第7章 運動量の保存

重心の運動
─ 内力では重心は動かない

衝突しても分裂しても、系全体の運動量は保存されます。この事実を最も端的に表すのが重心の概念です。
内力しか働かなければ、個々の物体がどう動こうと、重心は一定速度で進み続けます。
重心で見ると、衝突も分裂もすっきりと理解できます。

1重心の位置と速度

2つの質点の重心は、質量で重みづけした位置の平均です。

📐 2質点の重心の位置

$$x_G = \frac{m_1\,x_1 + m_2\,x_2}{m_1 + m_2}$$

2次元の場合:

$$\vec{r}_G = \frac{m_1\,\vec{r}_1 + m_2\,\vec{r}_2}{m_1 + m_2}$$

※ 重心は重い方の質点に近い位置にある。質量が等しければ、重心は2点の中点。

重心の位置を時間で微分すると、重心速度が得られます。

📐 重心速度

$$v_G = \frac{m_1\,v_1 + m_2\,v_2}{m_1 + m_2}$$

すなわち、

$$(m_1 + m_2)\,v_G = m_1\,v_1 + m_2\,v_2 = \text{系の全運動量}$$

※ 重心速度 × 全質量 = 系の全運動量。これが重心の最も重要な性質。
💡 ここが本質:重心速度 = 全運動量 / 全質量

重心速度は系全体の運動量を全質量で割ったものです。したがって、運動量が保存されれば、重心速度も保存されます。

これが「内力では重心の運動は変わらない」という定理の数学的な本質です。

2重心の運動方程式

系全体に働く外力の合計が $\vec{F}_{\text{ext}}$ のとき、重心は次の運動方程式に従います。

📐 重心の運動方程式

$$M\,\vec{a}_G = \vec{F}_{\text{ext}}$$

$M = m_1 + m_2$:全質量、$\vec{a}_G$:重心の加速度

※ 内力(作用・反作用のペア)はキャンセルし、外力の合計だけが重心の運動を決める。
▷ 重心の運動方程式の導出

質点1の運動方程式:$m_1\,\vec{a}_1 = \vec{F}_1^{\text{ext}} + \vec{f}_{12}$

質点2の運動方程式:$m_2\,\vec{a}_2 = \vec{F}_2^{\text{ext}} + \vec{f}_{21}$

辺々足すと、$\vec{f}_{12} + \vec{f}_{21} = \vec{0}$(作用・反作用)なので、

$m_1\,\vec{a}_1 + m_2\,\vec{a}_2 = \vec{F}_1^{\text{ext}} + \vec{F}_2^{\text{ext}}$

左辺は $\dfrac{d}{dt}(m_1\,\vec{v}_1 + m_2\,\vec{v}_2) = (m_1 + m_2)\,\vec{a}_G$ なので、

$M\,\vec{a}_G = \vec{F}_{\text{ext}}$

🔬 深掘り:重心は「質点のように振る舞う」

重心の運動方程式 $M\vec{a}_G = \vec{F}_{\text{ext}}$ は、全質量 $M$ の1つの質点が外力 $\vec{F}_{\text{ext}}$ を受けたときの運動方程式と全く同じ形です。

つまり、系全体の重心は、すべての質量が1点に集まった質点のように運動します。個々の質点がどう動くかは関係ありません。

3内力では重心は動かない

外力がゼロ($\vec{F}_{\text{ext}} = \vec{0}$)のとき、重心の運動方程式は $M\,\vec{a}_G = \vec{0}$、すなわち $\vec{a}_G = \vec{0}$ となります。

これは、重心は等速直線運動を続ける(静止していれば静止し続ける)ことを意味します。

💡 ここが本質:衝突しても分裂しても重心は変わらない

外力が働かなければ、系内部で何が起ころうと(衝突、分裂、爆発)、重心の速度は変わりません

完全非弾性衝突で一体になった物体の速度が重心速度に一致するのは、この原理の直接的な帰結です。

具体例:静止した重心

なめらかな水平面上で、2つの物体が静止状態から内力(ばねや爆発など)で動き出す場合、重心は静止したままです。

これは $m_1 v_1 + m_2 v_2 = 0$(運動量保存)の幾何学的表現です。 重心から見ると、2物体は常に反対方向に、質量の逆比の速さで動いています。

⚠️ 落とし穴:重力を忘れて「重心が動かない」と言ってしまう

「内力では重心は動かない」は外力がゼロの場合の話です。

✕ 誤:砲弾が分裂しても重心は動かない(重力という外力が働いている)

○ 正:砲弾が分裂しても、重心は分裂がなかった場合と同じ放物運動を続ける

外力(重力)がある場合、重心は「外力による運動」を続けます。分裂の有無で重心の運動は変わりません。

4衝突・分裂を重心で見る

完全非弾性衝突と重心速度

完全非弾性衝突で一体となった物体の速度 $V = \dfrac{m_1 v_1 + m_2 v_2}{m_1 + m_2}$ は、まさに重心速度そのものです。

衝突前から重心速度は同じ値だったのですが、衝突後に全物体が重心速度で動くようになったのが完全非弾性衝突です。

放物運動中の分裂

空中で砲弾が分裂しても、重心は分裂しなかった場合と同じ放物運動を続けます。 これを利用すると、分裂後の破片の落下位置を求められます。

例えば、重心が位置 $x_G$ に落下するとわかっていて、一方の破片が $x_1$ に落ちたとき、もう一方の落下位置は、

$$x_G = \frac{m_1\,x_1 + m_2\,x_2}{m_1 + m_2} \quad \Rightarrow \quad x_2 = \frac{(m_1+m_2)\,x_G - m_1\,x_1}{m_2}$$

📐 重心の落下位置からの逆算

重心位置 $x_G$ がわかっていて、破片1の位置 $x_1$ がわかれば、

$$x_2 = \frac{(m_1+m_2)\,x_G - m_1\,x_1}{m_2}$$

※ 砲弾が分裂しなかった場合の落下地点が重心の落下位置になる。
🔬 深掘り:重心系(重心から見た座標系)

重心と一緒に動く座標系(重心系)で見ると、系の全運動量は常に $0$ です。

弾性衝突を重心系で見ると、2物体は衝突前後で速度の大きさが変わらず向きだけが反転するという、非常にシンプルな描像になります。

大学物理では重心系が衝突の分析に不可欠な道具となります。

5この章を俯瞰する

重心の概念は、運動量保存則の幾何学的・統一的な表現です。

つながりマップ

  • ← M-7-3 運動量保存則:運動量保存 = 重心速度が一定。2つは同じことの異なる表現。
  • ← M-7-5 非弾性衝突:完全非弾性衝突後の速度が重心速度に一致することを理解する。
  • ← M-7-8 分裂と合体:分裂しても重心の運動は変わらないことで問題が解ける。
  • ← M-3 放物運動:空中で分裂しても重心は放物運動を続ける。
  • → M-7-10 総合演習:重心の考え方を使った総合問題に挑戦。

📋まとめ

  • 重心の位置:$x_G = \dfrac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2}$(質量で重みづけした平均)
  • 重心速度:$v_G = \dfrac{m_1 v_1 + m_2 v_2}{m_1 + m_2}$ = 全運動量 / 全質量
  • 重心の運動方程式:$M\,\vec{a}_G = \vec{F}_{\text{ext}}$(外力のみで決まる)
  • 外力がなければ重心は等速直線運動を続ける(静止なら静止し続ける)
  • 衝突・分裂では重心の運動は変わらない(内力はキャンセル)
  • 空中分裂の問題では重心の放物運動を使うと見通しがよい

確認テスト

Q1. 質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体 A が $x = 0$ に、質量 $1.0\,\text{kg}$ の物体 B が $x = 4.0\,\text{m}$ にあるとき、重心の位置はどこか。

▶ クリックして解答を表示$x_G = \dfrac{3.0 \times 0 + 1.0 \times 4.0}{3.0 + 1.0} = 1.0\,\text{m}$(A に近い方)

Q2. 重心の運動方程式 $M\vec{a}_G = \vec{F}_{\text{ext}}$ で、内力が含まれないのはなぜか。

▶ クリックして解答を表示内力は作用・反作用の法則により、互いに大きさが等しく逆向きなので、系全体で合計するとゼロになるから。

Q3. なめらかな水平面上で2物体が衝突した。外力が働かないとき、重心の速度はどうなるか。

▶ クリックして解答を表示衝突の前後で変わらない。外力がなければ重心速度は一定(運動量保存と同じこと)。

Q4. 空中で砲弾が2つに分裂した。重心はどのような運動を続けるか。

▶ クリックして解答を表示分裂しなかった場合と同じ放物運動を続ける。重心に働く外力は重力だけで、分裂(内力)は重心の運動に影響しない。

8入試問題演習

重心の運動を入試形式で演習しましょう。

A 基礎レベル

7-9-1 A 基礎 重心位置計算

$x$ 軸上に質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体 A が $x = 1.0\,\text{m}$ に、質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体 B が $x = 6.0\,\text{m}$ にある。

(1) 重心の位置を求めよ。

(2) A が $+2.0\,\text{m/s}$、B が $-1.0\,\text{m/s}$ で動いているとき、重心速度を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $x_G = 4.0\,\text{m}$

(2) $v_G = 0.20\,\text{m/s}$

解説

(1) $x_G = \dfrac{2.0 \times 1.0 + 3.0 \times 6.0}{2.0 + 3.0} = \dfrac{2.0 + 18}{5.0} = 4.0\,\text{m}$

(2) $v_G = \dfrac{2.0 \times 2.0 + 3.0 \times (-1.0)}{5.0} = \dfrac{4.0 - 3.0}{5.0} = 0.20\,\text{m/s}$

7-9-2 A 基礎 重心と衝突計算

なめらかな水平面上で、質量 $4.0\,\text{kg}$ の物体 A が $3.0\,\text{m/s}$ で右向きに進み、静止している質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体 B に完全非弾性衝突した。重心速度を衝突前に求め、衝突後の速度と一致することを確認せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

重心速度 $v_G = 2.0\,\text{m/s}$、衝突後の速度 $V = 2.0\,\text{m/s}$(一致)

解説

衝突前の重心速度:$v_G = \dfrac{4.0 \times 3.0 + 2.0 \times 0}{4.0 + 2.0} = \dfrac{12}{6.0} = 2.0\,\text{m/s}$

衝突後の速度:$V = \dfrac{4.0 \times 3.0}{4.0 + 2.0} = 2.0\,\text{m/s}$

一致。完全非弾性衝突後の速度は重心速度に等しい。

B 発展レベル

7-9-3 B 発展 重心の放物運動計算

地面から速さ $v_0 = 20\,\text{m/s}$、仰角 $45°$ で打ち上げた質量 $2m$ の砲弾が、最高点で質量 $m$ の2つの等しい破片に水平方向に分裂した。一方の破片がその場に静止した場合、もう一方の破片が地面に落ちる水平距離(発射点からの距離)を求めよ。$g = 10\,\text{m/s}^2$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$60\,\text{m}$

解説

分裂がない場合の飛距離:$R = \dfrac{v_0^2\sin 90°}{g} = \dfrac{400}{10} = 40\,\text{m}$

重心の落下位置 $= 40\,\text{m}$(分裂しても重心の放物運動は変わらない)

最高点の水平位置:$x_0 = \dfrac{R}{2} = 20\,\text{m}$

一方の破片が $x_1 = 20\,\text{m}$(その場に静止して落下)に落ちるとすると、

$40 = \dfrac{m \times 20 + m \times x_2}{m + m} = \dfrac{20 + x_2}{2}$

$80 = 20 + x_2$ → $x_2 = 60\,\text{m}$

採点ポイント
  • 分裂がない場合の飛距離を正しく求める(3点)
  • 重心の放物運動が変わらないことを利用する(3点)
  • 重心の式から破片の落下位置を求める(4点)
7-9-4 B 発展 台と物体計算

なめらかな水平面上に質量 $M$ の台が置かれ、台の左端に質量 $m$ の小物体が載っている。台の長さは $L$ である。小物体が台の上を滑って右端に達したとき、台は水平方向にいくら動いたか。

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解答

台は左に $\dfrac{mL}{m + M}$ だけ動く

解説

外力(水平方向)がないので、重心は動かない。

台が左に $d$ だけ動いたとする。小物体は台上で右に $L$ 移動するが、台が左に $d$ 動くので、地面に対しては右に $L - d$ 移動する。

重心不変の条件:$m(L - d) + M(-d) = 0$(初期位置からの変位 × 質量の和 = 0)

$mL - md - Md = 0$ → $d = \dfrac{mL}{m + M}$

採点ポイント
  • 外力なし → 重心不変を正しく利用(4点)
  • 台と物体の変位の関係を正しく立式(3点)
  • $d$ を正しく求める(3点)

C 応用レベル

7-9-5 C 応用 3体分裂+重心論述

地面から鉛直上向きに速さ $v_0$ で打ち上げた質量 $3m$ の物体が、最高点で3つの等しい質量 $m$ の破片に分裂した。破片 A は水平右向きに速さ $u$ で、破片 B は水平左向きに速さ $u$ で飛んだ。

(1) 破片 C の分裂直後の速度を求めよ。

(2) 3つの破片の重心は分裂後どのような運動をするか。

(3) 破片 C が地面に到達する時刻と位置を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 速度 $0$(その場に静止)

(2) 鉛直下向きの自由落下(最高点から)

(3) 時刻 $t = \dfrac{v_0}{g}$、位置は発射点の真上(水平距離 $0$)

解説

最高点では全速度 $0$(鉛直投げ上げなので)。

(1) 運動量保存(水平):$0 = mu + m(-u) + mv_C^{(x)}$ → $v_C^{(x)} = 0$

運動量保存(鉛直):$0 = 0 + 0 + mv_C^{(y)}$ → $v_C^{(y)} = 0$

よって C は静止。

(2) 分裂しなければ物体は最高点から自由落下する。重心も同様に自由落下。

(3) C は最高点 $H = \dfrac{v_0^2}{2g}$ から自由落下。

$H = \dfrac{1}{2}gt^2$ → $t = \sqrt{\dfrac{2H}{g}} = \dfrac{v_0}{g}$

水平速度が $0$ なので、発射点の真上に落ちる。

採点ポイント
  • 最高点での速度が $0$ であることの認識(2点)
  • C の速度を運動量保存から求める(3点)
  • 重心の運動の記述(2点)
  • C の落下時刻と位置の計算(3点)
7-9-6 C 応用 重心の運動方程式論述

なめらかな水平面上で、質量 $m_1$ の物体 A と質量 $m_2$ の物体 B がばね(自然長 $l_0$、ばね定数 $k$)で連結されている。初期状態ではばねは自然長で、A, B はともに静止している。

(1) A を右に、B を左に引いてばねを $\Delta l$ だけ伸ばして同時に放した。重心の加速度を求めよ。

(2) 放した後の A, B の運動の間、重心はどのように運動するか。理由とともに述べよ。

(3) A が速さ $v_A$ で右に動いている瞬間の B の速さを $m_1, m_2, v_A$ で表せ。

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解答

(1) $a_G = 0$

(2) 静止し続ける

(3) $v_B = \dfrac{m_1 v_A}{m_2}$(左向き)

解説

(1) ばねの力は内力(A を引く力と B を引く力は作用・反作用)。外力(水平方向)はゼロ。

重心の運動方程式:$(m_1 + m_2)\,a_G = 0$ → $a_G = 0$

(2) 初期状態で重心は静止しており、加速度も $0$ なので、重心は常に静止し続ける。

(3) 重心速度不変:$v_G = 0 = \dfrac{m_1 v_A + m_2(-v_B)}{m_1 + m_2}$

$m_1 v_A = m_2 v_B$ → $v_B = \dfrac{m_1 v_A}{m_2}$

採点ポイント
  • ばねの力が内力であることの認識(3点)
  • 重心の加速度が $0$ の導出(2点)
  • 重心が静止し続ける理由の説明(2点)
  • B の速さの導出(3点)