第23章 直流回路

ホイートストンブリッジ
─ 抵抗の精密測定

未知の抵抗を正確に測定したいとき、テスターで直接測る方法は簡便ですが精度に限界があります。 19世紀にイギリスの物理学者ホイートストンが広めたブリッジ回路は、 「電流がゼロ」という条件を利用して抵抗を精密に測定する巧妙な手法です。

1ブリッジ回路の構成

ホイートストンブリッジは、4つの抵抗 $R_1$, $R_2$, $R_3$, $R_4$ をひし形(ブリッジ型)に配置し、 対角線上に検流計(ガルバノメーター)$G$ と電源を接続した回路です。

4つの抵抗を上辺左から時計回りに $R_1$, $R_2$, $R_4$, $R_3$ と配置したとき、 $R_1$ と $R_2$ の接続点(C)と $R_3$ と $R_4$ の接続点(D)の間に検流計を入れます。 電源は残りの2つの対角点(A, B)に接続します。

💡 ここが本質:「電流ゼロ」で測定する

ホイートストンブリッジの核心は、検流計に電流が流れない状態(平衡状態)を作ることです。

電流がゼロであるかどうかの判定は非常に高精度にできます。 「電流を正確に測る」のではなく「電流がゼロであることを確認する」のがポイントです。 これが精密測定を可能にする理由です。

2平衡条件の導出

検流計に電流が流れない($I_G = 0$)とき、点Cと点Dの電位が等しくなります。

▷ 平衡条件の導出

$I_G = 0$ のとき、$R_1$ と $R_2$ には同じ電流 $I_a$ が流れ、$R_3$ と $R_4$ には同じ電流 $I_b$ が流れます。

点Cの電位:$V_C = V_A - I_a R_1$

点Dの電位:$V_D = V_A - I_b R_3$

$V_C = V_D$ より:$I_a R_1 = I_b R_3$ …(i)

同様に、点Bの電位から:

$V_B = V_C - I_a R_2 = V_D - I_b R_4$

$V_C = V_D$ より:$I_a R_2 = I_b R_4$ …(ii)

(i) を (ii) で割ると:

$$\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3}{R_4}$$

📐 ホイートストンブリッジの平衡条件

$$R_1 R_4 = R_2 R_3$$

あるいは

$$\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3}{R_4}$$

※ 「たすき掛けの積が等しい」と覚えるとよい。向かい合う辺の抵抗の積が等しいとき平衡。
⚠️ 落とし穴:比の対応を間違える

✕ 誤:隣り合う抵抗の比を等しくする($R_1 / R_3 = R_2 / R_4$ など)

○ 正:同じ枝にある抵抗の比を等しくする($R_1 / R_2 = R_3 / R_4$)

回路図を描いて、どの抵抗がどの枝にあるかを必ず確認しましょう。

3平衡条件の使い方

未知抵抗の測定

未知抵抗 $R_x$ を $R_1$ の位置に、既知の可変抵抗を $R_2$, $R_3$, $R_4$ の位置に接続します。 可変抵抗を調節して検流計の電流がゼロになったとき、

$$R_x = R_2 \cdot \frac{R_3}{R_4}$$

$R_2$, $R_3$, $R_4$ は既知なので、$R_x$ が精密に決まります。

💡 ここが本質:平衡条件は電源と検流計の抵抗に依存しない

平衡条件 $R_1 R_4 = R_2 R_3$ には、電源の起電力も内部抵抗も、検流計の内部抵抗も含まれていません

つまり、電源の性能に関係なく、抵抗の比だけで測定結果が決まります。 これがブリッジ回路による測定の信頼性が高い理由です。

🔬 深掘り:なぜ「ゼロ検出」は精度が高いのか

電流を正確に測定するには、電流計の内部抵抗や目盛りの精度が影響します。 しかし「電流がゼロかどうか」を判定するだけなら、検流計の精度はそれほど要求されません。

検流計は「ゼロ点」を高感度で検出できるため、 ゼロ検出法(ヌル法)は原理的に非常に高精度な測定法です。

4非平衡時の解析

平衡していない($R_1 R_4 \neq R_2 R_3$)ブリッジ回路では、検流計に電流が流れます。 この場合は、キルヒホッフの法則を5つの枝に適用して連立方程式を解く必要があります。

入試では「平衡条件を使う問題」が圧倒的に多いですが、 「検流計を取り除いた場合の合成抵抗」を求める問題も出題されます。

検流計を外した場合(平衡時)

平衡条件が成り立つとき、C-D間に電流は流れないので、検流計の有無は回路に影響しません。 このとき合成抵抗は:

$$R_{\text{合}} = \frac{(R_1 + R_2)(R_3 + R_4)}{R_1 + R_2 + R_3 + R_4}$$

⚠️ 落とし穴:非平衡ブリッジを安易に並列・直列の組合せで解く

✕ 誤:ブリッジ回路は「直列の並列」または「並列の直列」で合成できる

○ 正:非平衡時はC-D間に電流が流れるため、単純な直並列合成はできない。キルヒホッフの法則やデルタ-スター変換が必要

5つながりマップ

ホイートストンブリッジは直流回路の代表的な応用です。

  • ← E-4-1, E-4-2 キルヒホッフの法則:平衡条件の導出に両方の法則を使う。
  • → E-4-6 メートルブリッジ:ホイートストンブリッジの実験装置版。
  • → E-4-7 電位降下法:同じく「ゼロ検出」を利用した精密測定法。
  • → 交流ブリッジ:大学レベルでは交流のインピーダンスブリッジに発展する。

📋まとめ

  • ホイートストンブリッジは4つの抵抗をひし形に配置した回路
  • 平衡条件:$R_1 R_4 = R_2 R_3$(たすき掛けの積が等しい)
  • 平衡時、検流計の電流はゼロ
  • 平衡条件は電源や検流計の抵抗に依存しない
  • ゼロ検出法(ヌル法)により高精度な抵抗測定が可能
  • 非平衡時はキルヒホッフの法則で解析する

確認テスト

Q1. ホイートストンブリッジの平衡条件を式で書いてください。

▶ クリックして解答を表示$R_1 R_4 = R_2 R_3$(またはたすき掛けの積が等しい)

Q2. 平衡条件が電源の起電力に依存しないのはなぜですか。

▶ クリックして解答を表示平衡条件は「検流計の電流がゼロ」という条件から導かれ、抵抗の比の関係だけで決まるからです。起電力は各枝の電流の大きさには影響しますが、比には影響しません。

Q3. $R_1 = 10\,\Omega$、$R_2 = 20\,\Omega$、$R_3 = 15\,\Omega$ のとき、平衡するための $R_4$ は?

▶ クリックして解答を表示$R_1 R_4 = R_2 R_3$ より $10 \times R_4 = 20 \times 15 = 300$、$R_4 = 30\,\Omega$

8入試問題演習

ホイートストンブリッジの問題を解きましょう。

A 基礎レベル

4-5-1 A 基礎 平衡条件計算

ホイートストンブリッジで $R_1 = 100\,\Omega$、$R_3 = 200\,\Omega$、$R_4 = 50\,\Omega$ としたとき、検流計の電流がゼロになった。未知抵抗 $R_2$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$R_2 = 400\,\Omega$

解説

平衡条件 $R_1 R_4 = R_2 R_3$ に代入:

$100 \times 50 = R_2 \times 200$

$R_2 = \dfrac{5000}{200} = 25\,\Omega$

(あるいは $\dfrac{R_1}{R_2} = \dfrac{R_3}{R_4}$ より $\dfrac{100}{R_2} = \dfrac{200}{50} = 4$、$R_2 = 25\,\Omega$)

B 発展レベル

4-5-2 B 発展 合成抵抗計算

ホイートストンブリッジ回路で $R_1 = 2\,\Omega$、$R_2 = 4\,\Omega$、$R_3 = 3\,\Omega$、$R_4 = 6\,\Omega$ である。

(1) この回路が平衡していることを確認せよ。

(2) A-B間の合成抵抗を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $R_1 R_4 = 2 \times 6 = 12 = R_2 R_3 = 4 \times 3$。よって平衡。

(2) $R_{\text{合}} = \dfrac{6 \times 9}{6 + 9} = \dfrac{54}{15} = 3.6\,\Omega$

解説

(1) $R_1 R_4 = 2 \times 6 = 12$、$R_2 R_3 = 4 \times 3 = 12$。等しいので平衡。

(2) 平衡時はC-D間に電流が流れないので、検流計は無視できる。

上の枝:$R_1 + R_2 = 2 + 4 = 6\,\Omega$

下の枝:$R_3 + R_4 = 3 + 6 = 9\,\Omega$

並列合成:$R_{\text{合}} = \dfrac{6 \times 9}{6 + 9} = \dfrac{54}{15} = 3.6\,\Omega$

採点ポイント
  • 平衡条件を正しく確認する(2点)
  • 平衡時に検流計を無視できることを述べる(2点)
  • 合成抵抗を正しく計算する(4点)

C 応用レベル

4-5-3 C 応用 非平衡論述

ホイートストンブリッジで $R_1 = R_2 = R_3 = R\,\Omega$、$R_4 = R + \Delta R\,\Omega$($\Delta R \ll R$)としたとき、検流計に流れる微小電流を求めよ。電源の起電力を $E$、内部抵抗を無視し、検流計の内部抵抗を $R_G$ とする。

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解答

$I_G \approx \dfrac{E \cdot \Delta R}{4R(R + R_G)}$($\Delta R \ll R$ の近似)

解説

テブナンの定理を使うと見通しがよくなります。検流計を外したとき、C-D間の開放電圧 $V_{CD}$ を求めます。

上の枝:$V_C = \dfrac{R_2}{R_1 + R_2} E = \dfrac{E}{2}$

下の枝:$V_D = \dfrac{R_4}{R_3 + R_4} E = \dfrac{R + \Delta R}{2R + \Delta R} E$

$V_{CD} = V_C - V_D = \dfrac{E}{2} - \dfrac{(R + \Delta R)E}{2R + \Delta R}$

$\Delta R \ll R$ の近似で $V_{CD} \approx \dfrac{E \cdot \Delta R}{4R}$

C-D間から見た内部抵抗は $R_0 = \dfrac{R \cdot R}{R + R} + \dfrac{R \cdot R}{R + R} = R$(近似)

よって $I_G = \dfrac{V_{CD}}{R_0 + R_G} \approx \dfrac{E \cdot \Delta R}{4R(R + R_G)}$

採点ポイント
  • 開放電圧を正しく求める(3点)
  • $\Delta R \ll R$ の近似を正しく適用する(3点)
  • 内部抵抗を求めテブナンの定理を適用する(4点)