衝突は「2つの物体が1つになる、あるいは跳ね返る」現象でした。
逆に、1つの物体が2つ以上に分裂する現象でも、運動量保存則が成り立ちます。
爆発による飛散、ロケットの噴射、台の上での人のジャンプ—内部エネルギーが放出される分裂の世界を学びましょう。
分裂は衝突の逆過程です。 衝突では運動エネルギーが内部エネルギーに変わりましたが、分裂では内部エネルギーが運動エネルギーに変換されます。
分裂前の運動量 = 分裂後の各部分の運動量の合計
$$(m_1 + m_2)\,V = m_1\,v_1 + m_2\,v_2$$
衝突では運動エネルギーが減少しましたが、分裂では運動エネルギーが増加します。増加分は内部エネルギー(火薬の化学エネルギー、ばねの弾性エネルギーなど)から供給されます。
$$K_{\text{後}} = K_{\text{前}} + Q$$
ここで $Q$ は放出された内部エネルギーです。
分裂では運動エネルギーは保存されません。内部エネルギーが加わるからです。
✕ 誤:$\dfrac{1}{2}(m_1+m_2)V^2 = \dfrac{1}{2}m_1 v_1^2 + \dfrac{1}{2}m_2 v_2^2$
○ 正:$\dfrac{1}{2}(m_1+m_2)V^2 + Q = \dfrac{1}{2}m_1 v_1^2 + \dfrac{1}{2}m_2 v_2^2$
$Q$ は爆発や仕掛けで放出されたエネルギーです。
最もシンプルな場合として、静止している物体が2つに分裂する場合を考えます。 分裂前の運動量は $0$ なので、
$$0 = m_1\,v_1 + m_2\,v_2$$
したがって $m_1\,v_1 = -m_2\,v_2$、つまり2つの破片は逆向きに飛ぶことがわかります。
$$\frac{v_1}{v_2} = -\frac{m_2}{m_1}$$
速度 $V$ で飛んでいる物体が分裂する場合は、進行方向を正として運動量保存の式を立てます。
例:質量 $5.0\,\text{kg}$ の砲弾が速度 $100\,\text{m/s}$ で水平に飛んでいるとき、2つに分裂した。前方の破片($2.0\,\text{kg}$)が $200\,\text{m/s}$ で飛んだとき、後方の破片の速度は?
$$5.0 \times 100 = 2.0 \times 200 + 3.0 \times v_2$$
$$500 = 400 + 3.0\,v_2 \quad \Rightarrow \quad v_2 = \frac{100}{3.0} \approx 33\,\text{m/s}$$
上の例で、放出されたエネルギー $Q$ を求めてみましょう。
$K_{\text{前}} = \dfrac{1}{2} \times 5.0 \times 100^2 = 25000\,\text{J}$
$K_{\text{後}} = \dfrac{1}{2} \times 2.0 \times 200^2 + \dfrac{1}{2} \times 3.0 \times 33.3^2 = 40000 + 1667 \approx 41667\,\text{J}$
$Q = K_{\text{後}} - K_{\text{前}} \approx 16667\,\text{J} \approx 17\,\text{kJ}$
ロケットは、ガスを後方に噴射することで前に進みます。 これも分裂(ロケット本体とガスへの分裂)の一種であり、運動量保存則で説明できます。
質量 $M$ のロケットが静止状態から質量 $\Delta m$ のガスを速さ $u$ で後方に噴射したとき、
$$0 = (M - \Delta m)\,V + \Delta m\,(-u)$$
$$V = \frac{\Delta m \cdot u}{M - \Delta m}$$
ロケットが空気を押して飛ぶわけではありません(宇宙空間でも飛べる)。ガスを後ろに噴射する反動で前に進むのです。
これは運動量保存そのものです。系全体の運動量が $0$ なら、ガスが後ろに飛ぶ分だけロケット本体が前に進まなければなりません。
実際のロケットはガスを連続的に噴射します。微小時間 $dt$ に質量 $dm$ のガスを相対速度 $u$ で噴射すると、
$M\,dv = u\,dm$ → $dv = u\,\dfrac{dm}{M}$
質量が $M_0$ から $M_f$ に減少する間に積分すると、
$$\Delta v = u \ln\frac{M_0}{M_f}$$
これがツィオルコフスキーの公式です。大学レベルの内容ですが、対数が出てくる美しい結果です。
なめらかな水平面上に置かれた台の上で人がジャンプしたり、ボールを投げたりする問題も、分裂の問題と同じです。
質量 $M$ のなめらかな台の上に質量 $m$ の人が立っている。台は水平方向に自由に動ける。 人が台に対して速度 $u$ で飛び出すとき、台の速度と人の地面に対する速度を求めます。
地面に対する運動量保存:$0 = m\,v_{\text{人}} + M\,v_{\text{台}}$
台に対する相対速度の条件:$v_{\text{人}} - v_{\text{台}} = u$
これを連立すると、
$$v_{\text{台}} = -\frac{mu}{m + M}, \quad v_{\text{人}} = \frac{Mu}{m + M}$$
問題文で「台に対して速度 $u$ で飛び出す」と書かれたとき、$u$ は台からの相対速度です。
✕ 誤:$0 = m \cdot u + M\,v_{\text{台}}$ として計算($u$ を地面に対する速度と誤解)
○ 正:$v_{\text{人}} - v_{\text{台}} = u$(相対速度の条件)を別に立てて連立
台も動いているので、人の地面に対する速度は $u$ ではありません。
静止した船の上を人が歩くと、船は反対方向に動きます。これも内力(人の脚力)による分裂と同じ原理です。
人が距離 $d$ だけ船の上を歩くと、地面に対して人が進む距離は $\dfrac{Md}{m+M}$、船が戻る距離は $\dfrac{md}{m+M}$ です。
分裂と合体は衝突の拡張であり、運動量保存の適用範囲の広さを示します。
Q1. 静止した物体が2つに分裂するとき、2つの破片の運動量の関係はどうなりますか。
Q2. 分裂の前後で運動エネルギーはどう変化しますか。
Q3. 宇宙空間でロケットが進むのはなぜですか。運動量保存の観点から説明してください。
Q4. 質量 $M$ の台上で質量 $m$ の人が台に対して速度 $u$ で飛び出すとき、台の速度はいくらですか。
分裂と合体の問題を入試形式で演習しましょう。
なめらかな水平面上で、静止している質量 $5.0\,\text{kg}$ の物体が爆発して、質量 $2.0\,\text{kg}$ の破片 A と質量 $3.0\,\text{kg}$ の破片 B に分裂した。A が $6.0\,\text{m/s}$ で右向きに飛んだとき、次の問いに答えよ。
(1) B の速度を求めよ。
(2) 爆発で放出されたエネルギーを求めよ。
(1) $v_B = -4.0\,\text{m/s}$(左向きに $4.0\,\text{m/s}$)
(2) $Q = 60\,\text{J}$
(1) 運動量保存:$0 = 2.0 \times 6.0 + 3.0 \times v_B$
$v_B = -\dfrac{12}{3.0} = -4.0\,\text{m/s}$(左向き)
(2) $K_{\text{後}} = \dfrac{1}{2} \times 2.0 \times 6.0^2 + \dfrac{1}{2} \times 3.0 \times 4.0^2 = 36 + 24 = 60\,\text{J}$
$K_{\text{前}} = 0$ なので、$Q = 60 - 0 = 60\,\text{J}$
質量 $4.0\,\text{kg}$ の砲弾が速度 $50\,\text{m/s}$ で水平に飛んでいるとき、2つに分裂した。後方の破片($1.0\,\text{kg}$)が速度 $10\,\text{m/s}$(同じ向き)で飛んだとき、前方の破片の速度を求めよ。
$v_1 \approx 63\,\text{m/s}$(前方の向き)
運動量保存:$4.0 \times 50 = 3.0 \times v_1 + 1.0 \times 10$
$200 = 3.0\,v_1 + 10$ → $v_1 = \dfrac{190}{3.0} \approx 63\,\text{m/s}$
なめらかな水平面上に質量 $M = 40\,\text{kg}$ の台が置かれ、その上に質量 $m = 60\,\text{kg}$ の人が立っている。人が台に対して水平に速度 $u = 5.0\,\text{m/s}$ で飛び出した。
(1) 台の地面に対する速度を求めよ。
(2) 人の地面に対する速度を求めよ。
(3) 人が飛び出すのに必要なエネルギーを求めよ。
(1) $v_{\text{台}} = -3.0\,\text{m/s}$
(2) $v_{\text{人}} = 2.0\,\text{m/s}$
(3) $Q = 300\,\text{J}$
運動量保存:$0 = 60\,v_{\text{人}} + 40\,v_{\text{台}}$ …①
相対速度:$v_{\text{人}} - v_{\text{台}} = 5.0$ …②
②より $v_{\text{人}} = v_{\text{台}} + 5.0$ → ①に代入
$60(v_{\text{台}} + 5.0) + 40\,v_{\text{台}} = 0$
$100\,v_{\text{台}} + 300 = 0$ → $v_{\text{台}} = -3.0\,\text{m/s}$
$v_{\text{人}} = -3.0 + 5.0 = 2.0\,\text{m/s}$
(3) $Q = \dfrac{1}{2} \times 60 \times 2.0^2 + \dfrac{1}{2} \times 40 \times 3.0^2 = 120 + 180 = 300\,\text{J}$
宇宙空間で静止している質量 $500\,\text{kg}$ のロケットが、質量 $50\,\text{kg}$ のガスを速さ $200\,\text{m/s}$ で後方に噴射した。噴射後のロケットの速さを求めよ。
$V \approx 22\,\text{m/s}$
運動量保存:$0 = (500 - 50) \times V + 50 \times (-200)$
$0 = 450\,V - 10000$ → $V = \dfrac{10000}{450} \approx 22\,\text{m/s}$
なめらかな水平面上で、質量 $6.0\,\text{kg}$ の物体が速度 $10\,\text{m/s}$ で $x$ 軸正方向に進んでいたところ、3つの破片 A($2.0\,\text{kg}$)、B($1.0\,\text{kg}$)、C($3.0\,\text{kg}$) に分裂した。A は $x$ 軸正方向に $20\,\text{m/s}$、B は $y$ 軸正方向に $12\,\text{m/s}$ で飛んだ。C の速度ベクトルを求めよ。
$v_{Cx} \approx 6.7\,\text{m/s}$、$v_{Cy} = -4.0\,\text{m/s}$
$x$ 方向:$6.0 \times 10 = 2.0 \times 20 + 1.0 \times 0 + 3.0 \times v_{Cx}$
$60 = 40 + 3.0\,v_{Cx}$ → $v_{Cx} = \dfrac{20}{3.0} \approx 6.7\,\text{m/s}$
$y$ 方向:$0 = 2.0 \times 0 + 1.0 \times 12 + 3.0 \times v_{Cy}$
$0 = 12 + 3.0\,v_{Cy}$ → $v_{Cy} = -4.0\,\text{m/s}$
C は $x$ 軸正方向に $6.7\,\text{m/s}$、$y$ 軸負方向に $4.0\,\text{m/s}$ の速度で飛ぶ。
地面から速さ $v_0$、仰角 $45°$ で打ち上げた質量 $2m$ の砲弾が、最高点で水平方向に2つの等しい質量 $m$ の破片に分裂した。一方の破片がその場に静止したとき、もう一方の破片について次の問いに答えよ。$g$ を重力加速度とする。
(1) 分裂直後の速度を求めよ。
(2) 分裂で放出されたエネルギーを求めよ。
(3) この破片が地面に到達する水平距離(発射点からの距離)を求めよ。
(1) $v_0\sqrt{2}$(水平方向)
(2) $Q = \dfrac{1}{4}mv_0^2$
(3) $\dfrac{3v_0^2}{2g}$
最高点では速度は水平成分のみ:$v_x = v_0\cos 45° = \dfrac{v_0}{\sqrt{2}}$
(1) 運動量保存(水平方向):$2m \cdot \dfrac{v_0}{\sqrt{2}} = m \cdot 0 + m \cdot v'$
$v' = \dfrac{2v_0}{\sqrt{2}} = v_0\sqrt{2}$
(2) $K_{\text{前}} = \dfrac{1}{2} \cdot 2m \cdot \left(\dfrac{v_0}{\sqrt{2}}\right)^2 = \dfrac{mv_0^2}{2}$
$K_{\text{後}} = 0 + \dfrac{1}{2}m(v_0\sqrt{2})^2 = mv_0^2$
$Q = mv_0^2 - \dfrac{mv_0^2}{2} = \dfrac{mv_0^2}{2}$
(修正:$Q = K_{\text{後}} - K_{\text{前}} = mv_0^2 - \dfrac{mv_0^2}{2} = \dfrac{mv_0^2}{2}$。ただし破片は各 $m$ なので、放出エネルギーは $\dfrac{mv_0^2}{2}$。全体を $2m$ で見ると $Q = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{mv_0^2}{1} = \dfrac{mv_0^2}{2}$)
(3) 最高点の高さ:$H = \dfrac{v_0^2\sin^2 45°}{2g} = \dfrac{v_0^2}{4g}$
最高点の水平位置(発射点から):$x_0 = \dfrac{v_0^2\sin 90°}{2g} = \dfrac{v_0^2}{2g}$(飛距離の半分)
最高点から落下する時間:$H = \dfrac{1}{2}gt^2$ → $t = \sqrt{\dfrac{2H}{g}} = \dfrac{v_0}{\sqrt{2}\,g}$
最高点からの水平飛距離:$\Delta x = v_0\sqrt{2} \times \dfrac{v_0}{\sqrt{2}\,g} = \dfrac{v_0^2}{g}$
全水平距離:$x_0 + \Delta x = \dfrac{v_0^2}{2g} + \dfrac{v_0^2}{g} = \dfrac{3v_0^2}{2g}$