水平な棒のつりあいが理解できたら、次は棒を「斜めに」支える場合に挑戦です。
壁にヒンジで取り付けた棒を糸で支える、天井から斜めに吊るす——日常でもよく目にする状況です。
ここでは力のつりあいと力のモーメントのつりあいの両方を使いこなす方法を学びます。
一様な棒(質量 $M$、長さ $L$)が斜めに置かれている場合、つりあいの問題を解くためには3つの条件が必要です。
$$\sum F_x = 0 \quad (\text{水平方向の力のつりあい})$$
$$\sum F_y = 0 \quad (\text{鉛直方向の力のつりあい})$$
$$\sum M = 0 \quad (\text{任意の点まわりの力のモーメントのつりあい})$$
モーメントの式では、回転中心を通る力のモーメントは0になります。
したがって、未知の力が作用する点を回転中心に選べば、その力がモーメントの式から消えます。特にヒンジ(蝶番)の点を回転中心に選ぶと、ヒンジの反力(水平・鉛直の2成分)が一度に消えるため非常に効率的です。
一様な棒の重力は重心(棒の中央)にはたらきます。
✕ 誤:重力を棒の端に作用させる
○ 正:重力 $Mg$ は棒の中点に作用させる
モーメントの計算で重力の腕の長さを求める際、重力は棒の中点からの鉛直線上にあることに注意しましょう。
最も典型的な設定です。一様な棒の一端 A が壁にヒンジで固定され、他端 B が天井からの糸で支えられています。棒は水平と角度 $\theta$ をなしています。糸は鉛直方向に張られているとします。
ヒンジ A を回転中心に選ぶと、$R_x$ と $R_y$ のモーメントはともに0です。
棒の長さを $L$、水平との角度を $\theta$ とする。
重力のモーメント(時計回りを正):
$$M_{\text{重力}} = Mg \times \frac{L}{2}\cos\theta$$
張力のモーメント(反時計回り):
$$M_{\text{張力}} = T \times L\cos\theta$$
モーメントのつりあい:$T \cdot L\cos\theta = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos\theta$
$$\therefore\quad T = \frac{Mg}{2}$$
($\cos\theta$ と $L$ が約分されるので、張力は角度によらないことがわかる)
糸が鉛直ではなく棒と角度 $\phi$ をなす場合は、張力のモーメントの腕の長さが変わります。
このとき $T \cdot L\sin\phi = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos\theta$ となり、$T = \dfrac{Mg\cos\theta}{2\sin\phi}$ です。
「腕の長さ」は力の作用線までの垂直距離であることを常に意識しましょう。
水平方向:$R_x = 0$(糸が鉛直なので水平方向の力は他にない)
鉛直方向:$R_y + T = Mg$ より $R_y = Mg - T = \dfrac{Mg}{2}$
剛体のつりあいでは、まずモーメントの式で未知数を1つ求め、次に力のつりあいから残りの未知数を求めるのが定石です。
ヒンジの反力は通常2成分($R_x$, $R_y$)なので、モーメントの式で先に他の未知数を決めてから力のつりあいに持ち込みましょう。
一様な棒の一端 A が滑らかな壁に立てかけられ、他端 B が滑らかな床の上にあるとします。 棒は鉛直と角度 $\theta$ をなしています。この棒を糸で支えたり、摩擦なしではどうなるかを考えます。
壁が滑らかなら壁からの力 $N_A$ は壁に垂直(水平)、床が滑らかなら床からの力 $N_B$ は床に垂直(鉛直)です。 このままでは水平方向のつりあいが取れません($N_A$ を打ち消す力がない)。
B点と壁の間に水平に糸を張り、張力 $T$ で支える場合を考えましょう。
B点を回転中心とする。$N_B$ と $T$ のモーメントは0。
重力 $Mg$ の腕の長さ:棒の中点から鉛直線を下ろし、B点からの水平距離は $\frac{L}{2}\sin\theta$
壁の垂直抗力 $N_A$ の腕の長さ:A点の高さ $= L\cos\theta$
$$N_A \cdot L\cos\theta = Mg \cdot \frac{L}{2}\sin\theta$$
$$N_A = \frac{Mg\tan\theta}{2}$$
水平方向:$T = N_A = \dfrac{Mg\tan\theta}{2}$
鉛直方向:$N_B = Mg$
モーメント = 力 × 腕の長さ です。腕の長さは回転中心から力の作用線までの垂直距離です。
✕ 誤:力の作用点までの直線距離をそのまま使う
○ 正:力の作用線に垂線を下ろしてその長さを使う
別の方法として、「力 × 回転中心から作用点までの距離 × $\sin$(力と位置ベクトルのなす角)」でも計算できます。
方法1:腕の長さを求める
$$M = F \times d \quad (d:\text{回転中心から力の作用線への垂直距離})$$
方法2:力を分解する
$$M = F \times r \times \sin\alpha \quad (r:\text{回転中心から作用点の距離},\ \alpha:\text{力と位置ベクトルのなす角})$$
壁にヒンジで固定された棒の先端におもり(質量 $m$)を吊るし、棒を糸で支える問題は入試頻出です。 棒が水平と角度 $\theta$ をなし、糸が水平に張られている場合を考えます。
ヒンジ A を回転中心とする。
重力 $Mg$ のモーメント:$Mg \times \frac{L}{2}\cos\theta$(時計回り)
おもりの重力 $mg$ のモーメント:$mg \times L\cos\theta$(時計回り)
張力 $T$ のモーメント:$T \times L\sin\theta$(反時計回り)
つりあいの条件:
$$T \cdot L\sin\theta = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos\theta + mg \cdot L\cos\theta$$
$$T = \frac{(M/2 + m)g\cos\theta}{\sin\theta} = \left(\frac{M}{2} + m\right)g \cdot \frac{1}{\tan\theta}$$
力のつりあいから:
水平方向:$R_x = T = \left(\dfrac{M}{2} + m\right)\dfrac{g}{\tan\theta}$
鉛直方向:$R_y = Mg + mg = (M + m)g$
$\theta \to 90°$(棒が鉛直に近づく)とき、$\tan\theta \to \infty$ なので $T \to 0$。直感と一致します。
$\theta \to 0°$(棒が水平に近づく)とき、$\tan\theta \to 0$ なので $T \to \infty$。棒を水平に近づけるほど大きな張力が必要です。
このように極限を確認することで、答えの正しさを検算できます。
糸が水平に張られている場合、張力のモーメントの腕の長さは棒に沿った距離ではありません。
✕ 誤:張力のモーメント $= T \times L$
○ 正:張力のモーメント $= T \times L\sin\theta$(回転中心Aから張力の作用線への垂直距離)
斜めの棒のつりあいは、力のモーメントの理解を深める重要なテーマです。
Q1. 剛体のつりあい条件を3つ書いてください。
Q2. ヒンジで壁に固定された棒の問題で、モーメントの回転中心をヒンジに取る利点は何ですか。
Q3. 水平から角度 $\theta$ で壁にヒンジ固定された一様な棒(質量 $M$、長さ $L$)の先端を鉛直な糸で支えるとき、張力はいくらですか。
Q4. 力のモーメントの「腕の長さ」とは何ですか。
斜めの棒のつりあいを入試形式で確認しましょう。
質量 $4.0\,\text{kg}$、長さ $1.2\,\text{m}$ の一様な棒の一端 A が壁にヒンジで固定されている。他端 B を鉛直な糸で支え、棒は水平から $30°$ の角度をなして静止している。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 糸の張力を求めよ。
(2) ヒンジが棒に及ぼす力の鉛直成分を求めよ。
(1) $T = 19.6\,\text{N}$
(2) $R_y = 19.6\,\text{N}$(上向き)
A点まわりのモーメントのつりあいより:
$T \cdot L\cos 30° = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos 30°$
$\cos 30°$ と $L$ が約分されて $T = \frac{Mg}{2} = \frac{4.0 \times 9.8}{2} = 19.6\,\text{N}$
鉛直方向のつりあい:$R_y + T = Mg$ より $R_y = 39.2 - 19.6 = 19.6\,\text{N}$
質量 $6.0\,\text{kg}$、長さ $2.0\,\text{m}$ の一様な棒が、滑らかな壁に立てかけられ、床とは角度 $60°$ をなしている。床は粗く、棒は静止している。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、壁が棒に及ぼす垂直抗力を求めよ。
$N_A = 17.0\,\text{N}$
床の端 B を回転中心とする。
壁の垂直抗力 $N_A$ のモーメント:$N_A \times L\sin 60°$(反時計回り)
重力のモーメント:$Mg \times \frac{L}{2}\cos 60°$(時計回り)
$N_A \cdot L\sin 60° = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos 60°$
$N_A = \frac{Mg\cos 60°}{2\sin 60°} = \frac{Mg}{2\tan 60°} = \frac{6.0 \times 9.8}{2\sqrt{3}} \approx 17.0\,\text{N}$
質量 $2.0\,\text{kg}$、長さ $1.0\,\text{m}$ の一様な棒の一端 A を壁にヒンジで固定し、他端 B に質量 $3.0\,\text{kg}$ のおもりを吊るす。B点から水平に糸を張り壁に固定する。棒は水平から $45°$ の角度で静止している。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、糸の張力とヒンジの反力(水平・鉛直成分)を求めよ。
$T = 39.2\,\text{N}$、$R_x = 39.2\,\text{N}$、$R_y = 49.0\,\text{N}$
A点まわりのモーメント:
$T \cdot L\sin 45° = Mg \cdot \frac{L}{2}\cos 45° + mg \cdot L\cos 45°$
$\cos 45° = \sin 45°$ なので:
$T = \frac{M}{2}g + mg = \left(\frac{2.0}{2} + 3.0\right) \times 9.8 = 4.0 \times 9.8 = 39.2\,\text{N}$
水平方向:$R_x = T = 39.2\,\text{N}$
鉛直方向:$R_y = (M + m)g = (2.0 + 3.0) \times 9.8 = 49.0\,\text{N}$
質量 $M$、長さ $L$ の一様な棒の一端 A を壁にヒンジで固定し、他端 B と壁の上方の点 C を糸でつないで棒を支える。棒は水平で、糸 BC は水平と角度 $\alpha$ をなす。
(1) 糸の張力 $T$ を求めよ。
(2) ヒンジの反力の大きさと向きを求めよ。
(3) $\alpha = 30°$ のとき、$T$ は $Mg$ の何倍か。
(1) $T = \dfrac{Mg}{2\sin\alpha}$
(2) 水平成分 $R_x = T\cos\alpha = \dfrac{Mg}{2\tan\alpha}$、鉛直成分 $R_y = Mg - T\sin\alpha = \dfrac{Mg}{2}$
大きさ $R = \sqrt{R_x^2 + R_y^2}$、水平となす角 $\beta = \arctan\dfrac{R_y}{R_x}$
(3) $T = \dfrac{Mg}{2\sin 30°} = Mg$($Mg$ の1倍)
A点まわりのモーメント:
重力のモーメント(時計回り):$Mg \times \frac{L}{2}$
張力のモーメント(反時計回り):$T\sin\alpha \times L$
$$T\sin\alpha \cdot L = Mg \cdot \frac{L}{2}$$
$$T = \frac{Mg}{2\sin\alpha}$$
$\alpha$ が小さいほど(糸が水平に近いほど)$T$ は大きくなる。$\alpha = 30°$ では $T = Mg$。