荷物を2人で運ぶとき、1人で同じ効果を出すにはどう持てばよいでしょうか。
複数の力がはたらいている物体を分析するには、まず力を「まとめる」技術が必要です。
この記事では、2つの力を1つの合力にまとめる方法を、平行四辺形の法則から学びます。
物体には同時に複数の力がはたらくことが普通です。 たとえば、テーブルの上の本には重力と垂直抗力の2力がはたらいています。 これらの力を1つの力にまとめたものが合力です。
合力は「複数の力と同じ効果をもつ、ただ1つの力」です。 力を合成すると、問題がシンプルになります。
力の合成とは、複数の力を1つの力で置き換える操作です。 物体に $\vec{F_1}$ と $\vec{F_2}$ がはたらいているとき、合力 $\vec{F}$ は、
$$\vec{F} = \vec{F_1} + \vec{F_2}$$
この $\vec{F}$ だけがはたらいていると考えても、物体の運動は全く同じになります。 これがベクトルの足し算の物理的な意味です。
まず最も簡単な場合として、一直線上にある2力の合成を考えます。
2つの力が同じ向きにはたらいている場合、合力の大きさは2力の大きさの和です。 向きは2力と同じです。
たとえば、右向きに $3\,\text{N}$ と右向きに $5\,\text{N}$ の合力は、右向きに $8\,\text{N}$ です。
2つの力が逆向きにはたらいている場合、合力の大きさは2力の大きさの差です。 向きは大きい方の力と同じです。
たとえば、右向きに $5\,\text{N}$ と左向きに $3\,\text{N}$ の合力は、右向きに $2\,\text{N}$ です。 2力の大きさが等しいとき、合力はゼロ(力がつりあっている状態)になります。
同じ向き:$F = F_1 + F_2$(向きは2力と同じ)
逆向き:$F = |F_1 - F_2|$(向きは大きい方と同じ)
力の向きを考えずに大きさだけを足すと、間違った合力になります。
✕ 誤:右向き $5\,\text{N}$ と左向き $3\,\text{N}$ → 合力 $8\,\text{N}$
○ 正:右向きを正とすると $+5 + (-3) = +2\,\text{N}$(右向き $2\,\text{N}$)
正の向きを設定し、符号を使って計算する習慣をつけましょう。
2つの力が一直線上にない場合、つまり角度をもっている場合はどうでしょうか。 ここで登場するのが平行四辺形の法則です。
2つの力 $\vec{F_1}$ と $\vec{F_2}$ を2辺とする平行四辺形を描くと、 その対角線が合力 $\vec{F}$ を表します。
力はベクトル(大きさと向きをもつ量)です。 ベクトルの足し算は「一方の矢印の先端にもう一方の矢印の始点をつなげる」操作です。
これを作図すると平行四辺形になるため、「平行四辺形の法則」と呼ばれます。 つまり、力の合成は矢印の足し算そのものです。
2力 $F_1$、$F_2$ のなす角を $\theta$ とすると、よく出る特別な場合は以下の通りです。
| 2力のなす角 $\theta$ | 合力の大きさ | 特徴 |
|---|---|---|
| $0°$(同じ向き) | $F_1 + F_2$ | 最大の合力 |
| $90°$(直角) | $\sqrt{F_1^2 + F_2^2}$ | 三平方の定理を使用 |
| $180°$(逆向き) | $|F_1 - F_2|$ | 最小の合力 |
$\sqrt{F_1^2 + F_2^2}$ の公式が使えるのは、2力が直角に交わるとき($\theta = 90°$)だけです。
✕ 誤:$60°$ の角度をなす $3\,\text{N}$ と $4\,\text{N}$ の合力を $\sqrt{3^2 + 4^2} = 5\,\text{N}$ とする
○ 正:余弦定理を使って $F = \sqrt{3^2 + 4^2 + 2 \times 3 \times 4 \times \cos 60°} = \sqrt{37} \approx 6.1\,\text{N}$
大きさ $F_1$、$F_2$ の2力の合力 $F$ は、次の範囲に収まります。
$$|F_1 - F_2| \leq F \leq F_1 + F_2$$
この範囲を超える値が出たら、計算ミスの可能性があります。 答えの検算に使いましょう。
作図だけでなく、計算で合力の大きさを求める方法を身につけましょう。 角度をもつ2力の合力は、余弦定理を使って求めることができます。
2力 $F_1$、$F_2$ のなす角が $\theta$ のとき、合力の大きさ $F$ は、
$$F = \sqrt{F_1^2 + F_2^2 + 2F_1 F_2 \cos\theta}$$
平行四辺形の対角線の長さを求める問題です。 2力 $\vec{F_1}$、$\vec{F_2}$ を2辺とする平行四辺形で、対角線の長さが合力の大きさです。
三角形の余弦定理を適用します。2辺が $F_1$、$F_2$、それらのなす角が $\theta$ の三角形で、対辺(合力)の長さを $F$ とすると、
ただし、平行四辺形の内角は $\theta$ と $180° - \theta$ になります。 合力側の三角形では内角が $180° - \theta$ ではなく $\theta$ を使うため、
$$F^2 = F_1^2 + F_2^2 - 2F_1 F_2 \cos(180° - \theta)$$
$\cos(180° - \theta) = -\cos\theta$ なので、
$$F^2 = F_1^2 + F_2^2 + 2F_1 F_2 \cos\theta$$
2力の大きさが等しい場合($F_1 = F_2 = F_0$ とおく)、合力の公式は簡単になります。
$$F = \sqrt{2F_0^2 + 2F_0^2 \cos\theta} = \sqrt{2F_0^2(1 + \cos\theta)}$$
半角の公式 $1 + \cos\theta = 2\cos^2\dfrac{\theta}{2}$ を使うと、
$$F = 2F_0 \cos\frac{\theta}{2}$$
この公式は入試でもよく使われるので、導出できるようにしておきましょう。
同じ大きさの2力でも、なす角によって合力は大きく変わります。
$\theta = 0°$ なら $F = 2F_0$(最大)、$\theta = 90°$ なら $F = \sqrt{2}F_0$、$\theta = 120°$ なら $F = F_0$、$\theta = 180°$ なら $F = 0$(打ち消し合う)。
2力のなす角が大きくなるほど合力は小さくなるという感覚は、問題の検算に役立ちます。
数学のベクトルの知識を使えば、力の合成は成分ごとの足し算で処理できます。
$\vec{F_1} = (F_{1x},\, F_{1y})$、$\vec{F_2} = (F_{2x},\, F_{2y})$ のとき、
$$\vec{F} = (F_{1x} + F_{2x},\, F_{1y} + F_{2y})$$
合力の大きさは $F = \sqrt{(F_{1x} + F_{2x})^2 + (F_{1y} + F_{2y})^2}$ です。 この方法は3力以上の合成にも簡単に拡張でき、大学物理ではこちらが主流になります。
余弦定理で合力を求めるとき、2力のなす角 $\theta$ を使うか、三角形の内角 $180° - \theta$ を使うかで符号が変わります。
✕ 誤:$F^2 = F_1^2 + F_2^2 - 2F_1F_2\cos\theta$(三角形の余弦定理をそのまま適用)
○ 正:$F^2 = F_1^2 + F_2^2 + 2F_1F_2\cos\theta$($\cos(180° - \theta) = -\cos\theta$ を考慮)
合力の公式では $+2F_1F_2\cos\theta$ とプラスになることを覚えておきましょう。
力の合成は、力のつりあいや運動方程式を立てるための前提技術です。 この記事の内容がどこにつながるかを確認しましょう。
Q1. 右向き $6\,\text{N}$ と左向き $4\,\text{N}$ の合力を求めてください。
Q2. 互いに直角な $3\,\text{N}$ と $4\,\text{N}$ の合力の大きさを求めてください。
Q3. 大きさ $F$ の2力が $120°$ の角度をなすとき、合力の大きさを求めてください。
Q4. $5\,\text{N}$ と $3\,\text{N}$ の2力の合力がとりうる範囲を答えてください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
互いに $60°$ の角度をなす $4.0\,\text{N}$ と $3.0\,\text{N}$ の2力の合力の大きさを求めよ。
$6.1\,\text{N}$
方針:合力の公式 $F = \sqrt{F_1^2 + F_2^2 + 2F_1F_2\cos\theta}$ に代入します。
$F = \sqrt{4.0^2 + 3.0^2 + 2 \times 4.0 \times 3.0 \times \cos 60°}$
$= \sqrt{16 + 9 + 24 \times 0.5} = \sqrt{16 + 9 + 12} = \sqrt{37} \approx 6.1\,\text{N}$
大きさがともに $F$ の2力がなす角を $\theta$ とする。合力の大きさが $F$ に等しくなるときの $\theta$ を求めよ。
$\theta = 120°$
方針:$F_1 = F_2 = F$ のとき、合力 $= 2F\cos\dfrac{\theta}{2}$ を使います。
$2F\cos\dfrac{\theta}{2} = F$ より $\cos\dfrac{\theta}{2} = \dfrac{1}{2}$
$\dfrac{\theta}{2} = 60°$ より $\theta = 120°$
大きさ $5.0\,\text{N}$ と $12\,\text{N}$ の2力がある。これらの合力の大きさが $13\,\text{N}$ になるとき、2力のなす角 $\theta$ を求めよ。
$\theta = 90°$
方針:合力の公式に値を代入し、$\cos\theta$ を求めます。
$F^2 = F_1^2 + F_2^2 + 2F_1F_2\cos\theta$ に代入すると、
$13^2 = 5.0^2 + 12^2 + 2 \times 5.0 \times 12 \times \cos\theta$
$169 = 25 + 144 + 120\cos\theta$
$169 = 169 + 120\cos\theta$
$120\cos\theta = 0$ より $\cos\theta = 0$ → $\theta = 90°$
(検算:$5^2 + 12^2 = 25 + 144 = 169 = 13^2$ → ピタゴラスの三つ組 $(5, 12, 13)$ で直角三角形)