第1章 運動の表し方

等速直線運動
─ 最もシンプルな運動

宇宙空間を漂う探査機は、エンジンを切った後も同じ速度で飛び続けます。
力がはたらかなければ速度は変わらない。これがニュートンの第1法則(慣性の法則)の示す世界です。
等速直線運動は最もシンプルですが、力学全体の出発点として極めて重要な運動です。

1等速直線運動とは ─ 速度が変わらない運動

等速直線運動とは、物体が一定の速度で一直線上を移動する運動です。 速度が一定とは、速さも向きも変わらないことを意味します。

加速度の観点でいえば、等速直線運動は加速度が $0$ の運動です。 速度が変化しないのですから、速度の変化率である加速度はゼロになります。

現実には完全な等速直線運動を実現することは困難です。 空気抵抗や摩擦など、何らかの力がはたらくからです。 しかし、宇宙空間を飛行する物体や、氷の上を滑る物体など、力の影響がごく小さい場合には、よい近似として等速直線運動が使えます。

💡 ここが本質:等速直線運動は「加速度ゼロ」の運動

等速直線運動とは $a = 0$ の等加速度直線運動の特別な場合です。

等加速度直線運動の公式に $a = 0$ を代入すると、等速直線運動の公式が得られます。 このように、等速直線運動は力学のより一般的な枠組みの中に位置づけられます。

⚠️ 落とし穴:「速さが一定 = 等速直線運動」と思い込む

等速直線運動は「速度(大きさ+向き)が一定」の運動です。

✕ 誤:速さ一定で円を描く運動は等速直線運動

○ 正:速さ一定でも向きが変わっていれば速度は変化している。等速円運動は等速直線運動ではない

「等速直線運動」の名前の通り、「等速」かつ「直線」でなければなりません。

2等速直線運動の公式

等速直線運動では速度 $v$ が一定なので、時刻 $t$ での位置 $x$ は非常にシンプルな式で表されます。

📐 等速直線運動の公式

$$x = x_0 + vt$$

※ $x$:時刻 $t$ での位置、$x_0$:初期位置($t = 0$ の位置)、$v$:速度(一定)、$t$:経過時間。

この式は「初期位置 $x_0$ に、速度 $v$ で $t$ 秒間移動した分を加えたもの」を意味します。 変位は $\Delta x = vt$ で、これは等加速度運動の第2式で $a = 0$ としたものに一致します。

▷ 等加速度運動の公式からの導出

等加速度直線運動の第2式は $x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2$ です。

ここで $a = 0$、$v_0 = v$(一定速度)とすると、

$$x = vt + \frac{1}{2} \times 0 \times t^2 = vt$$

初期位置 $x_0$ を加えると $x = x_0 + vt$ が得られます。

変位と移動距離

等速直線運動では、物体は一方向にしか動きません。 そのため、変位の大きさと移動距離が一致します。

📐 等速直線運動の変位と移動距離

$$\text{変位} = vt$$

$$\text{移動距離} = |v| \times t = \text{速さ} \times \text{時間}$$

※ 等速直線運動では折り返しがないため、$|\text{変位}| = \text{移動距離}$。
💡 ここが本質:$x = vt$ は1次関数

$x = x_0 + vt$ は $t$ の1次関数です。数学でいえば $y = b + mx$ の形です。

傾き $v$ が速度、切片 $x_0$ が初期位置に対応します。 1次関数のグラフは直線ですから、x-tグラフは直線になります。

⚠️ 落とし穴:初期位置 $x_0$ を忘れる

$x = vt$ とだけ覚えていると、物体が原点以外から出発する問題で間違えます。

✕ 誤:$x_0 = 10\,\text{m}$、$v = 3\,\text{m/s}$ で $t = 5\,\text{s}$ → $x = 3 \times 5 = 15\,\text{m}$

○ 正:$x = 10 + 3 \times 5 = 25\,\text{m}$

$x = vt$ は原点出発のときだけ正しい式です。一般には $x = x_0 + vt$ を使いましょう。

3x-tグラフとv-tグラフ

等速直線運動の特徴は、グラフの形で明確に表れます。

x-tグラフ(位置-時間グラフ)

$x = x_0 + vt$ は $t$ の1次関数ですから、x-tグラフは直線になります。

  • 直線の傾き = 速度 $v$
  • 直線の$y$ 切片 = 初期位置 $x_0$
  • 速度が正 → 右上がりの直線
  • 速度が負 → 右下がりの直線
  • 速度が大きい → 傾きが急

v-tグラフ(速度-時間グラフ)

速度が一定なので、v-tグラフは水平な直線($v = \text{一定}$)になります。

  • v-tグラフの傾き = 加速度 = $0$
  • v-tグラフと時間軸で囲まれた面積 = 変位

v-tグラフの面積は「速度 $\times$ 時間 = $vt$」であり、これは変位そのものです。 長方形の面積として簡単に計算できます。

💡 ここが本質:2つのグラフの読み方を対比する

等速直線運動における2つのグラフの特徴をまとめます。

x-tグラフ:直線 → 傾き = 速度

v-tグラフ:水平直線 → 傾き = 加速度 = $0$、面積 = 変位

x-tグラフからは速度が読み取れ、v-tグラフからは加速度と変位が読み取れます。 この読み方は、等加速度運動やより複雑な運動でも同じように使えます。

⚠️ 落とし穴:x-tグラフの「直線」とv-tグラフの「直線」を混同する

等速直線運動では両方とも直線ですが、意味が異なります。

✕ 誤:x-tグラフが直線 → 加速度が一定

○ 正:x-tグラフが直線 → 速度が一定(等速運動)。v-tグラフが直線 → 加速度が一定(等加速度運動)

グラフの縦軸が何を表しているかを常に確認しましょう。

4等速直線運動の条件 ─ 力学との接点

なぜ物体は等速直線運動をするのでしょうか。 ニュートンの運動の第1法則(慣性の法則)によれば、物体に力がはたらかないか、はたらく力の合力がゼロのとき、物体は等速直線運動を続けます。

逆にいえば、等速直線運動をしている物体には、合力がはたらいていません。 これは力のつりあいの問題を解く際に重要な判断基準になります。

💡 ここが本質:等速直線運動 ⇔ 合力ゼロ

等速直線運動は「力がはたらいていない(合力がゼロ)」という情報を含んでいます。

$a = 0$ → $F = ma = 0$

この対応関係は第2章で詳しく学びます。 等速直線運動を見たら「力がつりあっている」と判断してよいのです。

⚠️ 落とし穴:「力がはたらかない = 静止」と思い込む

力がはたらかないとき、物体は静止し続けるか、等速直線運動を続けます。

✕ 誤:力がゼロなら物体は必ず止まっている

○ 正:力がゼロなら、静止している物体は静止し続け、動いている物体は等速直線運動を続ける

静止は「$v = 0$ の等速直線運動」と考えることもできます。

🔬 深掘り:慣性系の概念

ニュートンの法則が成り立つ座標系を「慣性系」と呼びます。 等速直線運動をしている観測者から見た座標系は慣性系です。

加速している電車の中では、力がはたらいていない物体も動いて見えます。 これは電車の座標系が慣性系でないためです。

大学物理では、慣性系と非慣性系の違いが重要なテーマになります。 特殊相対性理論も、すべての慣性系で物理法則が同じ形をとるという原理から出発します。

5この章を俯瞰する

等速直線運動は最も基本的な運動ですが、力学全体の理解に不可欠な概念を含んでいます。

つながりマップ

  • ← M-1-3 加速度:加速度が $0$ の特別な場合が等速直線運動。加速度を理解したうえで、その最もシンプルなケースとして位置づける。
  • → M-1-5 等加速度直線運動の3公式:等速直線運動を一般化した運動。$a = 0$ で等速直線運動に戻る。
  • → M-1-6 v-tグラフの読み方:等速直線運動のv-tグラフは水平直線。面積が変位になる性質を確認する。
  • → 第2章 ニュートンの運動の法則:慣性の法則(第1法則)が等速直線運動の理論的根拠。合力ゼロの条件。

📋まとめ

  • 等速直線運動は速度が一定(大きさも向きも不変)の直線運動。加速度は $0$
  • 公式:$x = x_0 + vt$。変位は $\Delta x = vt$
  • x-tグラフは直線(傾き = 速度)。v-tグラフは水平直線
  • v-tグラフの面積 = 変位 = $vt$(長方形の面積)
  • 等速直線運動は等加速度直線運動で $a = 0$ とした特別な場合
  • 等速直線運動 ⇔ 合力ゼロ(慣性の法則)。力学との接点

確認テスト

Q1. 等速直線運動の位置の公式を書いてください。

▶ クリックして解答を表示$x = x_0 + vt$($x_0$:初期位置、$v$:速度、$t$:時間)

Q2. 等速直線運動のx-tグラフはどのような形ですか。また、その傾きは何を表しますか。

▶ クリックして解答を表示直線。傾きは速度 $v$ を表します。

Q3. 速度 $4\,\text{m/s}$ で $10\,\text{s}$ 間等速直線運動した物体の変位はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$\Delta x = vt = 4 \times 10 = 40\,\text{m}$

Q4. 等速直線運動における加速度はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$a = 0$。速度が変化しないため、加速度はゼロです。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

1-4-1 A 基礎 等速直線運動 計算

原点から右向きに速度 $5.0\,\text{m/s}$ で等速直線運動する物体がある。次の問いに答えよ。

(1) $6.0\,\text{s}$ 後の物体の位置を求めよ。

(2) $6.0\,\text{s}$ 間の移動距離を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $30\,\text{m}$

(2) $30\,\text{m}$

解説

(1) $x = x_0 + vt = 0 + 5.0 \times 6.0 = 30\,\text{m}$

(2) 等速直線運動では折り返しがないので、移動距離 = 変位の大きさ = $30\,\text{m}$

B 発展レベル

1-4-2 B 発展 2物体の出会い 論述

直線上の原点に物体Aが、原点から $100\,\text{m}$ 右の地点に物体Bがいる。$t = 0$ で同時に、Aは右向きに $8.0\,\text{m/s}$、Bは左向きに $2.0\,\text{m/s}$ の等速直線運動を始めた。右向きを正として、次の問いに答えよ。

(1) AとBの位置をそれぞれ時刻 $t$ の式で表せ。

(2) AとBが出会う時刻を求めよ。

(3) 出会う位置を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $x_A = 8.0t$、$x_B = 100 - 2.0t$

(2) $10\,\text{s}$ 後

(3) $80\,\text{m}$(原点から右に)

解説

(1) A:$x_A = 0 + 8.0t = 8.0t$。B:左向きなので速度は $-2.0\,\text{m/s}$。$x_B = 100 + (-2.0)t = 100 - 2.0t$

(2) 出会う条件は $x_A = x_B$。$8.0t = 100 - 2.0t$ → $10t = 100$ → $t = 10\,\text{s}$

(3) $x_A = 8.0 \times 10 = 80\,\text{m}$(検算:$x_B = 100 - 2.0 \times 10 = 80\,\text{m}$、一致)

採点ポイント
  • Bの速度を $-2.0\,\text{m/s}$ と正しく設定(2点)
  • 位置の式を正しく立てる(2点)
  • $x_A = x_B$ の条件を立てて解く(3点)
  • 検算して位置が一致することを確認(1点)

C 応用レベル

1-4-3 C 応用 追いつき問題 論述

直線道路上を、車Aが速度 $15\,\text{m/s}$ で等速走行している。車Aが原点を通過した $10\,\text{s}$ 後に、原点から車Bが速度 $25\,\text{m/s}$ で同じ向きに等速走行を始めた。次の問いに答えよ。

(1) 車Bが出発してから $t\,\text{s}$ 後の、AとBの位置をそれぞれ求めよ。

(2) 車Bが車Aに追いつく時刻を求めよ。

(3) 追いついた地点は原点から何 $\text{m}$ の位置か。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $x_A = 150 + 15t$、$x_B = 25t$

(2) Bが出発してから $15\,\text{s}$ 後

(3) $375\,\text{m}$

解説

方針:Bの出発時刻を $t = 0$ として考える。このときAは既に $15 \times 10 = 150\,\text{m}$ 先にいる。

(1) $x_A = 150 + 15t$。$x_B = 0 + 25t = 25t$

(2) $x_A = x_B$ → $150 + 15t = 25t$ → $10t = 150$ → $t = 15\,\text{s}$

(3) $x_B = 25 \times 15 = 375\,\text{m}$

採点ポイント
  • Bの出発時にAが $150\,\text{m}$ 先にいることを正しく処理(3点)
  • 時刻の基準を明確にする(1点)
  • 追いつき条件 $x_A = x_B$ を立式し正しく解く(3点)
  • 追いつき位置を正しく計算する(1点)