第23章 直流回路

電位降下法
─ ポテンショメーター

電池の起電力を電圧計で測ると、内部抵抗のせいで真の値より低い値が出てしまいます。 では、電流を流さずに起電力を正確に測るにはどうすればよいでしょうか?
その答えが電位降下法(ポテンショメーター)です。 既知の起電力と比較して、未知の起電力を「電流ゼロ」の条件で精密に測定します。

1なぜ電圧計では正確に測れないのか

電圧計は有限の内部抵抗 $R_V$ をもっているため、接続すると微小な電流が流れます。 すると、電池の内部抵抗 $r$ で電圧降下 $Ir$ が生じ、電圧計の読みは起電力 $E$ より低くなります。

$$V_{\text{読み}} = E - Ir = E \cdot \frac{R_V}{R_V + r}$$

$R_V \gg r$ なら誤差は小さいですが、高精度が求められる場面では不十分です。

💡 ここが本質:電流をゼロにすれば内部抵抗の影響がなくなる

$V = E - Ir$ において $I = 0$ なら $V = E$ です。 つまり、測定対象の電池から電流を引き出さなければ、端子電圧=起電力です。

電位降下法はまさにこの原理を実現する方法です。

2電位降下法の原理

一様な抵抗線 AB(全長 $L$)に補助電池 $E_0$ で一定の電流 $I_0$ を流します。 抵抗線上の電位は A 端から B 端に向かって一様に降下します。

A端から長さ $l$ の位置 P の電位差は、

$$V_{AP} = I_0 \cdot \rho l = \frac{V_{AB}}{L} \cdot l$$

ここで測定対象の電池 $E_x$ を、A端と接触子P の間に検流計を通して接続します。 接触子の位置を調節して検流計の電流がゼロになったとき、

$$E_x = V_{AP} = \frac{V_{AB}}{L} \cdot l_x$$

📐 電位降下法の基本式

検流計の電流がゼロのとき、

$$E_x = \frac{V_{AB}}{L} \cdot l_x$$

$V_{AB}$ が既知なら $l_x$ の測定だけで $E_x$ が求まる。

※ $V_{AB}$:抵抗線全体の電位差、$L$:抵抗線の全長、$l_x$:平衡点までの長さ
⚠️ 落とし穴:補助電池の起電力が不安定だと精度が落ちる

抵抗線上の電位勾配 $V_{AB}/L$ は補助電池 $E_0$ の電流に依存します。

✕ 誤:補助電池の状態を無視して測定する

○ 正:標準電池との比較法を使えば、$V_{AB}$ の正確な値は不要になる

3標準電池との比較測定

実用的には、起電力が正確にわかっている標準電池 $E_s$を用いた比較法が使われます。

まず標準電池 $E_s$ で平衡点 $l_s$ を求め、次に未知の電池 $E_x$ で平衡点 $l_x$ を求めます。 電位勾配が同じなので、

📐 比較法による起電力の測定

$$\frac{E_x}{E_s} = \frac{l_x}{l_s}$$

$$E_x = E_s \cdot \frac{l_x}{l_s}$$

※ $E_s$:標準電池の起電力(既知)、$l_s$、$l_x$:それぞれの平衡点の長さ。 補助電池の起電力や抵抗線の抵抗率を知る必要がない。
💡 ここが本質:比較法は「共通の未知量」を消去する

$E_x = \dfrac{V_{AB}}{L} l_x$ と $E_s = \dfrac{V_{AB}}{L} l_s$ の比をとると、 $\dfrac{V_{AB}}{L}$ という「わからなくてもいい量」が消えます。

これは物理実験で頻出の手法です。「直接測れない量」を比によって消去するのは、高精度測定の王道です。

🔬 深掘り:なぜ「電流ゼロ」が実現できるのか

平衡点では、抵抗線上の A-P 間の電位差と測定対象の起電力がちょうど等しくなります。 このとき検流計を含む回路の起電力が正味ゼロとなるため、電流は流れません。

つまり、測定対象の電池は「電流を供給する」のではなく、 「外部の電位差と釣り合っている」だけの状態です。

4つながりマップ

  • ← E-4-4 電池の内部抵抗:端子電圧と起電力の違い。電位降下法はこの問題を解決する。
  • ← E-4-5 ホイートストンブリッジ:同じ「ゼロ検出」の発想。
  • ← E-4-6 メートルブリッジ:同じく一様な抵抗線を利用した測定法。
  • → E-4-9 総合演習:電位降下法を含む総合問題。

📋まとめ

  • 電圧計で起電力を測ると、内部抵抗による電圧降下分だけ低い値が出る
  • 電位降下法は電流ゼロの条件で起電力を測定する
  • 一様な抵抗線上の電位降下と測定対象の起電力を平衡させる
  • 比較法を使えば:$E_x = E_s \cdot l_x / l_s$
  • 補助電池の起電力や抵抗線の抵抗率を知る必要がない
  • 「ゼロ検出」と「比較法」の組合せが高精度測定の王道

確認テスト

Q1. 電位降下法で起電力を正確に測れる理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示平衡時に測定対象の電池から電流が流れないため、内部抵抗による電圧降下がゼロとなり、端子電圧=起電力となるからです。

Q2. 標準電池 $E_s = 1.018\,\text{V}$ で平衡点が $l_s = 50.9\,\text{cm}$、未知電池で $l_x = 75.0\,\text{cm}$ のとき、$E_x$ を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$E_x = 1.018 \times \dfrac{75.0}{50.9} \approx 1.50\,\text{V}$

Q3. 比較法で補助電池の起電力を知る必要がないのはなぜですか。

▶ クリックして解答を表示$E_x$ と $E_s$ の比をとると、抵抗線上の電位勾配(補助電池に依存する量)が分子・分母で打ち消されるからです。

8入試問題演習

電位降下法に関する入試問題を解きましょう。

A 基礎レベル

4-7-1 A 基礎 ポテンショメーター計算

電位降下法で、起電力 $E_s = 1.50\,\text{V}$ の標準電池の平衡点が $l_s = 60.0\,\text{cm}$、未知電池の平衡点が $l_x = 48.0\,\text{cm}$ であった。未知電池の起電力 $E_x$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$E_x = 1.20\,\text{V}$

解説

$E_x = E_s \cdot \dfrac{l_x}{l_s} = 1.50 \times \dfrac{48.0}{60.0} = 1.50 \times 0.80 = 1.20\,\text{V}$

B 発展レベル

4-7-2 B 発展 内部抵抗計算

電位降下法で未知電池の起電力を $E_x = 1.48\,\text{V}$ と測定した。次にこの電池に $R = 10\,\Omega$ の外部抵抗を接続したところ、電流は $0.14\,\text{A}$ であった。この電池の内部抵抗 $r$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$r \approx 0.57\,\Omega$

解説

$E_x = I(R + r)$ より $r = \dfrac{E_x}{I} - R = \dfrac{1.48}{0.14} - 10 = 10.57 - 10 = 0.57\,\Omega$

電位降下法で正確な $E_x$ がわかっているからこそ、$r$ も正確に求まります。

採点ポイント
  • 電位降下法で得た $E_x$ を正確な値として使う(2点)
  • $E_x = I(R + r)$ の式を正しく立てる(3点)
  • $r$ を正しく計算する(3点)

C 応用レベル

4-7-3 C 応用 条件設定論述

全長 $L = 100\,\text{cm}$ の抵抗線に補助電池(起電力 $E_0 = 3.0\,\text{V}$、内部抵抗無視)で電流を流す。起電力 $E_x = 2.0\,\text{V}$ の電池を測定したい。

(1) 平衡点を見つけるために必要な条件は何か。

(2) 抵抗線に直列に $R_0 = 5\,\Omega$ を接続し、抵抗線全体の抵抗が $10\,\Omega$ のとき、平衡点の位置を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 抵抗線の A-B 間の電位差 $V_{AB}$ が $E_x$ 以上であること($V_{AB} \geq E_x$)

(2) $l_x = 100\,\text{cm}$ のとき $V_{AB} = 2.0\,\text{V}$ だから、平衡点はちょうど100 cmだが、実用上は $V_{AB} > E_x$ でなくてはならない。直列抵抗なしなら $V_{AB} = 3.0\,\text{V}$ で平衡点は $l_x = 66.7\,\text{cm}$。直列抵抗ありなら $V_{AB} = 3.0 \times \dfrac{10}{15} = 2.0\,\text{V}$ で平衡点はちょうど $100\,\text{cm}$。

解説

(1) 平衡点が見つかるには、抵抗線上の A-B 間の電位差 $V_{AB}$ が $E_x$ 以上でなければなりません。$V_{AB} < E_x$ なら抵抗線のどの位置でも検流計の電流はゼロにならず、測定不可能です。

(2) $R_0 = 5\,\Omega$(直列抵抗)と抵抗線 $R_w = 10\,\Omega$ の合計に $E_0 = 3.0\,\text{V}$ を接続。

電流 $I_0 = \dfrac{3.0}{5 + 10} = 0.2\,\text{A}$

$V_{AB} = I_0 R_w = 0.2 \times 10 = 2.0\,\text{V}$

$E_x = V_{AB} \times \dfrac{l_x}{L}$ より $2.0 = 2.0 \times \dfrac{l_x}{100}$ → $l_x = 100\,\text{cm}$

$l_x = 100\,\text{cm}$ は抵抗線の端であり、実用上は測定困難です。$R_0$ を小さくして $V_{AB} > E_x$ にする必要があります。

採点ポイント
  • $V_{AB} \geq E_x$ の条件を明記する(3点)
  • $V_{AB}$ を正しく計算する(3点)
  • 平衡点の位置を求め、実用上の問題点を指摘する(4点)