第16章 音

弦の固有振動
─ 基本振動と倍振動

ギターの弦を弾くと、美しい音が響きます。弦の長さ、太さ、張力──これらを変えると音の高さが変わることは、経験的に知っているかもしれません。
なぜそうなるのでしょうか。その答えは、弦の両端が固定されているという境界条件が、特定の波長の波だけを許すからです。
この記事では、弦の固有振動を定在波の考え方から理解し、振動数を決める公式を導きます。

1弦の定在波 ─ 両端が節

ギターやバイオリンの弦は、両端が固定されています。弦を弾くと波が生じ、両端で反射を繰り返します。反射した波と元の波が重なり合って、やがて定在波(定常波)ができます。

たとえるなら、縄跳びの両端を2人で持って上下に振るイメージです。振り方のリズムがちょうどよいと、縄の形が止まって見える──これが定在波です。

💡 ここが本質:固定端は必ず節になる

弦の両端は壁に固定されているので、振動できません。したがって、定在波の節(振動しない点)が必ず両端にきます。

この「両端が節」という境界条件が、弦に生じうる定在波のパターンを制限し、特定の振動数だけが許されることになります。

定在波では、大きく振動する点を、全く振動しない点をと呼びます。隣り合う節と節の間隔は半波長 $\dfrac{\lambda}{2}$ に等しいことを確認しておきましょう。

⚠️ 落とし穴:定在波の「節」と「腹」を逆に覚える

✕ 誤:大きく振動する点が「節」で、動かない点が「腹」

○ 正:動かない点が「節」(node)、大きく振動する点が「腹」(antinode)

「節」は結び目、動かない場所と覚えましょう。竹の「ふし」のように、しっかり固定された箇所です。

2基本振動と倍振動 ─ 許される波長

弦の長さを $L$ とします。両端が節であるという条件から、弦に生じる定在波の波長は次のように決まります。

基本振動($n = 1$)

最もシンプルな定在波は、弦全体が1つの「腹」を持つパターンです。このとき節は両端の2つだけです。節と節の間隔が $L$ なので、

$$\frac{\lambda_1}{2} = L \quad \Rightarrow \quad \lambda_1 = 2L$$

これを基本振動と呼びます。基本振動の振動数 $f_1$ を基本振動数(または基本音)といいます。

2倍振動($n = 2$)

弦の中央にもう1つ節ができるパターンです。腹が2つ、節が3つ(両端 + 中央)になります。

$$2 \times \frac{\lambda_2}{2} = L \quad \Rightarrow \quad \lambda_2 = L$$

$n$ 倍振動(一般の場合)

節と節の間隔 $\dfrac{\lambda_n}{2}$ が弦の長さ $L$ の中にちょうど $n$ 個入るパターンが $n$ 倍振動です。

📐 弦の固有振動の波長条件

$$n \times \frac{\lambda_n}{2} = L \quad \Rightarrow \quad \lambda_n = \frac{2L}{n}$$

※ $n = 1, 2, 3, \ldots$(正の整数)。$L$:弦の長さ、$\lambda_n$:$n$ 倍振動の波長。
▷ 波長条件の導出

弦の両端が節であるための条件は、弦の長さ $L$ の中に半波長 $\dfrac{\lambda}{2}$ がちょうど整数個($n$ 個)入ることです。

$$L = n \times \frac{\lambda}{2} \quad (n = 1, 2, 3, \ldots)$$

これを $\lambda$ について解くと、

$$\lambda_n = \frac{2L}{n}$$

振動モード 腹の数 節の数 波長 $\lambda_n$ 振動数
基本振動($n=1$) 1 2 $2L$ $f_1$
2倍振動($n=2$) 2 3 $L$ $2f_1$
3倍振動($n=3$) 3 4 $\frac{2L}{3}$ $3f_1$
$n$ 倍振動 $n$ $n+1$ $\frac{2L}{n}$ $nf_1$
💡 ここが本質:弦の倍振動は基本振動数の整数倍

$n$ 倍振動の振動数は $f_n = nf_1$ と表されます。つまり、弦の固有振動数は基本振動数の1倍、2倍、3倍、... という整数倍の系列をなします。

これが弦楽器が美しい和音を出せる物理的な理由です。倍音が基本音の整数倍に並ぶため、音の重ね合わせが心地よく響くのです。

⚠️ 落とし穴:腹の数と倍振動の番号を混同する

$n$ 倍振動では腹が $n$ 個、節が $n + 1$ 個です。「腹の数 = $n$」であって「節の数 = $n$」ではありません。

✕ 誤:3倍振動は節が3個

○ 正:3倍振動は腹が3個、節が4個(両端を含む)

3弦の固有振動数の公式

弦を伝わる波の速さ $v$ と、波長 $\lambda_n$ がわかれば、固有振動数 $f_n$ を求めることができます。

弦を伝わる波の速さ

弦を伝わる横波の速さは、弦の張力 $S$ と線密度 $\rho$(単位長さあたりの質量)によって決まります。

📐 弦を伝わる波の速さ

$$v = \sqrt{\frac{S}{\rho}}$$

※ $v$:波の速さ [$\text{m/s}$]、$S$:張力 [$\text{N}$]、$\rho$:線密度 [$\text{kg/m}$]

直感的に理解しましょう。張力が大きい(ピンと張った弦)ほど波は速く伝わり、線密度が大きい(太い弦)ほど波は遅くなります。ゴムひもを強く引っ張って弾くと、振動が速くなるのと同じ感覚です。

固有振動数の公式

$v = f\lambda$ と $\lambda_n = \dfrac{2L}{n}$ を組み合わせると、

📐 弦の固有振動数

$$f_n = \frac{v}{\lambda_n} = \frac{n}{2L} v = \frac{n}{2L}\sqrt{\frac{S}{\rho}}$$

※ $n = 1, 2, 3, \ldots$。基本振動数 $f_1 = \dfrac{1}{2L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}}$
▷ 固有振動数の導出

波の基本式 $v = f\lambda$ より $f = \dfrac{v}{\lambda}$ です。

$n$ 倍振動の波長は $\lambda_n = \dfrac{2L}{n}$ ですから、

$$f_n = \frac{v}{\lambda_n} = \frac{v}{\dfrac{2L}{n}} = \frac{nv}{2L}$$

ここに $v = \sqrt{\dfrac{S}{\rho}}$ を代入すると、

$$f_n = \frac{n}{2L}\sqrt{\frac{S}{\rho}}$$

⚠️ 落とし穴:弦の波の速さと音速を混同する

弦を伝わる波の速さ $v = \sqrt{S/\rho}$ と、空気中の音速 $V = 340\,\text{m/s}$ は全く別の量です。

✕ 誤:弦の振動数を求めるのに音速 $340\,\text{m/s}$ を使う

○ 正:弦の振動数は弦を伝わる波の速さ $v$ を使って求める。空気中の音速は、弦から出た音の波長を求めるときに使う

弦の振動数 = 弦から出る音の振動数です。しかし波長は異なります。弦の振動で生じた振動数 $f$ の音が空気中に伝わるとき、その音の波長は $\lambda_{\text{air}} = V / f$ で求まります。

💡 ここが本質:弦の振動数と空気中の音の波長は別物

弦の振動数 $f$ と、弦上の定在波の波長 $\lambda_{\text{string}}$ は弦の上での話です。

その振動が空気を揺らして音波になると、振動数 $f$ は保存されますが、波長は空気中の音速で決まり直します:$\lambda_{\text{air}} = V / f$。

問題で「弦から出る音の波長」を聞かれたら、音速 $V$ を使うことを忘れないでください。

4弦の振動数を変える3つの方法

固有振動数の公式 $f_1 = \dfrac{1}{2L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}}$ から、弦の音の高さ(基本振動数)を変えるには3つの方法があることがわかります。

方法1:弦の長さ $L$ を変える

$f_1 \propto \dfrac{1}{L}$ ですから、弦を短くすると振動数が大きくなり、高い音が出ます。ギターのフレットを押さえるのがこれにあたります。

方法2:張力 $S$ を変える

$f_1 \propto \sqrt{S}$ ですから、弦を強く張ると振動数が大きくなります。ギターの糸巻き(ペグ)で調弦するのがこの方法です。

方法3:線密度 $\rho$ を変える

$f_1 \propto \dfrac{1}{\sqrt{\rho}}$ ですから、細い(軽い)弦ほど振動数が大きくなります。ギターの1弦(高い音)が細く、6弦(低い音)が太いのはこの原理です。

⚠️ 落とし穴:「張力を2倍にすると振動数も2倍」と早合点する

振動数は張力の平方根に比例します。

✕ 誤:張力を2倍にすると振動数は2倍

○ 正:張力を2倍にすると振動数は $\sqrt{2} \approx 1.41$ 倍

振動数を2倍にするには、張力を4倍にする必要があります。

🔬 深掘り:メルセンヌの法則

弦の振動数に関する3つの関係をまとめてメルセンヌの法則と呼びます。17世紀のフランスの数学者マラン・メルセンヌが実験的に発見しました。

(1) 振動数は弦の長さに反比例する:$f \propto 1/L$

(2) 振動数は張力の平方根に比例する:$f \propto \sqrt{S}$

(3) 振動数は線密度の平方根に反比例する:$f \propto 1/\sqrt{\rho}$

これらはすべて $f_1 = \dfrac{1}{2L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}}$ から読み取れます。

5この章を俯瞰する

弦の固有振動は、定在波の考え方を弦に適用した結果です。同じ原理が気柱の共鳴にもつながります。

つながりマップ

  • ← W-2-1 音の性質:音速・振動数・波長の基本関係。弦の振動数から空気中の音の波長を求めるときに使う。
  • ← 定在波(第15章):定在波の節・腹の条件が弦の固有振動の基礎になっている。
  • → W-2-3 気柱の共鳴(開管):管の中の空気柱も定在波をつくる。開管では両端が腹という境界条件になる。
  • → W-2-4 気柱の共鳴(閉管):閉管では一端が節、他端が腹。奇数倍の倍振動しか生じない。
  • → W-2-5 共鳴の典型問題:弦と気柱を組み合わせた計算問題で、ここで学んだ公式を活用する。

📋まとめ

  • 弦の両端は固定端なので、定在波のが必ず両端にくる
  • $n$ 倍振動の波長は $\lambda_n = \dfrac{2L}{n}$、腹の数は $n$ 個、節の数は $n + 1$ 個
  • 弦を伝わる波の速さは $v = \sqrt{S/\rho}$($S$:張力、$\rho$:線密度)
  • 弦の固有振動数は $f_n = \dfrac{n}{2L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}}$。基本振動数の整数倍の系列をなす
  • 弦の振動数は、弦を短く・強く張る・細くすると大きくなる(高い音)
  • 弦の振動数と空気中の音の波長は別物。音の波長は音速 $V$ を使って $\lambda_{\text{air}} = V/f$ で求める

確認テスト

Q1. 長さ $L$ の弦の基本振動の波長を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\lambda_1 = 2L$。弦全体に半波長がちょうど1つ入る状態です。

Q2. 弦の3倍振動では、腹と節はそれぞれ何個ですか。

▶ クリックして解答を表示腹が3個、節が4個(両端を含む)です。

Q3. 弦の基本振動数が $200\,\text{Hz}$ のとき、4倍振動の振動数を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$f_4 = 4 \times 200 = 800\,\text{Hz}$

Q4. 弦の張力を4倍にすると、基本振動数は何倍になりますか。

▶ クリックして解答を表示$f_1 \propto \sqrt{S}$ なので、$\sqrt{4} = 2$ 倍になります。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

2-2-1 A 基礎 固有振動 計算

長さ $0.60\,\text{m}$ の弦を伝わる波の速さが $240\,\text{m/s}$ であるとき、次の問いに答えよ。

(1) 基本振動の波長と振動数を求めよ。

(2) 3倍振動の波長と振動数を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\lambda_1 = 1.2\,\text{m}$、$f_1 = 200\,\text{Hz}$

(2) $\lambda_3 = 0.40\,\text{m}$、$f_3 = 600\,\text{Hz}$

解説

(1) $\lambda_1 = 2L = 2 \times 0.60 = 1.2\,\text{m}$

$f_1 = v / \lambda_1 = 240 / 1.2 = 200\,\text{Hz}$

(2) $\lambda_3 = 2L/3 = 1.2/3 = 0.40\,\text{m}$

$f_3 = 3f_1 = 3 \times 200 = 600\,\text{Hz}$

B 発展レベル

2-2-2 B 発展 張力と振動数 計算

長さ $0.50\,\text{m}$、線密度 $4.0 \times 10^{-3}\,\text{kg/m}$ の弦を張力 $100\,\text{N}$ で張った。次の問いに答えよ。

(1) 弦を伝わる波の速さを求めよ。

(2) 基本振動数を求めよ。

(3) この弦の基本振動により空気中(音速 $340\,\text{m/s}$)に生じる音の波長を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $v \approx 158\,\text{m/s}$

(2) $f_1 \approx 158\,\text{Hz}$

(3) $\lambda_{\text{air}} \approx 2.15\,\text{m}$

解説

(1) $v = \sqrt{S/\rho} = \sqrt{100 / (4.0 \times 10^{-3})} = \sqrt{25000} \approx 158\,\text{m/s}$

(2) $f_1 = v / (2L) = 158 / (2 \times 0.50) = 158 / 1.0 = 158\,\text{Hz}$

(3) 弦の振動数 $f_1 = 158\,\text{Hz}$ の音が空気中に伝わる。 $\lambda_{\text{air}} = V / f_1 = 340 / 158 \approx 2.15\,\text{m}$

採点ポイント
  • 弦の波速の計算が正しい(3点)
  • 基本振動数の立式と計算が正しい(3点)
  • 空気中の音の波長を求める際に音速 $V$ を使っている(2点)
  • 弦上の波長と空気中の波長を区別している(2点)

C 応用レベル

2-2-3 C 応用 弦の比較 論述

弦Aは長さ $L$、張力 $S$、線密度 $\rho$ で基本振動している。弦Bは長さ $2L$、張力 $4S$、線密度 $\rho$ で基本振動している。次の問いに答えよ。

(1) 弦Aの基本振動数 $f_A$ を $L$、$S$、$\rho$ を用いて表せ。

(2) 弦Bの基本振動数 $f_B$ を $f_A$ を用いて表せ。

(3) 弦Bが弦Aと同じ基本振動数になるためには、弦Bの張力を何倍にすればよいか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $f_A = \dfrac{1}{2L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}}$

(2) $f_B = f_A$

(3) そのまま(1倍)でよい(既に同じ振動数)

解説

(1) $f_A = \dfrac{1}{2L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}}$(公式に代入)

(2) $f_B = \dfrac{1}{2 \times 2L}\sqrt{\dfrac{4S}{\rho}} = \dfrac{1}{4L} \times 2\sqrt{\dfrac{S}{\rho}} = \dfrac{1}{2L}\sqrt{\dfrac{S}{\rho}} = f_A$

弦の長さが2倍になると振動数は $1/2$ 倍になりますが、張力が4倍になると振動数は $\sqrt{4} = 2$ 倍になるため、$1/2 \times 2 = 1$ で打ち消し合い、同じ振動数になります。

(3) 既に $f_B = f_A$ なので、張力を変える必要はなく、1倍(そのまま)です。

採点ポイント
  • 基本振動数の公式を正しく適用している(2点)
  • 弦Bの各パラメータを正しく代入している(3点)
  • 長さ2倍で $1/2$、張力4倍で $2$ 倍という効果を正しく計算(3点)
  • 結論を論理的に導いている(2点)