第15章 波の性質

定常波(定在波)
─ 腹と節のパターン

同じ振幅・波長の2つの波が逆向きに進むとき、波形は進まずに「その場で振動する」パターンが現れます。
これが定常波(定在波、standing wave)です。
弦の振動や気柱の共鳴など、楽器の物理から入試問題まで、定常波は至るところに登場します。

1定常波のでき方

定常波は、同じ振幅 $A$・同じ波長 $\lambda$(同じ振動数 $f$)の2つの波が逆向きに進むとき、重ね合わせの原理によって生じます。

代表的な発生場面は、弦の端で反射した波と入射波が重なるケースです。入射波と反射波は同じ振幅・波長で逆向きに進むため、定常波が自然に形成されます。

💡 ここが本質:定常波は「進まない波」

通常の波(進行波)は山や谷のパターンが移動しますが、定常波は波形が進みません。各点が上下に振動するだけです。

ただし、定常波は「波がないわけではなく、2つの進行波の重ね合わせ」です。エネルギーは腹の部分に蓄えられています。

2腹と節

定常波には、最も大きく振動する点と全く振動しない点が交互に現れます。

📐 腹と節

(antinode):振幅が最大($2A$)の点。最も激しく振動する

(node):振幅が $0$ の点。全く振動しない

隣り合う腹と腹の間隔(=隣り合う節と節の間隔):$\dfrac{\lambda}{2}$

隣り合う腹と節の間隔:$\dfrac{\lambda}{4}$

※ $\lambda$ は元の進行波の波長。腹と節は等間隔に並ぶ。
⚠️ 落とし穴:定常波の「波長」

定常波の腹から次の腹までの距離は $\dfrac{\lambda}{2}$ です。これを定常波の「波長」と勘違いしやすい。

✕ 誤:腹と腹の間隔 $= \lambda$

○ 正:腹と腹の間隔 $= \dfrac{\lambda}{2}$(元の進行波の半波長)

定常波は進行波ではないため厳密には「波長」を持ちませんが、元の波の波長 $\lambda$ で特徴づけます。

🔬 深掘り:腹の振幅が $2A$ になる理由

腹は2つの進行波の山と山が常に同位相で重なる位置です。振幅 $A$ の波が2つ重なるので、腹の最大変位は $A + A = 2A$ になります。

逆に節は、2つの波が常に逆位相で重なる位置なので、変位は常に $0$ です。

3定常波の数式

定常波を数式で表してみましょう。

▷ 定常波の式の導出

右向きの波:$y_1 = A\sin(kx - \omega t)$

左向きの波:$y_2 = A\sin(kx + \omega t)$

重ね合わせ:

$$y = y_1 + y_2 = A[\sin(kx - \omega t) + \sin(kx + \omega t)]$$

和積の公式 $\sin P + \sin Q = 2\sin\dfrac{P+Q}{2}\cos\dfrac{P-Q}{2}$ を使うと、

$$y = 2A\sin(kx)\cos(\omega t)$$

📐 定常波の式

$$y = 2A\sin(kx)\cos(\omega t)$$

※ $\sin(kx)$ は位置だけの関数(振幅の空間分布)、$\cos(\omega t)$ は時間だけの関数(全体の振動)。
※ $\sin(kx) = 0$ の位置($x = \dfrac{n\lambda}{2}$)が節、$|\sin(kx)| = 1$ の位置($x = \dfrac{(2n+1)\lambda}{4}$)が腹。
💡 ここが本質:「位置」と「時間」が分離する

進行波 $y = A\sin(kx - \omega t)$ では $x$ と $t$ が一体になっていますが、定常波 $y = 2A\sin(kx)\cos(\omega t)$ では $x$ と $t$ が掛け算の形で分離します。

これは「波形が進まない」ことの数学的な表現です。各点の振幅が $2A|\sin(kx)|$ で決まり、時間とともに $\cos(\omega t)$ の振動をします。

4弦の固有振動

両端が固定された長さ $L$ の弦では、両端が節になります。この条件を満たす定常波だけが安定して存在でき、これを固有振動といいます。

📐 弦の固有振動の条件

両端が節なので、弦の長さ $L$ は半波長の整数倍:

$$L = n \cdot \frac{\lambda_n}{2} \quad (n = 1, 2, 3, \ldots)$$

したがって $\lambda_n = \dfrac{2L}{n}$、振動数 $f_n = \dfrac{v}{\lambda_n} = \dfrac{nv}{2L}$

※ $n = 1$:基本振動($\lambda_1 = 2L$)、$n = 2$:2倍振動($\lambda_2 = L$)、$n = 3$:3倍振動…
※ $f_n = nf_1$($n$ 倍振動の振動数は基本振動数の $n$ 倍)
⚠️ 落とし穴:基本振動の波長を $L$ と間違える

✕ 誤:基本振動の波長 $\lambda_1 = L$

○ 正:基本振動の波長 $\lambda_1 = 2L$

基本振動では弦の長さに半波長だけ入る。$L = \dfrac{\lambda_1}{2}$ なので $\lambda_1 = 2L$。

🔬 深掘り:倍音と音色

楽器の弦を弾くと、基本振動だけでなく2倍、3倍…の倍振動(倍音)も同時に発生します。

倍音の強さの割合が「音色」を決めます。同じ高さの音でもピアノとギターで音色が異なるのは、倍音の構成が違うからです。

5この章を俯瞰する

定常波は弦の振動・気柱の共鳴・光の干渉など、波動分野の多くの現象の基礎です。

つながりマップ

  • ← W-1-6 重ね合わせの原理:定常波は2つの進行波の重ね合わせとして理解できる。
  • → W-1-8 波の反射:反射で生じる入射波と反射波の重ね合わせが定常波を作る。
  • → W-2-2 弦の振動:弦の固有振動は定常波そのもの。
  • → W-2-3 気柱の共鳴(開管):管内の気柱も定常波で共鳴する。
  • → W-2-4 気柱の共鳴(閉管):閉端が節、開端が腹の定常波。

📋まとめ

  • 定常波:同振幅・同波長の2波が逆向きに進み重ね合わさってできる「進まない波」
  • :振幅 $2A$ で最も大きく振動する点。:振幅 $0$ で全く動かない点
  • 隣り合う腹と腹(節と節)の間隔は $\dfrac{\lambda}{2}$、腹と節の間隔は $\dfrac{\lambda}{4}$
  • 定常波の式 $y = 2A\sin(kx)\cos(\omega t)$ では位置と時間が分離する
  • 弦の固有振動:$L = n \cdot \dfrac{\lambda_n}{2}$ より $f_n = \dfrac{nv}{2L}$
  • 基本振動の波長は $\lambda_1 = 2L$(弦の長さの2倍

確認テスト

Q1. 定常波はどのような2つの波の重ね合わせでできますか。

▶ クリックして解答を表示同じ振幅・同じ波長(振動数)の2つの波が逆向きに進むときの重ね合わせで生じます。

Q2. 隣り合う腹と腹の間隔は波長 $\lambda$ の何倍ですか。

▶ クリックして解答を表示$\dfrac{\lambda}{2}$(半波長)

Q3. 長さ $L = 0.60\,\text{m}$ の弦の基本振動の波長を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\lambda_1 = 2L = 2 \times 0.60 = 1.2\,\text{m}$

Q4. 弦の3倍振動の振動数は基本振動数の何倍ですか。

▶ クリックして解答を表示3倍。$f_3 = 3f_1$

8入試問題演習

定常波に関する入試形式の問題で理解を確認しましょう。

A 基礎レベル

1-7-1 A 基礎 腹と節計算

波長 $\lambda = 0.40\,\text{m}$ の定常波がある。

(1) 隣り合う腹と腹の間隔を求めよ。

(2) 隣り合う腹と節の間隔を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $0.20\,\text{m}$ (2) $0.10\,\text{m}$

解説

(1) 腹と腹の間隔 $= \dfrac{\lambda}{2} = \dfrac{0.40}{2} = 0.20\,\text{m}$

(2) 腹と節の間隔 $= \dfrac{\lambda}{4} = \dfrac{0.40}{4} = 0.10\,\text{m}$

1-7-2 A 基礎 弦の振動計算

長さ $L = 1.0\,\text{m}$ の弦を伝わる波の速さが $v = 200\,\text{m/s}$ であるとき、基本振動の振動数 $f_1$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$f_1 = 100\,\text{Hz}$

解説

$f_1 = \dfrac{v}{2L} = \dfrac{200}{2 \times 1.0} = 100\,\text{Hz}$

基本振動の波長 $\lambda_1 = 2L = 2.0\,\text{m}$ で確認:$f_1 = \dfrac{v}{\lambda_1} = \dfrac{200}{2.0} = 100\,\text{Hz}$ ✓

B 発展レベル

1-7-3 B 発展 倍振動計算

長さ $0.80\,\text{m}$ の弦に3つの腹を持つ定常波が生じている。波の速さを $320\,\text{m/s}$ とするとき、この振動の波長と振動数を求めよ。また、これは何倍振動か答えよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

3倍振動、$\lambda_3 \approx 0.533\,\text{m}$、$f_3 = 600\,\text{Hz}$

解説

腹が3つ → $n = 3$(3倍振動)。

$L = 3 \cdot \dfrac{\lambda_3}{2}$ より $\lambda_3 = \dfrac{2L}{3} = \dfrac{2 \times 0.80}{3} \approx 0.533\,\text{m}$

$f_3 = \dfrac{v}{\lambda_3} = \dfrac{320}{0.533} = 600\,\text{Hz}$

検算:$f_3 = \dfrac{3v}{2L} = \dfrac{3 \times 320}{2 \times 0.80} = 600\,\text{Hz}$ ✓

採点ポイント
  • 腹の数から倍振動の次数を判定(3点)
  • 波長の計算(3点)
  • 振動数の計算(4点)
1-7-4 B 発展 定常波の式計算

定常波 $y = 0.040\sin(5.0\pi x)\cos(200\pi t)$ [$\text{m}$] について、以下を求めよ。ただし $x$ [$\text{m}$]、$t$ [$\text{s}$] とする。

(1) 腹の振幅

(2) 波長 $\lambda$

(3) 振動数 $f$

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $0.040\,\text{m}$ (2) $0.40\,\text{m}$ (3) $100\,\text{Hz}$

解説

(1) $2A = 0.040\,\text{m}$(式の係数がそのまま腹の振幅)

(2) $k = 5.0\pi$ より $\dfrac{2\pi}{\lambda} = 5.0\pi$、$\lambda = \dfrac{2}{5.0} = 0.40\,\text{m}$

(3) $\omega = 200\pi$ より $2\pi f = 200\pi$、$f = 100\,\text{Hz}$

採点ポイント
  • 各量の正しい読み取りと計算(各3点)

C 応用レベル

1-7-5 C 応用 弦の振動総合

長さ $0.60\,\text{m}$、質量 $1.8 \times 10^{-3}\,\text{kg}$ の弦に $27\,\text{N}$ の張力をかけて両端を固定した。

(1) 弦を伝わる波の速さを求めよ。

(2) 基本振動の振動数を求めよ。

(3) この弦から $440\,\text{Hz}$ の音を出すには、張力を何倍にすればよいか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $v = 300\,\text{m/s}$ (2) $f_1 = 250\,\text{Hz}$ (3) 約 $3.1$ 倍

解説

(1) 線密度 $\rho = \dfrac{1.8 \times 10^{-3}}{0.60} = 3.0 \times 10^{-3}\,\text{kg/m}$

$v = \sqrt{\dfrac{S}{\rho}} = \sqrt{\dfrac{27}{3.0 \times 10^{-3}}} = \sqrt{9000} = 300\,\text{m/s}$

(2) $f_1 = \dfrac{v}{2L} = \dfrac{300}{2 \times 0.60} = 250\,\text{Hz}$

(3) $f_1 = \dfrac{1}{2L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}}$ より $f \propto \sqrt{S}$。$\dfrac{f'}{f_1} = \sqrt{\dfrac{S'}{S}}$ から $\dfrac{S'}{S} = \left(\dfrac{440}{250}\right)^2 = 3.10$

採点ポイント
  • (1) 線密度と波速の計算(各2点)
  • (2) 基本振動数の計算(3点)
  • (3) 張力と振動数の関係の導出と計算(5点)
1-7-6 C 応用 定常波論述

定常波は「波が進まない」のに、なぜエネルギーを持つことができるのか。定常波を構成する2つの進行波の視点から80字以内で説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

定常波は2つの進行波が逆向きに等しいエネルギーを輸送しているため、正味のエネルギー輸送は0だが、各点にはエネルギーが存在する。腹でエネルギーが最大となる。

解説

定常波は右向きと左向きの進行波の重ね合わせです。各進行波はエネルギーを輸送していますが、逆向きに等量なので正味のエネルギー輸送は $0$。

しかし各点には運動エネルギーと位置エネルギーが存在します。腹では振動が最大なのでエネルギーが最大、節ではエネルギーは $0$ です。

採点ポイント
  • 2つの進行波による説明(4点)
  • 正味のエネルギー輸送が0であること(3点)
  • 腹にエネルギーが蓄えられていること(3点)