt{2gh}$ → $v_0 = \dfrac{m + M}{m}\sqrt{2gh}$
これが弾道振り子の原理です。高さ $h$ を測定すれば弾丸の速度がわかります。