第16章 音

うなり
─ 振動数が近い2音の干渉

振動数がわずかに異なる2つの音を同時に聞くと、音の大きさが周期的に変動します。
これがうなり(beat)です。1秒間のうなりの回数は2つの振動数の差 $|f_1 - f_2|$ に等しいという、非常にシンプルな法則です。
楽器の調律や未知の振動数の測定に活用される重要な現象です。

1うなりとは

振動数が $f_1$ と $f_2$ でわずかに異なる2つの音が同時に鳴ると、ある瞬間では2つの波が強め合い、別の瞬間では弱め合います。その結果、音の大小が周期的に繰り返される現象をうなりといいます。

うなりが起こる条件

2つの音の振動数が近いことが条件です。差が大きすぎると、音の大小の変動が速すぎて人間の耳では「うなり」として認識できなくなります。一般に $|f_1 - f_2|$ が数 Hz~十数 Hz 程度のとき、うなりとして聞こえます。

本質:うなりの原理

うなりは2つの音波の重ね合わせ(干渉)により生じる。振動数のわずかな差が、振幅の周期的な変動(包絡線)を生む。これは波の重ね合わせの原理の直接的な帰結である。

2うなりの公式と導出

うなりの振動数

うなりの公式

$$f_{\text{beat}} = |f_1 - f_2|$$

$f_{\text{beat}}$:1秒間のうなりの回数(うなりの振動数)、$f_1, f_2$:2つの音の振動数

導出:三角関数の和積公式による

振幅が等しい2つの音波を $y_1 = A\sin(2\pi f_1 t)$、$y_2 = A\sin(2\pi f_2 t)$ とする。

和を求める($f_1 > f_2$ とする):

$y = y_1 + y_2 = A[\sin(2\pi f_1 t) + \sin(2\pi f_2 t)]$

和積公式 $\sin\alpha + \sin\beta = 2\cos\dfrac{\alpha - \beta}{2}\sin\dfrac{\alpha + \beta}{2}$ を使うと:

$y = 2A\cos\left(2\pi \cdot \dfrac{f_1 - f_2}{2} \cdot t\right) \sin\left(2\pi \cdot \dfrac{f_1 + f_2}{2} \cdot t\right)$

$\sin$ の部分は振動数 $\dfrac{f_1 + f_2}{2}$ の速い振動(聞こえる音の高さ)。

$\cos$ の部分は振動数 $\dfrac{f_1 - f_2}{2}$ のゆっくりした振幅変動(包絡線)。

$\cos$ は1周期の中で振幅が2回ゼロになるため、1秒間に振幅が最大になる回数 $= |f_1 - f_2|$ 回。

うなりの周期

うなりの周期(強まりから次の強まりまでの時間)は:

$$T_{\text{beat}} = \frac{1}{f_{\text{beat}}} = \frac{1}{|f_1 - f_2|}$$
注意:うなりの回数と包絡線の振動数

誤:包絡線の振動数 $= \dfrac{f_1 - f_2}{2}$ がうなりの回数

正:包絡線の振動数は $\dfrac{f_1 - f_2}{2}$ だが、1周期で2回音が強まるため、うなりの回数は $|f_1 - f_2|$ 回/秒。

聞こえる音の高さ

うなりが生じているとき、聞こえる音の振動数は2つの振動数の平均 $\dfrac{f_1 + f_2}{2}$ に近くなります(ただし入試では通常問われません)。

3うなりの応用 ─ 振動数の決定

うなりの回数から未知の振動数を求める問題は入試の定番です。

基本パターン:振動数が既知の音さを使う

振動数 $f_0$ が既知の音さと、振動数が未知の音さを同時に鳴らし、うなりの回数 $n$ を測定すると:

$$f_{\text{未知}} = f_0 \pm n$$

2つの候補が出るため、もう1つの条件で絞り込む必要があります。

入試テクニック:候補を絞る方法

1. 音さにテープを貼る:質量が増え振動数が下がる。うなりの回数が増えたか減ったかで判定。

2. 弦の張力を変える:張力を大きくすると振動数が上がる。うなりの変化で判定。

3. 温度を変える:温度上昇→音速増加→気柱の振動数増加。うなりの変化で判定。

判定の具体例

$440\,\text{Hz}$ の音さAと未知の音さBで $3\,\text{Hz}$ のうなりが生じた場合:

  • 候補:$f_B = 437\,\text{Hz}$ または $f_B = 443\,\text{Hz}$

音さBにテープを貼って(振動数を下げて)再度実験し、うなりが $4\,\text{Hz}$ に増えたとする。

  • $f_B = 437$ の場合:テープで $f_B$ が下がる → 差が大きくなる → うなり増加 → 矛盾なし ✓
  • $f_B = 443$ の場合:テープで $f_B$ が下がる → 差が小さくなる → うなり減少 → 矛盾 ✗

したがって $f_B = 437\,\text{Hz}$。

本質:うなりによる振動数測定

うなりの回数 $= |f_1 - f_2|$ から未知の振動数の候補は2つ。条件を変えて(テープを貼る、張力を変える等)うなりの増減を調べることで、一方に絞れる。

4うなりと楽器・日常への応用

楽器の調律

ピアノの調律師は基準音と弦の音を同時に鳴らし、うなりがゼロになるまで弦の張力を調整します。うなりが消えた瞬間、2つの振動数が一致したことを意味します。

うなりが起こらない場合

振動数の差が大きすぎると、うなりとしては聞こえず、単に2つの別々の音が同時に聞こえるだけです。人間が「うなり」として感じるのは差が約 $15\,\text{Hz}$ 以下のときです。

発展:うなりと可聴範囲

$|f_1 - f_2|$ が大きくなると、うなりの変動が速くなり、ある点を超えると独立した2音として認識されます。

逆に、$|f_1 - f_2| = 0$ のとき完全に同じ振動数で、うなりは起きません(常に強め合い)。

注意:うなりの「音の高さ」は変わらない

誤:うなりは音の高さが変化する現象

正:うなりは音の大きさ(振幅)が変化する現象。聞こえる音の高さ(振動数の平均付近)はほぼ一定。

5この章を俯瞰する

うなりは波の重ね合わせの応用であり、音の分野のさまざまなテーマとつながります。

  • W-1-6 重ね合わせの原理 ─ うなりは2つの音波の重ね合わせそのもの。
  • W-2-2 弦の振動 ─ 弦の張力変化→振動数変化→うなり回数の変化。調律の原理。
  • W-2-3, 2-4 気柱の共鳴 ─ 管の長さや温度で共鳴振動数が変化し、うなりが生じる問題。
  • W-2-5 共鳴の典型問題 ─ 共鳴管で得た振動数と音さでうなりが生じる融合問題。
  • W-3 ドップラー効果(発展) ─ ドップラー効果で変化した振動数同士でうなりが生じる問題もある。
まとめ
  • うなりは振動数が近い2音の重ね合わせにより、音の大きさが周期的に変動する現象。
  • 1秒間のうなりの回数は $f_{\text{beat}} = |f_1 - f_2|$。
  • うなりの周期は $T = \dfrac{1}{|f_1 - f_2|}$。
  • 未知の振動数を求めるとき、候補は2つ($f_0 \pm n$)。テープを貼る等の操作でうなりの増減を調べて絞り込む。
  • うなりは音の大きさの変動であり、音の高さの変動ではない。

確認テスト

Q1. 振動数 $440\,\text{Hz}$ と $444\,\text{Hz}$ の音を同時に鳴らすと、1秒間に何回のうなりが聞こえるか。

▶ クリックして解答を表示 $|444 - 440| = 4$ 回/秒

Q2. うなりは音の「高さ」「大きさ」のどちらが変化する現象か。

▶ クリックして解答を表示 音の大きさ(振幅)が周期的に変化する現象。音の高さはほぼ一定。

Q3. 音さA($440\,\text{Hz}$)と音さBで5回/秒のうなりが生じた。音さBの振動数の候補を2つ挙げよ。

▶ クリックして解答を表示 $435\,\text{Hz}$ または $445\,\text{Hz}$

Q4. 上の問題で音さBにテープを貼るとうなりが6回/秒に増えた。音さBの振動数はどちらか。

▶ クリックして解答を表示 $435\,\text{Hz}$。テープで振動数が下がり、$440$ との差が拡大→うなり増加。$445$ なら下がって差が縮小→うなり減少のはず。

入試問題演習

A 基礎レベル

2-6-1 A 基礎 うなり基本計算

振動数 $256\,\text{Hz}$ の音さAと振動数が未知の音さBを同時に鳴らしたところ、毎秒3回のうなりが聞こえた。音さBにろうを付けて質量を増やすと、うなりの回数が毎秒4回になった。音さBのもとの振動数を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$f_B = 259\,\text{Hz}$

解説

候補:$f_B = 256 + 3 = 259\,\text{Hz}$ または $f_B = 256 - 3 = 253\,\text{Hz}$

ろうを付けると $f_B$ が下がる。

$f_B = 259$ の場合:$f_B$ が下がる → $|256 - (259 - \alpha)| = |259 - \alpha - 256|$。$\alpha$ が小さいうちは差が減少しうなりが減る…しかし実際にはうなりが増えているので $f_B = 259$ で差が縮まるはず。

もう少し丁寧に考えます。ろうを付けて $f_B' < f_B$ とする。

$f_B = 253$ → $f_B' < 253$ → $|256 - f_B'| > 3$ → うなり増加 ✓

$f_B = 259$ → $f_B' < 259$ → $|256 - f_B'| < 3$($f_B'$ が $256$ に近づく)→ うなり減少 ✗

うなりが増えたので $f_B = 253\,\text{Hz}$。

(訂正)$f_B = 253\,\text{Hz}$ です。

採点ポイント
  • 候補を2つ挙げている(2点)
  • ろうを付けると振動数が下がることを正しく理解(2点)
  • うなりの増減で正しい候補を選択(2点)
2-6-2 A 基礎 うなり周期

振動数 $500\,\text{Hz}$ と $504\,\text{Hz}$ の2つの音を同時に鳴らしたとき、うなりの回数と周期を求めよ。

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解答

うなりの回数:$4$ 回/秒、うなりの周期:$0.25\,\text{s}$

解説

$f_{\text{beat}} = |504 - 500| = 4\,\text{Hz}$(4回/秒)

$T_{\text{beat}} = \dfrac{1}{f_{\text{beat}}} = \dfrac{1}{4} = 0.25\,\text{s}$

採点ポイント
  • うなりの回数の正しい計算(3点)
  • 周期の計算(2点)

B 発展レベル

2-6-3 B 発展 うなり弦の張力

振動数 $440\,\text{Hz}$ の音さと、ある弦を同時に鳴らすと毎秒5回のうなりが生じた。弦の張力を少し大きくしたところ、うなりが毎秒3回に減った。次の問いに答えよ。

(1) もとの弦の振動数を求めよ。

(2) 弦の張力を大きくしたあとの弦の振動数を求めよ。

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解答

(1) $f = 435\,\text{Hz}$

(2) $f' = 437\,\text{Hz}$

解説

候補:$f = 435\,\text{Hz}$ または $f = 445\,\text{Hz}$

張力を大きくすると $f$ が上がる。

$f = 435$ → $f$ が上がる → $440$ に近づく → うなり減少 ✓

$f = 445$ → $f$ が上がる → $440$ から離れる → うなり増加 ✗

よって $f = 435\,\text{Hz}$。

張力を大きくした後:$|440 - f'| = 3$、$f' > 435$ なので $f' = 437\,\text{Hz}$。

採点ポイント
  • 候補を正しく2つ挙げる(2点)
  • 張力と振動数の関係(2点)
  • うなりの増減で判定(2点)
  • 張力変更後の振動数(2点)
2-6-4 B 発展 うなり気柱と温度

長さ $0.50\,\text{m}$ の開管がある。気温 $15\,°\text{C}$ のとき基本振動で共鳴する振動数と、気温 $25\,°\text{C}$ のとき基本振動で共鳴する振動数を求め、この2つの振動数による1秒間のうなりの回数を計算せよ。ただし $v = 331.5 + 0.6t\,\text{(m/s)}$、開口端補正は無視。

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解答

$f_{15} = 340.5\,\text{Hz}$、$f_{25} = 346.5\,\text{Hz}$、うなり $= 6.0$ 回/秒

解説

$v_{15} = 331.5 + 0.6 \times 15 = 340.5\,\text{m/s}$

$v_{25} = 331.5 + 0.6 \times 25 = 346.5\,\text{m/s}$

$f_{15} = \dfrac{340.5}{2 \times 0.50} = 340.5\,\text{Hz}$

$f_{25} = \dfrac{346.5}{2 \times 0.50} = 346.5\,\text{Hz}$

$f_{\text{beat}} = |346.5 - 340.5| = 6.0$ 回/秒

注:この問題は、同一の管を異なる温度で鳴らして生じる振動数の差を求めています。

採点ポイント
  • 各温度での音速(2点)
  • 各温度での共鳴振動数(2点)
  • うなりの回数(2点)

C 応用レベル

2-6-5 C 応用 うなり開管と閉管

長さ $L = 0.34\,\text{m}$ の開管と、長さ $L' = 0.35\,\text{m}$ の閉管がある。音速 $v = 340\,\text{m/s}$ として、開管の基本振動数と閉管の第3倍振動数がうなりを生じるか調べよ。うなりが生じる場合はその回数を求めよ。開口端補正は無視してよい。

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解答

開管の基本振動数 $= 500\,\text{Hz}$、閉管の第3倍音 $\approx 728.6\,\text{Hz}$。差が約 $229\,\text{Hz}$ と大きく、うなりとしては聞こえない。

解説

開管:$f_1 = \dfrac{v}{2L} = \dfrac{340}{2 \times 0.34} = 500\,\text{Hz}$

閉管:$f_3 = \dfrac{3v}{4L'} = \dfrac{3 \times 340}{4 \times 0.35} = \dfrac{1020}{1.40} \approx 728.6\,\text{Hz}$

$|500 - 728.6| \approx 229\,\text{Hz}$

うなりとして聞こえるには $|f_1 - f_2|$ が十数 Hz 以下である必要があります。約 $229\,\text{Hz}$ の差では2音が独立して聞こえ、うなりにはなりません。

採点ポイント
  • 開管の基本振動数の計算(2点)
  • 閉管の第3倍音の計算(3点)
  • 差が大きすぎるためうなりにならないことの判断(3点)
2-6-6 C 応用 うなり論述

振動数 $f_0$ の音さAと振動数が未知の音さBを同時に鳴らすと、$\Delta f$ 回/秒のうなりが生じた。次の問いに答えよ。

(1) 音さBの振動数の候補を2つ挙げよ。

(2) 音さAにテープを貼って質量を増やしたところ、うなりの回数が $\Delta f$ よりも小さくなった。このとき音さBの振動数を一意に決定せよ。理由も述べよ。

(3) (2) の操作でうなりが消えた($0$ 回/秒になった)場合、音さBの振動数は一意に決まるか。理由とともに述べよ。

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解答

(1) $f_B = f_0 + \Delta f$ または $f_B = f_0 - \Delta f$

(2) $f_B = f_0 - \Delta f$。

(3) 一意に決まる。$f_B = f_0 - \Delta f$ で、テープ後の音さAの振動数が $f_B$ に一致したことを意味する。

解説

(1) $|f_0 - f_B| = \Delta f$ → $f_B = f_0 \pm \Delta f$。

(2) テープを貼ると音さAの振動数 $f_A'$ は $f_0$ より下がる ($f_A' < f_0$)。

$f_B = f_0 + \Delta f$ の場合:$|f_A' - f_B| = |f_A' - (f_0 + \Delta f)|$。$f_A' < f_0 < f_0 + \Delta f$ なので差は $f_0 + \Delta f - f_A' > \Delta f$(増加)→ 矛盾。

$f_B = f_0 - \Delta f$ の場合:$|f_A' - f_B| = |f_A' - (f_0 - \Delta f)|$。$f_A'$ が $f_0$ から $f_0 - \Delta f$ 方向に近づくので差が縮小 → 矛盾なし。

(3) うなりが消えた $= |f_A' - f_B| = 0$ → $f_A' = f_B$。$f_B = f_0 - \Delta f$ で、テープにより $f_A' = f_0 - \Delta f$ になったということ。一意に決まります。

採点ポイント
  • 候補の2つを正しく列挙(2点)
  • テープで振動数が下がる→うなり変化の論理展開(3点)
  • $f_B = f_0 - \Delta f$ の結論と理由(2点)
  • うなり消失時の議論(3点)