第11章 熱とエネルギー

熱量計算の典型問題
─ 金属球・水・容器

理科室で金属球を熱湯に沈め、すぐに冷水の入った容器へ移す。
温度計がゆっくり上がっていく様子を見つめた経験はありませんか。
この実験こそ、比熱を「測る」ための王道の方法です。

1水熱量計の実験 ─ 比熱の測定原理

未知の金属の比熱を求めるには、水熱量計を使った実験が定番です。 手順は次の通りです。

  1. 金属球を沸騰水中で十分加熱し、温度を $100\,\text{℃}$ にする
  2. 熱量計(容器)に入った既知温度の水に、すばやく金属球を入れる
  3. よくかき混ぜ、全体が熱平衡に達したときの温度を測定する
  4. 熱量保存の式を立てて、金属球の比熱を計算する
💡 ここが本質:実験の核心は「既知量で未知量を挟み込む」こと

金属球の比熱 $c$ だけが未知です。 水の比熱、各物体の質量、初期温度、平衡温度はすべて測定値です。

熱量保存の式を $c$ について解くことで、 1つの未知数を含む1次方程式に帰着します。 原理的にはとてもシンプルです。

⚠️ 落とし穴:「すばやく移す」理由を理解する

金属球を沸騰水から取り出して水に入れるまでに時間がかかると、 金属球が空気中で冷えてしまいます。

✕ 誤:金属球の初期温度を $100\,\text{℃}$ として計算するが、実際は冷えて $95\,\text{℃}$ → 比熱の値がずれる

○ 正:素早く移すことで、金属球の初期温度を $100\,\text{℃}$ と近似できるようにする

23物体系の立式パターン

水熱量計の問題では、3つの物体が登場します。 金属球(高温)、(低温)、容器(低温、水と同温)です。

📐 3物体系の熱量保存の式

$$m_{\text{金}} c_{\text{金}} (T_{\text{金}} - T) = m_{\text{水}} c_{\text{水}} (T - T_{\text{水}}) + C_{\text{容}} (T - T_{\text{水}})$$

※ 左辺:金属球が放出した熱量。右辺:水と容器が吸収した熱量の合計。 $T$:平衡温度。$C_{\text{容}}$:容器の熱容量。 水と容器の初期温度は同じと仮定。

右辺の水と容器の項をまとめて書くこともできます。 水の熱容量を $C_{\text{水}} = m_{\text{水}} c_{\text{水}}$ とすれば、

$$m_{\text{金}} c_{\text{金}} (T_{\text{金}} - T) = (C_{\text{水}} + C_{\text{容}})(T - T_{\text{水}})$$

$(C_{\text{水}} + C_{\text{容}})$ は「水 + 容器の合計熱容量」です。 入試問題では、この合計値が与えられることもあります。

💡 ここが本質:「水当量」という概念

容器の熱容量 $C_{\text{容}}$ を「水に換算した質量」で表すことがあります。 これを水当量といいます。

たとえば $C_{\text{容}} = 420\,\text{J/K}$ なら、 水の比熱 $4200\,\text{J/(kg・K)}$ で割ると $0.10\,\text{kg}$ です。 つまり「容器は水 $0.10\,\text{kg}$ 分の熱を蓄える能力がある」と解釈できます。

⚠️ 落とし穴:問題文の「容器の熱容量」と「容器の比熱」を混同する

問題文で「容器の熱容量 $C$」と与えられた場合、直接 $Q = C\Delta T$ で計算します。

✕ 誤:容器の熱容量 $C = 200\,\text{J/K}$ に対して「$Q = mc\Delta T$」とし、$m$ を探す

○ 正:$Q = C\Delta T = 200 \times \Delta T$ とそのまま使う。$C$ にはすでに質量の情報が含まれている

3典型問題を解く ─ ステップバイステップ

例題

熱容量 $100\,\text{J/K}$ の容器に、$20\,\text{℃}$ の水 $0.20\,\text{kg}$ が入っている。 ここに $100\,\text{℃}$ に加熱した質量 $0.30\,\text{kg}$ の金属球を入れたところ、平衡温度が $28\,\text{℃}$ になった。 金属球の比熱を求めよ。水の比熱は $4.2 \times 10^3\,\text{J/(kg・K)}$ とする。

Step 1:情報を整理する

物体質量比熱 / 熱容量初期温度
金属球$0.30\,\text{kg}$$c$(求めたい)$100\,\text{℃}$
$0.20\,\text{kg}$$4200\,\text{J/(kg・K)}$$20\,\text{℃}$
容器$100\,\text{J/K}$$20\,\text{℃}$

平衡温度 $T = 28\,\text{℃}$

Step 2:熱量保存の式を立てる

$$0.30 \times c \times (100 - 28) = 0.20 \times 4200 \times (28 - 20) + 100 \times (28 - 20)$$

Step 3:計算する

左辺:$0.30 \times c \times 72 = 21.6c$

右辺:$0.20 \times 4200 \times 8 + 100 \times 8 = 6720 + 800 = 7520$

$$21.6c = 7520$$ $$c = \frac{7520}{21.6} \approx 348 \approx 3.5 \times 10^2\,\text{J/(kg・K)}$$

Step 4:検算する

平衡温度 $28\,\text{℃}$ は $20\,\text{℃}$ と $100\,\text{℃}$ の間にあるので妥当です。 また、金属の比熱は一般に数百 $\text{J/(kg・K)}$ なので、値の大きさも自然です。

⚠️ 落とし穴:計算途中で単位をそろえ忘れる

質量が $\text{g}$ で与えられているのに比熱が $\text{J/(kg・K)}$ のまま計算するミスは頻出です。

✕ 誤:$200\,\text{g} \times 4200 = 840000$($\text{g}$ と $\text{J/(kg・K)}$ を混ぜている)

○ 正:$0.20\,\text{kg} \times 4200 = 840$ または $200\,\text{g} \times 4.2 = 840$

式を書く前に、全物体の質量の単位をそろえましょう。

4検算のテクニック

熱量計算のミスを防ぐために、次の検算を習慣にしましょう。

検算①:平衡温度が初期温度の範囲内にあるか

平衡温度 $T$ は必ず、最も低い初期温度と最も高い初期温度の間にあります。 この範囲を外れたら、符号の間違いか立式ミスです。

検算②:放出熱量と吸収熱量が一致するか

求めた比熱を使って、放出側・吸収側それぞれの熱量を計算し直します。 両者が一致すれば計算は合っています。

検算③:比熱の値が物理的に妥当か

金属の比熱は $100$ ~ $1000\,\text{J/(kg・K)}$ 程度です。 $10000$ や $10$ のような値が出たら、どこかで桁を間違えています。

🔬 深掘り:実験の誤差要因

実験で比熱を精密に測定するのは難しいです。 誤差の主な原因を挙げます。

① 外部への放熱:容器を通じて外部に熱が逃げると、 平衡温度が予想より低くなります。比熱の計算値は小さくなる方向にずれます。

② 金属球の移動中の冷却:沸騰水から取り出してから水に入れるまでに冷える。

③ 温度計の読み取り誤差:最小目盛りの $\frac{1}{10}$ まで読むのが基本です。

🔬 深掘り:なぜ金属の比熱は小さいのか

金属原子は重く、1個あたりの運動エネルギーが温度上昇に使われます。 一方、水分子は軽いうえに分子間の水素結合を振動させるのにもエネルギーが使われます。

物質のモル比熱($1\,\text{mol}$ あたりの比熱)で比較すると、 多くの固体金属は $25\,\text{J/(mol・K)}$ 前後に集まります。 これをデュロン-プティの法則と呼びます。

5この章を俯瞰する

つながりマップ

  • ← T-1-3 熱量の保存:2物体の基本を学んだ。ここでは3物体(金属球・水・容器)に拡張した。
  • → T-1-5 物質の三態と潜熱:状態変化を含む問題では、潜熱の項が加わりさらに複雑になる。
  • → T-1-6 熱と仕事の等価性:ジュールの実験は、仕事で水を温めて熱の仕事当量を測定した。原理は熱量計算と同じ。

📋まとめ

  • 水熱量計の実験では、金属球の放熱 = 水の吸熱 + 容器の吸熱で比熱を求める
  • 3物体系の式:$m_{\text{金}} c_{\text{金}} (T_{\text{金}} - T) = (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{容}})(T - T_{\text{水}})$
  • 水当量とは、容器の熱容量を水の質量に換算した値
  • 検算:① 平衡温度が初期温度の範囲内 ② 放出 = 吸収を確認 ③ 比熱の値が物理的に妥当
  • 単位のそろえ忘れと容器の熱容量の見落としが頻出ミス

確認テスト

Q1. 水熱量計の実験で「すばやく金属球を移す」のはなぜですか。

▶ クリックして解答を表示移動中に金属球が空気に熱を逃がし、初期温度が $100\,\text{℃}$ からずれるのを防ぐためです。

Q2. 容器の熱容量が $840\,\text{J/K}$ のとき、水当量は何 kg ですか。

▶ クリックして解答を表示$\frac{840}{4200} = 0.20\,\text{kg}$

Q3. 計算の結果、平衡温度が低温物体の初期温度より低くなりました。何が間違っていますか。

▶ クリックして解答を表示立式のミス(放出と吸収の方向が逆、または符号の間違い)です。平衡温度は必ず初期温度の範囲内に収まります。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

11-4-1 A 基礎 平衡温度 計算

$100\,\text{℃}$ の銅球(質量 $0.50\,\text{kg}$、比熱 $390\,\text{J/(kg・K)}$)を $20\,\text{℃}$ の水 $1.0\,\text{kg}$(比熱 $4200\,\text{J/(kg・K)}$)に入れた。容器の熱容量を無視して平衡温度を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

約 $23.5\,\text{℃}$

解説

$0.50 \times 390 \times (100 - T) = 1.0 \times 4200 \times (T - 20)$

$195(100 - T) = 4200(T - 20)$

$19500 - 195T = 4200T - 84000$

$103500 = 4395T$ → $T \approx 23.5\,\text{℃}$

B 発展レベル

11-4-2 B 発展 比熱の決定 容器考慮

熱容量 $160\,\text{J/K}$ の容器に $18\,\text{℃}$ の水 $0.25\,\text{kg}$ が入っている。$100\,\text{℃}$ に加熱した質量 $0.40\,\text{kg}$ の金属球を入れたところ、平衡温度が $22\,\text{℃}$ になった。この金属の比熱を求めよ。水の比熱は $4200\,\text{J/(kg・K)}$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

約 $1.6 \times 10^2\,\text{J/(kg・K)}$

解説

$0.40 \times c \times (100 - 22) = 0.25 \times 4200 \times (22 - 18) + 160 \times (22 - 18)$

$0.40 \times c \times 78 = 1050 \times 4 + 160 \times 4$

$31.2c = 4200 + 640 = 4840$

$c = \frac{4840}{31.2} \approx 155 \approx 1.6 \times 10^2\,\text{J/(kg・K)}$

採点ポイント
  • 容器の吸熱を含めて立式する(3点)
  • 温度変化を正しく計算する(2点)
  • 比熱を正しく求める(3点)
  • 値の妥当性を確認する(2点)

C 応用レベル

11-4-3 C 応用 2回投入 論述

熱容量を無視できる容器に $20\,\text{℃}$ の水 $0.50\,\text{kg}$ が入っている。ここに $100\,\text{℃}$ の鉄球(質量 $0.20\,\text{kg}$、比熱 $450\,\text{J/(kg・K)}$)を入れ、平衡に達した後、さらにもう1個同じ鉄球($100\,\text{℃}$)を入れた。2個目の鉄球を入れた後の最終的な平衡温度を求めよ。水の比熱は $4200\,\text{J/(kg・K)}$ とする。

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解答

約 $26.5\,\text{℃}$

解説

第1段階:1個目の鉄球投入

$0.20 \times 450 \times (100 - T_1) = 0.50 \times 4200 \times (T_1 - 20)$

$90(100 - T_1) = 2100(T_1 - 20)$

$9000 - 90T_1 = 2100T_1 - 42000$ → $51000 = 2190T_1$ → $T_1 \approx 23.3\,\text{℃}$

第2段階:2個目の鉄球投入。このとき系は水 $0.50\,\text{kg}$ + 鉄球1個目 $0.20\,\text{kg}$ で $23.3\,\text{℃}$。

$0.20 \times 450 \times (100 - T_2) = (0.50 \times 4200 + 0.20 \times 450)(T_2 - 23.3)$

$90(100 - T_2) = (2100 + 90)(T_2 - 23.3)$

$90(100 - T_2) = 2190(T_2 - 23.3)$

$9000 - 90T_2 = 2190T_2 - 51027$ → $60027 = 2280T_2$ → $T_2 \approx 26.3\,\text{℃}$

採点ポイント
  • 2段階に分けて考える方針を示す(2点)
  • 第1段階の平衡温度を正しく求める(3点)
  • 第2段階で1個目の鉄球も系に含めて立式する(3点)
  • 最終温度を正しく求める(2点)