第17章 波の伝わり方

波の式の典型問題
─ グラフから式を立てる

入試で頻出の「グラフが与えられて波の式を立てよ」という問題。 グラフの横軸が $t$ なのか $x$ なのか、進行方向はどちらか ── 正確に読み取れれば、あとは機械的に式を組み立てるだけです。
この記事では、$y$-$t$ グラフと $y$-$x$ グラフの読み取り方を徹底的に練習し、波の式を迷いなく書ける力を身につけます。

1グラフから波の式を立てる手順

波の式を立てる問題は、料理のレシピのように決まった手順があります。 どんな問題でもこの手順に従えば、確実に正解にたどり着けます。

💡 ここが本質:波の式を立てる4ステップ

Step 1:グラフの種類を確認する($y$-$t$ か $y$-$x$ か)

Step 2:振幅 $A$、周期 $T$(または波長 $\lambda$)を読み取る

Step 3:$\omega$ と $k$ を計算する($\omega = \dfrac{2\pi}{T}$、$k = \dfrac{2\pi}{\lambda}$)

Step 4:符号と初期位相を決定する(進行方向と初期条件から)

Step 1 で判断を間違えると、以降のすべてが崩壊します。 横軸のラベルと単位を必ず確認してください。

Step 2 では、グラフから直接読み取れる量を確認します。 $y$-$t$ グラフなら振幅と周期が分かり、$y$-$x$ グラフなら振幅と波長が分かります。 もう一方の量(波の速さなど)は、問題文に与えられているはずです。

⚠️ 落とし穴:グラフの「半周期」を「周期」と読み違える

グラフが正の山から負の山まで(半サイクル分)しか描かれていない場合、そこから読み取れるのは半周期($T/2$)です。

✕ 誤:山から谷までの時間を周期として使う

○ 正:山から谷までの時間は $T/2$。周期はその2倍

同様に、$y$-$x$ グラフでは山から谷までの距離は $\lambda/2$ です。

2$y$-$t$ グラフの読み取り方

$y$-$t$ グラフは、ある位置 $x_0$ に固定された媒質が、時刻とともにどのように振動するかを示します。 いわば、ある地点に立って波を眺めている観測者の記録です。

読み取れる量

  • 振幅 $A$:$y$ 軸の最大値。グラフの山の高さ
  • 周期 $T$:横軸($t$)上で同じ状態が繰り返されるまでの時間間隔
  • 振動数 $f$:$f = 1/T$
  • 角振動数 $\omega$:$\omega = 2\pi/T = 2\pi f$

$y$-$t$ グラフだけでは波長は直接読み取れません。 波長を求めるには、別に与えられた波の速さ $v$ を使って $\lambda = vT$ と計算するか、 $y$-$x$ グラフが同時に与えられている必要があります。

具体例:$y$-$t$ グラフからの読み取り

たとえば、$y$-$t$ グラフで振幅が $0.05\,\text{m}$、周期が $0.40\,\text{s}$ と読み取れたとします。 波の速さが $v = 2.0\,\text{m/s}$ と問題文に書かれていれば、

  • $\omega = \dfrac{2\pi}{T} = \dfrac{2\pi}{0.40} = 5\pi\,\text{rad/s}$
  • $\lambda = vT = 2.0 \times 0.40 = 0.80\,\text{m}$
  • $k = \dfrac{2\pi}{\lambda} = \dfrac{2\pi}{0.80} = 2.5\pi\,\text{rad/m}$

と求まり、正の方向に進む波であれば $y = 0.05\sin(5\pi t - 2.5\pi x)$ [m] となります。

💡 ここが本質:$y$-$t$ グラフは「その場所の時間履歴」

$y$-$t$ グラフが与えられたとき、そのグラフは「ある特定の位置 $x_0$」の情報です。 $x_0$ がいくらなのかを問題文から読み取ることが重要です。

多くの問題では $x_0 = 0$(原点)ですが、そうでない場合もあります。 原点以外の点の $y$-$t$ グラフが与えられた場合は、位相のずれに注意が必要です。

3$y$-$x$ グラフの読み取り方

$y$-$x$ グラフは、ある時刻 $t_0$ における波の空間的な姿(スナップショット)を示します。 カメラで波を撮影した写真のようなものです。

読み取れる量

  • 振幅 $A$:$y$ 軸の最大値
  • 波長 $\lambda$:横軸($x$)上で同じ形が繰り返されるまでの距離
  • 波数 $k$:$k = 2\pi/\lambda$

$y$-$x$ グラフだけでは周期は直接読み取れません。 周期を求めるには、波の速さ $v$ から $T = \lambda/v$ と計算します。

⚠️ 落とし穴:$y$-$x$ グラフの横軸を時間と勘違いする

グラフの形がsinカーブに見えると、つい横軸を $t$ だと思ってしまうことがあります。

✕ 誤:$y$-$x$ グラフを見て「周期は $0.8\,\text{m}$」→ 周期の単位は秒です

○ 正:$y$-$x$ グラフから読み取れるのは波長。「波長は $0.8\,\text{m}$」

横軸のラベルと単位を必ず確認する習慣をつけましょう。

$y$-$x$ グラフから進行方向を見抜く

$y$-$x$ グラフと進行方向の情報から、初期位相を含めた波の式が完成します。 進行方向の判定方法は次のセクションで詳しく扱います。

⚠️ 落とし穴:$t = 0$ の $y$-$x$ グラフと思い込む

$y$-$x$ グラフが必ずしも $t = 0$ のスナップショットとは限りません。

✕ 誤:常に $t = 0$ を代入して式を立てる

○ 正:問題文で「$t = t_0$ のときの $y$-$x$ グラフ」と指定されていれば、$t = t_0$ を代入して位相を決める

「いつの」スナップショットかを必ず確認しましょう。

4進行方向の判定テクニック

波の式を立てるうえで最も悩ましいのが、進行方向の判定です。 ここでは、$y$-$x$ グラフから進行方向を読み取る2つの方法を紹介します。

方法1:「少し後」のグラフを想像する

波が右($x$ 軸正方向)に進むなら、$y$-$x$ グラフの波形全体が右にスライドします。 逆に左に進むなら左にスライドします。 今のグラフを少し右にずらした形と、少し左にずらした形を頭の中で想像し、 各点の媒質の変位が「これから増えるのか減るのか」と一致する方が正しい進行方向です。

方法2:「媒質の速度」から判断する

ある点での媒質の速度($y$ 方向の速度)がわかっている場合、進行方向を一意に決定できます。

💡 ここが本質:$y$-$x$ グラフ上の点の「次の動き」を考える

$y$-$x$ グラフ上で、ある点が「次に $y$ の正の向きに動く」のか「負の向きに動く」のかが分かれば、進行方向が決まります。

右に進む波:$y$-$x$ グラフ上のある点の「次の動き」は、その点より少し右にある部分の変位と逆向き(波形が右にずれるから)

覚え方:進行方向側の隣の変位が正なら、今の点は次に負に動く。進行方向側の隣の変位が負なら、今の点は次に正に動く。

⚠️ 落とし穴:媒質の運動方向を波の進行方向と混同する

媒質は上下($y$ 方向)に振動し、波は水平($x$ 方向)に進みます。横波の場合、この2つの方向は垂直です。

✕ 誤:「媒質が上に動いているから、波は上に進む」

○ 正:「媒質は上下に振動し、波自体は $x$ 軸方向に進む」

媒質の運動方向と波の伝播方向は別の概念です。

初期位相の決定

進行方向が分かったら、$y = A\sin(\omega t \pm kx + \phi_0)$ の $\phi_0$ を決めます。 $t = 0$、$x = 0$ の値と、$t = 0$ での原点の速度の正負から $\phi_0$ を一意に特定します。

$t = 0$, $x = 0$ での $y$ 直後の $y$ の変化 初期位相 $\phi_0$
$0$ 正に増加 $0$
$0$ 負に減少 $\pi$
$+A$(最大) 減少 $\dfrac{\pi}{2}$
$-A$(最小) 増加 $-\dfrac{\pi}{2}$(= $\dfrac{3\pi}{2}$)
🔬 深掘り:微分で媒質の速度を求める

正弦波 $y = A\sin(\omega t - kx)$ に対して、位置 $x$ を固定して $t$ で微分すると、媒質の速度が求まります。

$$v_y = \frac{\partial y}{\partial t} = A\omega\cos(\omega t - kx)$$

これを使えば、任意の時刻・位置での媒質の速度を直接計算できます。 $y$-$t$ グラフの傾きが媒質の速度であることと一致しています。

5つながりマップ

波の式を立てる技術は、波動のあらゆる分野で使われます。

  • ← W-3-1 正弦波の式:波の式の各パラメータの意味。ここで学んだ $A$、$\omega$、$k$ を実際にグラフから読み取る練習が本記事。
  • → W-3-3 ホイヘンスの原理:波面の伝わり方。波の式で記述した波がどのように広がるかを幾何学的に理解する。
  • → W-3-6 波の干渉:2つの波の式を重ね合わせる際、グラフ読み取りの技術が不可欠。
  • → 光の干渉(ヤングの実験):光の波の式から経路差を求め、干渉条件を導出する場面でグラフ読み取りが必要。

📋まとめ

  • 波の式を立てる手順:グラフの種類確認 → 振幅・周期(波長)読み取り → $\omega$, $k$ 計算 → 符号・初期位相決定
  • $y$-$t$ グラフからは振幅と周期が、$y$-$x$ グラフからは振幅と波長が読み取れる
  • $y$-$t$ グラフだけでは波長は分からず、$y$-$x$ グラフだけでは周期は分からない。必ず波の速さが補足情報として必要
  • 進行方向は「少し後のグラフを想像する」か「媒質の速度の向き」から判定する
  • 初期位相 $\phi_0$ は $t = 0$, $x = 0$ での変位と、直後の変化の向きから決める
  • 横軸のラベルと単位を最初に確認する。$t$ と $x$ の取り違えは致命的

確認テスト

Q1. $y$-$t$ グラフから直接読み取れる量を2つ答えてください。

▶ クリックして解答を表示振幅 $A$ と周期 $T$

Q2. $y$-$x$ グラフにおいて、山と谷の間の距離は何を表しますか。

▶ クリックして解答を表示半波長 $\lambda/2$(1つの山から隣の谷までが半サイクルなので)

Q3. 波の速さが $3.0\,\text{m/s}$、$y$-$t$ グラフから周期 $0.50\,\text{s}$ と読み取れたとき、波長を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\lambda = vT = 3.0 \times 0.50 = 1.5\,\text{m}$

Q4. $t = 0$, $x = 0$ で $y = A$(最大変位)の波の初期位相 $\phi_0$ はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$\phi_0 = \dfrac{\pi}{2}$($\sin\dfrac{\pi}{2} = 1$ だから $y = A\sin\dfrac{\pi}{2} = A$)

8入試問題演習

グラフから波の式を立てる力を、入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

3-2-1 A 基礎 $y$-$t$ グラフ 計算

原点における媒質の変位の時間変化が $y$-$t$ グラフで与えられ、振幅が $0.02\,\text{m}$、周期が $0.20\,\text{s}$ と読み取れた。波は $x$ 軸の正の向きに速さ $4.0\,\text{m/s}$ で進んでいる。$t = 0$ で原点の変位は $0$ で、直後に正の向きに動くとする。波の式を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$y = 0.02\sin(10\pi t - \dfrac{5\pi}{2} x)$ [m]

解説

$A = 0.02\,\text{m}$、$T = 0.20\,\text{s}$ より $\omega = \dfrac{2\pi}{0.20} = 10\pi\,\text{rad/s}$。

$\lambda = vT = 4.0 \times 0.20 = 0.80\,\text{m}$ より $k = \dfrac{2\pi}{0.80} = \dfrac{5\pi}{2}\,\text{rad/m}$。

$x$ 正方向に進むので $\omega t - kx$ の形。初期条件 $y(0,0) = 0$ かつ直後に正に変位 → $\phi_0 = 0$。

$y = 0.02\sin\!\left(10\pi t - \dfrac{5\pi}{2} x\right)$ [m]

B 発展レベル

3-2-2 B 発展 $y$-$x$ グラフ 進行方向

$t = 0$ における波の $y$-$x$ グラフが与えられ、振幅 $0.03\,\text{m}$、波長 $1.2\,\text{m}$ と読み取れた。波は $x$ 軸の負の方向に速さ $6.0\,\text{m/s}$ で進んでいる。$t = 0$、$x = 0$ で $y = 0$ かつ、直後に $y$ が負に変位するとする。波の式を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$y = 0.03\sin(10\pi t + \dfrac{5\pi}{3} x + \pi)$ [m]

解説

方針:$x$ 負方向に進むので $\omega t + kx$ の形。初期位相を決める。

$\lambda = 1.2\,\text{m}$ より $k = \dfrac{2\pi}{1.2} = \dfrac{5\pi}{3}\,\text{rad/m}$。

$T = \dfrac{\lambda}{v} = \dfrac{1.2}{6.0} = 0.20\,\text{s}$ より $\omega = \dfrac{2\pi}{0.20} = 10\pi\,\text{rad/s}$。

$t = 0$, $x = 0$ で $y = 0$ → $\sin\phi_0 = 0$ → $\phi_0 = 0$ または $\pi$。

直後に $y$ が負に変位するには $\phi_0 = \pi$($\sin$ が減少する零点)。

$$y = 0.03\sin\!\left(10\pi t + \frac{5\pi}{3} x + \pi\right) \quad [\text{m}]$$

($= -0.03\sin\!\left(10\pi t + \dfrac{5\pi}{3}x\right)$ と書くこともできます。)

採点ポイント
  • $x$ 負方向の進行 → $\omega t + kx$ の形を正しく選ぶ(3点)
  • $\omega$、$k$ の計算が正確(3点)
  • 初期位相 $\phi_0 = \pi$ を正しく決定(4点)

C 応用レベル

3-2-3 C 応用 2つのグラフ 総合

ある正弦波について、原点での $y$-$t$ グラフと $t = 0$ での $y$-$x$ グラフが与えられている。$y$-$t$ グラフから振幅 $A = 0.04\,\text{m}$、周期 $T = 0.50\,\text{s}$ と読み取れた。$y$-$x$ グラフから波長 $\lambda = 2.0\,\text{m}$ と読み取れた。$t = 0$、$x = 0$ で $y = 0.04\,\text{m}$(最大)であった。波の式を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$y = 0.04\sin\!\left(4\pi t - \pi x + \dfrac{\pi}{2}\right)$ [m]

解説

方針:2つのグラフから全パラメータを求め、初期位相を決定する。

$\omega = \dfrac{2\pi}{T} = \dfrac{2\pi}{0.50} = 4\pi\,\text{rad/s}$、$k = \dfrac{2\pi}{\lambda} = \dfrac{2\pi}{2.0} = \pi\,\text{rad/m}$

$v = \dfrac{\omega}{k} = \dfrac{4\pi}{\pi} = 4.0\,\text{m/s}$(検算:$v = f\lambda = 2.0 \times 2.0 = 4.0\,\text{m/s}$ ✓)

$t = 0$, $x = 0$ で $y = A = 0.04\,\text{m}$(最大) → $\sin\phi_0 = 1$ → $\phi_0 = \dfrac{\pi}{2}$

波の速さが正($v > 0$)なので $x$ 正方向に進行 → $\omega t - kx$ の形

$$y = 0.04\sin\!\left(4\pi t - \pi x + \frac{\pi}{2}\right) \quad [\text{m}]$$

採点ポイント
  • $\omega$ と $k$ を正しく求める(3点)
  • 波の速さを求め、進行方向を確認する(2点)
  • 初期位相 $\phi_0 = \pi/2$ を正しく決定(3点)
  • 最終的な式を正しく組み立てる(2点)