第9章 単振動

単振動の式
─ 三角関数で表す

観覧車のゴンドラの影を地面に映してみてください。
円を描く動きの「影」は、まっすぐな線の上を行ったり来たりします。
この「影の運動」こそ単振動であり、三角関数はその記述言語です。
変位・速度・加速度を一つの式で統一的に表しましょう。

1等速円運動の正射影 ─ 単振動の正体

半径 $A$ の円上を一定の角速度 $\omega$ で回る点 P を考えます。 点 P の位置を $x$ 軸に射影(真横から見た影を落とす)した点 Q の動きが、まさに単振動です。

点 P が角度 $\theta = \omega t$ の位置にいるとき、影の位置は $x = A\sin\theta = A\sin(\omega t)$ です。 円をぐるぐる回る運動を「真横から見る」だけで、往復運動が現れるのです。

💡 ここが本質:円運動の射影 = 単振動

等速円運動を直径方向に正射影すると単振動になります。 この関係があるからこそ、単振動は三角関数で表せるのです。

円運動の角速度 $\omega$ がそのまま単振動の角振動数 $\omega$ に対応します。 半径 $A$ が振幅に、回転の位相が振動の位相に対応します。

初期位相 $\varphi$ とは

$t = 0$ のとき物体がどの位置にいるかは、スタート時点の角度で決まります。 この初期角度を初期位相 $\varphi$ と呼びます。

$t = 0$ で中心にいて正の向きに動き始める場合は $\varphi = 0$ です。 $t = 0$ で正の端にいる場合は $\varphi = \dfrac{\pi}{2}$ です。 初期条件に応じて $\varphi$ が変わります。

⚠️ 落とし穴:$\sin$ と $\cos$ の使い分けで混乱する

教科書や問題集によって $x = A\sin(\omega t)$ と書く場合と $x = A\cos(\omega t)$ と書く場合があります。

✕ 誤:「$\sin$ が正しくて $\cos$ は間違い」

○ 正:どちらも正しい。違いは初期位相だけ。 $\cos(\omega t) = \sin(\omega t + \frac{\pi}{2})$ なので、$\cos$ で書くのは初期位相を $\frac{\pi}{2}$ にした $\sin$ と同じです。

大切なのは「$t = 0$ でどの位置にいるか」を問題文から正しく読み取ることです。

2変位の式 ─ $x = A\sin(\omega t + \varphi)$

等速円運動の正射影から、単振動の変位は次の式で表されます。

📐 単振動の変位

$$x = A\sin(\omega t + \varphi)$$

※ $A$:振幅 [$\text{m}$]、$\omega$:角振動数 [$\text{rad/s}$]、$t$:時刻 [$\text{s}$]、$\varphi$:初期位相 [$\text{rad}$]

$\sin$ の中身 $\omega t + \varphi$ を位相と呼びます。 位相が $2\pi$ 進むと $\sin$ は1周期分変化するので、周期は $T = \dfrac{2\pi}{\omega}$ です。

典型的な初期条件と $\varphi$ の値

$t = 0$ の状態 $\varphi$ の値 変位の式
中心で正の向きへ出発 $0$ $x = A\sin(\omega t)$
正の端から出発 $\dfrac{\pi}{2}$ $x = A\cos(\omega t)$
中心で負の向きへ出発 $\pi$ $x = -A\sin(\omega t)$
負の端から出発 $-\dfrac{\pi}{2}$ $x = -A\cos(\omega t)$
💡 ここが本質:式を暗記せず、円運動のイメージで導く

等速円運動する点がどの角度からスタートするかを考えれば、 初期位相は自然に決まります。

正の端にいるなら円の真上($\frac{\pi}{2}$)、 中心で正の向きなら円の右端($0$)です。 この円のイメージを持っておけば、初期位相で迷いません。

3速度の式 ─ $v = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$

変位を時間で微分すると速度が得られます。 微分を知らなくても、等速円運動の射影から導けます。

▷ 速度の式の導出

等速円運動する点 P の速度の大きさは $A\omega$ です。 速度ベクトルは位置ベクトルと直角をなすので、$x$ 方向の成分は、

$$v = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$$

微分を使う場合は、$v = \dfrac{dx}{dt} = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$ です。

📐 単振動の速度

$$v = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$$

※ 速度の最大値は $v_{\max} = A\omega$(中心通過時)

$\cos$ は $\sin$ より位相が $\dfrac{\pi}{2}$ 進んでいます。 これは「速度は変位より位相が $\dfrac{\pi}{2}$ 先行する」ことを意味します。 変位が $0$(中心)のとき速度は最大、変位が最大(端)のとき速度は $0$ です。

⚠️ 落とし穴:最大速度を $A\omega^2$ と書いてしまう

✕ 誤:$v_{\max} = A\omega^2$

○ 正:$v_{\max} = A\omega$

変位の式を1回微分すると $\omega$ が1つ出てきます。 2回微分(加速度)で $\omega^2$ が出ます。速度は1乗です。

⚠️ 落とし穴:速度の符号を無視する

速度は正負の符号を持つベクトル量です。

✕ 誤:「中心を通過するときの速度は $A\omega$」

○ 正:「中心を通過するときの速度は $\pm A\omega$(向きによる)」

正の向きに通過するか、負の向きに通過するかで符号が変わります。

4加速度の式と速度-変位の関係

速度をさらに微分すると加速度が得られます。

▷ 加速度の式の導出

$v = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$ を時間で微分すると、

$$a = \frac{dv}{dt} = -A\omega^2\sin(\omega t + \varphi)$$

$x = A\sin(\omega t + \varphi)$ なので、

$$a = -\omega^2 x$$

M-9-1 で見た単振動の条件式がきちんと再現されました。

📐 単振動の変位・速度・加速度(まとめ)

変位:$x = A\sin(\omega t + \varphi)$

速度:$v = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$

加速度:$a = -A\omega^2\sin(\omega t + \varphi) = -\omega^2 x$

※ 最大速度 $v_{\max} = A\omega$、最大加速度 $|a_{\max}| = A\omega^2$

速度と変位の関係式

時刻 $t$ を消去して、速度と変位の直接的な関係を求めることができます。 入試ではこの形で問われることが非常に多いです。

▷ $v^2 = \omega^2(A^2 - x^2)$ の導出

$x = A\sin(\omega t + \varphi)$ より $\sin(\omega t + \varphi) = \dfrac{x}{A}$

$v = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$ より $\cos(\omega t + \varphi) = \dfrac{v}{A\omega}$

$\sin^2 + \cos^2 = 1$ を使って、

$$\frac{x^2}{A^2} + \frac{v^2}{A^2\omega^2} = 1$$

$$v^2 = \omega^2(A^2 - x^2)$$

📐 速度と変位の関係

$$v^2 = \omega^2(A^2 - x^2)$$

※ $x = 0$ で $v = \pm A\omega$(最大速度)、$x = \pm A$ で $v = 0$(折り返し点)
💡 ここが本質:$v^2 = \omega^2(A^2 - x^2)$ は万能式

この式は時刻を含まないため、「ある位置での速度」を直接求められます。 エネルギー保存則からも同じ式が導かれます(M-9-6 参照)。

$x = 0$ を代入すれば最大速度、$v = 0$ を代入すれば振幅が求まります。 入試問題で最も使用頻度が高い式の一つです。

⚠️ 落とし穴:$v^2 = \omega^2(A^2 - x^2)$ を $v = \omega(A - x)$ と変形する

✕ 誤:$v = \omega\sqrt{A^2 - x^2}$ をさらに $v = \omega(A - x)$ と変形

○ 正:$v = \pm\omega\sqrt{A^2 - x^2}$ のまま使う。$\sqrt{A^2 - x^2} \neq A - x$ です。

平方根の中は差の2乗の形ではないので、これ以上簡単にはなりません。

🔬 深掘り:x-v図は楕円になる

$\dfrac{x^2}{A^2} + \dfrac{v^2}{(A\omega)^2} = 1$ は楕円の方程式です。 横軸に変位 $x$、縦軸に速度 $v$ を取ると、単振動の状態は楕円上を回ります。

この「位相空間」の表現は大学物理で頻繁に使われます。 楕円の面積が振動のエネルギーに比例するという美しい関係があります。

5この章を俯瞰する

三角関数による記述は、単振動の具体的な応用に進むための基盤です。 ここで導いた公式が、今後どのように使われるかを確認しましょう。

つながりマップ

  • ← M-9-1 単振動の基礎:$a = -\omega^2 x$ の意味と基本量。ここで三角関数の解を得た。
  • → M-9-3 水平ばね振り子:$F = -kx$ から $\omega = \sqrt{k/m}$ を具体的に求め、公式を適用する。
  • → M-9-5 単振り子:振り子の角度を変位として三角関数で表す。
  • → M-9-6 エネルギー:$v^2 = \omega^2(A^2 - x^2)$ をエネルギーの視点から再導出する。
  • → 波動の章:$y = A\sin(\omega t - kx)$ と拡張される。媒質の各点の振動を波として記述。

📋まとめ

  • 等速円運動の正射影が単振動。だから三角関数で記述できる
  • 変位 $x = A\sin(\omega t + \varphi)$、速度 $v = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$、加速度 $a = -\omega^2 x$
  • 最大速度は $v_{\max} = A\omega$、最大加速度は $|a_{\max}| = A\omega^2$
  • 速度と変位の関係:$v^2 = \omega^2(A^2 - x^2)$(時刻を含まない万能式)
  • 初期位相 $\varphi$ は $t = 0$ の状態で決まる。$\sin$ と $\cos$ の違いも初期位相の違い
  • 変位と速度の位相差は $\dfrac{\pi}{2}$。変位最大 → 速度ゼロ、変位ゼロ → 速度最大

確認テスト

Q1. 振幅 $0.10\,\text{m}$、角振動数 $4\pi\,\text{rad/s}$ の単振動の最大速度を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$v_{\max} = A\omega = 0.10 \times 4\pi = 0.4\pi \approx 1.26\,\text{m/s}$

Q2. $x = 0.05\sin(10t)\,[\text{m}]$ で表される単振動の周期を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\omega = 10\,\text{rad/s}$ なので $T = \dfrac{2\pi}{\omega} = \dfrac{2\pi}{10} = \dfrac{\pi}{5} \approx 0.63\,\text{s}$

Q3. $t = 0$ で正の端($x = A$)にいる場合、変位の式はどうなりますか。

▶ クリックして解答を表示$x = A\sin(\omega t + \frac{\pi}{2}) = A\cos(\omega t)$。$t = 0$ で $x = A$ になるには $\varphi = \frac{\pi}{2}$ が必要です。

Q4. 振幅 $A = 0.20\,\text{m}$、$\omega = 5\,\text{rad/s}$ の単振動で、$x = 0.10\,\text{m}$ のときの速さを求めてください。

▶ クリックして解答を表示$|v| = \omega\sqrt{A^2 - x^2} = 5\sqrt{0.04 - 0.01} = 5\sqrt{0.03} = 5 \times 0.173 \approx 0.87\,\text{m/s}$

Q5. 単振動の変位と加速度の位相差はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$\pi$(180度)。$a = -\omega^2 x$ なので、加速度は変位と逆位相(位相差 $\pi$)です。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

9-2-1 A 基礎 式の読み取り 計算

物体の変位が $x = 0.040\sin(5\pi t)\,[\text{m}]$ で表される単振動について、次の各量を求めよ。

(1) 振幅

(2) 角振動数と周期

(3) 最大速度

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $A = 0.040\,\text{m}$

(2) $\omega = 5\pi\,\text{rad/s}$、$T = 0.40\,\text{s}$

(3) $v_{\max} = 0.20\pi \approx 0.63\,\text{m/s}$

解説

$x = A\sin(\omega t + \varphi)$ と比較して読み取ります。

(1) $A = 0.040\,\text{m}$

(2) $\omega = 5\pi\,\text{rad/s}$。$T = \dfrac{2\pi}{\omega} = \dfrac{2\pi}{5\pi} = 0.40\,\text{s}$

(3) $v_{\max} = A\omega = 0.040 \times 5\pi = 0.20\pi \approx 0.63\,\text{m/s}$

B 発展レベル

9-2-2 B 発展 v-x関係 計算

振幅 $A = 0.10\,\text{m}$、周期 $T = 2.0\,\text{s}$ の単振動をする物体がある。つりあいの位置から $x = 0.060\,\text{m}$ の位置にいるときの速さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$|v| = 0.080\pi \approx 0.25\,\text{m/s}$

解説

$\omega = \dfrac{2\pi}{T} = \dfrac{2\pi}{2.0} = \pi\,\text{rad/s}$

$v^2 = \omega^2(A^2 - x^2) = \pi^2(0.10^2 - 0.060^2) = \pi^2(0.010 - 0.0036) = \pi^2 \times 0.0064$

$|v| = \pi \times 0.080 = 0.080\pi \approx 0.25\,\text{m/s}$

採点ポイント
  • $\omega$ を正しく求める(2点)
  • $v^2 = \omega^2(A^2 - x^2)$ を正しく適用(4点)
  • 数値計算を正確に行う(2点)

C 応用レベル

9-2-3 C 応用 初期位相の決定 思考力

角振動数 $\omega$ で単振動する物体が、$t = 0$ で変位 $x = \dfrac{A}{2}$ の位置にいて、正の向きに動いていた。変位を $x = A\sin(\omega t + \varphi)$ と表すとき、初期位相 $\varphi$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\varphi = \dfrac{\pi}{6}$

解説

$t = 0$ を代入すると $\dfrac{A}{2} = A\sin\varphi$ より $\sin\varphi = \dfrac{1}{2}$

$\sin\varphi = \dfrac{1}{2}$ を満たす $\varphi$ は $\dfrac{\pi}{6}$ または $\dfrac{5\pi}{6}$。

速度 $v = A\omega\cos(\omega t + \varphi)$ に $t = 0$ を代入すると $v_0 = A\omega\cos\varphi$。

正の向きに動いている($v_0 > 0$)ので $\cos\varphi > 0$。

$\cos\dfrac{\pi}{6} = \dfrac{\sqrt{3}}{2} > 0$、$\cos\dfrac{5\pi}{6} = -\dfrac{\sqrt{3}}{2} < 0$

したがって $\varphi = \dfrac{\pi}{6}$

採点ポイント
  • $t = 0$ の条件から $\sin\varphi = \frac{1}{2}$ を導く(2点)
  • 2つの候補を挙げる(2点)
  • 速度の符号条件から一意に決定する(4点)