第12章 気体の法則

理想気体の状態方程式
─ pV = nRT

ボイル・シャルルの法則では $\dfrac{pV}{T}$ が「一定」としか言えませんでした。
この「一定」の正体を明らかにしたのが、理想気体の状態方程式です。
$pV = nRT$ というたった1つの式で、気体の振る舞いを完全に記述できます。
物理だけでなく化学でも最重要の方程式です。

1アボガドロの法則 ─ 同温同圧で同体積

ボイル・シャルルの法則は「一定量の気体」に対する法則でした。 では、気体の量が変わるとどうなるのでしょうか。

1811年、イタリアの科学者アボガドロは次の法則を提唱しました。 同温・同圧のもとでは、すべての気体は同じ物質量なら同じ体積を占める。 これがアボガドロの法則です。

つまり、温度と圧力が等しければ、気体の種類に関係なく、$1\,\text{mol}$ の気体は同じ体積をもちます。 標準状態($0\,^\circ\text{C}$、$1.013 \times 10^5\,\text{Pa}$)では、その体積は約 $22.4\,\text{L}$ です。

💡 ここが本質:気体の体積は分子の種類によらない

気体分子は互いに十分離れているため、分子の大きさや質量はほとんど体積に影響しません。 体積を決めるのは「分子の数」と「運動の激しさ(温度)」と「押し返す力(圧力)」だけです。

これは固体や液体とは根本的に異なる性質です。 固体や液体では、分子の大きさや分子間力が体積を大きく左右します。

⚠️ 落とし穴:アボガドロの法則を液体や固体に適用する

アボガドロの法則は気体にのみ成り立ちます。

✕ 誤:「水 $1\,\text{mol}$ もエタノール $1\,\text{mol}$ も同じ体積」

○ 正:気体のみ。液体や固体では分子の種類によって体積は異なる

2理想気体の状態方程式 ─ pV = nRT

ボイル・シャルルの法則 $\dfrac{pV}{T} = \text{一定}$ の「一定」が物質量 $n$ に比例することを、 アボガドロの法則が教えてくれます。 比例定数を $R$ と書くと、以下の式が得られます。

📐 理想気体の状態方程式

$$pV = nRT$$

※ $p$:圧力 [Pa]、$V$:体積 [m$^3$]、$n$:物質量 [mol]、$R$:気体定数 $= 8.31\,\text{J/(mol·K)}$、$T$:絶対温度 [K]
▷ ボイル・シャルルの法則からの導出

ボイル・シャルルの法則:$\dfrac{pV}{T} = \text{一定}$(物質量一定のとき)

アボガドロの法則:同温・同圧で $V \propto n$

これらを合わせると、$\dfrac{pV}{T}$ は $n$ に比例します。

$$\frac{pV}{T} = nR$$

$R$ は気体の種類によらない普遍的な定数で、気体定数と呼ばれます。

両辺に $T$ を掛けると、

$$pV = nRT$$

💡 ここが本質:状態方程式は「いつでも成り立つ」

ボイル・シャルルの法則は「2つの状態を比較する」形($\dfrac{p_1V_1}{T_1} = \dfrac{p_2V_2}{T_2}$)でした。 状態方程式 $pV = nRT$ は、ある1つの状態だけで成り立つ式です。

2つの状態を比較しなくても、1つの状態の $p, V, T, n$ が分かれば他が求まります。 また、物質量 $n$ が変化する問題(気体の出入り)にも対応できます。

⚠️ 落とし穴:単位の不整合

$R = 8.31\,\text{J/(mol·K)}$ を使うとき、圧力は Pa、体積は m$^3$ でなければなりません。

✕ 誤:$V$ を L(リットル)のまま代入する

○ 正:$1\,\text{L} = 1 \times 10^{-3}\,\text{m}^3$ に変換してから代入する

$pV$ の単位が Pa·m$^3$ = J(ジュール)となることを確認しましょう。

⚠️ 落とし穴:理想気体の限界

$pV = nRT$ は理想気体についての式です。

✕ 誤:高圧・低温の気体にそのまま適用する

○ 正:高圧・低温では実在気体のずれが大きくなる。分子間力と分子自身の体積の影響

高校の問題ではほとんど理想気体として扱いますが、「理想気体とみなす」という前提を忘れないでください。

3気体定数と標準状態

気体定数 $R$ の値

気体定数 $R$ は、標準状態の値から求めることができます。 $0\,^\circ\text{C}$($273\,\text{K}$)、$1.013 \times 10^5\,\text{Pa}$ で $1\,\text{mol}$ の気体は $22.4\,\text{L} = 22.4 \times 10^{-3}\,\text{m}^3$ です。

▷ 気体定数の計算

$pV = nRT$ に標準状態の値を代入します。

$$R = \frac{pV}{nT} = \frac{1.013 \times 10^5 \times 22.4 \times 10^{-3}}{1 \times 273}$$

$$= \frac{2269}{273} \approx 8.31\,\text{J/(mol·K)}$$

📐 気体定数

$$R = 8.31\,\text{J/(mol·K)}$$

※ 問題文で与えられる場合は、与えられた値を使うこと。$8.3$ と指定されることもある。

ボルツマン定数との関係

気体定数をアボガドロ数 $N_A = 6.02 \times 10^{23}\,\text{/mol}$ で割ると、 分子1個あたりの定数であるボルツマン定数 $k_B$ が得られます。

$$k_B = \frac{R}{N_A} = \frac{8.31}{6.02 \times 10^{23}} \approx 1.38 \times 10^{-23}\,\text{J/K}$$

状態方程式を分子の個数 $N = nN_A$ で書き直すと、$pV = Nk_BT$ となります。

💡 ここが本質:2つの書き方を使い分ける

$pV = nRT$:物質量(mol)で気体の量を指定するときに使う。化学の計算で便利。

$pV = Nk_BT$:分子の個数で気体の量を指定するときに使う。分子運動論で便利。

どちらも同じ式の別表現です。問題で与えられる情報に応じて使い分けましょう。

🔬 深掘り:1 Pa·m$^3$ = 1 J の意味

$pV$ の単位は Pa·m$^3$ = N/m$^2$ × m$^3$ = N·m = J です。 つまり $pV$ はエネルギーの次元をもっています。

これは偶然ではありません。 気体の内部エネルギーは $\frac{3}{2}nRT = \frac{3}{2}pV$(単原子理想気体の場合)です。 $pV$ が「気体のエネルギーの目安」になっているのです。

4状態方程式を使いこなす

状態方程式 $pV = nRT$ の使い方を整理しましょう。 問題の多くは、5つの量($p, V, n, T$, そして $R$)のうち1つを求める形です。

パターン1:物質量を求める

$27\,^\circ\text{C}$、$2.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ で体積 $8.31\,\text{L}$ の気体の物質量を求めます。

$V = 8.31 \times 10^{-3}\,\text{m}^3$、$T = 300\,\text{K}$ として、

$$n = \frac{pV}{RT} = \frac{2.0 \times 10^5 \times 8.31 \times 10^{-3}}{8.31 \times 300} = \frac{1662}{2493} \approx 0.67\,\text{mol}$$

パターン2:圧力を求める

$2.0\,\text{mol}$ の気体が $127\,^\circ\text{C}$ で $8.31\,\text{L}$ の容器に入っているときの圧力を求めます。

$$p = \frac{nRT}{V} = \frac{2.0 \times 8.31 \times 400}{8.31 \times 10^{-3}} = \frac{6648}{8.31 \times 10^{-3}} = 8.0 \times 10^5\,\text{Pa}$$

パターン3:状態変化の前後で使う

物質量が変わらない場合は、ボイル・シャルルの法則と同じ結果が得られます。 状態1:$p_1V_1 = nRT_1$、状態2:$p_2V_2 = nRT_2$。 割り算すると $\dfrac{p_1V_1}{T_1} = \dfrac{p_2V_2}{T_2}$ です。

物質量が変化する場合(気体の出入りがある場合)には、ボイル・シャルルの法則は使えません。 各状態で独立に $pV = nRT$ を立てる必要があります。

⚠️ 落とし穴:物質量が変わるのにボイル・シャルルを使う

コックを開いて気体が出入りする問題では、物質量が変化します。

✕ 誤:気体が漏れた後も $\frac{p_1V_1}{T_1} = \frac{p_2V_2}{T_2}$ を適用

○ 正:各状態で $pV = nRT$ を立てて、$n$ の変化を考慮する

ボイル・シャルルの法則は「同じ量の気体」に対してのみ成り立ちます。

🔬 深掘り:密度と状態方程式

$n = \dfrac{m}{M}$($m$:質量、$M$:モル質量)を代入すると、

$$pV = \frac{m}{M}RT \quad \Longrightarrow \quad pM = \frac{m}{V}RT = \rho RT$$

ここで $\rho = \dfrac{m}{V}$ は気体の密度です。 この式を使えば、密度から気体のモル質量を求めたり、その逆を行えます。

5この章を俯瞰する

理想気体の状態方程式は、気体の法則の最終形です。 ここまでの学習を1つの式に集約した、最も強力な道具です。

つながりマップ

  • ← T-2-3 ボイル・シャルルの法則:$\frac{pV}{T} = \text{一定}$ の「一定」が $nR$ であることを明かした。
  • → T-2-5 気体の法則の典型問題:状態方程式を使った入試問題の演習。
  • → T-2-6 混合気体:各成分に独立に $pV = nRT$ を適用する。
  • → 気体分子の運動論:$pV = \frac{1}{3}Nm\overline{v^2}$ と $pV = Nk_BT$ を結びつける。
  • → 熱力学第一法則:状態方程式と組み合わせて、熱・仕事・内部エネルギーの関係を解析する。

📋まとめ

  • 理想気体の状態方程式:$pV = nRT$。気体の法則をすべて統合した式
  • 気体定数 $R = 8.31\,\text{J/(mol·K)}$。気体の種類によらない普遍定数
  • 分子の個数 $N$ を使う場合:$pV = Nk_BT$($k_B$:ボルツマン定数)
  • 単位は Pa, m$^3$, K でそろえる。$1\,\text{L} = 10^{-3}\,\text{m}^3$
  • 物質量 $n$ が変化する問題ではボイル・シャルルの法則は使えない。$pV = nRT$ を各状態で立てる
  • アボガドロの法則:同温同圧で同物質量の気体は同体積。標準状態で $1\,\text{mol} = 22.4\,\text{L}$

確認テスト

Q1. 理想気体の状態方程式を書き、各記号の意味と単位を答えてください。

▶ クリックして解答を表示$pV = nRT$。$p$:圧力 [Pa]、$V$:体積 [m$^3$]、$n$:物質量 [mol]、$R$:気体定数 [J/(mol·K)]、$T$:絶対温度 [K]。

Q2. 気体定数 $R$ の値を答えてください。

▶ クリックして解答を表示$R = 8.31\,\text{J/(mol·K)}$

Q3. 標準状態($0\,^\circ\text{C}$、$1.013 \times 10^5\,\text{Pa}$)で $1\,\text{mol}$ の理想気体の体積はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$22.4\,\text{L}$($= 22.4 \times 10^{-3}\,\text{m}^3$)

Q4. 理想気体の状態方程式で体積をリットル単位で代入してよいですか。

▶ クリックして解答を表示いいえ。$R = 8.31\,\text{J/(mol·K)}$ を使う場合、体積は m$^3$ に変換する必要がある。$1\,\text{L} = 10^{-3}\,\text{m}^3$。

Q5. ボルツマン定数 $k_B$ と気体定数 $R$ の関係を答えてください。

▶ クリックして解答を表示$k_B = \frac{R}{N_A}$。$R$ をアボガドロ数で割ったもの。$k_B \approx 1.38 \times 10^{-23}\,\text{J/K}$

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

2-4-1 A 基礎 状態方程式 計算

$27\,^\circ\text{C}$、$1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ のもとで $8.31\,\text{L}$ を占める理想気体の物質量を求めよ。気体定数は $R = 8.31\,\text{J/(mol·K)}$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\dfrac{1}{3}\,\text{mol} \approx 0.33\,\text{mol}$

解説

$T = 300\,\text{K}$、$V = 8.31 \times 10^{-3}\,\text{m}^3$

$n = \dfrac{pV}{RT} = \dfrac{1.0 \times 10^5 \times 8.31 \times 10^{-3}}{8.31 \times 300} = \dfrac{831}{2493} = \dfrac{1}{3}\,\text{mol}$

B 発展レベル

2-4-2 B 発展 密度 論述

$27\,^\circ\text{C}$、$1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ における窒素(N$_2$、モル質量 $28\,\text{g/mol}$)の密度を求めよ。$R = 8.3\,\text{J/(mol·K)}$ とする。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$1.1\,\text{kg/m}^3$

解説

$pV = nRT = \dfrac{m}{M}RT$ より、$pM = \rho RT$

$$\rho = \frac{pM}{RT} = \frac{1.0 \times 10^5 \times 28 \times 10^{-3}}{8.3 \times 300} = \frac{2800}{2490} \approx 1.1\,\text{kg/m}^3$$

$M$ は kg/mol 単位($28 \times 10^{-3}\,\text{kg/mol}$)を使うことに注意。

採点ポイント
  • $pM = \rho RT$ の式を正しく導出または適用する(3点)
  • モル質量を kg/mol に変換する(2点)
  • 密度を正しく計算する(3点)
  • 単位が kg/m$^3$ であることを明記する(2点)

C 応用レベル

2-4-3 C 応用 気体の出入り 論述

容積 $V = 8.31\,\text{L}$ の容器に $27\,^\circ\text{C}$、$3.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ で理想気体が入っている。温度を $27\,^\circ\text{C}$ に保ったままコックを開き、大気($1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$)と連結して十分時間が経った後、コックを閉じた。$R = 8.31\,\text{J/(mol·K)}$ とする。

(1) はじめの気体の物質量を求めよ。

(2) コックを閉じた後の容器内の気体の物質量を求めよ。

(3) 容器から出て行った気体の物質量を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $1.0\,\text{mol}$

(2) $\dfrac{1}{3}\,\text{mol} \approx 0.33\,\text{mol}$

(3) $\dfrac{2}{3}\,\text{mol} \approx 0.67\,\text{mol}$

解説

(1) $n_1 = \dfrac{p_1 V}{RT} = \dfrac{3.0 \times 10^5 \times 8.31 \times 10^{-3}}{8.31 \times 300} = 1.0\,\text{mol}$

(2) コックを開くと、容器内の圧力は大気圧 $1.0 \times 10^5\,\text{Pa}$ に等しくなる。

$n_2 = \dfrac{p_2 V}{RT} = \dfrac{1.0 \times 10^5 \times 8.31 \times 10^{-3}}{8.31 \times 300} = \dfrac{1}{3}\,\text{mol}$

(3) 流出した物質量 = $n_1 - n_2 = 1.0 - \dfrac{1}{3} = \dfrac{2}{3}\,\text{mol}$

採点ポイント
  • 各状態で独立に $pV = nRT$ を立てる(3点)
  • コック後の圧力が大気圧に等しいことを正しく判断する(3点)
  • 物質量の差から流出量を正しく求める(2点)
  • 単位変換(L → m$^3$)を正しく行う(2点)