第7章 運動量の保存

壁・床との衝突
─ 斜めの衝突を含む

ボールを壁にぶつけたとき、ボールは跳ね返ります。床に斜めに投げたボールは、入射角と異なる角度で跳ね返ります。
壁や床との衝突では、壁面に垂直な速度成分のみが反発係数の影響を受けるという原則が鍵です。
この原則を理解すれば、斜めの衝突も怖くありません。

1壁・床との衝突の基本

壁や床は質量が非常に大きく、衝突しても動きません。 そのため、2物体間の衝突とは異なり、運動量保存則は使わず、反発係数の式だけで解くのが基本です。

💡 ここが本質:壁面に垂直な成分だけが変わる

壁や床との衝突では、壁面に垂直な速度成分のみが反発係数に従って変化し、壁面に平行な速度成分は変化しません。

これは、壁面が滑らかであれば(摩擦がなければ)、壁面に沿った方向には力が働かないからです。

📐 壁・床との衝突における反発係数

壁面に垂直な成分について:

$$v_{\perp}' = e \cdot v_{\perp}$$

壁面に平行な成分について:

$$v_{\parallel}' = v_{\parallel}$$

※ $v_{\perp}$:壁に向かう垂直成分の速さ、$v_{\perp}'$:壁から離れる垂直成分の速さ。$v_{\parallel}$:壁に平行な成分の速さ。向きは壁から離れる向きに反転する。
⚠️ 落とし穴:壁との衝突で運動量保存を使う

壁は動かないため、壁からの力(撃力)は外力です。ボールだけの系では運動量は保存しません。

✕ 誤:$mv = mv'$(運動量保存)としてしまう

○ 正:反発係数の式 $v' = ev$ を使う

壁+ボールの系で考えれば運動量は保存しますが、壁の速度が $0$ のまま変わらないので、情報としては反発係数の式と同じになります。

2垂直に当たる場合

最も単純な場合として、ボールが壁に垂直に当たるケースを考えます。

速さ $v$ で壁に垂直に当たったボールは、速さ $ev$ で跳ね返ります。向きは反転します。

床へのバウンド(垂直落下)

高さ $h_0$ から自由落下させたボールが床でバウンドし、高さ $h_1$ まで上がった場合、反発係数は次のように求められます。

▷ 落下高さと反発係数の関係

高さ $h_0$ から落としたときの着地速度:$v = \sqrt{2g\,h_0}$

反発後の速度:$v' = ev = e\sqrt{2g\,h_0}$

跳ね上がり高さ:$v'^2 = 2g\,h_1$ より $h_1 = \dfrac{v'^2}{2g} = e^2 h_0$

したがって、

📐 落下高さと反発係数

$$e = \sqrt{\frac{h_1}{h_0}}$$

または $h_1 = e^2 h_0$

※ $n$ 回バウンド後の高さは $h_n = e^{2n} h_0$。$e < 1$ なら回数を重ねるごとに高さが減っていく。
🔬 深掘り:何回バウンドで止まるか

$n$ 回目のバウンド後の高さは $h_n = e^{2n} h_0$ です。$e = 0.8$、$h_0 = 1.0\,\text{m}$ とすると、

$h_1 = 0.64\,\text{m}$、$h_2 = 0.41\,\text{m}$、$h_3 = 0.26\,\text{m}$、…

理論的には無限にバウンドしますが、全バウンドの所要時間は有限です(等比級数の和)。

3斜めに当たる場合

ボールが壁に斜めに当たる場合が入試で最も出題される典型パターンです。 速度を壁面に垂直な成分壁面に平行な成分に分解して考えます。

壁に角度 $\theta$ で当たるボール

速さ $v$ で、壁の法線と角度 $\theta$ をなして入射するボールを考えます。壁は滑らかとします。

  • 入射時の壁面に垂直な成分:$v_{\perp} = v\cos\theta$
  • 入射時の壁面に平行な成分:$v_{\parallel} = v\sin\theta$

衝突後:

  • 垂直成分:$v_{\perp}' = e \cdot v\cos\theta$(向きは反転)
  • 平行成分:$v_{\parallel}' = v\sin\theta$(変化なし)

跳ね返り後の速さ:

$$v' = \sqrt{v_{\perp}'^2 + v_{\parallel}'^2} = \sqrt{e^2 v^2\cos^2\theta + v^2\sin^2\theta}$$

跳ね返り角 $\theta'$(壁の法線との角度):

$$\tan\theta' = \frac{v_{\parallel}'}{v_{\perp}'} = \frac{v\sin\theta}{ev\cos\theta} = \frac{\tan\theta}{e}$$

📐 斜めの壁衝突の跳ね返り角

$$\tan\theta' = \frac{\tan\theta}{e}$$

※ $e = 1$ のとき $\theta' = \theta$(入射角=反射角、光の反射と同じ)。$e < 1$ のとき $\theta' > \theta$(壁に沿って出ていく傾向)。
💡 ここが本質:$e = 1$ なら「光の反射」と同じ

完全弾性衝突($e = 1$)なら、垂直成分の速さが変わらず向きだけ反転するので、入射角=反射角が成り立ちます。

$e < 1$ のときは垂直成分が小さくなるため、反射角が入射角より大きくなり、壁面に沿うように飛んでいきます。

⚠️ 落とし穴:すべての成分に反発係数をかける

反発係数が影響するのは壁面に垂直な成分だけです。

✕ 誤:$v' = ev$(速さ全体に $e$ をかける)

○ 正:$v_{\perp}' = e\,v_{\perp}$、$v_{\parallel}' = v_{\parallel}$(垂直成分にだけ $e$)

斜めの衝突で速さ全体に $e$ をかけてしまうのは最も多い間違いです。

4床へのバウンドの問題

斜めに投げたボールが床でバウンドする問題は、入試の頻出パターンです。 放物運動と反発係数を組み合わせて解きます。

斜方投射後の床バウンド

水平面上の点から速さ $v_0$、仰角 $\alpha$ で投げ上げたボールが、放物運動して地面に戻り、滑らかな床(反発係数 $e$)でバウンドする場合を考えます。

着地時の速度:

  • 水平成分(床に平行):$v_x = v_0 \cos\alpha$
  • 鉛直成分(床に垂直):$v_y = v_0 \sin\alpha$(下向き)

バウンド直後の速度:

  • 水平成分:$v_x' = v_0\cos\alpha$(変化なし)
  • 鉛直成分:$v_y' = e\,v_0\sin\alpha$(上向き)

バウンド後の最高点の高さ:

$$h = \frac{v_y'^2}{2g} = \frac{e^2\,v_0^2\sin^2\alpha}{2g}$$

▷ バウンド後の飛距離の導出

バウンド後は、初速 $v_x' = v_0\cos\alpha$(水平)、$v_y' = ev_0\sin\alpha$(鉛直上向き)の斜方投射と同じです。

滞空時間:$T = \dfrac{2v_y'}{g} = \dfrac{2e\,v_0\sin\alpha}{g}$

水平飛距離:$R = v_x' \cdot T = v_0\cos\alpha \cdot \dfrac{2e\,v_0\sin\alpha}{g} = \dfrac{e\,v_0^2\sin 2\alpha}{g}$

1回目のバウンド前の飛距離 $R_0 = \dfrac{v_0^2\sin 2\alpha}{g}$ と比べると、$R = eR_0$ となります。

🔬 深掘り:全飛距離の合計

$n$ 回目のバウンド後の水平飛距離は $R_n = e^n R_0$ です。

全飛距離は等比級数の和:$R_{\text{total}} = R_0(1 + e + e^2 + \cdots) = \dfrac{R_0}{1 - e}$

$e = 0.5$、$R_0 = 10\,\text{m}$ なら、全飛距離 $= 20\,\text{m}$ となります。

5この章を俯瞰する

壁・床との衝突は、反発係数の応用として入試で頻出のテーマです。

つながりマップ

  • ← M-7-4 弾性衝突:反発係数 $e = 1$ の特殊な場合として壁衝突を理解する。
  • ← M-7-5 非弾性衝突:$e < 1$ の場合、壁でもエネルギーが失われる。
  • ← M-3 放物運動:床バウンドの問題では放物運動の知識が不可欠。
  • → M-7-7 平面上の衝突:斜めの壁衝突で培った成分分解のスキルを2物体の衝突に応用する。
  • → M-7-9 重心の運動:壁衝突は外力が加わる系の例として重心の議論につながる。

📋まとめ

  • 壁・床との衝突では壁面に垂直な成分のみが反発係数に従い変化する
  • 壁面に平行な成分は変化しない(滑らかな壁の場合)
  • 垂直入射の場合:$v' = ev$、落下高さ:$h_1 = e^2 h_0$
  • 斜めの衝突:跳ね返り角は $\tan\theta' = \dfrac{\tan\theta}{e}$
  • $e = 1$ のとき入射角=反射角(光の反射と同じ)
  • 床バウンドの問題は放物運動+反発係数の組み合わせで解く

確認テスト

Q1. 壁との衝突で、反発係数が影響するのは速度のどの成分ですか。

▶ クリックして解答を表示壁面に垂直な成分のみ。壁面に平行な成分は変化しない(滑らかな壁の場合)。

Q2. 高さ $1.25\,\text{m}$ から落としたボールが床で跳ね返り、$0.80\,\text{m}$ まで上がった。反発係数を求めよ。

▶ クリックして解答を表示$e = \sqrt{\dfrac{0.80}{1.25}} = \sqrt{0.64} = 0.80$

Q3. 反発係数 $e = 1$ でボールが壁に斜めに当たるとき、入射角と反射角の関係はどうなるか。

▶ クリックして解答を表示入射角=反射角。垂直成分の大きさが変わらず向きだけ反転するため、光の反射と同じ法則が成り立つ。

Q4. ボールが壁の法線と $30°$ をなして入射し、反発係数 $e = 0.5$ のとき、$\tan\theta'$ の値はいくらか。

▶ クリックして解答を表示$\tan\theta' = \dfrac{\tan 30°}{0.5} = \dfrac{1/\sqrt{3}}{0.5} = \dfrac{2}{\sqrt{3}} \approx 1.15$。よって $\theta' \approx 49°$

8入試問題演習

壁・床との衝突を入試形式で演習しましょう。

A 基礎レベル

7-6-1 A 基礎 床バウンド計算

反発係数 $e = 0.70$ の床に、高さ $2.0\,\text{m}$ からボールを自由落下させた。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。

(1) 1回目のバウンド後にボールが到達する高さを求めよ。

(2) 2回目のバウンド後にボールが到達する高さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $h_1 = 0.98\,\text{m}$

(2) $h_2 = 0.48\,\text{m}$

解説

(1) $h_1 = e^2 h_0 = 0.70^2 \times 2.0 = 0.49 \times 2.0 = 0.98\,\text{m}$

(2) $h_2 = e^2 h_1 = 0.49 \times 0.98 = 0.48\,\text{m}$

または $h_2 = e^4 h_0 = 0.70^4 \times 2.0 = 0.2401 \times 2.0 = 0.48\,\text{m}$

7-6-2 A 基礎 壁衝突計算

速さ $5.0\,\text{m/s}$ のボールが、壁面に対して垂直に当たって跳ね返った。跳ね返り後の速さが $3.0\,\text{m/s}$ であったとき、反発係数 $e$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$e = 0.60$

解説

壁に垂直に当たるので、$e = \dfrac{v'}{v} = \dfrac{3.0}{5.0} = 0.60$

B 発展レベル

7-6-3 B 発展 斜め衝突計算

速さ $10\,\text{m/s}$ のボールが、壁の法線と $60°$ の角度で滑らかな壁に衝突した。反発係数 $e = 0.50$ のとき、次の問いに答えよ。

(1) 衝突後の壁に垂直な速度成分と平行な速度成分を求めよ。

(2) 衝突後の速さを求めよ。

(3) 跳ね返り角(壁の法線との角度)を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 垂直成分 $v_{\perp}' = 2.5\,\text{m/s}$、平行成分 $v_{\parallel}' = 8.66\,\text{m/s}$

(2) $v' \approx 9.0\,\text{m/s}$

(3) $\theta' \approx 74°$

解説

(1) $v_{\perp} = 10\cos 60° = 5.0\,\text{m/s}$ → $v_{\perp}' = 0.50 \times 5.0 = 2.5\,\text{m/s}$

$v_{\parallel} = 10\sin 60° = 5\sqrt{3} \approx 8.66\,\text{m/s}$ → $v_{\parallel}' = 8.66\,\text{m/s}$

(2) $v' = \sqrt{2.5^2 + 8.66^2} = \sqrt{6.25 + 75} = \sqrt{81.25} \approx 9.0\,\text{m/s}$

(3) $\tan\theta' = \dfrac{8.66}{2.5} = 3.46$ → $\theta' \approx 74°$

(別解:$\tan\theta' = \dfrac{\tan 60°}{e} = \dfrac{\sqrt{3}}{0.50} = 2\sqrt{3} \approx 3.46$)

採点ポイント
  • 垂直成分と平行成分を正しく分解する(3点)
  • 垂直成分にのみ反発係数をかける(3点)
  • 速さと角度を正しく計算する(4点)
7-6-4 B 発展 反発係数の測定計算

高さ $h = 1.8\,\text{m}$ のテーブルの端から、ボールを水平に速さ $v_0 = 3.0\,\text{m/s}$ で発射した。ボールは放物運動をして床に落ち、1回バウンドして最高点の高さが $0.20\,\text{m}$(床から)であった。床との反発係数を求めよ。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$e \approx 0.33$

解説

着地時の鉛直速度:$v_y = \sqrt{2g\,h} = \sqrt{2 \times 9.8 \times 1.8} = \sqrt{35.28} \approx 5.94\,\text{m/s}$

バウンド後の鉛直速度:$v_y' = \sqrt{2g \times 0.20} = \sqrt{3.92} \approx 1.98\,\text{m/s}$

反発係数は鉛直(床に垂直な)成分だけで決まるから、

$e = \dfrac{v_y'}{v_y} = \dfrac{1.98}{5.94} \approx 0.33$

(水平成分 $v_0 = 3.0\,\text{m/s}$ は反発係数に関係しない)

採点ポイント
  • 着地時の鉛直速度を正しく求める(3点)
  • 鉛直成分のみで反発係数を計算する(4点)
  • 水平成分は無関係であることを理解している(3点)

C 応用レベル

7-6-5 C 応用 斜方投射+バウンド融合

水平な地面から、速さ $v_0$、仰角 $45°$ でボールを投げ上げた。ボールは放物運動して地面に落ち、反発係数 $e$ の滑らかな床でバウンドした。

(1) 1回目のバウンド後の水平方向と鉛直方向の初速度を $v_0$、$e$ で表せ。

(2) 1回目のバウンド後の水平飛距離を、バウンド前の飛距離と比較せよ。

(3) ボールが最終的に静止するまでの全水平飛距離を $v_0$、$e$、$g$ で表せ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 水平:$\dfrac{v_0}{\sqrt{2}}$、鉛直:$\dfrac{e\,v_0}{\sqrt{2}}$

(2) バウンド前の飛距離の $e$ 倍

(3) $\dfrac{v_0^2}{g(1-e)}$

解説

(1) 仰角 $45°$ で投げたボールの着地時の速度成分は、水平 $v_0\cos 45° = \dfrac{v_0}{\sqrt{2}}$、鉛直 $v_0\sin 45° = \dfrac{v_0}{\sqrt{2}}$(下向き)。

バウンド後:水平 $\dfrac{v_0}{\sqrt{2}}$(不変)、鉛直 $\dfrac{e\,v_0}{\sqrt{2}}$(上向き)

(2) バウンド前の飛距離:$R_0 = \dfrac{v_0^2\sin 90°}{g} = \dfrac{v_0^2}{g}$

バウンド後の飛距離:$R_1 = \dfrac{v_0}{\sqrt{2}} \times \dfrac{2 \cdot e\,v_0/\sqrt{2}}{g} = \dfrac{e\,v_0^2}{g} = eR_0$

(3) $R_{\text{total}} = R_0 + eR_0 + e^2 R_0 + \cdots = \dfrac{R_0}{1-e} = \dfrac{v_0^2}{g(1-e)}$

採点ポイント
  • 着地時の速度成分を正しく求める(2点)
  • バウンド後の速度を正しく求める(2点)
  • 飛距離を正しく計算する(3点)
  • 等比級数の和を正しく用いる(3点)
7-6-6 C 応用 2回衝突論述

直角に交わる2枚の滑らかな壁のコーナーに、ボールを速さ $v$、一方の壁の法線と角度 $\theta$ で投げ込む。反発係数をともに $e$ とし、ボールはまず壁1に当たり、次に壁2に当たって戻ってくる。

(1) 壁1で跳ね返った後のボールの速度成分を求めよ。

(2) 壁2で跳ね返った後のボールの速度成分を求めよ。

(3) $e = 1$ のとき、ボールが入射方向と正反対に戻ることを示せ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 壁1に垂直:$ev\cos\theta$(反転)、壁1に平行:$v\sin\theta$(不変)

(2) 壁1に垂直:$ev\cos\theta$(不変)、壁1に平行:$ev\sin\theta$(反転)

(3) 下記解説参照

解説

壁1の法線方向を $x$、壁2の法線方向を $y$ とする(直交する)。

入射速度:$v_x = v\cos\theta$(壁1に向かう)、$v_y = v\sin\theta$(壁2に向かう)

(1) 壁1との衝突:$x$ 成分が反発、$y$ 成分は不変

$v_x' = -ev\cos\theta$(壁1から離れる向き)、$v_y' = v\sin\theta$

(2) 壁2との衝突:$y$ 成分が反発、$x$ 成分は不変

$v_x'' = -ev\cos\theta$(不変)、$v_y'' = -ev\sin\theta$(壁2から離れる向き)

(3) $e = 1$ のとき:$v_x'' = -v\cos\theta$、$v_y'' = -v\sin\theta$

これは入射速度 $(v\cos\theta, v\sin\theta)$ の符号を両方反転させたものなので、入射方向と正反対に戻ることが示された。

採点ポイント
  • 各壁で垂直成分のみが変化することを正しく適用(各3点)
  • $e = 1$ の場合に正反対を示す論証(4点)