同じ火力でお湯を沸かしても、少量の水はすぐ熱くなり、大量の水はなかなか温まりません。
鉄のフライパンは一瞬で熱くなるのに、同じ重さの水はゆっくり温まります。
この違いを数値で語るための道具が「比熱」と「熱容量」です。
温度の異なる2つの物体を接触させると、高温の物体から低温の物体へエネルギーが移動します。 このとき移動するエネルギーの量を熱量(記号 $Q$)と呼びます。
たとえるなら、温度は「水位」、熱量は「移動した水の量」です。 水位が高いところから低いところへ水が流れるように、熱も高温から低温へ流れます。 「どれだけの水が流れたか」に相当するのが熱量です。
熱量の単位はジュール($\text{J}$)です。 かつてはカロリー($\text{cal}$)が使われていましたが、現在のSI単位系では $\text{J}$ を用います。 $1\,\text{cal} = 4.2\,\text{J}$ という関係があります。
物理学における「熱」は、日常語の「熱」とは少し異なります。 熱とは、温度差によって物体間を移動するエネルギーのことです。
物体が「熱をもっている」とは言いません。 物体がもっているのは「内部エネルギー」であり、 それが移動するときに「熱」と呼ばれるのです。
日常では「この鍋は熱をもっている」と言いますが、物理では不正確な表現です。
✕ 誤:「100℃の水は熱をもっている」
○ 正:「100℃の水は大きな内部エネルギーをもっている。他の物体と接触すると熱を放出する」
「熱」はあくまでも移動中のエネルギーに対して使う用語です。
同じ質量の水と鉄に同じ熱量を与えたとき、温度の上がり方は異なります。 この違いを定量化するのが比熱です。
比熱とは、物質 $1\,\text{kg}$ の温度を $1\,\text{K}$ 上げるのに必要な熱量です。 記号は $c$ で表し、単位は $\text{J/(kg・K)}$ です。
$$c = \frac{Q}{m \Delta T}$$
| 物質 | 比熱 [$\text{J/(kg・K)}$] | 特徴 |
|---|---|---|
| 水 | $4.2 \times 10^3$ | 身近な物質で最大級。温まりにくく冷めにくい |
| 氷 | $2.1 \times 10^3$ | 水の約半分 |
| 銅 | $3.9 \times 10^2$ | 金属は一般に比熱が小さい |
| 鉄 | $4.5 \times 10^2$ | 銅よりやや大きい |
| アルミニウム | $9.0 \times 10^2$ | 金属の中では比較的大きい |
水の比熱が非常に大きいことは、日常生活に大きな影響を与えています。 海の近くの気温が内陸より安定しているのは、水が温まりにくく冷めにくいからです。
比熱は物質の種類で決まります。 コップ1杯の水でもプール1杯の水でも、比熱は同じ $4.2 \times 10^3\,\text{J/(kg・K)}$ です。
これに対して、「物体全体として温まりにくいかどうか」は、 比熱だけでなく質量にも依存します。 その指標が次に学ぶ「熱容量」です。
問題によって、比熱の単位が $\text{J/(kg・K)}$ の場合と $\text{J/(g・K)}$ の場合があります。
✕ 誤:比熱 $4.2\,\text{J/(g・K)}$ の水 $500\,\text{g}$ に対して $Q = 4.2 \times 500 \times \Delta T$ と計算(単位は合っている)した後、別の問題で $c = 4.2 \times 10^3\,\text{J/(kg・K)}$ を同じ感覚で使って単位を間違える
○ 正:必ず質量と比熱の単位をそろえる。$\text{J/(kg・K)}$ なら質量は $\text{kg}$、$\text{J/(g・K)}$ なら質量は $\text{g}$
比熱が「物質の性質」であるのに対し、熱容量は「物体の性質」です。 物体の温度を $1\,\text{K}$ 上げるのに必要な熱量を熱容量と呼びます。
$$C = mc$$
$$Q = C \Delta T$$
たとえば、質量 $2\,\text{kg}$ の水の熱容量は、 $C = 2 \times 4.2 \times 10^3 = 8.4 \times 10^3\,\text{J/K}$ です。 この水の温度を $1\,\text{K}$ 上げるには $8400\,\text{J}$ 必要という意味です。
比熱 $c$ は「$1\,\text{kg}$ あたり、$1\,\text{K}$ あたり」の熱量です。
質量 $m\,\text{kg}$ の物体なら、$1\,\text{K}$ 上げるのに $mc$ の熱量が必要です。
これが熱容量 $C = mc$ です。
さらに温度を $\Delta T$ だけ上げるなら、$Q = C \Delta T = mc \Delta T$ です。
「比熱が大きい」と「熱容量が大きい」は意味が異なります。
✕ 誤:「鉄の比熱は水より小さいので、鉄の塊のほうが水より温まりやすい」
○ 正:「比熱は物質固有の値。物体全体の温まりやすさは熱容量 $C = mc$ で判断する。巨大な鉄塊は小さなコップの水より温まりにくい」
比熱は「物質の性質」、熱容量は「物体の性質(質量も含む)」です。
熱量の計算で最も基本となる公式が $Q = mc\Delta T$ です。 この式を正しく使いこなすためのポイントを確認しましょう。
$$Q = mc\Delta T$$
水 $0.5\,\text{kg}$ を $20\,\text{℃}$ から $70\,\text{℃}$ に温めるのに必要な熱量を求めてみましょう。
$Q = mc\Delta T = 0.5 \times 4.2 \times 10^3 \times (70 - 20) = 0.5 \times 4.2 \times 10^3 \times 50 = 1.05 \times 10^5\,\text{J}$
約 $10$ 万ジュールです。 同じ温度変化を $0.5\,\text{kg}$ の鉄で行うと、 $Q = 0.5 \times 4.5 \times 10^2 \times 50 = 1.125 \times 10^4\,\text{J}$ で済みます。 水の約 $\frac{1}{10}$ の熱量で同じだけ温度が上がります。
必要な熱量は次の3つの要因で決まります。
① 質量 $m$:多いほど多くの熱が必要(量の効果)
② 比熱 $c$:大きいほど多くの熱が必要(物質の効果)
③ 温度変化 $\Delta T$:大きいほど多くの熱が必要(変化の大きさ)
どれか1つでも大きくなれば、必要な熱量は増えます。
$\Delta T$ は「最終温度 - 初期温度」です。温度が下がる場合は負の値になります。
✕ 誤:$80\,\text{℃}$ の水が $30\,\text{℃}$ に冷めたとき、$\Delta T = 80 - 30 = 50$
○ 正:$\Delta T = 30 - 80 = -50\,\text{K}$。$Q = mc \times (-50) < 0$ → 熱を「放出」した
$Q > 0$ は吸熱(温度上昇)、$Q < 0$ は放熱(温度下降)に対応します。 ただし入試問題では「放出した熱量」を正の値で答えることも多いので、問題文をよく読みましょう。
$1\,\text{cal}$ は「水 $1\,\text{g}$ の温度を $1\,\text{℃}$ 上げる熱量」として定義されました。 つまり、水の比熱は定義上 $1\,\text{cal/(g・℃)}$ です。
SI単位では $1\,\text{cal} = 4.186\,\text{J}$(高校では $4.2\,\text{J}$)です。 栄養学の「カロリー」は実は $1\,\text{kcal} = 1000\,\text{cal}$ のことです。 おにぎり1個(約 $200\,\text{kcal}$)のエネルギーは $8.4 \times 10^5\,\text{J}$ にもなります。
$Q = mc\Delta T$ は、熱量計算の出発点です。 この公式が今後どのように活用されるかを見ておきましょう。
Q1. 比熱の定義を答えてください。
Q2. 水 $2\,\text{kg}$ を $10\,\text{℃}$ から $60\,\text{℃}$ に温めるのに必要な熱量を求めてください。水の比熱は $4.2 \times 10^3\,\text{J/(kg・K)}$ とします。
Q3. 比熱と熱容量の違いを説明してください。
Q4. 熱容量 $500\,\text{J/K}$ の物体に $5000\,\text{J}$ の熱を与えると、温度は何 K 上がりますか。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
比熱 $4.5 \times 10^2\,\text{J/(kg・K)}$ の鉄 $0.80\,\text{kg}$ を $20\,\text{℃}$ から $120\,\text{℃}$ に加熱するのに必要な熱量を求めよ。
$3.6 \times 10^4\,\text{J}$
$Q = mc\Delta T = 0.80 \times 4.5 \times 10^2 \times (120 - 20) = 0.80 \times 450 \times 100 = 3.6 \times 10^4\,\text{J}$
質量 $0.20\,\text{kg}$ の金属球に $9.0 \times 10^3\,\text{J}$ の熱量を与えたところ、温度が $100\,\text{K}$ 上昇した。この金属の比熱を求め、上の表から金属の種類を推定せよ。
比熱:$4.5 \times 10^2\,\text{J/(kg・K)}$、金属の種類:鉄
$c = \frac{Q}{m\Delta T} = \frac{9.0 \times 10^3}{0.20 \times 100} = \frac{9.0 \times 10^3}{20} = 4.5 \times 10^2\,\text{J/(kg・K)}$
この値は鉄の比熱 $4.5 \times 10^2\,\text{J/(kg・K)}$ に一致するので、鉄と推定できます。
熱容量 $C_1 = 200\,\text{J/K}$ の容器に水 $0.30\,\text{kg}$ が入っており、全体が $20\,\text{℃}$ である。この水に $100\,\text{℃}$ の熱を加え続けたところ、$5$ 分後に全体が $40\,\text{℃}$ になった。水の比熱を $4.2 \times 10^3\,\text{J/(kg・K)}$ とする。
(1) 容器と水が受け取った熱量の合計を求めよ。
(2) 1秒あたりに供給された熱量(仕事率に相当)を求めよ。
(1) $2.92 \times 10^4\,\text{J}$
(2) $97.3\,\text{W}$(約 $97\,\text{W}$)
方針:容器と水それぞれが受け取った熱量を求めて合計します。
(1) 水が受け取った熱量:$Q_{\text{水}} = 0.30 \times 4.2 \times 10^3 \times 20 = 2.52 \times 10^4\,\text{J}$
容器が受け取った熱量:$Q_{\text{容器}} = 200 \times 20 = 4.0 \times 10^3\,\text{J}$
合計:$Q = 2.52 \times 10^4 + 4.0 \times 10^3 = 2.92 \times 10^4\,\text{J}$
(2) $5$ 分 $= 300\,\text{s}$ なので、$\frac{2.92 \times 10^4}{300} \approx 97.3\,\text{W}$