第8章 円運動と慣性力

等速円運動の速度・加速度・周期
─ 回り続ける物体の物理学

時計の針は、休むことなく同じ速さで円を描き続けます。
遊園地のメリーゴーラウンドも、地球の公転も、「一定の速さで円を描く」運動です。
直線運動と違い、速さが一定でも「速度」は絶えず変化します。
この不思議な事実を数式で解き明かすのが、この記事のテーマです。

1等速円運動とは ─ 速さ一定なのに加速?

「等速」という言葉を聞くと、何も変化しない運動を想像するかもしれません。 しかし、等速円運動では速さは一定でも、進む向きが刻々と変わります。

たとえるなら、車でロータリーを走るときの状況です。 スピードメーターの針は動かなくても、ハンドルは常に切っている。 つまり、速度の「大きさ」は一定でも「向き」が変わり続けているのです。

物理学では、速度は大きさと向きをもつベクトルです。 向きが変わればベクトルとしての速度は変化し、速度が変化するなら加速度が存在します。 等速円運動は、名前に反して「加速度をもつ運動」なのです。

💡 ここが本質:速さ一定でも速度は変化する

速度はベクトルなので、大きさ向きの両方で定まります。 等速円運動では大きさ(速さ)が一定でも、向きが絶えず変わります。

したがって速度ベクトルは変化し続け、加速度が生じます。 「等速=加速度ゼロ」ではありません。

等速円運動の身近な例

  • 時計の秒針:一定の速さで文字盤上を回転します
  • 洗濯機の脱水:ドラムが一定速度で回転します
  • 人工衛星:地球のまわりを一定の速さで周回します
  • レコードプレーヤー:一定の回転数で回ります
⚠️ 落とし穴:「等速」を「加速度ゼロ」と思い込む

日常語の「等速」は「速さが変わらない」という意味です。 物理でも速さは一定ですが、ベクトルとしての速度は変化します。

✕ 誤:等速円運動だから加速度は $0$

○ 正:速さは一定だが、向きが変わるので加速度は $0$ ではない

2角速度・周期・回転数 ─ 円運動を測る3つの量

直線運動では「速度」と「時間」が基本量でした。 円運動では、これに加えて角度に関する量が重要になります。

角速度 $\omega$

物体が単位時間あたりに回転する角度を角速度といいます。 記号は $\omega$(オメガ)で、単位は $\text{rad/s}$ です。

時間 $t$ のあいだに角度 $\theta$ だけ回転したとき、

$$\omega = \frac{\theta}{t}$$

たとえば、$2$ 秒で $\pi\,\text{rad}$(半周)回転する物体の角速度は、 $\omega = \frac{\pi}{2}\,\text{rad/s}$ です。

周期 $T$ と回転数 $f$

周期 $T$ は、1周するのにかかる時間です。 1周は $2\pi\,\text{rad}$ ですから、

$$T = \frac{2\pi}{\omega}$$

回転数 $f$(振動数ともいう)は、1秒間に何回転するかを表します。 周期の逆数です。

$$f = \frac{1}{T} = \frac{\omega}{2\pi}$$

単位は $\text{Hz}$(ヘルツ)です。

速さ $v$ と角速度 $\omega$ の関係

半径 $r$ の円を1周する間に進む弧の長さは $2\pi r$ です。 これを周期 $T$ で割ると速さが得られます。

$$v = \frac{2\pi r}{T} = r\omega$$

📐 等速円運動の基本公式

角速度と周期:$$\omega = \frac{2\pi}{T} = 2\pi f$$

速さと角速度:$$v = r\omega$$

※ $r$:円の半径 [$\text{m}$]、$\omega$:角速度 [$\text{rad/s}$]、$T$:周期 [$\text{s}$]、$f$:回転数 [$\text{Hz}$]
⚠️ 落とし穴:角度の単位を度 (°) のまま使う

角速度の公式では角度をラジアンで扱います。 度をそのまま代入すると値がずれます。

✕ 誤:1周 = $360°$ を代入して $\omega = \frac{360}{T}$

○ 正:1周 = $2\pi\,\text{rad}$ を代入して $\omega = \frac{2\pi}{T}$

💡 ここが本質:$v = r\omega$ は円弧の長さの公式と同じ

数学で学ぶ弧の長さの公式 $l = r\theta$ を時間で割ると、 $\frac{l}{t} = r \cdot \frac{\theta}{t}$ すなわち $v = r\omega$ になります。

「速さ = 半径 × 角速度」は、弧の長さの公式の時間版です。

3速度ベクトルと加速度ベクトル

等速円運動の速度ベクトルは、常に円の接線方向を向きます。 これは、物体が瞬間的に進む方向が接線方向であることから理解できます。

紐の先に石をつけて水平に回し、紐が切れた瞬間を想像してください。 石は円の接線方向にまっすぐ飛んでいきます。 これが、その瞬間の速度ベクトルの向きです。

加速度ベクトルの向き

速度ベクトルの向きが変わるということは、速度に変化が生じるということです。 その変化の割合が加速度です。

等速円運動では、加速度ベクトルは常に円の中心に向かう向きです。 この加速度を向心加速度といいます。

💡 ここが本質:加速度は常に中心を向く

等速円運動の加速度は、接線方向の成分がゼロです。 速さが変わらないのだから、接線方向に加速も減速もしません。

残るのは、向きを変える方向、すなわち中心に向かう方向だけです。 だから加速度は常に円の中心を指します。

向心加速度の大きさ

向心加速度の大きさ $a$ は、次の式で表されます。

📐 向心加速度

$$a = \frac{v^2}{r} = r\omega^2$$

※ $v$:速さ [$\text{m/s}$]、$r$:半径 [$\text{m}$]、$\omega$:角速度 [$\text{rad/s}$]

$v = r\omega$ を代入すると両者が等しいことがわかります。 $\frac{v^2}{r} = \frac{(r\omega)^2}{r} = r\omega^2$ です。

⚠️ 落とし穴:加速度の向きを接線方向と答える

速度が接線方向だからといって、加速度も接線方向とは限りません。

✕ 誤:等速円運動の加速度は速度と同じ接線方向

○ 正:等速円運動の加速度は円の中心方向(速度に垂直)

加速度は「速度の変化」の方向です。 速さが変わらず向きだけ変わるとき、変化は進行方向に垂直になります。

4公式の導出 ─ なぜ加速度は中心を向くのか

向心加速度の公式 $a = \frac{v^2}{r}$ を、ベクトルの引き算から導きます。

▷ 向心加速度 $a = v^2/r$ の導出

半径 $r$ の円上を速さ $v$ で運動する物体を考えます。 微小時間 $\Delta t$ のあいだに物体は角度 $\Delta\theta = \omega\Delta t$ だけ回転します。

時刻 $t$ の速度を $\vec{v}_1$、時刻 $t + \Delta t$ の速度を $\vec{v}_2$ とします。 どちらも大きさは $v$ で、接線方向を向いています。

速度の変化 $\Delta\vec{v} = \vec{v}_2 - \vec{v}_1$ を求めます。 2つの速度ベクトルのなす角は $\Delta\theta$ です。

$|\Delta\vec{v}|$ は、$\Delta\theta$ が十分小さいとき、 $$|\Delta\vec{v}| \approx v\Delta\theta$$ と近似できます(二等辺三角形の底辺 ≈ 弧の長さ)。

加速度の大きさは、 $$a = \lim_{\Delta t \to 0}\frac{|\Delta\vec{v}|}{\Delta t} = \frac{v\Delta\theta}{\Delta t} = v\omega$$

$\omega = \frac{v}{r}$ を代入すると、 $$a = v \cdot \frac{v}{r} = \frac{v^2}{r}$$

また、$\Delta\vec{v}$ の向きは $\Delta\theta \to 0$ の極限で円の中心方向になります。 したがって加速度は中心を向きます。

⚠️ 落とし穴:$a = v^2/r$ と $a = r\omega^2$ を別の公式だと思う

これらは同じ向心加速度を、異なる変数で表しただけです。

✕ 誤:2つの公式のどちらを使うか迷って両方解いてみる

○ 正:$v$ と $\omega$ のどちらが与えられているかで使い分ける

$v = r\omega$ の関係を使えば相互に変換できます。

🔬 深掘り:位置ベクトルの微分による導出

位置ベクトルを $\vec{r}(t) = (r\cos\omega t,\, r\sin\omega t)$ とおくと、 速度は $\vec{v} = \frac{d\vec{r}}{dt} = (-r\omega\sin\omega t,\, r\omega\cos\omega t)$ です。

加速度は $\vec{a} = \frac{d\vec{v}}{dt} = (-r\omega^2\cos\omega t,\, -r\omega^2\sin\omega t) = -\omega^2\vec{r}$ です。

$\vec{a} = -\omega^2\vec{r}$ は、加速度が位置ベクトルと逆向き、すなわち中心方向であることを示しています。 大きさは $|\vec{a}| = r\omega^2 = \frac{v^2}{r}$ です。

5この章を俯瞰する

等速円運動の基本量を学んだことで、この先の円運動の議論の土台が固まりました。 次の記事以降で、力の視点を加えていきます。

つながりマップ

  • ← M-7-10 万有引力と人工衛星:人工衛星の等速円運動は、万有引力が向心力となる具体例。
  • → M-8-2 向心力:加速度には力が必要。向心加速度を生む力を「向心力」として扱う。
  • → M-8-3 水平面内の円運動:紐の張力が向心力になる具体例。$v = r\omega$ と $a = r\omega^2$ をフルに使う。
  • → M-8-8 慣性力:回転座標系の視点から円運動を見直す。角速度 $\omega$ が鍵となる。
  • → 第3章 仕事とエネルギー:向心力は仕事をしない。力と速度が垂直であることが理由。

📋まとめ

  • 等速円運動は速さ一定だが、向きが変わるので速度(ベクトル)は変化し続ける
  • 角速度 $\omega = \frac{2\pi}{T} = 2\pi f$。速さとの関係は $v = r\omega$
  • 向心加速度の大きさは $a = \frac{v^2}{r} = r\omega^2$。向きは常に円の中心方向
  • 速度ベクトルは接線方向、加速度ベクトルは速度に垂直な中心方向
  • $a = v^2/r$ と $a = r\omega^2$ は同じ公式の異なる表現。$v = r\omega$ で相互変換できる

確認テスト

Q1. 等速円運動で速さが一定なのに加速度が存在する理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示速度はベクトルであり、大きさ(速さ)が一定でも向きが変化すれば速度は変化する。速度が変化する以上、加速度は $0$ ではない。

Q2. 周期 $T = 0.5\,\text{s}$ の等速円運動の角速度 $\omega$ を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\omega = \frac{2\pi}{T} = \frac{2\pi}{0.5} = 4\pi\,\text{rad/s} \approx 12.6\,\text{rad/s}$

Q3. 半径 $0.4\,\text{m}$、角速度 $5\,\text{rad/s}$ の等速円運動の速さと向心加速度を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$v = r\omega = 0.4 \times 5 = 2.0\,\text{m/s}$、$a = r\omega^2 = 0.4 \times 25 = 10\,\text{m/s}^2$

Q4. 等速円運動の加速度ベクトルはどの方向を向いていますか。

▶ クリックして解答を表示常に円の中心方向を向いている(向心加速度)。速度ベクトル(接線方向)に対して垂直である。

Q5. $a = v^2/r$ と $a = r\omega^2$ が等しいことを $v = r\omega$ を用いて示してください。

▶ クリックして解答を表示$v = r\omega$ を $a = v^2/r$ に代入すると $a = (r\omega)^2/r = r^2\omega^2/r = r\omega^2$ となり一致する。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

8-1-1 A 基礎 基本公式 計算

半径 $0.50\,\text{m}$ の円周上を、速さ $2.0\,\text{m/s}$ で等速円運動する物体について、次の問いに答えよ。

(1) 角速度 $\omega$ を求めよ。

(2) 周期 $T$ を求めよ。

(3) 向心加速度の大きさ $a$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\omega = 4.0\,\text{rad/s}$

(2) $T = \frac{\pi}{2} \approx 1.6\,\text{s}$

(3) $a = 8.0\,\text{m/s}^2$

解説

方針:$v = r\omega$ から $\omega$ を求め、$T = 2\pi/\omega$、$a = v^2/r$ を計算する。

(1) $\omega = \frac{v}{r} = \frac{2.0}{0.50} = 4.0\,\text{rad/s}$

(2) $T = \frac{2\pi}{\omega} = \frac{2\pi}{4.0} = \frac{\pi}{2} \approx 1.6\,\text{s}$

(3) $a = \frac{v^2}{r} = \frac{2.0^2}{0.50} = \frac{4.0}{0.50} = 8.0\,\text{m/s}^2$

B 発展レベル

8-1-2 B 発展 回転数 単位変換

ある洗濯機の脱水槽は毎分 $1200$ 回転する。脱水槽の半径を $0.25\,\text{m}$ として、次の問いに答えよ。

(1) 回転数 $f\,[\text{Hz}]$ と角速度 $\omega\,[\text{rad/s}]$ を求めよ。

(2) 脱水槽の内壁の速さを求めよ。

(3) 内壁の向心加速度の大きさを求め、重力加速度 $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ の何倍か答えよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $f = 20\,\text{Hz}$、$\omega = 40\pi\,\text{rad/s} \approx 126\,\text{rad/s}$

(2) $v = 10\pi \approx 31\,\text{m/s}$

(3) $a = 400\pi^2 \approx 3900\,\text{m/s}^2$、重力加速度の約 $400$ 倍

解説

方針:毎分を毎秒に変換してから各公式を適用する。

(1) $f = \frac{1200}{60} = 20\,\text{Hz}$、$\omega = 2\pi f = 2\pi \times 20 = 40\pi\,\text{rad/s}$

(2) $v = r\omega = 0.25 \times 40\pi = 10\pi \approx 31\,\text{m/s}$

(3) $a = r\omega^2 = 0.25 \times (40\pi)^2 = 0.25 \times 1600\pi^2 = 400\pi^2 \approx 3900\,\text{m/s}^2$

$\frac{a}{g} = \frac{3900}{9.8} \approx 400$ 倍

採点ポイント
  • 毎分→毎秒の単位変換を正しく行う(2点)
  • 角速度を正しく求める(2点)
  • 向心加速度を正しく計算する(3点)
  • 重力加速度との比を求める(1点)

C 応用レベル

8-1-3 C 応用 2つの円運動の比較 論述

2つの歯車 A、B がかみ合って回転している。歯車 A の半径は $r_A = 0.10\,\text{m}$、歯車 B の半径は $r_B = 0.30\,\text{m}$ である。歯車 A が角速度 $\omega_A = 60\,\text{rad/s}$ で回転しているとき、次の問いに答えよ。

(1) 歯車 B の角速度 $\omega_B$ を求めよ。

(2) 歯車 A の外周の向心加速度 $a_A$ と歯車 B の外周の向心加速度 $a_B$ をそれぞれ求めよ。

(3) $a_A$ と $a_B$ の大小関係を、式を用いて説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\omega_B = 20\,\text{rad/s}$

(2) $a_A = 360\,\text{m/s}^2$、$a_B = 120\,\text{m/s}^2$

(3) $a_A > a_B$(下記解説参照)

解説

方針:かみ合う歯車では外周の速さが等しい条件 $v_A = v_B$ を使う。

(1) かみ合い条件より $r_A\omega_A = r_B\omega_B$

$\omega_B = \frac{r_A\omega_A}{r_B} = \frac{0.10 \times 60}{0.30} = 20\,\text{rad/s}$

(2) $a_A = r_A\omega_A^2 = 0.10 \times 60^2 = 360\,\text{m/s}^2$

$a_B = r_B\omega_B^2 = 0.30 \times 20^2 = 120\,\text{m/s}^2$

(3) 外周の速さは等しく $v = r_A\omega_A = r_B\omega_B = 6.0\,\text{m/s}$ である。 向心加速度を $a = v^2/r$ で比較すると、$v$ が共通なので半径が小さい方が加速度は大きい。 $a_A = \frac{v^2}{r_A} = \frac{36}{0.10} = 360$、$a_B = \frac{v^2}{r_B} = \frac{36}{0.30} = 120$ より $a_A > a_B$。

採点ポイント
  • かみ合い条件 $v_A = v_B$ を明記する(3点)
  • $\omega_B$ を正しく求める(2点)
  • 向心加速度をそれぞれ正しく計算する(3点)
  • 大小関係を式で論証する(2点)