目を閉じても世界は消えません。鳥のさえずり、風の音、遠くの電車の警笛──私たちは「音」を通じて、見えないものの存在を感じ取っています。
音の正体は、空気の振動が波として伝わる現象です。
この記事では、音速がどう決まるのか、音の高さ・大きさは波のどの要素に対応するのかを整理し、音の物理的性質を体系的に理解します。
太鼓を叩くと、太鼓の膜が振動します。この振動が周囲の空気を押したり引いたりすることで、空気中に疎密の波が生じます。これが音波です。
音波は、媒質(空気などの物質)の振動方向と波の進行方向が同じ縦波(疎密波)です。空気が密になった部分を密、疎になった部分を疎と呼びます。
たとえるなら、満員電車の中で一人が押すと、その「押し」が隣の人、さらにその隣の人へと次々に伝わっていくようなものです。空気の分子そのものが遠くまで移動するのではなく、「振動」という情報だけが伝わっていきます。
音は空気の振動が波として伝わる現象です。したがって、真空中では音は伝わりません。
宇宙空間が無音であるのは、空気という媒質がないからです。映画で宇宙船の爆発音が聞こえるのは、物理的にはフィクションです。
音波は縦波ですが、グラフで表すときには変位を縦軸にとって横波のように描くことができます。媒質の各点が振動の中心位置からどれだけずれているかを示したものが変位のグラフです。
変位が正に最大の位置では、右から空気が集まってきて左へ押し出されるので、その右側に密ができます。変位がゼロで傾きが負の位置(右向きの変位が減少する点)が密の中心にあたります。
音波の変位グラフが横波のような形をしているため、音そのものが横波だと誤解する人がいます。
✕ 誤:音波は横波である
○ 正:音波は縦波である。変位グラフは縦波を視覚的に表現したものにすぎない
雷が光ってから雷鳴が届くまでにタイムラグがあることからわかるように、音には有限の速さがあります。音が伝わる速さを音速といいます。
空気中の音速は、温度によって変化します。$0\,^\circ\text{C}$ での音速は約 $331\,\text{m/s}$ であり、温度が $1\,^\circ\text{C}$ 上がるごとに約 $0.6\,\text{m/s}$ 速くなります。
$$V = 331.5 + 0.6\,t$$
$15\,^\circ\text{C}$ のとき $V = 331.5 + 0.6 \times 15 = 340.5 \approx 340\,\text{m/s}$ です。入試問題では「$15\,^\circ\text{C}$ で $340\,\text{m/s}$」という数値がよく使われます。
音速を決めるのは媒質の種類と温度です。音源の振動数や振幅は音速に影響しません。
高い音も低い音も、大きい音も小さい音も、同じ媒質中では同じ速さで伝わります。もし音の高さによって速さが違えば、オーケストラの演奏は客席では滅茶苦茶に聞こえてしまうでしょう。
音は空気だけでなく、あらゆる物質中を伝わります。一般に、固体中が最も速く、液体中、気体中の順に遅くなります。
| 媒質 | 音速 [m/s] | 備考 |
|---|---|---|
| 空気($15\,^\circ\text{C}$) | 約 $340$ | 気体 |
| 水($25\,^\circ\text{C}$) | 約 $1500$ | 液体 |
| 鉄 | 約 $5100$ | 固体 |
| ガラス | 約 $5400$ | 固体 |
音の高さ(振動数)が変わっても、同じ媒質・同じ温度であれば音速は変わりません。
✕ 誤:高い音ほど速く伝わる
○ 正:同じ媒質中では、高い音も低い音も同じ速さで伝わる
気体の音速は $V = \sqrt{\dfrac{\gamma R T}{M}}$($\gamma$:比熱比、$R$:気体定数、$T$:絶対温度、$M$:分子量)で表されます。温度 $T$ が大きいほど分子の運動が激しくなり、振動の伝達が速くなるのです。
$331.5 + 0.6\,t$ という一次式は、この厳密な式を常温付近で近似したものです。
私たちの耳は、音をさまざまに聴き分けています。物理学では、音の聞こえ方を決める要素として音の高さ、音の大きさ、音色の3つを挙げます。これを「音の3要素」と呼びます。
音の高さは振動数(周波数)$f$ で決まります。振動数とは、1秒間に媒質が振動する回数であり、単位はヘルツ($\text{Hz}$)です。
人間の可聴範囲は約 $20\,\text{Hz}$ から $20000\,\text{Hz}$($20\,\text{kHz}$)です。$20\,\text{Hz}$ 以下の音を超低周波音、$20\,\text{kHz}$ 以上の音を超音波と呼びます。
音の大きさは波の振幅 $A$ で決まります。振幅が大きいほど空気の振動が激しく、大きな音に聞こえます。
同じ高さ・同じ大きさの音でも、ピアノとバイオリンでは聞こえ方が異なります。この違いを音色といいます。音色は波形の違い、すなわち含まれる倍音の成分によって決まります。
純粋な正弦波の音は「純音」と呼ばれ、音叉が出す音がこれに近いです。楽器の音は基本振動と倍振動が重ね合わさって複雑な波形をつくっており、この波形の違いが音色の違いとなります。
音の知覚と物理量の対応を正確に覚えましょう。
高さ ←→ 振動数 $f$(大きいほど高い音)
大きさ ←→ 振幅 $A$(大きいほど大きい音)
音色 ←→ 波形(倍音の含み方)
「大きい音」と「高い音」は日常用語では混同されがちですが、物理では全く別の量です。
✕ 誤:大きな音は振動数が大きい
○ 正:大きな音は振幅が大きい。高い音が振動数が大きい
「大きさ」は振幅、「高さ」は振動数。入試では明確に区別して解答しましょう。
音も波の一種ですから、波の基本公式がそのまま成り立ちます。
$$V = f\lambda$$
この式から、音速 $V$ が一定のとき、振動数 $f$ が大きい(高い音)ほど波長 $\lambda$ は短くなることがわかります。
振動数 $f$ とは、1秒間に発生する波の数です。1秒間に $f$ 個の波が発生し、そのすべてが距離 $V$(音速 × 1秒)の中に収まっています。
したがって、1個の波の長さ(波長)は $\lambda = \dfrac{V}{f}$ となり、これを変形すれば $V = f\lambda$ が得られます。
気温 $15\,^\circ\text{C}$($V = 340\,\text{m/s}$)のとき、振動数 $440\,\text{Hz}$(ピアノの「ラ」の音)の波長を求めてみましょう。
$$\lambda = \frac{V}{f} = \frac{340}{440} \approx 0.77\,\text{m}$$
約 $77\,\text{cm}$ という、手で掴めるくらいの長さです。
$V = 331.5 + 0.6\,t$ は「音速を気温から求める式」、$V = f\lambda$ は「音速と振動数・波長の関係式」です。
✕ 誤:$f\lambda = 331.5 + 0.6\,t$ に振動数を代入して気温を求める(目的が不明確)
○ 正:まず気温から音速を求め、次に $V = f\lambda$ で波長や振動数を求める(2段階で使う)
音が空気中から水中に入ると、音速は大きく変わりますが、振動数は変化しません。振動数は音源が決めるものだからです。
$V = f\lambda$ より、音速が変わっても振動数が一定なら、波長が変化します。水中では音速が約4.4倍になるので、波長も約4.4倍に伸びます。
$V = 340\,\text{m/s}$ として、可聴音の波長を計算してみましょう。
$20\,\text{Hz}$:$\lambda = 340 / 20 = 17\,\text{m}$(低い音は波長が長い)
$20000\,\text{Hz}$:$\lambda = 340 / 20000 = 0.017\,\text{m} = 1.7\,\text{cm}$(高い音は波長が短い)
波長が障害物のサイズと同程度のとき回折が起こりやすくなるため、低い音は壁の向こう側にも回り込みやすく、高い音は直進しやすいという性質があります。
音の性質は、波の基本を音に適用したものです。ここで学んだ内容が、弦の振動や気柱の共鳴へとつながっていきます。
Q1. 音波は縦波ですか、横波ですか。その理由も述べてください。
Q2. 気温 $25\,^\circ\text{C}$ のとき、空気中の音速を求めてください。
Q3. 音の高さを決める物理量は何ですか。
Q4. 音速 $340\,\text{m/s}$ のとき、振動数 $680\,\text{Hz}$ の音の波長を求めてください。
Q5. 音が空気中から水中に入ると、振動数・音速・波長はそれぞれどう変化しますか。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
気温 $20\,^\circ\text{C}$ の空気中で、振動数 $500\,\text{Hz}$ の音が出ている。次の問いに答えよ。
(1) この温度での空気中の音速を求めよ。
(2) この音の波長を求めよ。
(1) $343.5\,\text{m/s}$
(2) $0.687\,\text{m}$
(1) $V = 331.5 + 0.6 \times 20 = 331.5 + 12.0 = 343.5\,\text{m/s}$
(2) $\lambda = V / f = 343.5 / 500 = 0.687\,\text{m}$
気温 $25\,^\circ\text{C}$ のある日、雷の光が見えてから $4.0\,\text{s}$ 後に雷鳴が聞こえた。次の問いに答えよ。ただし、光は瞬時に届くものとする。
(1) この温度での音速を求めよ。
(2) 雷が発生した地点までの距離を求めよ。
(3) 光が瞬時に届くとした理由を、光速と音速を比較して簡潔に述べよ。
(1) $346.5\,\text{m/s}$
(2) $1386\,\text{m} \approx 1.4\,\text{km}$
(3) 光速(約 $3.0 \times 10^8\,\text{m/s}$)は音速(約 $347\,\text{m/s}$)の約 $86$ 万倍であり、数 km 程度の距離では光の到達時間は無視できるため。
(1) $V = 331.5 + 0.6 \times 25 = 346.5\,\text{m/s}$
(2) 光は瞬時に届くので、光ってから雷鳴が届くまでの $4.0\,\text{s}$ は音が進んだ時間に等しい。 $d = V \times t = 346.5 \times 4.0 = 1386\,\text{m}$
(3) 光速は音速の約 $86$ 万倍もあり、$1.4\,\text{km}$ の距離を光が進むのに要する時間は $1386 / (3.0 \times 10^8) \approx 4.6 \times 10^{-6}\,\text{s}$ で、$4.0\,\text{s}$ と比べて無視できる。
気温 $15\,^\circ\text{C}$ の日に、崖に向かって叫んだところ、$3.0\,\text{s}$ 後にこだまが聞こえた。さらに別の日(気温 $30\,^\circ\text{C}$)に同じ場所で叫んだところ、こだまが聞こえるまでの時間が変化した。次の問いに答えよ。
(1) 崖までの距離を求めよ。
(2) 気温 $30\,^\circ\text{C}$ の日にこだまが聞こえるまでの時間を求めよ。
(3) (2) の結果から、気温の違いによるこだまの時間差を求め、この差が生じる理由を述べよ。
(1) $510\,\text{m}$
(2) 約 $2.92\,\text{s}$
(3) 時間差は約 $0.08\,\text{s}$。気温が上がると音速が増加し、同じ距離をより短時間で往復するため。
方針:こだまは音が崖まで行って戻ってくる現象なので、往復距離 = 音速 × 時間。崖までの距離は往復距離の半分。
(1) $15\,^\circ\text{C}$ での音速:$V_1 = 331.5 + 0.6 \times 15 = 340.5\,\text{m/s}$
往復距離 $= 340.5 \times 3.0 = 1021.5\,\text{m}$、崖までの距離 $d = 1021.5 / 2 \approx 510\,\text{m}$
(2) $30\,^\circ\text{C}$ での音速:$V_2 = 331.5 + 0.6 \times 30 = 349.5\,\text{m/s}$
往復時間 $= 2d / V_2 = 1021.5 / 349.5 \approx 2.92\,\text{s}$
(3) 時間差 $= 3.0 - 2.92 = 0.08\,\text{s}$。気温が上昇すると空気分子の運動が活発になり音速が増すため、同じ距離の往復に要する時間が短くなる。