第2章 力のつりあい

力の合成
─ 2力を1つにまとめる

荷物を2人で運ぶとき、1人で同じ効果を出すにはどう持てばよいでしょうか。
複数の力がはたらいている物体を分析するには、まず力を「まとめる」技術が必要です。
この記事では、2つの力を1つの合力にまとめる方法を、平行四辺形の法則から学びます。

1合力とは何か ─ 複数の力を1つにする

物体には同時に複数の力がはたらくことが普通です。 たとえば、テーブルの上の本には重力と垂直抗力の2力がはたらいています。 これらの力を1つの力にまとめたものが合力です。

合力は「複数の力と同じ効果をもつ、ただ1つの力」です。 力を合成すると、問題がシンプルになります。

💡 ここが本質:合力は「置き換え」の技術

力の合成とは、複数の力を1つの力で置き換える操作です。 物体に $\vec{F_1}$ と $\vec{F_2}$ がはたらいているとき、合力 $\vec{F}$ は、

$$\vec{F} = \vec{F_1} + \vec{F_2}$$

この $\vec{F}$ だけがはたらいていると考えても、物体の運動は全く同じになります。 これがベクトルの足し算の物理的な意味です。

2一直線上の力の合成

まず最も簡単な場合として、一直線上にある2力の合成を考えます。

同じ向きの2力

2つの力が同じ向きにはたらいている場合、合力の大きさは2力の大きさのです。 向きは2力と同じです。

たとえば、右向きに $3\,\text{N}$ と右向きに $5\,\text{N}$ の合力は、右向きに $8\,\text{N}$ です。

逆向きの2力

2つの力が逆向きにはたらいている場合、合力の大きさは2力の大きさのです。 向きは大きい方の力と同じです。

たとえば、右向きに $5\,\text{N}$ と左向きに $3\,\text{N}$ の合力は、右向きに $2\,\text{N}$ です。 2力の大きさが等しいとき、合力はゼロ(力がつりあっている状態)になります。

📐 一直線上の力の合成

同じ向き:$F = F_1 + F_2$(向きは2力と同じ)

逆向き:$F = |F_1 - F_2|$(向きは大きい方と同じ)

※ 正の向きを決めて符号付きで計算すれば、$F = F_1 + F_2$ の1つの式で済みます。
⚠️ 落とし穴:逆向きの力を足し算してしまう

力の向きを考えずに大きさだけを足すと、間違った合力になります。

✕ 誤:右向き $5\,\text{N}$ と左向き $3\,\text{N}$ → 合力 $8\,\text{N}$

○ 正:右向きを正とすると $+5 + (-3) = +2\,\text{N}$(右向き $2\,\text{N}$)

正の向きを設定し、符号を使って計算する習慣をつけましょう。

3角度をもつ2力の合成 ─ 平行四辺形の法則

2つの力が一直線上にない場合、つまり角度をもっている場合はどうでしょうか。 ここで登場するのが平行四辺形の法則です。

2つの力 $\vec{F_1}$ と $\vec{F_2}$ を2辺とする平行四辺形を描くと、 その対角線が合力 $\vec{F}$ を表します。

💡 ここが本質:平行四辺形の法則はベクトルの足し算

力はベクトル(大きさと向きをもつ量)です。 ベクトルの足し算は「一方の矢印の先端にもう一方の矢印の始点をつなげる」操作です。

これを作図すると平行四辺形になるため、「平行四辺形の法則」と呼ばれます。 つまり、力の合成は矢印の足し算そのものです。

作図の手順

  1. 同じ作用点から2力 $\vec{F_1}$、$\vec{F_2}$ の矢印を描く
  2. $\vec{F_1}$ の先端から $\vec{F_2}$ に平行な線を引く
  3. $\vec{F_2}$ の先端から $\vec{F_1}$ に平行な線を引く
  4. 2本の線の交点まで、作用点から対角線を引く → これが合力 $\vec{F}$

特別な角度での合力

2力 $F_1$、$F_2$ のなす角を $\theta$ とすると、よく出る特別な場合は以下の通りです。

2力のなす角 $\theta$ 合力の大きさ 特徴
$0°$(同じ向き) $F_1 + F_2$ 最大の合力
$90°$(直角) $\sqrt{F_1^2 + F_2^2}$ 三平方の定理を使用
$180°$(逆向き) $|F_1 - F_2|$ 最小の合力
⚠️ 落とし穴:直角でない2力に三平方の定理を使ってしまう

$\sqrt{F_1^2 + F_2^2}$ の公式が使えるのは、2力が直角に交わるとき($\theta = 90°$)だけです。

✕ 誤:$60°$ の角度をなす $3\,\text{N}$ と $4\,\text{N}$ の合力を $\sqrt{3^2 + 4^2} = 5\,\text{N}$ とする

○ 正:余弦定理を使って $F = \sqrt{3^2 + 4^2 + 2 \times 3 \times 4 \times \cos 60°} = \sqrt{37} \approx 6.1\,\text{N}$

⚠️ 落とし穴:合力の範囲を意識しない

大きさ $F_1$、$F_2$ の2力の合力 $F$ は、次の範囲に収まります。

$$|F_1 - F_2| \leq F \leq F_1 + F_2$$

この範囲を超える値が出たら、計算ミスの可能性があります。 答えの検算に使いましょう。

4合力の大きさを計算で求める

作図だけでなく、計算で合力の大きさを求める方法を身につけましょう。 角度をもつ2力の合力は、余弦定理を使って求めることができます。

📐 合力の大きさ(余弦定理)

2力 $F_1$、$F_2$ のなす角が $\theta$ のとき、合力の大きさ $F$ は、

$$F = \sqrt{F_1^2 + F_2^2 + 2F_1 F_2 \cos\theta}$$

※ $\theta = 90°$ のとき $\cos 90° = 0$ なので $F = \sqrt{F_1^2 + F_2^2}$ に帰着します。
▷ 余弦定理からの導出

平行四辺形の対角線の長さを求める問題です。 2力 $\vec{F_1}$、$\vec{F_2}$ を2辺とする平行四辺形で、対角線の長さが合力の大きさです。

三角形の余弦定理を適用します。2辺が $F_1$、$F_2$、それらのなす角が $\theta$ の三角形で、対辺(合力)の長さを $F$ とすると、

ただし、平行四辺形の内角は $\theta$ と $180° - \theta$ になります。 合力側の三角形では内角が $180° - \theta$ ではなく $\theta$ を使うため、

$$F^2 = F_1^2 + F_2^2 - 2F_1 F_2 \cos(180° - \theta)$$

$\cos(180° - \theta) = -\cos\theta$ なので、

$$F^2 = F_1^2 + F_2^2 + 2F_1 F_2 \cos\theta$$

$F_1 = F_2$ の特別な場合

2力の大きさが等しい場合($F_1 = F_2 = F_0$ とおく)、合力の公式は簡単になります。

$$F = \sqrt{2F_0^2 + 2F_0^2 \cos\theta} = \sqrt{2F_0^2(1 + \cos\theta)}$$

半角の公式 $1 + \cos\theta = 2\cos^2\dfrac{\theta}{2}$ を使うと、

$$F = 2F_0 \cos\frac{\theta}{2}$$

この公式は入試でもよく使われるので、導出できるようにしておきましょう。

💡 ここが本質:合力は「なす角」で決まる

同じ大きさの2力でも、なす角によって合力は大きく変わります。

$\theta = 0°$ なら $F = 2F_0$(最大)、$\theta = 90°$ なら $F = \sqrt{2}F_0$、$\theta = 120°$ なら $F = F_0$、$\theta = 180°$ なら $F = 0$(打ち消し合う)。

2力のなす角が大きくなるほど合力は小さくなるという感覚は、問題の検算に役立ちます。

🔬 深掘り:ベクトルの成分表示

数学のベクトルの知識を使えば、力の合成は成分ごとの足し算で処理できます。

$\vec{F_1} = (F_{1x},\, F_{1y})$、$\vec{F_2} = (F_{2x},\, F_{2y})$ のとき、

$$\vec{F} = (F_{1x} + F_{2x},\, F_{1y} + F_{2y})$$

合力の大きさは $F = \sqrt{(F_{1x} + F_{2x})^2 + (F_{1y} + F_{2y})^2}$ です。 この方法は3力以上の合成にも簡単に拡張でき、大学物理ではこちらが主流になります。

⚠️ 落とし穴:余弦定理の $\cos$ の符号を間違える

余弦定理で合力を求めるとき、2力のなす角 $\theta$ を使うか、三角形の内角 $180° - \theta$ を使うかで符号が変わります。

✕ 誤:$F^2 = F_1^2 + F_2^2 - 2F_1F_2\cos\theta$(三角形の余弦定理をそのまま適用)

○ 正:$F^2 = F_1^2 + F_2^2 + 2F_1F_2\cos\theta$($\cos(180° - \theta) = -\cos\theta$ を考慮)

合力の公式では $+2F_1F_2\cos\theta$ とプラスになることを覚えておきましょう。

5この章を俯瞰する

力の合成は、力のつりあいや運動方程式を立てるための前提技術です。 この記事の内容がどこにつながるかを確認しましょう。

つながりマップ

  • ← M-2-1 力の種類と表し方:力を矢印で描く方法を学んだ。合成は矢印どうしの足し算。
  • → M-2-3 力の分解:合成の逆操作。1つの力を2方向に分ける。
  • → M-2-6 一直線上の力のつりあい:合力がゼロになる条件を直線上で考える。
  • → M-2-7 平面上の力のつりあい:合力がゼロになる条件を平面上で考える。3力のつりあいの問題で合成が活躍。
  • → 第3章 運動の法則:合力 $\vec{F}$ が加速度を決める($\vec{F} = m\vec{a}$)。

📋まとめ

  • 合力とは、複数の力と同じ効果をもつ1つの力。$\vec{F} = \vec{F_1} + \vec{F_2}$
  • 一直線上の合成:同じ向きなら和、逆向きなら差
  • 角度をもつ2力の合成には平行四辺形の法則を使う
  • 合力の大きさ:$F = \sqrt{F_1^2 + F_2^2 + 2F_1F_2\cos\theta}$
  • $F_1 = F_2 = F_0$ のとき、$F = 2F_0\cos\dfrac{\theta}{2}$
  • 合力の範囲:$|F_1 - F_2| \leq F \leq F_1 + F_2$

確認テスト

Q1. 右向き $6\,\text{N}$ と左向き $4\,\text{N}$ の合力を求めてください。

▶ クリックして解答を表示右向きを正とすると $+6 + (-4) = +2$。合力は右向き $2\,\text{N}$。

Q2. 互いに直角な $3\,\text{N}$ と $4\,\text{N}$ の合力の大きさを求めてください。

▶ クリックして解答を表示$F = \sqrt{3^2 + 4^2} = \sqrt{9 + 16} = \sqrt{25} = 5\,\text{N}$

Q3. 大きさ $F$ の2力が $120°$ の角度をなすとき、合力の大きさを求めてください。

▶ クリックして解答を表示$F_合 = 2F\cos\dfrac{120°}{2} = 2F\cos 60° = 2F \times \dfrac{1}{2} = F$

Q4. $5\,\text{N}$ と $3\,\text{N}$ の2力の合力がとりうる範囲を答えてください。

▶ クリックして解答を表示$|5 - 3| \leq F \leq 5 + 3$ より、$2\,\text{N} \leq F \leq 8\,\text{N}$

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

2-2-1 A 基礎 平行四辺形の法則 計算

互いに $60°$ の角度をなす $4.0\,\text{N}$ と $3.0\,\text{N}$ の2力の合力の大きさを求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$6.1\,\text{N}$

解説

方針:合力の公式 $F = \sqrt{F_1^2 + F_2^2 + 2F_1F_2\cos\theta}$ に代入します。

$F = \sqrt{4.0^2 + 3.0^2 + 2 \times 4.0 \times 3.0 \times \cos 60°}$

$= \sqrt{16 + 9 + 24 \times 0.5} = \sqrt{16 + 9 + 12} = \sqrt{37} \approx 6.1\,\text{N}$

採点ポイント
  • 正しい公式を選択する(2点)
  • $\cos 60° = 0.5$ を正しく代入する(2点)
  • 計算を正しく行い有効数字を適切に処理する(2点)

B 発展レベル

2-2-2 B 発展 等しい2力 論述

大きさがともに $F$ の2力がなす角を $\theta$ とする。合力の大きさが $F$ に等しくなるときの $\theta$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\theta = 120°$

解説

方針:$F_1 = F_2 = F$ のとき、合力 $= 2F\cos\dfrac{\theta}{2}$ を使います。

$2F\cos\dfrac{\theta}{2} = F$ より $\cos\dfrac{\theta}{2} = \dfrac{1}{2}$

$\dfrac{\theta}{2} = 60°$ より $\theta = 120°$

採点ポイント
  • 等しい2力の合力公式を正しく適用する(3点)
  • $\cos\dfrac{\theta}{2} = \dfrac{1}{2}$ を正しく解く(3点)
  • $\theta = 120°$ を正しく求める(2点)

C 応用レベル

2-2-3 C 応用 合力の範囲 思考

大きさ $5.0\,\text{N}$ と $12\,\text{N}$ の2力がある。これらの合力の大きさが $13\,\text{N}$ になるとき、2力のなす角 $\theta$ を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\theta = 90°$

解説

方針:合力の公式に値を代入し、$\cos\theta$ を求めます。

$F^2 = F_1^2 + F_2^2 + 2F_1F_2\cos\theta$ に代入すると、

$13^2 = 5.0^2 + 12^2 + 2 \times 5.0 \times 12 \times \cos\theta$

$169 = 25 + 144 + 120\cos\theta$

$169 = 169 + 120\cos\theta$

$120\cos\theta = 0$ より $\cos\theta = 0$ → $\theta = 90°$

(検算:$5^2 + 12^2 = 25 + 144 = 169 = 13^2$ → ピタゴラスの三つ組 $(5, 12, 13)$ で直角三角形)

採点ポイント
  • 合力の公式を正しく立式する(3点)
  • 数値を代入して $\cos\theta = 0$ を導く(3点)
  • $\theta = 90°$ を正しく答える(2点)
  • ピタゴラスの三つ組による検算があればなお良い(+2点)