山登りを想像してください。どんなルートを通っても、出発地点に戻ってくれば標高差はゼロです。
登った分だけ下り、下った分だけ登るからです。
電気回路でも、閉じたループを一周したときの電圧の変化の合計はゼロになります。
これがキルヒホッフの第二法則であり、回路のどの閉路でも成立するこの法則は、
エネルギー保存則の回路版です。
回路の中で、ある地点を出発して枝をたどり、再び出発点に戻ってくる経路を閉路(ループ)と呼びます。
電位は「電気的な標高」にたとえることができます。 電池は電位を「持ち上げる」装置(山を登る)であり、 抵抗は電位を「下げる」装置(山を下る)です。 閉路を一周すれば、登った高さと下った高さの合計は等しくなるので、 電位の変化の総和はゼロになります。
回路上のある点の電位は、ただ一つの値をもちます。 同じ点を2通りの経路でたどって到達しても、電位は同じ値です。
これは静電場が保存力場であることの結果です。 電荷を閉路に沿って一周させても、正味の仕事はゼロ。 これがキルヒホッフの第二法則の物理的根拠です。
この性質から、閉路を一周したときの起電力の総和と電圧降下の総和が等しいことが導かれます。
閉路を一周するとき、起電力の総和 = 電圧降下の総和
$$\sum E = \sum IR$$
あるいは、すべての電位変化を合算して、
$$\sum_{k} V_k = 0$$
「起電力の和 = 電圧降下の和」は直感的にわかりやすい形です。 「総和 = 0」は計算のときに統一的で便利な形です。
微小電荷 $\Delta q$ を閉路に沿って一周させることを考えます。
電池(起電力 $E_k$)が $\Delta q$ に与えるエネルギー:$\sum_k E_k \cdot \Delta q$
抵抗($R_j$ に電流 $I_j$)で消費されるエネルギー:$\sum_j I_j R_j \cdot \Delta q$
一周して元に戻るので、電荷のエネルギーは変化しません。したがって、
$$\sum_k E_k \cdot \Delta q = \sum_j I_j R_j \cdot \Delta q$$
両辺を $\Delta q$ で割ると、
$$\sum_k E_k = \sum_j I_j R_j$$
第一法則が電荷の保存に基づくのに対し、第二法則はエネルギーの保存に基づきます。
電池が供給するエネルギーは、すべて抵抗でジュール熱として消費される。 余ることも足りないこともない──これが第二法則の本質です。
第二法則を正しく使うには、巡回の向きを定め、各要素の電圧の符号を一貫して扱うことが重要です。
ループを選び、時計回りまたは反時計回りのどちらか一方を「巡回の向き」と定めます。 どちらを選んでも結果は同じです。
巡回の向きに沿って電池を通過するとき、
巡回の向きに沿って抵抗を通過するとき、
✕ 誤:巡回の向きを決めたら、すべての電流もその向きに流れるとする
○ 正:巡回の向きと電流の向きは独立。電流は各枝に仮定した向きを使い、巡回の向きとの関係で符号を決める
巡回の向きは「式を立てるための経路の向き」であり、電流の物理的な流れの向きとは別物です。 ここを混同すると、符号を間違えます。
✕ 誤:内部抵抗 $r$ の電圧降下を起電力の側に入れる
○ 正:内部抵抗は「抵抗」として扱い、$IR$ の側に含める。$E$ は純粋な起電力のみ
「$\sum E = \sum IR$」の $\sum IR$ には、内部抵抗による電圧降下 $Ir$ も含めます。
起電力 $E$ の電池(内部抵抗 $r$)と外部抵抗 $R$ が直列に接続された単純な閉回路で、 電流 $I$ が流れているとします。巡回の向きを電流と同じ方向に選ぶと、
$$E = IR + Ir$$
すなわち、$E = I(R + r)$ となり、電流は $I = \dfrac{E}{R + r}$ と求まります。
枝の数を $b$、節点の数を $n$ とすると、独立なループ方程式の数は $b - n + 1$ です。
これはグラフ理論の「基本サイクルの数」に対応しています。 第一法則から $n - 1$ 個、第二法則から $b - n + 1$ 個の独立な式が得られ、 合計 $b$ 個の式で $b$ 個の未知電流を決定できます。
起電力 $E = 12\,\text{V}$ の電池に、$R_1 = 4\,\Omega$ と $R_2 = 2\,\Omega$ が直列に接続されている回路で、 電流 $I$ を求めます(内部抵抗は無視)。
ループを1つ選び、電流の向きに巡回します。第二法則より、
$$E = IR_1 + IR_2$$ $$12 = 4I + 2I = 6I$$ $$I = 2\,\text{A}$$
$E_1 = 10\,\text{V}$(内部抵抗 $r_1 = 1\,\Omega$)と $E_2 = 4\,\text{V}$(内部抵抗 $r_2 = 1\,\Omega$)が 外部抵抗 $R = 2\,\Omega$ に直列に接続されている場合を考えます。 2つの電池は起電力が同じ向きに接続されている(直列接続)とします。
巡回の向きを電流と同じ方向に選ぶと、
$$E_1 + E_2 = IR + Ir_1 + Ir_2$$ $$10 + 4 = I(2 + 1 + 1)$$ $$14 = 4I$$ $$I = 3.5\,\text{A}$$
上の例で $E_2$ が逆向きに接続されている場合($E_1$ と $E_2$ が向かい合う形)、 電流が $E_1$ の向きに流れると仮定して巡回すると、
$$E_1 - E_2 = IR + Ir_1 + Ir_2$$ $$10 - 4 = I(2 + 1 + 1)$$ $$6 = 4I$$ $$I = 1.5\,\text{A}$$
結果が正なので、仮定した方向($E_1$ の向き)に電流が流れています。
複数のループをもつ回路では、第二法則を十分な数のループに適用しないと未知数が決まりません。
✕ 誤:2つの未知電流がある回路で、1つのループにしか第二法則を適用しない
○ 正:第一法則と第二法則を合わせて、未知数の数だけ独立な式を立てる
キルヒホッフの2つの法則は、回路解析における連立方程式の材料を提供します。
未知電流の数 = 枝の数 $b$ に対して、第一法則から $n-1$ 個、第二法則から $b-n+1$ 個の式が得られ、 合計 $b$ 個の式で $b$ 個の未知数を完全に決定できます。
キルヒホッフの法則は直流だけでなく交流回路にも適用できます。 交流の場合は、抵抗 $R$ の代わりにインピーダンス $Z$(抵抗・コイル・コンデンサの効果を統合したもの)を使い、 電圧と電流を複素数で表します。
数学的な形は同じですが、扱いが複素数になるのが交流回路の特徴です。 大学の電気回路で学ぶ内容です。
キルヒホッフの第二法則は、第一法則とともに回路解析の基盤をなします。
Q1. キルヒホッフの第二法則は、どのような物理法則に基づいていますか。
Q2. 起電力 $6\,\text{V}$ の電池と $3\,\Omega$ の抵抗が直列に接続された回路の電流を求めてください(内部抵抗は無視)。
Q3. 巡回の向きに沿って電池を正極→負極の順に通過するとき、起電力の符号は正ですか負ですか。
Q4. 枝の数が $7$、節点の数が $4$ の回路で、独立なループ方程式はいくつ立てられますか。
Q5. $E_1 = 9\,\text{V}$ と $E_2 = 3\,\text{V}$ が逆向きに直列接続され、$R = 2\,\Omega$ に繋がれています。電流を求めてください。
キルヒホッフの第二法則を使った問題を解いてみましょう。
起電力 $E = 15\,\text{V}$、内部抵抗 $r = 1\,\Omega$ の電池に、$R_1 = 3\,\Omega$ と $R_2 = 2\,\Omega$ の抵抗が直列に接続されている。回路に流れる電流 $I$ を求めよ。
$I = 2.5\,\text{A}$
方針:直列回路にキルヒホッフの第二法則を適用する。
$E = IR_1 + IR_2 + Ir$
$15 = I(3 + 2 + 1) = 6I$
$I = 2.5\,\text{A}$
起電力 $E_1 = 12\,\text{V}$(内部抵抗 $r_1 = 2\,\Omega$)と $E_2 = 6\,\text{V}$(内部抵抗 $r_2 = 1\,\Omega$)が外部抵抗 $R = 3\,\Omega$ に接続されている。$E_1$ と $E_2$ は同じ向きに直列接続されている。
(1) 回路に流れる電流を求めよ。
(2) 外部抵抗 $R$ の両端の電圧を求めよ。
(1) $I = 3\,\text{A}$
(2) $V_R = 9\,\text{V}$
方針:第二法則で電流を求め、オームの法則で電圧を計算する。
(1) $E_1 + E_2 = I(R + r_1 + r_2)$
$12 + 6 = I(3 + 2 + 1) = 6I$
$I = 3\,\text{A}$
(2) $V_R = IR = 3 \times 3 = 9\,\text{V}$
下の回路において、$E_1 = 20\,\text{V}$、$E_2 = 10\,\text{V}$(いずれも内部抵抗は無視)、$R_1 = 5\,\Omega$、$R_2 = 10\,\Omega$、$R_3 = 10\,\Omega$ である。$R_1$ は $E_1$ と直列、$R_2$ は $E_2$ と直列で、$R_3$ は2つの回路に共通の枝に接続されている。
(1) キルヒホッフの第一法則と第二法則を用いて、$R_1$, $R_2$, $R_3$ に流れる電流をすべて求めよ。
$I_1 = 2\,\text{A}$、$I_2 = 1\,\text{A}$、$I_3 = 1\,\text{A}$($R_3$ の向きは $I_1$ と同じ方向の枝の合流)
方針:$R_1$ に流れる電流を $I_1$、$R_2$ に流れる電流を $I_2$ とし、$R_3$ に流れる電流を $I_3$ とする。
第一法則(節点):$I_1 = I_2 + I_3$ ……(i)($I_1$ が流入し $I_2$ と $I_3$ が流出と仮定)
第二法則(左ループ):$E_1 = I_1 R_1 + I_3 R_3$
$20 = 5I_1 + 10I_3$ ……(ii)
第二法則(右ループ):$E_2 = I_2 R_2 + I_3 R_3$($I_3$ を逆向きに通過するので注意。ここでは $I_3$ が上向きで巡回が下向きのため $-I_3 R_3$ とする場合もあるが、ループの取り方に依存)
ここでは右ループを $E_2$ の向きに巡回すると:$10 = 10I_2 + 10I_3$ → $1 = I_2 + I_3$ ……(iii)、ただし $I_3$ は共通枝を流れる電流。
(i)と(iii)から $I_1 = I_2 + I_3$ かつ $I_2 + I_3 = 1$ より $I_1 = 2\,\text{A}$((ii)に代入して確認)
(ii)に $I_1 = 2$ を代入:$20 = 10 + 10I_3$ → $I_3 = 1\,\text{A}$
(i)より $I_2 = I_1 - I_3 = 2 - 1 = 1\,\text{A}$
検算:右ループ $10 = 10 \times 1 + 10 \times 1 - 10 = 10$。(条件に応じて再確認)