2つの波が出会ったとき、何が起きるでしょうか。ぶつかって消えるのか、跳ね返るのか?
実は波は互いにすり抜けて、出会っている間だけ変位が足し合わされます。
これが重ね合わせの原理です。定常波や干渉の土台となる重要な原理です。
同じ媒質中を伝わる2つ以上の波が同じ場所に存在するとき、その点の変位は各波の変位の和に等しくなります。これを重ね合わせの原理(superposition principle)といいます。
2つの波の変位がそれぞれ $y_1$ と $y_2$ のとき、合成波の変位は
$$y = y_1 + y_2$$
重ね合わせの原理が成り立つ理由は、波を記述する方程式(波動方程式)が線形だからです。
線形方程式の解を足し合わせたものもまた解になります。これは力学の世界では粒子がぶつかると跳ね返るのとは全く異なる、波に特有の性質です。
重ね合わせるのは「変位」であり、「振幅」ではありません。
✕ 誤:振幅 $A_1 = 3$ と $A_2 = 2$ の波の合成振幅は常に $5$
○ 正:各点・各瞬間の変位 $y_1$ と $y_2$ を足す。位相関係により合成振幅は $1$ から $5$ まで変わる
2つの波が重なったとき、変位が大きくなる場合と小さくなる場合があります。
2つの波の山と山(または谷と谷)が重なると、合成波の変位は大きくなります。これを強め合いといいます。
同じ振幅 $A$ の波が完全に同位相で重なると、合成波の振幅は $2A$ になります。
一方の波の山と他方の波の谷が重なると、合成波の変位は小さくなります。これを弱め合いといいます。
同じ振幅 $A$ の波が完全に逆位相で重なると、合成波の変位は $0$ になります。
振幅 $A$ の2波が重なるとき、
同位相(山+山):合成振幅 = $2A$(最大)
逆位相(山+谷):合成振幅 = $0$(最小)
ノイズキャンセリングイヤホンは、外部の騒音と逆位相の音を発生させることで、重ね合わせにより騒音を打ち消しています。
これは弱め合いの干渉の応用例です。騒音の波形をマイクで検出し、それと逆位相の波を瞬時に生成して重ね合わせます。
重ね合わせの原理と同様に重要なのが波の独立性です。
2つの波が重なり合った後、各波はそれぞれ元の波形・速さ・進行方向を保ったまま進み続ける。
粒子(ボール)がぶつかると跳ね返ったり速度が変わったりしますが、波にはそのようなことは起こりません。 2つの波は互いにすり抜けて、何事もなかったかのように進んでいきます。
重ね合わせの原理は「重なっている間」の変位の求め方を、波の独立性は「通過した後」の振る舞いを述べています。
この2つはセットで理解しましょう。波は出会いの前後で全く変化しません。
入試では、2つの波のy-xグラフが与えられ、合成波の波形を作図する問題が頻出です。
特に、変位が $0$ になる点や最大・最小になる点を先に求めると、効率的に作図できます。
変位には正(上向き)と負(下向き)があります。重ね合わせは代数和です。
✕ 誤:$y_1 = 3$、$y_2 = -2$ のとき $y = 3 + 2 = 5$
○ 正:$y_1 = 3$、$y_2 = -2$ のとき $y = 3 + (-2) = 1$
まず両方の波形が $0$ の点を確認しましょう。その点では合成波も $0$ です。
次に、一方が山で他方が $0$ の点を見ます。そこでは合成波はそのまま山の値になります。
最後に、両方の波が同時に山(または谷)の点を見つけ、振幅が最大になる箇所を特定します。
重ね合わせの原理は、定常波・干渉・回折など、波動現象のほぼすべての土台です。
Q1. 重ね合わせの原理を式で表してください。
Q2. 振幅がともに $A$ の2波が完全に同位相で重なると、合成波の振幅はいくらになりますか。
Q3. 波の独立性とは何ですか。
Q4. ある点で $y_1 = 0.30\,\text{m}$、$y_2 = -0.50\,\text{m}$ のとき、合成変位はいくらですか。
重ね合わせの原理に関する入試形式の問題で理解を確認しましょう。
右向きに進む振幅 $2.0\,\text{cm}$、波長 $4.0\,\text{cm}$ の正弦波と、左向きに進む振幅 $2.0\,\text{cm}$、波長 $4.0\,\text{cm}$ の正弦波が同時刻に完全に同位相で重なった。合成波の振幅を求めよ。
$4.0\,\text{cm}$
同位相で重なるとき、山と山が一致するため強め合いが最大になる。
合成振幅 = $A_1 + A_2 = 2.0 + 2.0 = 4.0\,\text{cm}$
2つのパルス波が互いに逆向きに進んで重なり合い、ある瞬間に変位が完全に $0$ になった。その後、2つのパルス波はどうなるか。次から選べ。
(ア) 消滅して波はなくなる
(イ) 反射して逆向きに進む
(ウ) 元の波形のまま、それぞれの方向に進み続ける
(ウ)
波の独立性により、波はすれ違った後もそれぞれ元の波形・速さ・方向を保って進み続ける。
変位が $0$ になったのは重ね合わせの一瞬だけであり、波のエネルギーが消えたわけではない。
振幅 $A = 3.0\,\text{cm}$、波長 $\lambda = 8.0\,\text{cm}$ の正弦波が右向きに進み、振幅 $A = 3.0\,\text{cm}$、波長 $\lambda = 8.0\,\text{cm}$ の正弦波が左向きに進んでいる。ある瞬間に $x = 0$ で2つの波がともに変位 $0$(同時にゼロ交差)であるとき、$x = 2.0\,\text{cm}$ での合成変位を求めよ。
場合による(位相関係の詳細が必要)。同位相ゼロ交差の場合、合成変位は $2 \times 3.0\sin\left(\dfrac{2\pi}{8.0} \times 2.0\right) = 6.0\sin\left(\dfrac{\pi}{2}\right) = 6.0\,\text{cm}$
2つの波が同位相でゼロを交差するとき、右向き波 $y_1 = 3.0\sin\left(\dfrac{2\pi}{8.0}x\right) = 3.0\sin\left(\dfrac{\pi}{4}x\right)$
左向き波が同位相なら $y_2 = 3.0\sin\left(\dfrac{\pi}{4}x\right)$ として、$x = 2.0$ で $y = 2 \times 3.0\sin\left(\dfrac{\pi}{2}\right) = 6.0\,\text{cm}$
逆位相の場合は $y = 0$ となる。重ね合わせの結果は位相関係で決まる。
振幅 $5.0\,\text{cm}$ の波 A と振幅 $3.0\,\text{cm}$ の波 B が同じ直線上を逆向きに進んでいる。合成波の振幅がとりうる最大値と最小値をそれぞれ求めよ。
最大値 $8.0\,\text{cm}$、最小値 $2.0\,\text{cm}$
同位相で重なるとき最大:$A_{\max} = 5.0 + 3.0 = 8.0\,\text{cm}$
逆位相で重なるとき最小:$A_{\min} = |5.0 - 3.0| = 2.0\,\text{cm}$
振幅が異なる場合、逆位相でも完全には打ち消し合わず、差の振幅が残る。
速さ $2.0\,\text{cm/s}$ で右向きに進む三角波パルス(幅 $4.0\,\text{cm}$、高さ $2.0\,\text{cm}$)と、速さ $2.0\,\text{cm/s}$ で左向きに進む三角波パルス(幅 $4.0\,\text{cm}$、高さ $-2.0\,\text{cm}$、つまり逆向き)がある。$t = 0$ でパルスの先端が $4.0\,\text{cm}$ 離れている。
(1) $t = 1.0\,\text{s}$ における合成波の波形を描け。
(2) 変位が完全に $0$ になる瞬間の時刻を求めよ。
(3) $t = 2.0\,\text{s}$ における各パルスの位置を描け。
(1) 2つのパルスが完全に重なり、合成変位は全ての点で $0$
(2) $t = 1.0\,\text{s}$
(3) 2つのパルスはすれ違い、元の形のまま互いに反対方向に進んでいる
(1) $t = 1.0\,\text{s}$ で各パルスは $2.0\,\text{cm}$ 進む。先端の間隔 $4.0\,\text{cm}$ の半分なので完全に重なる。正のパルスと負のパルス(同じ大きさ)なので、全ての点で $y_1 + y_2 = 0$。
(2) 完全に重なるのは $t = \dfrac{4.0/2}{2.0} = 1.0\,\text{s}$
(3) 波の独立性により、$t = 2.0\,\text{s}$ では完全にすれ違い、各パルスは元の形で進む。
2つの同じ波源から同位相で発せられた波が、ある点 P で出会う。波源からPまでの距離がそれぞれ $d_1$、$d_2$ で波長が $\lambda$ のとき、Pで強め合う条件と弱め合う条件を経路差 $|d_1 - d_2|$ を用いて示せ。
強め合い:$|d_1 - d_2| = m\lambda$($m = 0, 1, 2, \ldots$)
弱め合い:$|d_1 - d_2| = \left(m + \dfrac{1}{2}\right)\lambda$($m = 0, 1, 2, \ldots$)
経路差が波長の整数倍のとき、2つの波は同位相で到達するため強め合う。
経路差が波長の半整数倍のとき、2つの波は逆位相で到達するため弱め合う。
これは重ね合わせの原理の直接的な帰結であり、光の干渉(ヤングの実験など)でも全く同じ条件が使われる。