第8章 円運動と慣性力

水平面内の円運動
─ ひもにつけた物体

子どものころ、紐の先におもりをつけてぐるぐる回した経験はありませんか。
手が感じる「引っ張られる感覚」は、あなたが物体に向心力を与えている証拠です。
もっとも基本的な円運動の問題を通じて、力の図の描き方と立式の作法を身につけましょう。

1設定と力の図 ─ 何が向心力か

滑らかな水平面上で、質量 $m$ の小球を長さ $r$ の軽いひもでつなぎ、等速円運動させます。 この問題は円運動の最も基本的な設定です。

物体にはたらく力

小球にはたらく力は次の3つです。

  • 重力 $mg$:鉛直下向き
  • 垂直抗力 $N$:鉛直上向き(面からの力)
  • 張力 $T$:水平方向、円の中心に向かう向き

鉛直方向は重力と垂直抗力が釣り合っています。 水平方向には張力だけがはたらき、これが向心力の役割を果たします。

💡 ここが本質:水平面上では張力がそのまま向心力

鉛直方向が完全に釣り合うため、水平方向の力だけを考えればよいのです。 張力 $T$ の全部が向心力になるという、最もシンプルな構造です。

この単純な場合を完璧に理解してから、次の円すい振り子(ひもが斜め)に進みましょう。

⚠️ 落とし穴:鉛直方向の力を忘れる

水平面内の円運動でも、物体には重力と垂直抗力がはたらいています。

✕ 誤:力の図に張力しか描かない

○ 正:重力・垂直抗力・張力の3力を描き、鉛直方向の釣り合いを確認する

「水平方向だけ考えればいい」のは結果であって、最初から力を省略してはいけません。

2運動方程式を立てる ─ 張力を求める

中心方向を正として、円運動の運動方程式を立てます。

📐 水平面上の円運動の運動方程式

鉛直方向(釣り合い):$$N = mg$$

水平方向(中心方向):$$T = m\frac{v^2}{r} = mr\omega^2$$

※ $T$:ひもの張力、$N$:垂直抗力、$m$:質量、$v$:速さ、$r$:ひもの長さ = 円の半径

数値例で練習

質量 $m = 0.50\,\text{kg}$、ひもの長さ $r = 0.80\,\text{m}$、角速度 $\omega = 5.0\,\text{rad/s}$ の場合を計算してみましょう。

張力は $T = mr\omega^2 = 0.50 \times 0.80 \times 5.0^2 = 0.50 \times 0.80 \times 25 = 10\,\text{N}$ です。

速さは $v = r\omega = 0.80 \times 5.0 = 4.0\,\text{m/s}$ です。 検算として $T = m\frac{v^2}{r} = 0.50 \times \frac{16}{0.80} = 10\,\text{N}$ で一致します。

💡 ここが本質:$v$ と $\omega$ のどちらが与えられるかで使う公式を選ぶ

$v$ が与えられているなら $F = m\frac{v^2}{r}$ が便利です。 $\omega$ や周期 $T_{\text{周期}}$ が与えられているなら $F = mr\omega^2$ が便利です。

いずれも $v = r\omega$ で行き来できるので、両方使えるようにしておきましょう。

⚠️ 落とし穴:周期の記号 $T$ と張力の記号 $T$ を混同する

円運動の問題では、周期も張力もよく $T$ と書かれます。

✕ 誤:$T = m\frac{v^2}{r}$ の $T$ を周期だと思って代入する

○ 正:文脈から周期か張力かを判断する。混乱するなら記号を変える(例:周期を $T_0$ にする)

3ひもが切れる条件を考える

ひもには耐えられる張力の上限(破断張力)があります。 回転を速くしすぎると、必要な向心力がひもの強度を超えてしまいます。

ひもの破断張力を $T_{\max}$ とすると、ひもが切れない条件は次のようになります。

$$mr\omega^2 \leq T_{\max}$$

角速度の上限は、

$$\omega_{\max} = \sqrt{\frac{T_{\max}}{mr}}$$

速さの上限は、

$$v_{\max} = \sqrt{\frac{rT_{\max}}{m}}$$

▷ ひもが切れる限界速度の導出

向心力の式 $T = m\frac{v^2}{r}$ で $T = T_{\max}$ とおくと、

$$T_{\max} = m\frac{v_{\max}^2}{r}$$

$v_{\max}$ について解くと、

$$v_{\max}^2 = \frac{rT_{\max}}{m}$$

$$v_{\max} = \sqrt{\frac{rT_{\max}}{m}}$$

⚠️ 落とし穴:「回転を速くすると張力は小さくなる」と思う

$T = mr\omega^2$ から明らかなように、角速度が増えると張力は増えます。

✕ 誤:速く回すとひもがたるんで張力が減る

○ 正:速く回すほど必要な向心力が増え、張力は大きくなる

4摩擦のある面での円運動

面に摩擦がある場合、ひもなしでも円運動が可能です。 たとえば、回転するターンテーブルの上に置いた物体を考えましょう。

テーブルと一緒に回転する物体にはたらく水平方向の力は、静止摩擦力だけです。 この摩擦力が向心力の役割を果たします。

$$f = mr\omega^2$$

最大静止摩擦力 $\mu mg$ を超えると物体はテーブル上を滑り出します。 滑り出さない条件は、

$$mr\omega^2 \leq \mu mg \quad \Longrightarrow \quad r \leq \frac{\mu g}{\omega^2}$$

つまり、中心から遠いほど必要な向心力が大きくなるので、 外側に置いた物体ほど滑り出しやすいのです。

🔬 深掘り:ターンテーブル上の物体の実験

ターンテーブルの回転を徐々に速くすると、外側の物体から順に滑り出します。 これは $r$ が大きいほど必要な向心力 $mr\omega^2$ が大きくなるからです。

また、同じ位置でも質量が大きい物体のほうが最大静止摩擦力 $\mu mg$ も大きいため、 質量の違いだけでは滑り出しやすさは変わりません($m$ が約分されるため)。

5この章を俯瞰する

水平面上の円運動は、力の分解が不要な最もシンプルな場合です。 次の記事では、ひもが斜めに張られる円すい振り子に進みます。

つながりマップ

  • ← M-8-2 向心力:向心力の考え方を、具体的な「ひも+水平面」の問題に適用した。
  • → M-8-4 円すい振り子:ひもが斜めになり、張力の分解が必要になる。本記事の自然な発展。
  • → M-8-5 鉛直面内の円運動:重力が向心力の一部を担い、位置によって張力が変わる。
  • → M-8-7 バンクのある円運動:摩擦なしでも曲がれる仕組み。垂直抗力の分解がポイント。

📋まとめ

  • 水平面上の等速円運動では、鉛直方向は力が釣り合い、水平方向の張力がそのまま向心力
  • 運動方程式:$T = m\frac{v^2}{r} = mr\omega^2$
  • ひもが切れない条件:$mr\omega^2 \leq T_{\max}$、限界速度 $v_{\max} = \sqrt{\frac{rT_{\max}}{m}}$
  • 摩擦のある面では静止摩擦力が向心力となり、外側ほど滑りやすい
  • 周期 $T$ と張力 $T$ の記号の混同に注意

確認テスト

Q1. 滑らかな水平面上でひもにつけた物体が等速円運動するとき、向心力の正体は何ですか。

▶ クリックして解答を表示ひもの張力。水平面上では鉛直方向が釣り合い、水平方向の張力のみが向心力となる。

Q2. 質量 $0.30\,\text{kg}$、半径 $0.60\,\text{m}$、速さ $4.0\,\text{m/s}$ で円運動する物体のひもの張力を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$T = m\frac{v^2}{r} = 0.30 \times \frac{16}{0.60} = 8.0\,\text{N}$

Q3. 回転を速くすると、ひもの張力は大きくなりますか、小さくなりますか。理由も述べてください。

▶ クリックして解答を表示大きくなる。$T = mr\omega^2$ より、角速度 $\omega$ が増えると $\omega^2$ に比例して張力が増大する。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

8-3-1 A 基礎 張力 計算

滑らかな水平面上で、質量 $0.40\,\text{kg}$ の小球を長さ $1.0\,\text{m}$ の軽いひもで等速円運動させる。周期が $0.50\,\text{s}$ のとき、ひもの張力を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$T \approx 63\,\text{N}$

解説

$\omega = \frac{2\pi}{0.50} = 4\pi\,\text{rad/s}$

$T = mr\omega^2 = 0.40 \times 1.0 \times (4\pi)^2 = 0.40 \times 16\pi^2 = 6.4\pi^2 \approx 63\,\text{N}$

B 発展レベル

8-3-2 B 発展 破断条件 論述

質量 $0.20\,\text{kg}$ の物体を長さ $0.50\,\text{m}$ の軽いひもで滑らかな水平面上で回転させる。ひもが耐えられる最大の張力が $50\,\text{N}$ であるとき、次の問いに答えよ。

(1) ひもが切れない最大の速さを求めよ。

(2) ひもが切れない最大の角速度を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $v_{\max} \approx 11\,\text{m/s}$

(2) $\omega_{\max} \approx 22\,\text{rad/s}$

解説

(1) $v_{\max} = \sqrt{\frac{rT_{\max}}{m}} = \sqrt{\frac{0.50 \times 50}{0.20}} = \sqrt{125} \approx 11\,\text{m/s}$

(2) $\omega_{\max} = \sqrt{\frac{T_{\max}}{mr}} = \sqrt{\frac{50}{0.20 \times 0.50}} = \sqrt{500} \approx 22\,\text{rad/s}$

採点ポイント
  • 向心力 = 張力の等式を正しく立てる(3点)
  • 限界速度を正しく導出する(4点)
  • 角速度の限界も求める(3点)

C 応用レベル

8-3-3 C 応用 ターンテーブル 論述

水平な回転テーブルの上に、中心から $r = 0.30\,\text{m}$ の位置に質量 $m = 0.10\,\text{kg}$ の小物体を置く。テーブルと物体の間の静止摩擦係数を $\mu = 0.50$、重力加速度を $g = 9.8\,\text{m/s}^2$ とする。テーブルの回転を徐々に速くしていくとき、物体が滑り始める角速度 $\omega_0$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\omega_0 \approx 4.0\,\text{rad/s}$

解説

物体がテーブルと一緒に回るとき、静止摩擦力が向心力になる。

滑り始める条件は $mr\omega^2 = \mu mg$

$m$ は両辺から消えて $r\omega^2 = \mu g$

$\omega_0 = \sqrt{\frac{\mu g}{r}} = \sqrt{\frac{0.50 \times 9.8}{0.30}} = \sqrt{16.3} \approx 4.0\,\text{rad/s}$

注目すべきは、質量 $m$ が結果に含まれないことです。滑り始めの角速度は質量によらず、摩擦係数と位置だけで決まります。

採点ポイント
  • 静止摩擦力が向心力であることを明記する(3点)
  • 滑り始めの条件式を正しく立てる(3点)
  • $m$ が消えることに言及する(2点)
  • 角速度を正しく計算する(2点)