第12章 気体の法則

気体の法則の典型問題
─ ピストン・気球・容器

ボイルの法則、シャルルの法則、理想気体の状態方程式──公式は覚えたけれど、問題が解けない。
気体の法則の問題には「定番の装置設定」があります。密閉容器、ピストン付きシリンダー、連結容器──
それぞれの圧力の決め方を理解すれば、どんな問題もパターンに帰着できます。

1問題を解く前の準備 ─ 圧力の決まり方

気体の問題を解くカギは、気体の圧力がどう決まるかを正しく把握することです。 装置の種類によって圧力の決まり方が異なります。

装置の種類体積圧力ポイント
密閉容器(剛体)一定変化する状態方程式から圧力を求める
ピストン付き容器変化する力のつりあいで決まるピストンの力のつりあいの式が必要
開放容器変化する大気圧で一定最も単純なケース
📐 理想気体の状態方程式(復習)

$$PV = nRT$$

$P$:圧力 [Pa]、$V$:体積 [m$^3$]、$n$:物質量 [mol]、$R = 8.31\,\text{J/(mol·K)}$:気体定数、$T$:絶対温度 [K]
※ 同じ気体の状態変化では $\dfrac{P_1 V_1}{T_1} = \dfrac{P_2 V_2}{T_2}$ が便利。
💡 ここが本質:「何が一定で、何が変化するか」を最初に整理する

気体の問題は $P$、$V$、$T$ の3変数のうち、何が固定されていて、何が変化するかを最初に把握することが最重要です。

密閉容器なら $V$ 一定、ピストンなら $P$ が力のつりあいで決定、温度一定なら $T$ 固定──条件を整理してから公式に代入しましょう。

2密閉容器の問題

体積が変わらない剛体容器に気体が封入されている場合、温度を変えると圧力が変化します。

基本パターン:密閉容器の加熱

体積 $V$ が一定のとき、$\dfrac{P_1}{T_1} = \dfrac{P_2}{T_2}$(シャルルの法則の圧力版)が成り立ちます。

▷ 計算例:密閉容器の圧力変化

$27\,\text{°C}$($300\,\text{K}$)で $1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ の気体を、$127\,\text{°C}$($400\,\text{K}$)に加熱する。

$V$ 一定なので:$\dfrac{P_1}{T_1} = \dfrac{P_2}{T_2}$

$$P_2 = P_1 \times \frac{T_2}{T_1} = 1.0 \times 10^5 \times \frac{400}{300} \approx 1.33 \times 10^5\,\text{Pa}$$

⚠️ 落とし穴:摂氏温度をそのまま使う

気体の法則では必ず絶対温度(K)を使います。

✕ 誤:$P_2 = 1.0 \times 10^5 \times \dfrac{127}{27}$(摂氏のまま代入)

○ 正:$P_2 = 1.0 \times 10^5 \times \dfrac{400}{300}$(273 を足して K に変換)

$T\,[\text{K}] = t\,[\text{°C}] + 273$ を忘れずに!

🔬 深掘り:タイヤの空気圧

自動車のタイヤは走行中に温度が上がるため、内部の空気圧も上昇します。これは密閉容器の典型例です。タイヤが破裂する事故は、高温で圧力が許容範囲を超えることで起こります。

3ピストン付きシリンダーの問題

ピストン付きシリンダーでは、ピストンが自由に動くため体積が変化します。 気体の圧力は、ピストンの力のつりあいで決まります。

ピストンの力のつりあい

📐 ピストンの圧力(鉛直の場合)

ピストンの質量を $m$、断面積を $S$、大気圧を $P_0$ とすると、

気体が下にある場合(ピストンが上にのっている):

$$P = P_0 + \frac{mg}{S}$$

気体が上にある場合(ピストンが下から支えている):

$$P = P_0 - \frac{mg}{S}$$

※ ピストンが水平に動く場合(水平シリンダー)は $P = P_0$(ピストンの重力は関係しない)。
▷ 計算例:ピストン付きシリンダーの加熱

断面積 $S = 10\,\text{cm}^2 = 10 \times 10^{-4}\,\text{m}^2$ のシリンダーに、質量 $m = 2.0\,\text{kg}$ のピストンがのっている。大気圧 $P_0 = 1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$、$g = 9.8\,\text{m/s}^2$。

気体の圧力:$P = P_0 + \dfrac{mg}{S} = 1.0 \times 10^5 + \dfrac{2.0 \times 9.8}{10 \times 10^{-4}} = 1.0 \times 10^5 + 1.96 \times 10^4$

$$P \approx 1.2 \times 10^5\,\text{Pa}$$

ピストンが自由に動くので、加熱しても圧力はこの値のまま一定。体積だけが増加します。

💡 ここが本質:ピストンが自由に動くなら圧力は一定

摩擦のないピストンが自由に動けるとき、気体の圧力はピストンの力のつりあいで一意に決まり、温度が変わっても圧力は変わりません

温度変化によって変わるのは体積のみ。これを理解していれば、ピストン問題は定圧変化として扱えます。

⚠️ 落とし穴:ピストンの重力を忘れる

鉛直シリンダーでは、ピストンの重力が気体の圧力に影響します。

✕ 誤:ピストンが自由に動くから $P = P_0$(大気圧そのまま)

○ 正:ピストンの重さ分だけ圧力が変わる。$P = P_0 + mg/S$ または $P = P_0 - mg/S$

水平シリンダーのときだけ $P = P_0$ です。「鉛直か水平か」を必ず確認しましょう。

4連結容器と気球の問題

2つの容器がコックやバルブで連結されている問題や、気球のように外圧と内圧が等しい問題は、気体の物質量の保存がカギです。

連結容器のパターン

体積 $V_A$ の容器A(圧力 $P_A$、温度 $T_A$)と体積 $V_B$ の容器B(圧力 $P_B$、温度 $T_B$)をコックで連結する場合:

  1. コックを開くと圧力が等しくなる($P_A' = P_B' = P$)
  2. 気体の総物質量は保存:$n_A + n_B = n_A' + n_B'$
  3. 各容器で $PV = nRT$ を適用して未知数を求める
📐 連結容器の公式(同温の場合)

温度が等しい場合、物質量の保存 $n_A + n_B = n_{\text{total}}$ より:

$$\frac{P_A V_A}{RT} + \frac{P_B V_B}{RT} = \frac{P(V_A + V_B)}{RT}$$

$$\therefore P = \frac{P_A V_A + P_B V_B}{V_A + V_B}$$

※ 温度が異なる容器を連結する場合は、各容器の温度を個別に考える必要がある。

気球の問題

気球内の気体は外気圧と等しい圧力を持ちます(気球の膜は柔らかいため)。温度を上げると体積が膨張し、密度が下がって浮力が得られます。

🔬 深掘り:熱気球の原理

気球内の空気を加熱すると、$PV = nRT$ で $P$ 一定(外気圧)のまま $T$ が上がるため $V$ が増加します。しかし気球は開口部があるので、膨張した分の空気が外に出て内部の空気の質量が減少します。結果として気球内の空気の密度が外気より小さくなり、浮力で上昇します。

5この章を俯瞰する

気体の法則の典型問題は、装置ごとのパターンを整理することが攻略のカギです。

つながりマップ

  • ← T-2-1 ボイルの法則:定温変化($PV = \text{一定}$)が密閉容器やピストン問題の基礎。
  • ← T-2-2 シャルルの法則:定圧変化($V/T = \text{一定}$)がピストンの加熱問題に直結。
  • ← T-2-3 理想気体の状態方程式:$PV = nRT$ があらゆる問題の出発点。
  • → T-2-6 混合気体:分圧の概念を加えて、より複雑な問題を扱う。
  • → T-3 気体分子の運動:圧力の分子運動論的な意味を理解する。

📋まとめ

  • 密閉容器($V$ 一定):温度変化で圧力が変化する。$P_1/T_1 = P_2/T_2$
  • ピストン付き容器:圧力はピストンの力のつりあいで決まる
  • 鉛直ピストン:$P = P_0 + mg/S$(または $P_0 - mg/S$)
  • ピストンが自由に動くなら圧力一定。温度変化で体積が変わる
  • 連結容器:気体の物質量が保存される。コックを開くと圧力が等しくなる
  • 気体の法則では必ず絶対温度 [K] を使う

確認テスト

Q1. 密閉容器(体積一定)で気体を加熱すると、圧力はどう変化しますか。理由とともに答えてください。

▶ クリックして解答を表示圧力は増加する。$V$ 一定で $T$ が増加すると、$PV = nRT$ より $P = nRT/V$ が増加するため。分子運動の視点では、温度上昇で分子の速さが増し、壁への衝突の勢いが強くなるから。

Q2. 鉛直シリンダーで気体の上にピストンがのっている場合、気体の圧力の式を書いてください。

▶ クリックして解答を表示$P = P_0 + mg/S$($P_0$:大気圧、$m$:ピストンの質量、$g$:重力加速度、$S$:断面積)

Q3. 気体の法則で温度に摂氏(°C)を使ってはいけない理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示気体の法則は体積や圧力が絶対温度に比例する形で成り立つ。摂氏は0°Cが恣意的な基準(水の凝固点)であり、比例関係が成り立たない。$T\,[\text{K}] = t\,[\text{°C}] + 273$ で変換する。

Q4. 2つの容器をコックで連結する問題で保存される量は何ですか。

▶ クリックして解答を表示気体の物質量(モル数)の総量。$n_{\text{total}} = n_A + n_B$ が保存される。

8入試問題演習

気体の法則の典型問題を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

2-5-1 A 基礎 密閉容器計算

体積一定の密閉容器に、$27\,\text{°C}$ で $2.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ の気体が入っている。この気体を $327\,\text{°C}$ に加熱すると圧力はいくらになるか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$P_2 = 4.0 \times 10^5\,\text{Pa}$

解説

$T_1 = 27 + 273 = 300\,\text{K}$、$T_2 = 327 + 273 = 600\,\text{K}$

$V$ 一定なので:$P_2 = P_1 \times \dfrac{T_2}{T_1} = 2.0 \times 10^5 \times \dfrac{600}{300} = 4.0 \times 10^5\,\text{Pa}$

B 発展レベル

2-5-2 B 発展 ピストン計算

断面積 $S = 20\,\text{cm}^2$ の鉛直シリンダーに、質量 $m = 5.0\,\text{kg}$ のピストンがのっている。大気圧 $P_0 = 1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$、$g = 10\,\text{m/s}^2$ とする。

(1) 気体の圧力を求めよ。

(2) $27\,\text{°C}$ で体積が $200\,\text{cm}^3$ のとき、$127\,\text{°C}$ に加熱すると体積はいくらになるか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $P = 1.25 \times 10^5\,\text{Pa}$

(2) $V_2 \approx 267\,\text{cm}^3$

解説

(1) $P = P_0 + \dfrac{mg}{S} = 1.0 \times 10^5 + \dfrac{5.0 \times 10}{20 \times 10^{-4}} = 1.0 \times 10^5 + 2.5 \times 10^4 = 1.25 \times 10^5\,\text{Pa}$

(2) ピストンは自由に動くので圧力は一定。$T_1 = 300\,\text{K}$、$T_2 = 400\,\text{K}$

$\dfrac{V_1}{T_1} = \dfrac{V_2}{T_2}$ → $V_2 = 200 \times \dfrac{400}{300} = \dfrac{800}{3} \approx 267\,\text{cm}^3$

採点ポイント
  • ピストンの力のつりあいから圧力を求める(3点)
  • 圧力一定であることに気づく(2点)
  • 絶対温度に変換して計算(3点)
  • 数値が正しい(2点)

C 応用レベル

2-5-3 C 応用 連結容器計算

体積 $V_A = 2.0\,\text{L}$ の容器Aに $3.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ の気体、体積 $V_B = 3.0\,\text{L}$ の容器Bに $1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ の気体がそれぞれ同温度 $T$ で入っている。コックを開いて気体を混合した後の圧力を求めよ。温度は変わらないものとする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$P = 1.8 \times 10^5\,\text{Pa}$

解説

温度一定なので、物質量保存から:

$$P = \frac{P_A V_A + P_B V_B}{V_A + V_B} = \frac{3.0 \times 10^5 \times 2.0 + 1.0 \times 10^5 \times 3.0}{2.0 + 3.0}$$

$$= \frac{6.0 \times 10^5 + 3.0 \times 10^5}{5.0} = \frac{9.0 \times 10^5}{5.0} = 1.8 \times 10^5\,\text{Pa}$$

採点ポイント
  • 物質量の保存に基づいて式を立てる(4点)
  • 連結後の体積が $V_A + V_B$ になることを正しく使う(3点)
  • 数値が正しい(3点)