お湯を沸かすとき、私たちは「エネルギーを与えている」と言います。
では、与えたエネルギーはどこに蓄えられるのでしょうか。
その答えが「内部エネルギー」です。
理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まるという重要な性質を学びます。
物体が全体として静止していても、内部の分子は激しく運動しています。 この分子の運動エネルギーと、分子間の位置エネルギーの合計を内部エネルギーと呼びます。
理想気体では分子間力を無視するため、位置エネルギーはゼロです。 したがって、内部エネルギーは分子の運動エネルギーの合計のみです。
実在の気体では分子間力による位置エネルギーも内部エネルギーに含まれます。 しかし理想気体では分子間力がゼロなので、
内部エネルギー $U$ = 全分子の運動エネルギーの合計
この単純さが、理想気体の計算を容易にしています。
✕ 誤:「気体が持っている熱が内部エネルギー」
○ 正:「内部エネルギーは状態量であり、気体が持っているエネルギー。熱は移動するエネルギーの形態」
「熱」は温度差によって移動するエネルギーを指す用語です。 気体が「熱を持っている」とは言いません。
ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)のような単原子分子の理想気体を考えます。 単原子分子には回転や振動の運動がないため、並進運動だけをもちます。
前の記事で導いた $\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}k_BT$ を使います。 $N$ 個の分子の運動エネルギーの合計が内部エネルギー $U$ です。
$$U = N \cdot \frac{1}{2}m\overline{v^2} = N \cdot \frac{3}{2}k_BT = \frac{3}{2}Nk_BT$$
$Nk_B = nR$($n$:モル数、$R$:気体定数)を用いると、
$$U = \frac{3}{2}nRT$$
$$U = \frac{3}{2}nRT$$
$U = \frac{3}{2}nRT$ には体積 $V$ も圧力 $p$ も含まれていません。
理想気体の内部エネルギーは、温度 $T$ のみで決まります。 同じ温度であれば、体積や圧力がどう変わっても内部エネルギーは変化しません。
この性質は等温変化($\Delta T = 0$ → $\Delta U = 0$)の理解に不可欠です。
✕ 誤:「気体を圧縮すると密度が上がるから内部エネルギーも増える」
○ 正:「等温で圧縮しても温度が変わらなければ内部エネルギーは不変」
体積が変わっても、温度が一定なら $U$ は変わりません。 ただし実際の圧縮では温度が変わることもあるので注意が必要です。
窒素($\text{N}_2$)や酸素($\text{O}_2$)のような2原子分子は、並進だけでなく回転もします。 分子の運動の種類が増えると、エネルギーの蓄え方も増えます。
分子の運動の独立な成分の数を自由度と呼びます。 エネルギー等分配則によれば、各自由度に $\frac{1}{2}k_BT$ のエネルギーが配分されます。
| 分子の種類 | 並進の自由度 | 回転の自由度 | 合計自由度 | 1分子のエネルギー |
|---|---|---|---|---|
| 単原子分子(He, Ar) | 3 | 0 | 3 | $\frac{3}{2}k_BT$ |
| 2原子分子($\text{N}_2$, $\text{O}_2$) | 3 | 2 | 5 | $\frac{5}{2}k_BT$ |
自由度 $f$ の理想気体の内部エネルギーは、
$$U = \frac{f}{2}nRT$$
単原子分子:$f = 3$ → $U = \frac{3}{2}nRT$
2原子分子:$f = 5$ → $U = \frac{5}{2}nRT$
問題文で「窒素」「酸素」「水素」などと指定されたら2原子分子です。
✕ 誤:「$\text{N}_2$ の内部エネルギーは $U = \frac{3}{2}nRT$」
○ 正:「$\text{N}_2$ は2原子分子で自由度5。$U = \frac{5}{2}nRT$」
問題文に「単原子分子理想気体」と明記されていなければ、注意が必要です。
2原子分子には結合方向の振動の自由度もあります。 振動を含めると自由度は7になるはずですが、常温では振動は凍結されています。
量子力学によると、振動のエネルギー準位の間隔が $k_BT$ より大きい場合、 振動は励起されません。高温(数千K以上)になると振動も寄与し始めます。
熱力学では、内部エネルギーそのものよりも、その変化量 $\Delta U$ が重要です。 気体の温度が $T_1$ から $T_2$ に変化したとき、内部エネルギーの変化は次のようになります。
$$\Delta U = \frac{f}{2}nR\Delta T$$
単原子分子:$\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T$
2原子分子:$\Delta U = \frac{5}{2}nR\Delta T$
内部エネルギーは状態量です。 始状態と終状態の温度だけで $\Delta U$ が決まります。
どのような経路(定積、定圧、断熱など)を通ったかに関係なく、 $\Delta T$ が同じなら $\Delta U$ も同じです。
一方、熱 $Q$ と仕事 $W$ は経路に依存します。この違いは第14章で重要になります。
✕ 誤:「温度が $300\,\text{K}$ から $200\,\text{K}$ に下がった。$\Delta T = 100\,\text{K}$」
○ 正:「$\Delta T = 200 - 300 = -100\,\text{K}$。$\Delta U$ も負(内部エネルギー減少)」
温度が下がれば $\Delta T < 0$、$\Delta U < 0$ です。符号に注意しましょう。
実在の気体では分子間力があるため、内部エネルギーは温度だけでなく体積にも依存します。 気体を急膨張させると温度が下がる(ジュール・トムソン効果)のはこのためです。
理想気体ではジュール・トムソン効果は起こりません。 高圧の気体や臨界点近くでは実在気体の効果が顕著になります。
内部エネルギーは熱力学第一法則の中心的な概念です。 ここで学んだ $U = \frac{f}{2}nRT$ は、すべての状態変化の計算の基礎となります。
Q1. 理想気体の内部エネルギーが温度だけで決まる理由を述べてください。
Q2. $2\,\text{mol}$ の単原子分子理想気体が $300\,\text{K}$ にあるとき、内部エネルギーを求めてください。$R = 8.31\,\text{J/(mol・K)}$
Q3. 2原子分子理想気体の自由度と内部エネルギーの式を書いてください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
$3\,\text{mol}$ の単原子分子理想気体の温度が $200\,\text{K}$ から $500\,\text{K}$ に上昇した。内部エネルギーの変化 $\Delta U$ を求めよ。$R = 8.31\,\text{J/(mol・K)}$
$\Delta U = 1.12 \times 10^4\,\text{J} \approx 11.2\,\text{kJ}$
$\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T = \frac{3}{2} \times 3 \times 8.31 \times (500 - 200) = \frac{3}{2} \times 3 \times 8.31 \times 300 = 11219\,\text{J}$
$1\,\text{mol}$ の単原子分子理想気体が、温度 $T$ を一定に保ちながら体積 $V_1$ から $V_2$($V_2 > V_1$)に等温膨張した。このとき内部エネルギーの変化 $\Delta U$ を求め、その理由を述べよ。
$\Delta U = 0$
理想気体の内部エネルギーは $U = \frac{3}{2}nRT$ であり、温度のみに依存する。等温変化では $\Delta T = 0$ であるから $\Delta U = \frac{3}{2}nR \times 0 = 0$。
体積が変化しても温度が一定であれば、分子1個の平均運動エネルギー $\frac{3}{2}k_BT$ は変わらず、全分子の運動エネルギーの合計も不変である。
$2\,\text{mol}$ の2原子分子理想気体(自由度5)が、温度 $T_1 = 300\,\text{K}$ から $T_2 = 600\,\text{K}$ に変化した。次の問いに答えよ。$R = 8.31\,\text{J/(mol・K)}$
(1) 内部エネルギーの変化 $\Delta U$ を求めよ。
(2) 同じ温度変化を単原子分子理想気体 $2\,\text{mol}$ で行った場合の $\Delta U$ と比較し、差が生じる理由を述べよ。
(1) $\Delta U = 1.25 \times 10^4\,\text{J}$
(2) 単原子分子の場合 $\Delta U = 7.5 \times 10^3\,\text{J}$。2原子分子の方が大きい
(1) $\Delta U = \frac{5}{2}nR\Delta T = \frac{5}{2} \times 2 \times 8.31 \times 300 = 12465\,\text{J} \approx 1.25 \times 10^4\,\text{J}$
(2) 単原子分子:$\Delta U = \frac{3}{2} \times 2 \times 8.31 \times 300 = 7479\,\text{J} \approx 7.5 \times 10^3\,\text{J}$
2原子分子は回転の自由度が2つ加わり、自由度が5になる。エネルギー等分配則により各自由度に $\frac{1}{2}k_BT$ が配分されるため、同じ温度変化でもより多くのエネルギーが必要になる。