第15章 波の性質

波の速さ
─ $v = f\lambda$

波がどのくらいの速さで進むのか。これは波を定量的に扱ううえで最も基本的な関係式です。
振動数(周波数)$f$、波長 $\lambda$、周期 $T$ という量がどう結びつくのかを理解し、
$v = f\lambda$ を自在に使いこなせるようにしましょう。

1波の速さとは

波の速さとは、波形(山や谷のパターン)が単位時間あたりに進む距離です。 個々の媒質点が移動する速さ(振動の速さ)とは全く異なるので注意しましょう。

⚠️ 落とし穴:波の速さと媒質の速さを混同する

✕ 誤:波の速さ=媒質が動く速さ

○ 正:波の速さ=波形(パターン)が伝わる速さ

スタジアムのウェーブを想像してください。観客(媒質)は立ったり座ったりするだけですが、波のパターンはスタジアムを高速で一周します。波の速さと媒質の速さは別物です。

波の速さは通常 $v$(velocity)で表し、単位は $\text{m/s}$ です。

2基本公式 $v = f\lambda$ の導出

波は1周期 $T$ の間に1波長 $\lambda$ だけ進みます。これが $v = f\lambda$ の出発点です。

▷ $v = f\lambda$ の導出

波形は1周期 $T$ の間に1波長 $\lambda$ だけ進むから、

$$v = \frac{\lambda}{T}$$

振動数(周波数)$f$ は周期の逆数なので $f = \dfrac{1}{T}$、すなわち $T = \dfrac{1}{f}$ を代入すると、

$$v = \frac{\lambda}{1/f} = f\lambda$$

📐 波の基本公式

$$v = f\lambda = \frac{\lambda}{T}$$

※ $v$:波の速さ [$\text{m/s}$]、$f$:振動数 [$\text{Hz}$]、$\lambda$:波長 [$\text{m}$]、$T$:周期 [$\text{s}$]
※ $f = \dfrac{1}{T}$ の関係から、$v = f\lambda$ と $v = \dfrac{\lambda}{T}$ は同じ式。
💡 ここが本質:$v = f\lambda$ は「定義から出る当然の式」

この式は物理法則ではなく、波長・振動数・速さの定義から自動的に出てくる関係です。

「1秒間に $f$ 回振動し、1回の振動で $\lambda$ だけ進む。だから1秒間に $f\lambda$ 進む」──これだけです。横波でも縦波でも、水面波でも音波でも光でも、すべての波に成り立ちます。

3波の速さを決めるもの

$v = f\lambda$ は常に成り立ちますが、波の速さ $v$ を実際に決めているのは何でしょうか。

波の速さは媒質の性質で決まる

波の速さは媒質の性質(弾性率、密度など)で決まり、振動数や振幅には依存しません。

  • 弦を伝わる波:$v = \sqrt{\dfrac{S}{\rho}}$($S$:張力、$\rho$:線密度)
  • 空気中の音速:約 $340\,\text{m/s}$($15\,°\text{C}$)。温度が上がると速くなる
  • 光の速さ:真空中で $c \approx 3.0 \times 10^8\,\text{m/s}$
⚠️ 落とし穴:振動数を変えると速さが変わる?

✕ 誤:振動数を2倍にすると波の速さも2倍になる

○ 正:波の速さは媒質で決まるため変わらない。振動数が2倍になると波長が半分になる

$v = f\lambda$ で $v$ が一定なら、$f$ が増えれば $\lambda$ は減ります。速さは振動数に依存しません(分散のある特殊な場合を除く)。

媒質が変わるとどうなるか

波が媒質の境界を通過するとき、振動数 $f$ は変わらず、波の速さ $v$ と波長 $\lambda$ が変わります。 これは波の屈折の原因にもなります。

💡 ここが本質:境界で不変なのは振動数

境界で振動数が変わらない理由は直感的です。境界面の1点は、入射波に押されて振動しています。その振動がそのまま透過波の振動源になるので、振動数は同じです。

$v_1 = f\lambda_1$、$v_2 = f\lambda_2$ から、$\dfrac{v_1}{v_2} = \dfrac{\lambda_1}{\lambda_2}$ が成り立ちます。

🔬 深掘り:音速の温度依存性

空気中の音速は近似的に次の式で表されます。

$v \approx 331.5 + 0.6\,t \quad [\text{m/s}]$

$t$ は摂氏温度 [$°\text{C}$] です。$15\,°\text{C}$ で $v \approx 340\,\text{m/s}$、$0\,°\text{C}$ で $v \approx 331.5\,\text{m/s}$ です。

入試では「音速 $340\,\text{m/s}$」と与えられることが多いですが、温度から求めさせる問題もあります。

4典型的な計算パターン

$v = f\lambda$ を使った典型的な計算例を確認しましょう。

パターンA:振動数と波長から速さを求める

振動数 $f = 440\,\text{Hz}$、波長 $\lambda = 0.773\,\text{m}$ の音波の速さは、

$$v = f\lambda = 440 \times 0.773 = 340\,\text{m/s}$$

パターンB:速さと振動数から波長を求める

速さ $v = 340\,\text{m/s}$、振動数 $f = 680\,\text{Hz}$ の音波の波長は、

$$\lambda = \frac{v}{f} = \frac{340}{680} = 0.50\,\text{m}$$

パターンC:周期から振動数に変換して使う

周期 $T = 0.0025\,\text{s}$、波長 $\lambda = 0.85\,\text{m}$ の波の速さは、

$$v = \frac{\lambda}{T} = \frac{0.85}{0.0025} = 340\,\text{m/s}$$

🔬 深掘り:単位の確認で間違いを防ぐ

$v = f\lambda$ の単位を確認しましょう。$[\text{Hz}] \times [\text{m}] = [\text{s}^{-1}] \times [\text{m}] = [\text{m/s}]$

計算結果の単位が $\text{m/s}$ になっているか確認する習慣をつけると、桁違いや単位の変換ミスを防げます。

5この章を俯瞰する

$v = f\lambda$ は波のすべての分野で使われる最重要公式の一つです。

つながりマップ

  • ← W-1-2 波の基本量:$f$、$\lambda$、$T$ の定義を前提として、それらの関係を公式化した。
  • ← W-1-3 横波と縦波:$v = f\lambda$ は横波でも縦波でも成り立つ。
  • → W-1-5 y-tグラフとy-xグラフ:グラフから $T$、$\lambda$ を読み取り、$v$ を計算する。
  • → W-2-1 音の性質:音速と $v = f\lambda$ を使った問題が頻出。
  • → W-4-2 光の屈折:媒質が変わると $v$ と $\lambda$ が変わり($f$ は不変)、屈折が起きる。

📋まとめ

  • 波の速さは波形が伝わる速さであり、媒質の振動速度とは異なる
  • 基本公式 $v = f\lambda = \dfrac{\lambda}{T}$ はすべての波に成り立つ
  • 波の速さは媒質の性質で決まり、振動数や振幅には依存しない
  • 媒質の境界で振動数 $f$ は不変、速さ $v$ と波長 $\lambda$ が変わる
  • $v$ 一定のとき、$f$ が大きいほど $\lambda$ は小さい(反比例)
  • 音速は約 $340\,\text{m/s}$($15\,°\text{C}$)。温度で変化する

確認テスト

Q1. 波の速さの公式を、振動数 $f$ と波長 $\lambda$ を用いて書いてください。

▶ クリックして解答を表示$v = f\lambda$

Q2. 振動数 $500\,\text{Hz}$、波長 $0.68\,\text{m}$ の音波の速さを求めてください。

▶ クリックして解答を表示$v = 500 \times 0.68 = 340\,\text{m/s}$

Q3. 波が異なる媒質に入ったとき、変わらない量は $v$、$f$、$\lambda$ のうちどれですか。

▶ クリックして解答を表示振動数 $f$ が変わらない。波の速さ $v$ と波長 $\lambda$ は媒質の性質により変化する。

Q4. 波の速さは振動数によらず一定です。振動数を2倍にすると波長はどうなりますか。

▶ クリックして解答を表示波長は半分($\dfrac{1}{2}$倍)になる。$v = f\lambda$ で $v$ が一定なら、$f$ と $\lambda$ は反比例する。

8入試問題演習

波の速さに関する入試形式の問題で理解を確認しましょう。

A 基礎レベル

1-4-1 A 基礎 公式適用計算

振動数 $200\,\text{Hz}$、波長 $1.7\,\text{m}$ の音波がある。

(1) この音波の速さを求めよ。

(2) この音波の周期を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $v = 340\,\text{m/s}$

(2) $T = 5.0 \times 10^{-3}\,\text{s}$

解説

(1) $v = f\lambda = 200 \times 1.7 = 340\,\text{m/s}$

(2) $T = \dfrac{1}{f} = \dfrac{1}{200} = 0.0050\,\text{s} = 5.0 \times 10^{-3}\,\text{s}$

1-4-2 A 基礎 波長の計算計算

空気中の音速を $340\,\text{m/s}$ とする。人間の可聴域は $20\,\text{Hz}$ から $20000\,\text{Hz}$ である。この振動数範囲に対応する波長の範囲を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$0.017\,\text{m}$ から $17\,\text{m}$

解説

$f = 20\,\text{Hz}$ のとき:$\lambda = \dfrac{v}{f} = \dfrac{340}{20} = 17\,\text{m}$

$f = 20000\,\text{Hz}$ のとき:$\lambda = \dfrac{340}{20000} = 0.017\,\text{m}$

低い音ほど波長が長く、高い音ほど波長が短い。

B 発展レベル

1-4-3 B 発展 媒質の変化計算

振動数 $440\,\text{Hz}$ の音叉を空気中で鳴らしたところ、音速が $340\,\text{m/s}$ の空気中での波長は $\lambda_1$ であった。同じ音叉を水中で鳴らしたとき(水中の音速 $1500\,\text{m/s}$)、波長 $\lambda_2$ を求めよ。また $\dfrac{\lambda_2}{\lambda_1}$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\lambda_1 \approx 0.773\,\text{m}$、$\lambda_2 \approx 3.41\,\text{m}$、$\dfrac{\lambda_2}{\lambda_1} \approx 4.4$

解説

振動数は音源(音叉)で決まるため、媒質が変わっても $f = 440\,\text{Hz}$ のまま。

$\lambda_1 = \dfrac{v_1}{f} = \dfrac{340}{440} \approx 0.773\,\text{m}$

$\lambda_2 = \dfrac{v_2}{f} = \dfrac{1500}{440} \approx 3.41\,\text{m}$

$\dfrac{\lambda_2}{\lambda_1} = \dfrac{v_2}{v_1} = \dfrac{1500}{340} \approx 4.4$

採点ポイント
  • 振動数が変わらないことの理解(3点)
  • 各波長の計算(各2点)
  • 波長の比が速度の比に等しいこと(3点)
1-4-4 B 発展 弦の波計算

長さ $1.2\,\text{m}$、質量 $3.0 \times 10^{-3}\,\text{kg}$ の弦に $48\,\text{N}$ の張力をかけた。弦を伝わる波の速さを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$v \approx 139\,\text{m/s}$

解説

線密度 $\rho = \dfrac{m}{L} = \dfrac{3.0 \times 10^{-3}}{1.2} = 2.5 \times 10^{-3}\,\text{kg/m}$

$v = \sqrt{\dfrac{S}{\rho}} = \sqrt{\dfrac{48}{2.5 \times 10^{-3}}} = \sqrt{19200} \approx 139\,\text{m/s}$

張力が大きいほど、線密度が小さいほど、波は速く伝わる。

採点ポイント
  • 線密度の計算(3点)
  • $v = \sqrt{S/\rho}$ の適用(3点)
  • 数値計算が正しい(4点)

C 応用レベル

1-4-5 C 応用 複合問題論述

振動数 $f$ の音叉を鳴らし、温度 $t_1 = 15\,°\text{C}$ の空気中で波長を測定したところ $\lambda_1 = 0.80\,\text{m}$ であった。温度を $t_2 = 35\,°\text{C}$ に上げたとき、波長 $\lambda_2$ を求めよ。音速は $v = 331.5 + 0.6\,t$($t$ は摂氏温度)で与えられるとする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\lambda_2 \approx 0.835\,\text{m}$

解説

$v_1 = 331.5 + 0.6 \times 15 = 340.5\,\text{m/s}$

$v_2 = 331.5 + 0.6 \times 35 = 352.5\,\text{m/s}$

振動数 $f$ は音叉が決めるので温度によらず一定。$f = \dfrac{v_1}{\lambda_1} = \dfrac{340.5}{0.80} = 425.6\,\text{Hz}$

$\lambda_2 = \dfrac{v_2}{f} = \dfrac{352.5}{425.6} \approx 0.828\,\text{m}$

あるいは $\dfrac{\lambda_2}{\lambda_1} = \dfrac{v_2}{v_1}$ から $\lambda_2 = 0.80 \times \dfrac{352.5}{340.5} \approx 0.828\,\text{m}$

採点ポイント
  • 各温度での音速を正しく計算(各2点)
  • 振動数が不変であることの理解(3点)
  • $\lambda_2$ の正しい計算(3点)
1-4-6 C 応用 弦の振動計算

長さ $L$ の弦に張力 $S$ をかけて振動させたとき、基本振動の振動数は $f_1 = \dfrac{1}{2L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}}$ で表される($\rho$ は線密度)。張力を4倍にすると基本振動数は何倍になるか。また、弦の長さを半分にすると何倍になるか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

張力4倍:振動数は $2$ 倍。長さ半分:振動数は $2$ 倍。

解説

$f_1 = \dfrac{1}{2L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}}$ において、

張力を4倍($S \to 4S$)にすると:$f_1' = \dfrac{1}{2L}\sqrt{\dfrac{4S}{\rho}} = 2 \cdot \dfrac{1}{2L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}} = 2f_1$

長さを半分($L \to \dfrac{L}{2}$)にすると:$f_1' = \dfrac{1}{2 \cdot L/2}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}} = \dfrac{1}{L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}} = 2f_1$

ギターで弦を押さえて短くすると音が高くなり、ペグを回して張力を上げても音が高くなるのは、この関係による。

採点ポイント
  • 張力4倍のときの計算(4点)
  • 長さ半分のときの計算(4点)
  • 結論が正しい(2点)