第6章 剛体にはたらく力(物理)

重心の求め方
─ 一様な物体・組合せ物体

剛体のつりあいでは、重力がどこに作用するかが決定的に重要でした。
その作用点が重心です。一様な棒なら中央、ですが形が複雑になったらどうでしょう?
ここでは、重心の定義から具体的な計算方法まで、段階的に学びます。

1重心とは何か

重心とは、物体の各部分にはたらく重力の合力が作用する点です。 物体を重心で支えると、重力によるモーメントの合計が0になるため、物体はつりあいます。

💡 ここが本質:重心は「重力のモーメントの中心」

重心とは、その点まわりの重力によるモーメントの合計がゼロになる点です。

数学的に言えば、物体の質量分布の「加重平均の位置」です。重心の位置は物体の形状と質量分布だけで決まり、重力加速度 $g$ の大きさによりません

重心の物理的意味

  • 重心で物体を支えると、水平に保つことができる(モーメント=0)
  • 物体を投げると、重心は放物運動をする(回転する物体でも重心の運動は単純)
  • 剛体の運動方程式は、重心に全質量が集中した質点の運動として記述できる
📐 重心の定義式

$n$ 個の質点(質量 $m_1, m_2, \ldots, m_n$、位置 $x_1, x_2, \ldots, x_n$)の重心の $x$ 座標:

$$x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2 + \cdots + m_n x_n}{m_1 + m_2 + \cdots + m_n} = \frac{\displaystyle\sum_{i=1}^{n} m_i x_i}{\displaystyle\sum_{i=1}^{n} m_i}$$

$y$ 座標も同様に:

$$y_G = \frac{\displaystyle\sum_{i=1}^{n} m_i y_i}{\displaystyle\sum_{i=1}^{n} m_i}$$

※ 重心の位置は質量による「加重平均」。質量が大きい物体の方に重心は偏る。
⚠️ 落とし穴:重心は物体の内部にあるとは限らない

ドーナツ型やU字型の物体では、重心が物体の外部に位置することがあります。

✕ 誤:重心は必ず物体の内部にある

○ 正:重心は質量分布の加重平均の位置であり、物体の外部にあることもある

22物体の重心

最も基本的な場合として、2つの質点の重心を求めましょう。 質量 $m_1$ の質点が位置 $x_1$、質量 $m_2$ の質点が位置 $x_2$ にあるとき、

📐 2物体の重心

$$x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2}$$

※ 重心は2つの質点を結ぶ線分上にあり、質量の大きい方に近い。

内分の公式との関係

2つの質点の重心は、2点を結ぶ線分を質量の逆比 $m_2 : m_1$ に内分する点です。

▷ 内分の比の導出

$m_1$ の位置を原点($x_1 = 0$)とし、$m_2$ は $x_2 = d$(距離 $d$)にあるとする。

$$x_G = \frac{m_1 \cdot 0 + m_2 \cdot d}{m_1 + m_2} = \frac{m_2 d}{m_1 + m_2}$$

$m_1$ から重心までの距離:$x_G = \dfrac{m_2}{m_1 + m_2} \cdot d$

$m_2$ から重心までの距離:$d - x_G = \dfrac{m_1}{m_1 + m_2} \cdot d$

比をとると $x_G : (d - x_G) = m_2 : m_1$。つまり質量の逆比に内分する。

🔬 深掘り:「シーソーの支点」で覚える

シーソーの支点(ちょうどつりあう位置)が重心です。重い人が乗っている方に支点を近づける必要がある——これが「質量の逆比に内分」の直感的な意味です。

$m_1 = m_2$ なら重心はちょうど中央。$m_1 = 3m_2$ なら重心は $m_1$ 側に $3/4$ のところにあります。

3一様な平板の重心

一様な物体(密度が均一な物体)では、重心は幾何学的な中心(図心)と一致します。

基本的な図形の重心

図形重心の位置
一様な棒中央
長方形対角線の交点(中心)
三角形各頂点と対辺の中点を結ぶ線(中線)の交点。各頂点から $\frac{2}{3}$ の位置
円板中心
半円板中心から $\dfrac{4r}{3\pi}$ の位置(直径から)
💡 ここが本質:対称性を利用する

物体に対称軸があれば、重心は必ずその軸上にあります。2つの対称軸があれば、その交点が重心です。

まず対称性を確認して、重心の候補を絞ってから計算に入りましょう。計算量が大幅に減ります。

三角形の重心の求め方

一様な三角形の重心は、3つの頂点の座標の平均です。 頂点 A$(x_1, y_1)$、B$(x_2, y_2)$、C$(x_3, y_3)$ のとき、

📐 三角形の重心

$$x_G = \frac{x_1 + x_2 + x_3}{3}, \quad y_G = \frac{y_1 + y_2 + y_3}{3}$$

※ 一様な三角形の場合、各頂点に同じ質量を置いた3質点系の重心と一致する。
⚠️ 落とし穴:三角形の重心と頂点からの距離

三角形の重心は中線(頂点と対辺の中点を結ぶ線分)上にありますが、中点ではありません。

✕ 誤:重心は中線の中点にある($\frac{1}{2}$ の位置)

○ 正:重心は頂点から中線の $\frac{2}{3}$ の位置(対辺の中点から $\frac{1}{3}$)

4組合せ物体の重心

複雑な形状の物体は、単純な部分に分割してそれぞれの重心を求め、それらを「質点」として扱って全体の重心を計算します。

組合せ物体の重心の求め方

  1. 物体を単純な部分に分割する
  2. 各部分の質量と重心の位置を求める
  3. 各部分を「質点」とみなして全体の重心を計算する
▷ 例:L字型の平板の重心

一様な L 字型の平板を長方形 A(質量 $m_A$、重心 $(x_A, y_A)$)と長方形 B(質量 $m_B$、重心 $(x_B, y_B)$)に分割する。

全体の重心:

$$x_G = \frac{m_A x_A + m_B x_B}{m_A + m_B}, \quad y_G = \frac{m_A y_A + m_B y_B}{m_A + m_B}$$

一様な板では質量は面積に比例するので、$m_A = \rho S_A$、$m_B = \rho S_B$($\rho$:面密度)。$\rho$ は約分されるので面積で置き換えられる。

$$x_G = \frac{S_A x_A + S_B x_B}{S_A + S_B}$$

「くり抜き法」─ 穴の開いた物体

穴の開いた物体の重心は、穴のない元の形から穴の部分を「負の質量」として引く方法(くり抜き法)で求められます。

📐 くり抜き法の公式

全体(穴なし)の質量 $m_{\text{全}}$、重心 $x_{\text{全}}$ から、穴の部分の質量 $m_{\text{穴}}$、重心 $x_{\text{穴}}$ を引く:

$$x_G = \frac{m_{\text{全}} \cdot x_{\text{全}} - m_{\text{穴}} \cdot x_{\text{穴}}}{m_{\text{全}} - m_{\text{穴}}}$$

※ 穴の部分を「負の質量」として加えることと同じ。一様な板なら質量を面積に置き換えられる。
🔬 深掘り:なぜくり抜き法が使えるのか

元の物体(穴なし)=穴の開いた物体+穴の部分 と考えます。

$m_{\text{全}} \cdot x_{\text{全}} = (m_{\text{全}} - m_{\text{穴}}) \cdot x_G + m_{\text{穴}} \cdot x_{\text{穴}}$

これを $x_G$ について解くと、くり抜き法の公式が得られます。重心の「加法性」を使った方法です。

⚠️ 落とし穴:座標原点の取り忘れ

重心の計算では座標系を必ず設定する必要があります。

✕ 誤:座標を設定せずに「右寄り」「左寄り」と感覚で答える

○ 正:原点を明示し、各部分の重心の座標を数値で求める

原点はどこに取っても結果は同じですが、対称軸上や物体の端に取ると計算が楽になります。

5この章を俯瞰する

重心は剛体の力学において最も基本的な概念の一つです。

つながりマップ

  • ← M-6-1〜6-5 力のモーメントとつりあい:重力の作用点として重心を使っていた。ここでその重心自体の求め方を学ぶ。
  • → M-6-7 安定性と転倒条件:重心の位置が物体の安定性を決定する。
  • → M-6-8 剛体のつりあい総合演習:重心の知識を含む総合問題に挑戦する。
  • → 第7章 運動量:2物体系の重心の運動は運動量保存の法則と深く関係する。
  • → 第5章 放物運動:投げた物体が回転しても、重心は放物運動する。

📋まとめ

  • 重心は物体にはたらく重力の合力の作用点で、質量の加重平均の位置
  • 2物体の重心は2点を結ぶ線分を質量の逆比 $m_2 : m_1$ に内分する点
  • 一様な物体の重心は幾何学的な中心(図心)と一致する
  • 三角形の重心は3頂点の座標の平均。頂点から中線の $\frac{2}{3}$ の位置
  • 組合せ物体は分割して各部分を質点とみなす方法で重心を計算する
  • 穴の開いた物体はくり抜き法(全体 − 穴)で効率的に求められる

確認テスト

Q1. 質量 $3.0\,\text{kg}$ の物体 A が原点に、質量 $1.0\,\text{kg}$ の物体 B が $x = 8.0\,\text{m}$ の位置にあるとき、重心の $x$ 座標はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$x_G = \dfrac{3.0 \times 0 + 1.0 \times 8.0}{3.0 + 1.0} = \dfrac{8.0}{4.0} = 2.0\,\text{m}$。質量の大きい A の方に偏っている。

Q2. 一様な三角形の重心は、中線上のどの位置にありますか。

▶ クリックして解答を表示頂点から $\frac{2}{3}$(対辺の中点から $\frac{1}{3}$)の位置。3本の中線は1点で交わり、その点が重心。

Q3. 重心が物体の外部に位置する例を1つ挙げてください。

▶ クリックして解答を表示ドーナツ(トーラス)の重心はドーナツの穴の中心にあり、物体の外部に位置する。他にU字型の物体なども該当する。

Q4. 穴の開いた一様な板の重心を求めるとき、「くり抜き法」ではどのように計算しますか。

▶ クリックして解答を表示穴のない元の板(全体)の質量と重心から、穴の部分の質量と重心を引く。$x_G = \dfrac{m_{\text{全}} x_{\text{全}} - m_{\text{穴}} x_{\text{穴}}}{m_{\text{全}} - m_{\text{穴}}}$

8入試問題演習

重心の計算を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

6-6-1 A 基礎 2物体計算

質量 $2.0\,\text{kg}$ の物体 A を原点 O に、質量 $6.0\,\text{kg}$ の物体 B を $x = 4.0\,\text{m}$ の位置に置く。

(1) 2物体の重心の位置を求めよ。

(2) 物体 A を原点のまま、物体 B を $x = 8.0\,\text{m}$ に移動させたとき、重心はどれだけ移動するか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $x_G = 3.0\,\text{m}$

(2) $3.0\,\text{m}$($x_G = 6.0\,\text{m}$ に移動)

解説

(1) $x_G = \dfrac{2.0 \times 0 + 6.0 \times 4.0}{2.0 + 6.0} = \dfrac{24.0}{8.0} = 3.0\,\text{m}$

(2) $x_G' = \dfrac{2.0 \times 0 + 6.0 \times 8.0}{2.0 + 6.0} = \dfrac{48.0}{8.0} = 6.0\,\text{m}$

移動量:$6.0 - 3.0 = 3.0\,\text{m}$

B 発展レベル

6-6-2 B 発展 組合せ計算

一様な密度の L 字型の平板がある。L 字は、横 $6.0\,\text{cm}$ × 縦 $2.0\,\text{cm}$ の長方形 A と、横 $2.0\,\text{cm}$ × 縦 $4.0\,\text{cm}$ の長方形 B を、A の左端上辺と B の左端下辺が一致するように組み合わせたものとする。A の左下端を原点として、重心の座標を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$(x_G,\, y_G) = (2.2\,\text{cm},\, 2.0\,\text{cm})$

解説

長方形 A:面積 $S_A = 6.0 \times 2.0 = 12\,\text{cm}^2$、重心 $(3.0,\, 1.0)$

長方形 B:面積 $S_B = 2.0 \times 4.0 = 8.0\,\text{cm}^2$、重心 $(1.0,\, 2.0 + 2.0) = (1.0,\, 4.0)$

$x_G = \dfrac{12 \times 3.0 + 8.0 \times 1.0}{12 + 8.0} = \dfrac{36 + 8.0}{20} = \dfrac{44}{20} = 2.2\,\text{cm}$

$y_G = \dfrac{12 \times 1.0 + 8.0 \times 4.0}{12 + 8.0} = \dfrac{12 + 32}{20} = \dfrac{44}{20} = 2.2\,\text{cm}$

(注:B の重心の $y$ 座標は A の上辺 $y = 2.0$ から B の高さの半分 $2.0$ を加えた $4.0\,\text{cm}$ となる)

採点ポイント
  • 適切に座標を設定している(2点)
  • 各部分の面積と重心を正しく求めている(4点)
  • 全体の重心を正しく計算している(4点)

C 応用レベル

6-6-3 C 応用 くり抜き計算

半径 $R$ の一様な円板の中心から $\dfrac{R}{2}$ だけ離れた位置に、半径 $\dfrac{R}{4}$ の円形の穴を開けた。穴を開けた後の板の重心は、元の円板の中心からどれだけ離れているか求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

元の中心から $\dfrac{R}{30}$ だけ穴と反対側にずれる

解説

元の円板の中心を原点とし、穴の中心の方向を $x$ 正方向とする。

全体(穴なし):面積 $\pi R^2$、重心 $x_{\text{全}} = 0$

穴の部分:面積 $\pi \left(\frac{R}{4}\right)^2 = \frac{\pi R^2}{16}$、重心 $x_{\text{穴}} = \frac{R}{2}$

くり抜き法:

$$x_G = \frac{\pi R^2 \cdot 0 - \frac{\pi R^2}{16} \cdot \frac{R}{2}}{\pi R^2 - \frac{\pi R^2}{16}} = \frac{-\frac{R}{32}}{\frac{15}{16}} = -\frac{R}{32} \times \frac{16}{15} = -\frac{R}{30}$$

負号は穴と反対方向を意味する。元の中心から $\dfrac{R}{30}$ だけ穴と反対側にずれる。

採点ポイント
  • くり抜き法の適用方針を明示(2点)
  • 面積と重心の座標を正しく設定(3点)
  • 計算結果が正しい(3点)
  • 方向の解釈が正しい(2点)