第6章 剛体にはたらく力(物理)

斜めの棒のつりあい
─ 糸で支える場合

水平な棒のつりあいが理解できたら、次は棒を「斜めに」支える場合に挑戦です。
壁にヒンジで取り付けた棒を糸で支える、天井から斜めに吊るす——日常でもよく目にする状況です。
ここでは力のつりあい力のモーメントのつりあいの両方を使いこなす方法を学びます。

1斜めの棒のつりあい ─ 基本設定

一様な棒(質量 $M$、長さ $L$)が斜めに置かれている場合、つりあいの問題を解くためには3つの条件が必要です。

📐 剛体のつりあい条件(3条件)

$$\sum F_x = 0 \quad (\text{水平方向の力のつりあい})$$

$$\sum F_y = 0 \quad (\text{鉛直方向の力のつりあい})$$

$$\sum M = 0 \quad (\text{任意の点まわりの力のモーメントのつりあい})$$

※ モーメントの回転中心は自由に選べる。未知の力の作用線上を選ぶと、その力のモーメントが0になり計算が楽になる。

解法の手順

  1. 力を全て書き出す:重力(重心に作用)、ヒンジの反力(水平・鉛直成分)、張力、垂直抗力など
  2. 座標軸を設定する:通常は水平・鉛直が便利
  3. モーメントの回転中心を選ぶ:未知の力が最も多く消える点
  4. 3つのつりあいの式を立てて解く
💡 ここが本質:回転中心の選び方が計算を左右する

モーメントの式では、回転中心を通る力のモーメントは0になります。

したがって、未知の力が作用する点を回転中心に選べば、その力がモーメントの式から消えます。特にヒンジ(蝶番)の点を回転中心に選ぶと、ヒンジの反力(水平・鉛直の2成分)が一度に消えるため非常に効率的です。

⚠️ 落とし穴:重力の作用点を端にする

一様な棒の重力は重心(棒の中央)にはたらきます。

✕ 誤:重力を棒の端に作用させる

○ 正:重力 $Mg$ は棒の中点に作用させる

モーメントの計算で重力の腕の長さを求める際、重力は棒の中点からの鉛直線上にあることに注意しましょう。

2壁にヒンジ+糸で支える棒

最も典型的な設定です。一様な棒の一端 A が壁にヒンジで固定され、他端 B が天井からの糸で支えられています。棒は水平と角度 $\theta$ をなしています。糸は鉛直方向に張られているとします。

力の洗い出し

  • 重力 $Mg$:棒の中点に鉛直下向き
  • ヒンジの反力:水平成分 $R_x$、鉛直成分 $R_y$(向き未定)
  • 糸の張力 $T$:B点に鉛直上向き

モーメントの式(A点まわり)

ヒンジ A を回転中心に選ぶと、$R_x$ と $R_y$ のモーメントはともに0です。

▷ モーメントのつりあいの計算

棒の長さを $L$、水平との角度を $\theta$ とする。

重力のモーメント(時計回りを正):

$$M_{\text{重力}} = Mg \times \frac{L}{2}\cos\theta$$

張力のモーメント(反時計回り):

$$M_{\text{張力}} = T \times L\cos\theta$$

モーメントのつりあい:$T \cdot L\cos\theta = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos\theta$

$$\therefore\quad T = \frac{Mg}{2}$$

($\cos\theta$ と $L$ が約分されるので、張力は角度によらないことがわかる)

🔬 深掘り:糸が鉛直でない場合

糸が鉛直ではなく棒と角度 $\phi$ をなす場合は、張力のモーメントの腕の長さが変わります。

このとき $T \cdot L\sin\phi = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos\theta$ となり、$T = \dfrac{Mg\cos\theta}{2\sin\phi}$ です。

「腕の長さ」は力の作用線までの垂直距離であることを常に意識しましょう。

力のつりあいから反力を求める

水平方向:$R_x = 0$(糸が鉛直なので水平方向の力は他にない)

鉛直方向:$R_y + T = Mg$ より $R_y = Mg - T = \dfrac{Mg}{2}$

💡 ここが本質:モーメント→力のつりあいの順序

剛体のつりあいでは、まずモーメントの式で未知数を1つ求め、次に力のつりあいから残りの未知数を求めるのが定石です。

ヒンジの反力は通常2成分($R_x$, $R_y$)なので、モーメントの式で先に他の未知数を決めてから力のつりあいに持ち込みましょう。

3天井と壁で支える棒

一様な棒の一端 A が滑らかな壁に立てかけられ、他端 B が滑らかな床の上にあるとします。 棒は鉛直と角度 $\theta$ をなしています。この棒を糸で支えたり、摩擦なしではどうなるかを考えます。

壁と床が滑らかな場合 ─ 糸が必要

壁が滑らかなら壁からの力 $N_A$ は壁に垂直(水平)、床が滑らかなら床からの力 $N_B$ は床に垂直(鉛直)です。 このままでは水平方向のつりあいが取れません($N_A$ を打ち消す力がない)。

B点と壁の間に水平に糸を張り、張力 $T$ で支える場合を考えましょう。

▷ B点まわりのモーメント

B点を回転中心とする。$N_B$ と $T$ のモーメントは0。

重力 $Mg$ の腕の長さ:棒の中点から鉛直線を下ろし、B点からの水平距離は $\frac{L}{2}\sin\theta$

壁の垂直抗力 $N_A$ の腕の長さ:A点の高さ $= L\cos\theta$

$$N_A \cdot L\cos\theta = Mg \cdot \frac{L}{2}\sin\theta$$

$$N_A = \frac{Mg\tan\theta}{2}$$

水平方向:$T = N_A = \dfrac{Mg\tan\theta}{2}$

鉛直方向:$N_B = Mg$

⚠️ 落とし穴:モーメントの「腕の長さ」の計算ミス

モーメント = 力 × 腕の長さ です。腕の長さは回転中心から力の作用線までの垂直距離です。

✕ 誤:力の作用点までの直線距離をそのまま使う

○ 正:力の作用線に垂線を下ろしてその長さを使う

別の方法として、「力 × 回転中心から作用点までの距離 × $\sin$(力と位置ベクトルのなす角)」でも計算できます。

📐 モーメントの計算の2つの方法

方法1:腕の長さを求める

$$M = F \times d \quad (d:\text{回転中心から力の作用線への垂直距離})$$

方法2:力を分解する

$$M = F \times r \times \sin\alpha \quad (r:\text{回転中心から作用点の距離},\ \alpha:\text{力と位置ベクトルのなす角})$$

※ どちらの方法でも結果は同じ。図が描きやすい方を使うとよい。

4おもりを吊るした斜め棒

壁にヒンジで固定された棒の先端におもり(質量 $m$)を吊るし、棒を糸で支える問題は入試頻出です。 棒が水平と角度 $\theta$ をなし、糸が水平に張られている場合を考えます。

力の書き出し

  • 棒の重力 $Mg$:中点に鉛直下向き
  • おもりの重力 $mg$:B点(先端)に鉛直下向き
  • 糸の張力 $T$:B点に水平
  • ヒンジの反力:$R_x$(水平)、$R_y$(鉛直)
▷ A点まわりのモーメント

ヒンジ A を回転中心とする。

重力 $Mg$ のモーメント:$Mg \times \frac{L}{2}\cos\theta$(時計回り)

おもりの重力 $mg$ のモーメント:$mg \times L\cos\theta$(時計回り)

張力 $T$ のモーメント:$T \times L\sin\theta$(反時計回り)

つりあいの条件:

$$T \cdot L\sin\theta = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos\theta + mg \cdot L\cos\theta$$

$$T = \frac{(M/2 + m)g\cos\theta}{\sin\theta} = \left(\frac{M}{2} + m\right)g \cdot \frac{1}{\tan\theta}$$

力のつりあいから:

水平方向:$R_x = T = \left(\dfrac{M}{2} + m\right)\dfrac{g}{\tan\theta}$

鉛直方向:$R_y = Mg + mg = (M + m)g$

🔬 深掘り:$\theta$ を変えるとどうなるか

$\theta \to 90°$(棒が鉛直に近づく)とき、$\tan\theta \to \infty$ なので $T \to 0$。直感と一致します。

$\theta \to 0°$(棒が水平に近づく)とき、$\tan\theta \to 0$ なので $T \to \infty$。棒を水平に近づけるほど大きな張力が必要です。

このように極限を確認することで、答えの正しさを検算できます。

⚠️ 落とし穴:張力の水平・鉛直成分を取り違える

糸が水平に張られている場合、張力のモーメントの腕の長さは棒に沿った距離ではありません。

✕ 誤:張力のモーメント $= T \times L$

○ 正:張力のモーメント $= T \times L\sin\theta$(回転中心Aから張力の作用線への垂直距離)

5この章を俯瞰する

斜めの棒のつりあいは、力のモーメントの理解を深める重要なテーマです。

つながりマップ

  • ← M-6-1 力のモーメント:モーメントの定義と腕の長さの概念がここで本格的に活用される。
  • ← M-6-2 剛体のつりあい条件:力のつりあい+モーメントのつりあいの3条件を実際に使いこなす。
  • ← M-6-3, M-6-4 水平棒・立てかけ棒:斜め棒はこれらの発展形。水平棒の結果を $\theta$ で一般化したものと考えられる。
  • → M-6-6 重心の求め方:重力の作用点(重心)を正確に求める方法を学ぶ。
  • → M-6-7 安定性と転倒条件:つりあいが崩れる条件を分析する。

📋まとめ

  • 剛体のつりあいは $\sum F_x = 0$、$\sum F_y = 0$、$\sum M = 0$ の3条件
  • モーメントの回転中心は未知の力が作用する点を選ぶと計算が楽になる
  • 一様な棒の重力は棒の中点に作用する
  • モーメントの腕の長さは回転中心から力の作用線への垂直距離
  • 糸が鉛直のとき張力は角度によらず $T = \dfrac{Mg}{2}$(おもりなしの場合)
  • 答えは極限($\theta \to 0°$, $90°$)で検算すると間違いを防げる

確認テスト

Q1. 剛体のつりあい条件を3つ書いてください。

▶ クリックして解答を表示$\sum F_x = 0$(水平方向の力のつりあい)、$\sum F_y = 0$(鉛直方向の力のつりあい)、$\sum M = 0$(任意の点まわりのモーメントのつりあい)

Q2. ヒンジで壁に固定された棒の問題で、モーメントの回転中心をヒンジに取る利点は何ですか。

▶ クリックして解答を表示ヒンジの反力(水平成分 $R_x$ と鉛直成分 $R_y$)のモーメントがともに0になるため、未知数が減って計算が簡単になる。

Q3. 水平から角度 $\theta$ で壁にヒンジ固定された一様な棒(質量 $M$、長さ $L$)の先端を鉛直な糸で支えるとき、張力はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$T = \dfrac{Mg}{2}$。糸が鉛直のとき、$\cos\theta$ が約分されるので角度 $\theta$ によらない。

Q4. 力のモーメントの「腕の長さ」とは何ですか。

▶ クリックして解答を表示回転中心から力の作用線までの垂直距離のこと。力の作用点までの距離ではないことに注意。

8入試問題演習

斜めの棒のつりあいを入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

6-5-1 A 基礎 ヒンジ+糸計算

質量 $4.0\,\text{kg}$、長さ $1.2\,\text{m}$ の一様な棒の一端 A が壁にヒンジで固定されている。他端 B を鉛直な糸で支え、棒は水平から $30°$ の角度をなして静止している。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。

(1) 糸の張力を求めよ。

(2) ヒンジが棒に及ぼす力の鉛直成分を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $T = 19.6\,\text{N}$

(2) $R_y = 19.6\,\text{N}$(上向き)

解説

A点まわりのモーメントのつりあいより:

$T \cdot L\cos 30° = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos 30°$

$\cos 30°$ と $L$ が約分されて $T = \frac{Mg}{2} = \frac{4.0 \times 9.8}{2} = 19.6\,\text{N}$

鉛直方向のつりあい:$R_y + T = Mg$ より $R_y = 39.2 - 19.6 = 19.6\,\text{N}$

6-5-2 A 基礎 壁立てかけ計算

質量 $6.0\,\text{kg}$、長さ $2.0\,\text{m}$ の一様な棒が、滑らかな壁に立てかけられ、床とは角度 $60°$ をなしている。床は粗く、棒は静止している。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、壁が棒に及ぼす垂直抗力を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$N_A = 17.0\,\text{N}$

解説

床の端 B を回転中心とする。

壁の垂直抗力 $N_A$ のモーメント:$N_A \times L\sin 60°$(反時計回り)

重力のモーメント:$Mg \times \frac{L}{2}\cos 60°$(時計回り)

$N_A \cdot L\sin 60° = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos 60°$

$N_A = \frac{Mg\cos 60°}{2\sin 60°} = \frac{Mg}{2\tan 60°} = \frac{6.0 \times 9.8}{2\sqrt{3}} \approx 17.0\,\text{N}$

B 発展レベル

6-5-3 B 発展 おもり付き計算

質量 $2.0\,\text{kg}$、長さ $1.0\,\text{m}$ の一様な棒の一端 A を壁にヒンジで固定し、他端 B に質量 $3.0\,\text{kg}$ のおもりを吊るす。B点から水平に糸を張り壁に固定する。棒は水平から $45°$ の角度で静止している。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、糸の張力とヒンジの反力(水平・鉛直成分)を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$T = 39.2\,\text{N}$、$R_x = 39.2\,\text{N}$、$R_y = 49.0\,\text{N}$

解説

A点まわりのモーメント:

$T \cdot L\sin 45° = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos 45° + mg \cdot L\cos 45°$

$\cos 45° = \sin 45°$ なので:

$T = \frac{M}{2}g + mg = \left(\frac{2.0}{2} + 3.0\right) \times 9.8 = 4.0 \times 9.8 = 39.2\,\text{N}$

水平方向:$R_x = T = 39.2\,\text{N}$

鉛直方向:$R_y = (M + m)g = (2.0 + 3.0) \times 9.8 = 49.0\,\text{N}$

採点ポイント
  • 力の書き出しが正しい(2点)
  • モーメントのつりあいの式が正しい(3点)
  • 力のつりあいの式が正しい(3点)
  • 答えが正しい(2点)

C 応用レベル

6-5-4 C 応用 斜め糸論述

質量 $M$、長さ $L$ の一様な棒の一端 A を壁にヒンジで固定し、他端 B と壁の上方の点 C を糸でつないで棒を支える。棒は水平で、糸 BC は水平と角度 $\alpha$ をなす。

(1) 糸の張力 $T$ を求めよ。

(2) ヒンジの反力の大きさと向きを求めよ。

(3) $\alpha = 30°$ のとき、$T$ は $Mg$ の何倍か。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $T = \dfrac{Mg}{2\sin\alpha}$

(2) 水平成分 $R_x = T\cos\alpha = \dfrac{Mg}{2\tan\alpha}$、鉛直成分 $R_y = Mg - T\sin\alpha = \dfrac{Mg}{2}$

 大きさ $R = \sqrt{R_x^2 + R_y^2}$、水平となす角 $\beta = \arctan\dfrac{R_y}{R_x}$

(3) $T = \dfrac{Mg}{2\sin 30°} = Mg$($Mg$ の1倍)

解説

A点まわりのモーメント:

重力のモーメント(時計回り):$Mg \times \frac{L}{2}$

張力のモーメント(反時計回り):$T\sin\alpha \times L$

$$T\sin\alpha \cdot L = Mg \cdot \frac{L}{2}$$

$$T = \frac{Mg}{2\sin\alpha}$$

$\alpha$ が小さいほど(糸が水平に近いほど)$T$ は大きくなる。$\alpha = 30°$ では $T = Mg$。

採点ポイント
  • モーメントの式を正しく立てる(3点)
  • $T$ を正しく求める(2点)
  • ヒンジの反力の各成分を求める(3点)
  • $\alpha = 30°$ での値を正しく求める(2点)