前の記事ではレール(ジェットコースター型)を扱いました。今度は糸で結ばれた物体の鉛直面内の円運動を考えます。
糸はレールと違い「押す」ことができません。張力 $T$ が $0$ になった瞬間に糸はたるみ、物体は円軌道を離れて放物運動に移行します。
「糸」と「棒」の違いも整理しながら、たるむ条件を見極めましょう。
鉛直面内の円運動で、物体を支える手段が「糸」か「棒(剛体棒)」かによって、問題の性質が大きく変わります。
| 糸 | 棒(剛体棒) | |
|---|---|---|
| 力の方向 | 引く方向のみ($T \geq 0$) | 引く・押すどちらも可($T$ は正負どちらも可) |
| たるみ | $T = 0$ でたるむ | たるまない |
| 最高点で回りきる条件 | $v_{\text{top}} \geq \sqrt{gr}$ | $v_{\text{top}} \geq 0$(最高点で止まってもOK) |
糸の張力は常に $T \geq 0$ です。糸は物体を引くことはできても、押すことはできません。
棒は圧縮力(押す力)も伝えられるので、$T < 0$(中心から離れる向きの力)も可能です。そのため棒の場合は最高点で速度が $0$ でも問題ありません。
✕ 誤:棒でつないだ場合も最高点で $v \geq \sqrt{gr}$ が必要
○ 正:棒なら $v_{\text{top}} = 0$ でもよい。最高点での最小速度条件は糸のときだけ
問題文で「糸」か「棒(軽い剛体棒)」かを必ず確認してください。
長さ $l$ の糸の一端を固定点 O に、もう一端に質量 $m$ の小球をつけて鉛直面内で振り回します。 最低点から中心角 $\theta$ の位置を考えます。
向心方向(中心 O に向かう方向)について運動方程式を立てます。
$$T - mg\cos\theta = \frac{mv^2}{l}$$
$\theta = 180°$ のとき $\cos 180° = -1$ なので、
$$T + mg = \frac{mv_{\text{top}}^2}{l}$$
これはジェットコースター型と同じ形です($N$ が $T$ に置き換わっただけ)。
$\theta = 0°$ のとき $\cos 0° = 1$ なので、
$$T_{\text{bot}} - mg = \frac{mv_{\text{bot}}^2}{l}$$
最低点を基準にすると、角度 $\theta$ の位置の高さは $h = l(1-\cos\theta)$ です。
エネルギー保存則:
$$\frac{1}{2}mv_{\text{bot}}^2 = \frac{1}{2}mv^2 + mgl(1-\cos\theta)$$
$$v^2 = v_{\text{bot}}^2 - 2gl(1-\cos\theta)$$
これを運動方程式に代入すると、任意の $\theta$ での張力 $T$ が求まります。
糸がたるむのは張力が $0$ になる瞬間です。運動方程式とエネルギー保存則を連立して、糸がたるむ位置と条件を求めましょう。
運動方程式 $T - mg\cos\theta = \dfrac{mv^2}{l}$ で $T = 0$ とおくと、
$$-mg\cos\theta = \frac{mv^2}{l} \quad \Longrightarrow \quad v^2 = -gl\cos\theta$$
$v^2 \geq 0$ なので $\cos\theta \leq 0$、つまり $\theta \geq 90°$ の範囲(上半分)でのみ糸はたるみえます。
エネルギー保存則 $v^2 = v_{\text{bot}}^2 - 2gl(1-\cos\theta)$ と $T = 0$ の条件 $v^2 = -gl\cos\theta$ を連立すると、
$$-gl\cos\theta = v_{\text{bot}}^2 - 2gl(1-\cos\theta)$$
整理して、
$$\cos\theta = \frac{2}{3} - \frac{v_{\text{bot}}^2}{3gl}$$
$T = 0$ は (1) 糸がたるむ限界条件を与え、同時に (2) そのときの速度と位置の関係も決定します。
$T = 0$ の運動方程式とエネルギー保存則の2式を連立するのが、この問題の定石です。
✕ 誤:糸がたるむのは最高点だけ
○ 正:速度が不十分なら、最高点に達する前($90° < \theta < 180°$)でたるむ
初速が $\sqrt{5gl}$ 未満のとき、物体は最高点に届かずに途中でたるみます。たるむ角度は上の式で求められます。
糸がたるんだ瞬間($T = 0$)、物体は円軌道を離れて放物運動(斜方投射)に移行します。
たるんだ瞬間の物体の速度は、円の接線方向を向いています。 角度 $\theta$ の位置では、速度は水平から $(90° - \theta)$ の方向です。
糸がたるんだ後、物体は放物運動をします。鉛直方向の速度が $0$ になる点が放物運動の最高点です。
たるんだ瞬間の速さ $v = \sqrt{-gl\cos\theta}$ と角度の情報から、放物運動の最高到達点を計算できます。
この最高到達点は、糸がたるんだ位置の高さより上にくることがあります(鉛直方向に上向きの速度成分があるとき)。
糸がたるむ問題は2段階に分けて解きます。
第1段階(円運動):$T = 0$ の条件+エネルギー保存 → たるむ位置と速さを求める
第2段階(放物運動):たるんだ位置・速さを初期条件として斜方投射の式を使う
✕ 誤:糸がたるんでも物体は円軌道上を動き続ける
○ 正:糸がたるんだ瞬間、拘束力がなくなり放物運動に移行する
糸がたるんだ後、物体に働く力は重力だけです。したがって放物運動(鉛直投射または斜方投射)をします。
糸がたるむ問題は、円運動とエネルギー保存則の融合問題として入試で最頻出のテーマの一つです。
Q1. 糸と棒の鉛直円運動の違いを、最高点での条件の観点から説明してください。
Q2. 糸がたるむ($T = 0$)のは、中心角がどの範囲のときですか。
Q3. 糸の長さ $l$ の振り子で、最低点から初速 $v_0$ で打ち出す。回りきるために必要な $v_0$ の最小値は?
Q4. 糸がたるんだ後、物体はどのような運動をしますか。
糸がたるむ条件を入試形式で確認しましょう。
長さ $l = 0.80\,\text{m}$ の糸の先に質量 $m = 0.20\,\text{kg}$ の小球をつけ、鉛直面内で回す。$g = 9.8\,\text{m/s}^2$ として、次の問いに答えよ。
(1) 最高点で糸がたるまないための最小速度を求めよ。
(2) (1)の条件で回すとき、最低点での糸の張力を求めよ。
(1) $v_{\text{top}} = \sqrt{gl} = \sqrt{9.8 \times 0.80} = 2.8\,\text{m/s}$
(2) $T_{\text{bot}} = 6mg = 6 \times 0.20 \times 9.8 = 11.8\,\text{N}$
(1) 最高点で $T = 0$ とおくと $mg = \dfrac{mv_{\text{top}}^2}{l}$ → $v_{\text{top}} = \sqrt{gl} \approx 2.8\,\text{m/s}$
(2) エネルギー保存で最低点の速さ:$v_{\text{bot}}^2 = v_{\text{top}}^2 + 4gl = gl + 4gl = 5gl$
最低点の運動方程式:$T_{\text{bot}} - mg = \dfrac{mv_{\text{bot}}^2}{l} = \dfrac{m \cdot 5gl}{l} = 5mg$
$T_{\text{bot}} = 6mg = 6 \times 0.20 \times 9.8 = 11.8\,\text{N}$
長さ $l$ の糸の先に小球をつけ、最低点から速さ $v_0 = 2\sqrt{gl}$ で打ち出した。糸がたるむ位置(中心角 $\theta$)を求めよ。
$\cos\theta = -\dfrac{2}{3}$ すなわち $\theta \approx 131.8°$
$\cos\theta = \dfrac{2}{3} - \dfrac{v_0^2}{3gl} = \dfrac{2}{3} - \dfrac{4gl}{3gl} = \dfrac{2}{3} - \dfrac{4}{3} = -\dfrac{2}{3}$
$\cos\theta = -\dfrac{2}{3}$ なので $\theta = \arccos\left(-\dfrac{2}{3}\right) \approx 131.8°$
最高点($180°$)より手前で糸がたるむことがわかります。
長さ $l$ の糸の先に質量 $m$ の小球をつけ、最低点から速さ $v_0 = 2\sqrt{gl}$ で打ち出した。糸がたるんだ後、小球が到達する最高点の高さを、固定点 O からの距離で求めよ。
固定点 O より $\dfrac{l}{27}$ 上の高さ
第1段階:たるむ位置の特定
前問より $\cos\theta = -\dfrac{2}{3}$、$\sin\theta = \dfrac{\sqrt{5}}{3}$
たるむ位置の高さ(最低点から):$h_1 = l(1-\cos\theta) = l\left(1+\dfrac{2}{3}\right) = \dfrac{5l}{3}$
たるむときの速さ:$v^2 = -gl\cos\theta = \dfrac{2gl}{3}$
第2段階:放物運動
たるんだ瞬間の速度は接線方向。鉛直上向きの速度成分:
$v_y = v\cos\theta \cdot (\text{符号に注意})$
正確には、$\theta$ の位置での接線方向速度の鉛直成分は $v\sin(\theta - 90°) = -v\cos\theta = v \cdot \dfrac{2}{3}$(上向き)
$v_y^2 = v^2 \cos^2\theta = \dfrac{2gl}{3} \cdot \dfrac{4}{9} = \dfrac{8gl}{27}$
放物運動での追加上昇:$\Delta h = \dfrac{v_y^2}{2g} = \dfrac{8gl}{27 \cdot 2g} = \dfrac{4l}{27}$
最高点の高さ(最低点から):$h_1 + \Delta h = \dfrac{5l}{3} + \dfrac{4l}{27} = \dfrac{45l + 4l}{27} = \dfrac{49l}{27}$
固定点 O は最低点から $l$ の高さなので、O からの高さは $\dfrac{49l}{27} - l = \dfrac{49l - 27l}{27} = \dfrac{22l}{27}$
固定点 O の上方 $\dfrac{22l}{27}$ に到達します(O から小球までの距離ではなく、O からの鉛直距離)。