時計の針は、休むことなく同じ速さで円を描き続けます。
遊園地のメリーゴーラウンドも、地球の公転も、「一定の速さで円を描く」運動です。
直線運動と違い、速さが一定でも「速度」は絶えず変化します。
この不思議な事実を数式で解き明かすのが、この記事のテーマです。
「等速」という言葉を聞くと、何も変化しない運動を想像するかもしれません。 しかし、等速円運動では速さは一定でも、進む向きが刻々と変わります。
たとえるなら、車でロータリーを走るときの状況です。 スピードメーターの針は動かなくても、ハンドルは常に切っている。 つまり、速度の「大きさ」は一定でも「向き」が変わり続けているのです。
物理学では、速度は大きさと向きをもつベクトルです。 向きが変わればベクトルとしての速度は変化し、速度が変化するなら加速度が存在します。 等速円運動は、名前に反して「加速度をもつ運動」なのです。
速度はベクトルなので、大きさと向きの両方で定まります。 等速円運動では大きさ(速さ)が一定でも、向きが絶えず変わります。
したがって速度ベクトルは変化し続け、加速度が生じます。 「等速=加速度ゼロ」ではありません。
日常語の「等速」は「速さが変わらない」という意味です。 物理でも速さは一定ですが、ベクトルとしての速度は変化します。
✕ 誤:等速円運動だから加速度は $0$
○ 正:速さは一定だが、向きが変わるので加速度は $0$ ではない
直線運動では「速度」と「時間」が基本量でした。 円運動では、これに加えて角度に関する量が重要になります。
物体が単位時間あたりに回転する角度を角速度といいます。 記号は $\omega$(オメガ)で、単位は $\text{rad/s}$ です。
時間 $t$ のあいだに角度 $\theta$ だけ回転したとき、
$$\omega = \frac{\theta}{t}$$
たとえば、$2$ 秒で $\pi\,\text{rad}$(半周)回転する物体の角速度は、 $\omega = \frac{\pi}{2}\,\text{rad/s}$ です。
周期 $T$ は、1周するのにかかる時間です。 1周は $2\pi\,\text{rad}$ ですから、
$$T = \frac{2\pi}{\omega}$$
回転数 $f$(振動数ともいう)は、1秒間に何回転するかを表します。 周期の逆数です。
$$f = \frac{1}{T} = \frac{\omega}{2\pi}$$
単位は $\text{Hz}$(ヘルツ)です。
半径 $r$ の円を1周する間に進む弧の長さは $2\pi r$ です。 これを周期 $T$ で割ると速さが得られます。
$$v = \frac{2\pi r}{T} = r\omega$$
角速度と周期:$$\omega = \frac{2\pi}{T} = 2\pi f$$
速さと角速度:$$v = r\omega$$
角速度の公式では角度をラジアンで扱います。 度をそのまま代入すると値がずれます。
✕ 誤:1周 = $360°$ を代入して $\omega = \frac{360}{T}$
○ 正:1周 = $2\pi\,\text{rad}$ を代入して $\omega = \frac{2\pi}{T}$
数学で学ぶ弧の長さの公式 $l = r\theta$ を時間で割ると、 $\frac{l}{t} = r \cdot \frac{\theta}{t}$ すなわち $v = r\omega$ になります。
「速さ = 半径 × 角速度」は、弧の長さの公式の時間版です。
等速円運動の速度ベクトルは、常に円の接線方向を向きます。 これは、物体が瞬間的に進む方向が接線方向であることから理解できます。
紐の先に石をつけて水平に回し、紐が切れた瞬間を想像してください。 石は円の接線方向にまっすぐ飛んでいきます。 これが、その瞬間の速度ベクトルの向きです。
速度ベクトルの向きが変わるということは、速度に変化が生じるということです。 その変化の割合が加速度です。
等速円運動では、加速度ベクトルは常に円の中心に向かう向きです。 この加速度を向心加速度といいます。
等速円運動の加速度は、接線方向の成分がゼロです。 速さが変わらないのだから、接線方向に加速も減速もしません。
残るのは、向きを変える方向、すなわち中心に向かう方向だけです。 だから加速度は常に円の中心を指します。
向心加速度の大きさ $a$ は、次の式で表されます。
$$a = \frac{v^2}{r} = r\omega^2$$
$v = r\omega$ を代入すると両者が等しいことがわかります。 $\frac{v^2}{r} = \frac{(r\omega)^2}{r} = r\omega^2$ です。
速度が接線方向だからといって、加速度も接線方向とは限りません。
✕ 誤:等速円運動の加速度は速度と同じ接線方向
○ 正:等速円運動の加速度は円の中心方向(速度に垂直)
加速度は「速度の変化」の方向です。 速さが変わらず向きだけ変わるとき、変化は進行方向に垂直になります。
向心加速度の公式 $a = \frac{v^2}{r}$ を、ベクトルの引き算から導きます。
半径 $r$ の円上を速さ $v$ で運動する物体を考えます。 微小時間 $\Delta t$ のあいだに物体は角度 $\Delta\theta = \omega\Delta t$ だけ回転します。
時刻 $t$ の速度を $\vec{v}_1$、時刻 $t + \Delta t$ の速度を $\vec{v}_2$ とします。 どちらも大きさは $v$ で、接線方向を向いています。
速度の変化 $\Delta\vec{v} = \vec{v}_2 - \vec{v}_1$ を求めます。 2つの速度ベクトルのなす角は $\Delta\theta$ です。
$|\Delta\vec{v}|$ は、$\Delta\theta$ が十分小さいとき、 $$|\Delta\vec{v}| \approx v\Delta\theta$$ と近似できます(二等辺三角形の底辺 ≈ 弧の長さ)。
加速度の大きさは、 $$a = \lim_{\Delta t \to 0}\frac{|\Delta\vec{v}|}{\Delta t} = \frac{v\Delta\theta}{\Delta t} = v\omega$$
$\omega = \frac{v}{r}$ を代入すると、 $$a = v \cdot \frac{v}{r} = \frac{v^2}{r}$$
また、$\Delta\vec{v}$ の向きは $\Delta\theta \to 0$ の極限で円の中心方向になります。 したがって加速度は中心を向きます。
これらは同じ向心加速度を、異なる変数で表しただけです。
✕ 誤:2つの公式のどちらを使うか迷って両方解いてみる
○ 正:$v$ と $\omega$ のどちらが与えられているかで使い分ける
$v = r\omega$ の関係を使えば相互に変換できます。
位置ベクトルを $\vec{r}(t) = (r\cos\omega t,\, r\sin\omega t)$ とおくと、 速度は $\vec{v} = \frac{d\vec{r}}{dt} = (-r\omega\sin\omega t,\, r\omega\cos\omega t)$ です。
加速度は $\vec{a} = \frac{d\vec{v}}{dt} = (-r\omega^2\cos\omega t,\, -r\omega^2\sin\omega t) = -\omega^2\vec{r}$ です。
$\vec{a} = -\omega^2\vec{r}$ は、加速度が位置ベクトルと逆向き、すなわち中心方向であることを示しています。 大きさは $|\vec{a}| = r\omega^2 = \frac{v^2}{r}$ です。
等速円運動の基本量を学んだことで、この先の円運動の議論の土台が固まりました。 次の記事以降で、力の視点を加えていきます。
Q1. 等速円運動で速さが一定なのに加速度が存在する理由を説明してください。
Q2. 周期 $T = 0.5\,\text{s}$ の等速円運動の角速度 $\omega$ を求めてください。
Q3. 半径 $0.4\,\text{m}$、角速度 $5\,\text{rad/s}$ の等速円運動の速さと向心加速度を求めてください。
Q4. 等速円運動の加速度ベクトルはどの方向を向いていますか。
Q5. $a = v^2/r$ と $a = r\omega^2$ が等しいことを $v = r\omega$ を用いて示してください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
半径 $0.50\,\text{m}$ の円周上を、速さ $2.0\,\text{m/s}$ で等速円運動する物体について、次の問いに答えよ。
(1) 角速度 $\omega$ を求めよ。
(2) 周期 $T$ を求めよ。
(3) 向心加速度の大きさ $a$ を求めよ。
(1) $\omega = 4.0\,\text{rad/s}$
(2) $T = \frac{\pi}{2} \approx 1.6\,\text{s}$
(3) $a = 8.0\,\text{m/s}^2$
方針:$v = r\omega$ から $\omega$ を求め、$T = 2\pi/\omega$、$a = v^2/r$ を計算する。
(1) $\omega = \frac{v}{r} = \frac{2.0}{0.50} = 4.0\,\text{rad/s}$
(2) $T = \frac{2\pi}{\omega} = \frac{2\pi}{4.0} = \frac{\pi}{2} \approx 1.6\,\text{s}$
(3) $a = \frac{v^2}{r} = \frac{2.0^2}{0.50} = \frac{4.0}{0.50} = 8.0\,\text{m/s}^2$
ある洗濯機の脱水槽は毎分 $1200$ 回転する。脱水槽の半径を $0.25\,\text{m}$ として、次の問いに答えよ。
(1) 回転数 $f\,[\text{Hz}]$ と角速度 $\omega\,[\text{rad/s}]$ を求めよ。
(2) 脱水槽の内壁の速さを求めよ。
(3) 内壁の向心加速度の大きさを求め、重力加速度 $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ の何倍か答えよ。
(1) $f = 20\,\text{Hz}$、$\omega = 40\pi\,\text{rad/s} \approx 126\,\text{rad/s}$
(2) $v = 10\pi \approx 31\,\text{m/s}$
(3) $a = 400\pi^2 \approx 3900\,\text{m/s}^2$、重力加速度の約 $400$ 倍
方針:毎分を毎秒に変換してから各公式を適用する。
(1) $f = \frac{1200}{60} = 20\,\text{Hz}$、$\omega = 2\pi f = 2\pi \times 20 = 40\pi\,\text{rad/s}$
(2) $v = r\omega = 0.25 \times 40\pi = 10\pi \approx 31\,\text{m/s}$
(3) $a = r\omega^2 = 0.25 \times (40\pi)^2 = 0.25 \times 1600\pi^2 = 400\pi^2 \approx 3900\,\text{m/s}^2$
$\frac{a}{g} = \frac{3900}{9.8} \approx 400$ 倍
2つの歯車 A、B がかみ合って回転している。歯車 A の半径は $r_A = 0.10\,\text{m}$、歯車 B の半径は $r_B = 0.30\,\text{m}$ である。歯車 A が角速度 $\omega_A = 60\,\text{rad/s}$ で回転しているとき、次の問いに答えよ。
(1) 歯車 B の角速度 $\omega_B$ を求めよ。
(2) 歯車 A の外周の向心加速度 $a_A$ と歯車 B の外周の向心加速度 $a_B$ をそれぞれ求めよ。
(3) $a_A$ と $a_B$ の大小関係を、式を用いて説明せよ。
(1) $\omega_B = 20\,\text{rad/s}$
(2) $a_A = 360\,\text{m/s}^2$、$a_B = 120\,\text{m/s}^2$
(3) $a_A > a_B$(下記解説参照)
方針:かみ合う歯車では外周の速さが等しい条件 $v_A = v_B$ を使う。
(1) かみ合い条件より $r_A\omega_A = r_B\omega_B$
$\omega_B = \frac{r_A\omega_A}{r_B} = \frac{0.10 \times 60}{0.30} = 20\,\text{rad/s}$
(2) $a_A = r_A\omega_A^2 = 0.10 \times 60^2 = 360\,\text{m/s}^2$
$a_B = r_B\omega_B^2 = 0.30 \times 20^2 = 120\,\text{m/s}^2$
(3) 外周の速さは等しく $v = r_A\omega_A = r_B\omega_B = 6.0\,\text{m/s}$ である。 向心加速度を $a = v^2/r$ で比較すると、$v$ が共通なので半径が小さい方が加速度は大きい。 $a_A = \frac{v^2}{r_A} = \frac{36}{0.10} = 360$、$a_B = \frac{v^2}{r_B} = \frac{36}{0.30} = 120$ より $a_A > a_B$。