ビリヤードの球がぶつかると、2つの球はさまざまな方向に散らばります。
一直線上の衝突では1方向だけを考えればよかったのですが、平面上の衝突では$x$ 方向と $y$ 方向の両方で運動量保存が成り立ちます。
ベクトルで考える衝突の世界に踏み出しましょう。
運動量はベクトル量なので、運動量保存則は各成分ごとに成り立ちます。
$x$ 方向:
$$m_1 v_{1x} + m_2 v_{2x} = m_1 v_{1x}' + m_2 v_{2x}'$$
$y$ 方向:
$$m_1 v_{1y} + m_2 v_{2y} = m_1 v_{1y}' + m_2 v_{2y}'$$
2次元の衝突問題では、未知数が増えるため、運動量保存(2式)だけでは足りないことが多いです。 追加の条件として、エネルギー保存、反発係数、飛び出す角度の情報などが与えられます。
2次元では運動量保存は2つの独立な式($x$ 成分と $y$ 成分)を与えます。しかし、衝突後の速度は2物体 $\times$ 2成分 = 4つの未知数があるため、運動量保存だけでは解けません。
弾性衝突ならエネルギー保存が加わって3式。残りの1つは問題文の条件(飛び出し角度など)で決まります。
運動量保存はベクトルの式です。大きさだけでは不十分です。
✕ 誤:$m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1' + m_2 v_2'$(大きさだけで立式)
○ 正:$x$ 方向と $y$ 方向それぞれで式を立てる
2次元の衝突では、必ず成分ごとに分けて考えましょう。
ビリヤードのように、同じ質量の球が弾性衝突する場合、衝突後の2球の速度ベクトルは直交するという美しい性質があります。
同じ質量の2球(一方が静止)が弾性衝突した場合:
$$\vec{v}_1' \perp \vec{v}_2' \quad (\text{衝突後の速度ベクトルは直交する})$$
$m_1 = m_2 = m$、$\vec{v}_2 = \vec{0}$ とする。
運動量保存:$\vec{v}_1 = \vec{v}_1' + \vec{v}_2'$ …①
エネルギー保存:$v_1^2 = v_1'^2 + v_2'^2$ …②
①の両辺の大きさの2乗をとると、
$v_1^2 = v_1'^2 + v_2'^2 + 2\vec{v}_1' \cdot \vec{v}_2'$
②と比較すると、$2\vec{v}_1' \cdot \vec{v}_2' = 0$
したがって $\vec{v}_1' \perp \vec{v}_2'$(直交する)。
ビリヤードで手球が的球に当たると、2球は必ず 90 度に散らばります。これが等質量弾性衝突の直交定理です。
この定理により、衝突後の1球の方向がわかれば、もう1球の方向は自動的に決まります。未知数が1つ減るので、問題が解きやすくなります。
運動量保存 $\vec{v}_1 = \vec{v}_1' + \vec{v}_2'$ は、$\vec{v}_1$、$\vec{v}_1'$、$\vec{v}_2'$ がベクトルの三角形を作ることを意味します。
直交定理より、この三角形は $\vec{v}_1$ を斜辺とする直角三角形です。したがって、$\vec{v}_1$ を直径とする円の周上に $\vec{v}_1'$ と $\vec{v}_2'$ の先端が乗ります(タレスの定理)。
質量が異なる場合や非弾性衝突の場合は、直交定理は使えません。 基本に戻って、運動量保存の式を成分ごとに立てます。
2次元衝突で反発係数の式を使うとき、注意が必要です。
✕ 誤:反発係数をすべての方向に適用する
○ 正:反発係数は2球の中心を結ぶ線(衝突線)方向の相対速度成分にのみ適用する
衝突線に垂直な方向の速度成分は衝突の影響を受けません(滑らかな球の場合)。
球同士の衝突では、衝突線(衝突の瞬間に2球の中心を結ぶ線)方向が重要です。
衝突線方向の相対速度について:
$$e = -\frac{v_{1n}' - v_{2n}'}{v_{1n} - v_{2n}}$$
接線方向の速度は各球で不変:
$$v_{1t}' = v_{1t}, \quad v_{2t}' = v_{2t}$$
衝突時に球と球の間に働く力(撃力)は、2球の中心を結ぶ方向に働きます。
したがって、撃力の接線方向成分はゼロです。力が働かない方向には、速度変化が起こりません。
これは壁との衝突で「壁面に平行な成分が変わらない」のと同じ原理です。
質量 $m$ の球 A が速さ $v_0$ で $x$ 軸方向に進み、静止している同じ質量 $m$ の球 B に斜めに衝突した。 衝突後、A は $x$ 軸から角度 $30°$ の方向に進んだ。B の速度ベクトルの方向と速さを求めよ。弾性衝突とする。
解法:直交定理より、B は A の進行方向と $90°$ をなす方向に飛ぶので、$x$ 軸から $-60°$ の方向に進む。
運動量保存($x$ 方向):$mv_0 = mv_A'\cos 30° + mv_B'\cos 60°$
運動量保存($y$ 方向):$0 = mv_A'\sin 30° - mv_B'\sin 60°$
$y$ 方向より:$v_A'\sin 30° = v_B'\sin 60°$ → $v_A' \cdot \dfrac{1}{2} = v_B' \cdot \dfrac{\sqrt{3}}{2}$ → $v_A' = \sqrt{3}\,v_B'$
$x$ 方向に代入:$v_0 = \sqrt{3}\,v_B' \cdot \dfrac{\sqrt{3}}{2} + v_B' \cdot \dfrac{1}{2} = \dfrac{3}{2}v_B' + \dfrac{1}{2}v_B' = 2v_B'$
よって $v_B' = \dfrac{v_0}{2}$、$v_A' = \dfrac{\sqrt{3}\,v_0}{2}$
2次元衝突では、速度の $y$ 成分に符号がつきます。
✕ 誤:$y$ 方向の運動量保存で、すべての $\sin$ を正に書く
○ 正:$x$ 軸の上に飛ぶものと下に飛ぶものの $y$ 成分の符号を区別する
図を描いて、各速度ベクトルの $y$ 成分の正負を確認しましょう。
平面上の衝突は、一直線上の衝突の自然な拡張です。
Q1. 2次元の衝突で、運動量保存の式はいくつ立てられますか。
Q2. 同じ質量の球が弾性衝突したとき、衝突後の2球の速度ベクトルの関係は何ですか。
Q3. 滑らかな球同士の衝突で、接線方向の速度成分はどうなりますか。
Q4. 2次元衝突で反発係数を適用するのは、どの方向の速度成分ですか。
平面上の衝突を入試形式で演習しましょう。
なめらかな水平面上で、質量 $m$ の球 A が速さ $v_0$ で $x$ 軸正方向に進み、静止している同じ質量の球 B に衝突した。衝突後、A は $x$ 軸から $45°$ の方向に進んだ。弾性衝突として、衝突後の A, B の速さを求めよ。
$v_A' = \dfrac{v_0}{\sqrt{2}}$、$v_B' = \dfrac{v_0}{\sqrt{2}}$
等質量弾性衝突の直交定理より、B は $x$ 軸から $-45°$ の方向に飛ぶ。
$y$ 方向の運動量保存:$0 = mv_A'\sin 45° - mv_B'\sin 45°$ → $v_A' = v_B'$
$x$ 方向の運動量保存:$mv_0 = mv_A'\cos 45° + mv_B'\cos 45° = 2mv_A'\cos 45°$
$v_0 = 2v_A' \cdot \dfrac{\sqrt{2}}{2} = \sqrt{2}\,v_A'$ → $v_A' = \dfrac{v_0}{\sqrt{2}}$
対称性から $v_B' = \dfrac{v_0}{\sqrt{2}}$
なめらかな水平面上で、質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体 A が $x$ 軸正方向に $3.0\,\text{m/s}$ で、質量 $1.0\,\text{kg}$ の物体 B が $y$ 軸正方向に $6.0\,\text{m/s}$ で進み、衝突して一体となった。衝突後の速度の大きさと方向を求めよ。
速さ $\approx 2.8\,\text{m/s}$、$x$ 軸から約 $45°$
$x$ 方向:$2.0 \times 3.0 = (2.0 + 1.0)\,V_x$ → $V_x = 2.0\,\text{m/s}$
$y$ 方向:$1.0 \times 6.0 = (2.0 + 1.0)\,V_y$ → $V_y = 2.0\,\text{m/s}$
$V = \sqrt{2.0^2 + 2.0^2} = 2\sqrt{2} \approx 2.8\,\text{m/s}$
$\tan\alpha = \dfrac{V_y}{V_x} = 1$ → $\alpha = 45°$
なめらかな水平面上で、質量 $m$ の球 A が速さ $6.0\,\text{m/s}$ で $x$ 軸正方向に進み、静止している同じ質量の球 B に弾性衝突した。衝突後、A は $x$ 軸から $30°$ の方向に進んだ。
(1) 衝突後の B の進行方向を求めよ。
(2) A, B それぞれの衝突後の速さを求めよ。
(3) 衝突前後で運動エネルギーが保存されていることを確認せよ。
(1) $x$ 軸から $-60°$(A の方向と直交)
(2) $v_A' = 3\sqrt{3} \approx 5.2\,\text{m/s}$、$v_B' = 3.0\,\text{m/s}$
(3) 下記参照
(1) 等質量弾性衝突の直交定理より、$90° - 30° = 60°$ → B は $x$ 軸から $-60°$。
(2) $y$ 方向:$0 = mv_A'\sin 30° - mv_B'\sin 60°$
$v_A' \times 0.50 = v_B' \times \dfrac{\sqrt{3}}{2}$ → $v_A' = \sqrt{3}\,v_B'$ …①
$x$ 方向:$6.0m = mv_A'\cos 30° + mv_B'\cos 60°$
$6.0 = \sqrt{3}\,v_B' \times \dfrac{\sqrt{3}}{2} + v_B' \times 0.50 = \dfrac{3}{2}v_B' + \dfrac{1}{2}v_B' = 2v_B'$
$v_B' = 3.0\,\text{m/s}$、$v_A' = 3\sqrt{3} \approx 5.2\,\text{m/s}$
(3) $K_{\text{前}} = \dfrac{1}{2}m \times 6.0^2 = 18m$
$K_{\text{後}} = \dfrac{1}{2}m(3\sqrt{3})^2 + \dfrac{1}{2}m \times 3.0^2 = \dfrac{27m}{2} + \dfrac{9m}{2} = 18m$ ✓
なめらかな水平面上で、質量 $2m$ の球 A が速さ $v_0$ で $x$ 軸正方向に進み、静止している質量 $m$ の球 B に衝突して一体となった。衝突後の一体の速度ベクトルが $x$ 軸から $30°$ の方向であったとき、衝突後の速さを求めよ。
$V = \dfrac{2v_0}{3\cos 30°} = \dfrac{4v_0}{3\sqrt{3}}$
$x$ 方向の運動量保存:$2m\,v_0 = (2m + m)\,V\cos 30°$
$2v_0 = 3V \cdot \dfrac{\sqrt{3}}{2}$ → $V = \dfrac{4v_0}{3\sqrt{3}} = \dfrac{4\sqrt{3}\,v_0}{9}$
($y$ 方向の運動量保存 $0 = 3m\,V\sin 30°$ から $V\sin 30° = 0$ となるので、B は衝突前に $y$ 方向の運動量を持っていないとすると矛盾する。実際には、この問題は球 B が静止していた場合には成立しない。A が斜めに入射した場合を想定すべき。)
修正:A が $x$ 軸方向に $v_0$ で進み、一体が $30°$ 方向に飛ぶには、B が $y$ 方向の速度を持つ必要があります。
$x$ 方向:$2m\,v_0 = 3m\,V\cos 30°$ → $V = \dfrac{2v_0}{3\cos 30°} = \dfrac{4v_0}{3\sqrt{3}}$
$y$ 方向:$m\,v_{By} = 3m\,V\sin 30°$ → B の $y$ 方向初速 $v_{By} = 3V\sin 30° = \dfrac{2v_0}{\sqrt{3}}$
なめらかな水平面上で、質量 $m$ の球 A が速さ $v_0$ で進み、静止している同じ質量の球 B に衝突した。衝突の瞬間、A の速度方向と2球の中心を結ぶ線(衝突線)のなす角が $\alpha$ であった。弾性衝突($e = 1$)として、衝突後の A, B それぞれの速さを $v_0$, $\alpha$ で表せ。
$v_A' = v_0\sin\alpha$、$v_B' = v_0\cos\alpha$
衝突線方向($n$)と接線方向($t$)に分解する。
A の衝突線方向成分:$v_{An} = v_0\cos\alpha$、接線方向成分:$v_{At} = v_0\sin\alpha$
B は静止:$v_{Bn} = 0$、$v_{Bt} = 0$
衝突線方向:等質量の弾性衝突なので速度が入れ替わる。
$v_{An}' = 0$、$v_{Bn}' = v_0\cos\alpha$
接線方向:変化なし。$v_{At}' = v_0\sin\alpha$、$v_{Bt}' = 0$
$v_A' = \sqrt{v_{An}'^2 + v_{At}'^2} = v_0\sin\alpha$
$v_B' = \sqrt{v_{Bn}'^2 + v_{Bt}'^2} = v_0\cos\alpha$
確認:$v_A'^2 + v_B'^2 = v_0^2\sin^2\alpha + v_0^2\cos^2\alpha = v_0^2$ ✓(エネルギー保存)
質量の等しい2球 A, B がなめらかな水平面上にある。B は静止しており、A が速度 $\vec{v}_0$ で B に弾性衝突した。衝突後の A, B の速度を $\vec{v}_A'$, $\vec{v}_B'$ とする。
(1) 運動量保存則をベクトルの式で書け。
(2) 運動エネルギー保存の式を書け。
(3) (1)(2)から $\vec{v}_A' \cdot \vec{v}_B' = 0$ を導き、衝突後の速度ベクトルが直交することを証明せよ。
下記解説参照
(1) $m\vec{v}_0 = m\vec{v}_A' + m\vec{v}_B'$ → $\vec{v}_0 = \vec{v}_A' + \vec{v}_B'$ …①
(2) $\dfrac{1}{2}mv_0^2 = \dfrac{1}{2}mv_A'^2 + \dfrac{1}{2}mv_B'^2$ → $v_0^2 = v_A'^2 + v_B'^2$ …②
(3) ①の両辺の大きさの2乗をとる:
$|\vec{v}_0|^2 = |\vec{v}_A' + \vec{v}_B'|^2 = v_A'^2 + v_B'^2 + 2\vec{v}_A' \cdot \vec{v}_B'$
すなわち $v_0^2 = v_A'^2 + v_B'^2 + 2\vec{v}_A' \cdot \vec{v}_B'$ …③
②と③を比較すると $2\vec{v}_A' \cdot \vec{v}_B' = 0$
よって $\vec{v}_A' \cdot \vec{v}_B' = 0$、すなわち $\vec{v}_A' \perp \vec{v}_B'$(直交)。 ■