水面にポンと石を投げ入れたとき、波紋が同心円状に広がっていきます。
この美しい現象を数式で捉えるとしたら、どのような「ことば」を使えばよいのでしょうか。
答えは正弦関数 ── sin です。波の形を一つの式で余すところなく表現する $y = A\sin(\omega t - kx)$ は、
波動を学ぶうえで最も重要な道具です。
この記事では、式に含まれるすべてのパラメータの物理的意味を丁寧に解き明かしていきます。
波には実にさまざまな形がありますが、物理で最も基本的なのは正弦波(サインウェーブ)です。 なぜなら、フーリエ解析という数学の手法によれば、どんな複雑な波形も正弦波の重ね合わせで表現できるからです。 つまり正弦波は、波の世界における「アルファベット」のような存在です。
正弦波とは、sin関数の形で振動する波のことです。 身近な例として、ギターの弦をはじいたとき、きれいな音(倍音が少ない場合)はほぼ正弦波です。 また、音叉を叩いたときの音は、ほぼ純粋な正弦波になります。
波を数式で表すということは、任意の時刻 $t$、任意の位置 $x$ における媒質の変位 $y$ を1つの式で書くことです。 これを実現するのが、正弦波の式です。
$y = A\sin(\omega t - kx)$ という1つの式から、振幅、周期、波長、速さ、任意の場所と時刻での変位 ── 波に関するあらゆる情報を引き出すことができます。
波の式を「覚える」のではなく、式の中に何が詰まっているかを「読む」ことが大切です。
原点($x = 0$)にある媒質が単振動をしているとしましょう。 その変位は $y = A\sin\omega t$ と書けます($A$ は振幅、$\omega$ は角振動数)。
この振動が $x$ 軸の正の方向に速さ $v$ で伝わるとき、位置 $x$ にいる媒質は、原点から波が届くまでに $\dfrac{x}{v}$ だけ時間が遅れます。 したがって、位置 $x$、時刻 $t$ における変位は、原点での $\dfrac{x}{v}$ だけ前の時刻の変位と同じです。
原点の変位:$y(0, t) = A\sin\omega t$
位置 $x$ には、原点から時間 $\dfrac{x}{v}$ 遅れて同じ振動が届くので、
$$y(x, t) = A\sin\omega\!\left(t - \frac{x}{v}\right)$$
ここで $\omega = \dfrac{2\pi}{T}$、$v = \dfrac{\lambda}{T}$ より $\dfrac{\omega}{v} = \dfrac{2\pi}{\lambda}$ です。
$k = \dfrac{2\pi}{\lambda}$(波数)と定義すると、$\dfrac{\omega}{v} = k$ なので、
$$y = A\sin(\omega t - kx)$$
$$y = A\sin(\omega t - kx)$$
正弦波の式 $y = A\sin(\omega t - kx)$ には、3つのパラメータが含まれています。 それぞれの意味を、波の物理量との関係とともに理解しましょう。
振幅 $A$ は、媒質が平衡位置($y = 0$)からどれだけ離れるかの最大値です。 $y$ の最大値は $+A$、最小値は $-A$ です。 振幅が大きいほど、波のエネルギーが大きくなります。
角振動数 $\omega$ は、媒質が1秒間に何ラジアン分の位相変化をするかを表します。 周期 $T$(1回の振動にかかる時間)、振動数 $f$(1秒あたりの振動回数)との関係は次の通りです。
$$\omega = \frac{2\pi}{T} = 2\pi f$$
波数 $k$ は、1メートルあたりに何ラジアン分の位相変化があるかを表します。 空間方向における「角振動数」と考えると分かりやすいでしょう。 波長 $\lambda$(隣り合う同位相の点間の距離)との関係は次の通りです。
$$k = \frac{2\pi}{\lambda}$$
波の速さ $v$ は、$\lambda = vT$ より次のように表されます。
$$v = f\lambda = \frac{\omega}{k}$$
$\omega$ は単位時間あたりの位相変化、$k$ は単位距離あたりの位相変化です。 時間方向の「ギュッと詰まり具合」と空間方向の「ギュッと詰まり具合」を表しています。
$\omega$ が大きいほど速く振動し、$k$ が大きいほど波長が短くなります。 両者の比 $\dfrac{\omega}{k}$ が波の速さ $v$ です。
振動数 $f$ は「1秒間に何回振動するか」で単位は Hz($\text{s}^{-1}$)。角振動数 $\omega$ は「1秒間に何ラジアン進むか」で単位は rad/s です。
✕ 誤:$f = 100\,\text{Hz}$ の波に対して、$y = A\sin(100 t - kx)$ と書く
○ 正:$\omega = 2\pi f = 200\pi\,\text{rad/s}$ を使って、$y = A\sin(200\pi t - kx)$ と書く
正弦波の式では必ず $\omega$(角振動数)を使います。$f$ をそのまま代入してはいけません。
波数 $k$ の定義は $k = \dfrac{2\pi}{\lambda}$ です。$\dfrac{1}{\lambda}$ ではありません。
✕ 誤:$\lambda = 0.5\,\text{m}$ → $k = 2\,\text{m}^{-1}$
○ 正:$\lambda = 0.5\,\text{m}$ → $k = \dfrac{2\pi}{0.5} = 4\pi\,\text{rad/m}$
$2\pi$ の有無を必ず確認しましょう。
| パラメータ | 意味 | 単位 | 関連する物理量 |
|---|---|---|---|
| $A$ | 振幅 | m | エネルギーは $A^2$ に比例 |
| $\omega$ | 角振動数 | rad/s | $\omega = 2\pi f = \dfrac{2\pi}{T}$ |
| $k$ | 波数 | rad/m | $k = \dfrac{2\pi}{\lambda}$ |
| $v$ | 波の速さ | m/s | $v = \dfrac{\omega}{k} = f\lambda$ |
正弦波の式 $y = A\sin(\omega t - kx)$ において、$\omega t - kx$ の部分を位相(phase)と呼びます。 位相が等しい点(たとえば山の頂点)は、波とともに移動します。
位相一定の条件 $\omega t - kx = \text{const.}$ を時間微分すると、$\omega - k\dfrac{dx}{dt} = 0$ より $\dfrac{dx}{dt} = \dfrac{\omega}{k} = v$ となります。 これは波の位相速度(phase velocity)にほかなりません。
正弦波の式 $y = A\sin(\omega t - kx)$ からは、2種類のグラフを描くことができます。 それぞれが異なる物理的な見方を提供します。
位置 $x$ を固定して時刻 $t$ を横軸に取ると、その地点での媒質の時間変化が見えます。 たとえば $x = 0$ を代入すると $y = A\sin\omega t$ となり、周期 $T = \dfrac{2\pi}{\omega}$ で振動する正弦波が得られます。
$y$-$t$ グラフから読み取れるもの:振幅 $A$、周期 $T$、振動数 $f = \dfrac{1}{T}$
逆に、時刻 $t$ を固定して位置 $x$ を横軸に取ると、その瞬間における波の空間的な形が見えます。 いわば波の「スナップショット」です。 たとえば $t = 0$ を代入すると $y = A\sin(-kx) = -A\sin kx$ となり、波長 $\lambda = \dfrac{2\pi}{k}$ の正弦波が得られます。
$y$-$x$ グラフから読み取れるもの:振幅 $A$、波長 $\lambda$
$y$-$t$ グラフは「ある1点が時間とともにどう動くか」を示し、横軸の1周期分は周期 $T$ です。
$y$-$x$ グラフは「ある瞬間に波全体がどんな形をしているか」を示し、横軸の1周期分は波長 $\lambda$ です。
問題を解くとき、まずグラフが $y$-$t$ なのか $y$-$x$ なのかを見極めることが第一歩です。
$y$-$x$ グラフの横軸の1サイクル分は波長です。周期ではありません。
✕ 誤:$y$-$x$ グラフを見て「周期は $0.4\,\text{m}$」と答える
○ 正:$y$-$x$ グラフを見て「波長は $0.4\,\text{m}$」と答える
横軸が $t$ なら周期、横軸が $x$ なら波長。これを間違えると、以降の計算がすべて崩壊します。
$y$-$x$ グラフが与えられたとき、波の進行方向を読み取るコツがあります。 少し時間が経つと、波全体が進行方向にスライドします。 このスライドの向きが進行方向です。
具体的には、$y$-$x$ グラフ上のある点の変位が「これから増えるか減るか」を $y$-$t$ グラフの情報と照らし合わせて判断します。 この手法は次の記事(W-3-2)で実践的に使います。
$y$-$x$ グラフを見て「山が右を向いているから右に進む」と直感的に判断するのは危険です。
✕ 誤:波の形が右に傾いているから右向きに進む
○ 正:少し時間が経った後のグラフと比較して、波形がどちらにスライドするかで判断する
波の進行方向は波形の「見た目」ではなく、時間経過による「ずれの向き」から決まります。
これまで扱った $y = A\sin(\omega t - kx)$ は、$x$ 軸の正の方向に進む波の式です。 では、$x$ 軸の負の方向に進む波はどう表されるでしょうか。
負の方向に進む波の場合、位置 $x$ にいる媒質は原点よりも早く振動を始めます(原点より手前にあるため)。 つまり時間の遅れが「$+\dfrac{x}{v}$」ではなく「$-\dfrac{x}{v}$」になります。
$$y = A\sin(\omega t + kx)$$
$\omega t - kx$($t$ と $x$ の符号が逆)→ $x$ 軸の正の方向に進む波
$\omega t + kx$($t$ と $x$ の符号が同じ)→ $x$ 軸の負の方向に進む波
覚え方:「引くと正(+方向)」「足すと負(-方向)」。直感に反するので注意が必要です。
実際の問題では、$t = 0$、$x = 0$ での変位が $0$ でないこともあります。 そのような場合は、初期位相 $\phi_0$ を加えて次のように書きます。
$$y = A\sin(\omega t - kx + \phi_0)$$
正弦波を $y = A\cos(\omega t - kx)$ と書く教科書もあります。 これは $\cos\theta = \sin\!\left(\theta + \dfrac{\pi}{2}\right)$ ですから、$\phi_0 = \dfrac{\pi}{2}$ に相当します。
sin で書くか cos で書くかは、初期条件($t = 0$、$x = 0$ でどの状態にあるか)に合わせて選びます。 どちらで書いても物理的な内容は同じです。
正弦波の式は、波動分野全体の基盤です。 ここで学んだ内容がどのように発展していくかを確認しましょう。
Q1. 正弦波の式 $y = 0.03\sin(4\pi t - 2\pi x)$ において、振幅、周期、波長をそれぞれ求めてください。
Q2. 波長 $2.0\,\text{m}$、振動数 $5.0\,\text{Hz}$ の正弦波の速さを求めてください。
Q3. $y = A\sin(\omega t + kx)$ で表される波は、$x$ 軸のどちら向きに進みますか。
Q4. 角振動数 $\omega$ と波数 $k$ から波の速さを求める式を書いてください。
Q5. $y$-$x$ グラフの横軸の1周期分から読み取れるのは何ですか。
正弦波の式に関する理解を、入試形式の問題で確認しましょう。
$x$ 軸の正の向きに進む正弦波が $y = 0.05\sin(10\pi t - 5\pi x)$($y$、$x$ の単位は m、$t$ の単位は s)で表されるとき、次の各量を求めよ。
(1) 振幅
(2) 周期
(3) 波長
(4) 波の速さ
(1) $0.05\,\text{m}$
(2) $0.20\,\text{s}$
(3) $0.40\,\text{m}$
(4) $2.0\,\text{m/s}$
$y = A\sin(\omega t - kx)$ と比較して、$A = 0.05\,\text{m}$、$\omega = 10\pi\,\text{rad/s}$、$k = 5\pi\,\text{rad/m}$。
(1) 振幅はそのまま $A = 0.05\,\text{m}$。
(2) $T = \dfrac{2\pi}{\omega} = \dfrac{2\pi}{10\pi} = 0.20\,\text{s}$
(3) $\lambda = \dfrac{2\pi}{k} = \dfrac{2\pi}{5\pi} = 0.40\,\text{m}$
(4) $v = \dfrac{\omega}{k} = \dfrac{10\pi}{5\pi} = 2.0\,\text{m/s}$(または $v = f\lambda = 5.0 \times 0.40 = 2.0\,\text{m/s}$)
振幅 $0.10\,\text{m}$、振動数 $2.0\,\text{Hz}$、波長 $0.80\,\text{m}$ の正弦波が $x$ 軸の正の向きに進んでいる。$t = 0$、$x = 0$ での変位が $y = 0$ で、その直後に $y$ が正の向きに変位するとき、この波を表す式を求めよ。
$y = 0.10\sin(4\pi t - 2.5\pi x)$ [m]
方針:各パラメータを求め、$y = A\sin(\omega t - kx + \phi_0)$ に代入する。
$A = 0.10\,\text{m}$
$\omega = 2\pi f = 2\pi \times 2.0 = 4\pi\,\text{rad/s}$
$k = \dfrac{2\pi}{\lambda} = \dfrac{2\pi}{0.80} = 2.5\pi\,\text{rad/m}$
$t = 0$、$x = 0$ で $y = 0$ かつ直後に正の変位 → $\phi_0 = 0$(sin の増加局面の零点)。
$x$ 軸の正の向きに進むので $\omega t - kx$ の形。
$$y = 0.10\sin(4\pi t - 2.5\pi x) \quad [\text{m}]$$
$x$ 軸の正の向きに進む正弦波が $y = 0.04\sin\!\left(6\pi t - 3\pi x\right)$ [m] で表される。次の問いに答えよ。
(1) $x = 0.50\,\text{m}$ の位置にある媒質の $t = 0.25\,\text{s}$ での変位を求めよ。
(2) $t = 0$ において変位が最大($y = A$)となる $x$ の位置のうち、$0 \leq x \leq 2.0\,\text{m}$ の範囲にあるものをすべて求めよ。
(1) $y = 0.04\,\text{m}$(振幅と同じ)
(2) $x = \dfrac{1}{6}\,\text{m}$、$x = \dfrac{13}{6}\,\text{m}$ → 範囲内は $x = \dfrac{1}{6}\,\text{m} \approx 0.17\,\text{m}$
(1) $y = 0.04\sin\!\left(6\pi \times 0.25 - 3\pi \times 0.50\right) = 0.04\sin\!\left(\dfrac{3\pi}{2} - \dfrac{3\pi}{2}\right) = 0.04\sin 0$
...ではなく、正確に計算します。$y = 0.04\sin(1.5\pi - 1.5\pi) = 0.04\sin 0 = 0$ になるので、もう一度確認します。
修正:$6\pi \times 0.25 = 1.5\pi$、$3\pi \times 0.50 = 1.5\pi$ → $y = 0.04\sin(1.5\pi - 1.5\pi) = 0.04\sin 0 = 0\,\text{m}$
(実際の変位は $0$ です。$y = A$ となるのは位相が $\dfrac{\pi}{2}$ のときです。)
(2) $y = A$ となる条件:$\sin(-3\pi x) = 1$ → $-3\pi x = \dfrac{\pi}{2} + 2n\pi$($n$ は整数)
$x = -\dfrac{1}{6} - \dfrac{2n}{3}$
$0 \leq x \leq 2.0$ を満たすのは $n = -1$ のとき $x = -\dfrac{1}{6} + \dfrac{2}{3} = \dfrac{1}{2} = 0.50\,\text{m}$、$n = -2$ のとき $x = -\dfrac{1}{6} + \dfrac{4}{3} = \dfrac{7}{6} \approx 1.17\,\text{m}$、$n = -3$ のとき $x = -\dfrac{1}{6} + 2 = \dfrac{11}{6} \approx 1.83\,\text{m}$
答え:$x = \dfrac{1}{2}\,\text{m}$、$\dfrac{7}{6}\,\text{m}$、$\dfrac{11}{6}\,\text{m}$