第14章 気体の状態変化

断熱変化
─ 熱の出入りなしで状態が変わる

断熱材で囲まれたシリンダーで気体を急速に膨張・圧縮させる——外部との熱のやり取りが一切ない変化を断熱変化と呼びます。
$Q = 0$ なので、気体が仕事をすれば温度が下がり、外部から仕事をされれば温度が上がります。
ポアソンの式 $pV^\gamma = \text{一定}$ が断熱変化を支配する法則です。

1断熱変化とは

断熱変化(だんねつへんか)とは、気体と外部との間で熱の出入りがない($Q = 0$)状態で起こる変化です。

断熱変化が実現する主な状況は、

  • 断熱材で完全に囲まれた容器内での変化
  • 非常に急速な膨張・圧縮(熱が伝わる時間がない)
💡 ここが本質:熱の供給なしに温度が変わる

断熱変化の最大のポイントは、熱を加えていないのに温度が変化することです。

断熱膨張すると気体は仕事をして内部エネルギーが減少し、温度が下がります

断熱圧縮すると外部から仕事をされて内部エネルギーが増加し、温度が上がります

ディーゼルエンジンは断熱圧縮による温度上昇で燃料を自然着火させています。

⚠️ 落とし穴:「断熱」と「等温」の混同

✕ 誤:断熱変化では温度が変わらない

○ 正:断熱変化では温度は変化する。温度が変わらないのは等温変化

「断熱」は「熱の出入りがない」であり、「温度が一定」ではありません。

2第一法則の適用:$\Delta U = -W$

断熱変化に熱力学第一法則 $Q = \Delta U + W$ を適用します。$Q = 0$ なので、

📐 断熱変化の熱力学第一法則

$$\Delta U = -W \quad (Q = 0)$$

断熱膨張($W > 0$)→ $\Delta U < 0$(温度低下)
断熱圧縮($W < 0$)→ $\Delta U > 0$(温度上昇)

単原子分子理想気体では $\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T$ なので、温度変化は仕事から直接求まります。

$$\frac{3}{2}nR\Delta T = -W$$

🔬 深掘り:断熱膨張の日常例

スプレー缶を使うと缶が冷たくなるのは、ガスが断熱膨張するためです。

缶の中の圧縮ガスが大気中に出ると急激に膨張し、外部に仕事をして温度が下がります。

雲の形成も断熱膨張の例です。上昇した空気が膨張して冷え、水蒸気が凝結して雲になります。

3ポアソンの式

断熱変化では $pV = \text{一定}$(ボイルの法則)は成り立ちません。温度が変わるからです。代わりに次の関係が成り立ちます。

📐 ポアソンの式

$$pV^\gamma = \text{一定}$$

$$TV^{\gamma - 1} = \text{一定}$$

$\gamma = C_p / C_v$:比熱比
単原子分子:$\gamma = 5/3$、二原子分子:$\gamma = 7/5$
$\gamma > 1$ なので、断熱線は等温線より急勾配になる。
▷ ポアソンの式の導出(概略)

断熱変化で $Q = 0$ より $\Delta U = -W$、つまり $nC_v dT = -p\,dV$。

状態方程式 $pV = nRT$ を微分して $p\,dV + V\,dp = nR\,dT$ を使い、$dT$ を消去すると、

$$\frac{dp}{p} = -\gamma \frac{dV}{V}$$

両辺を積分すると $\ln p = -\gamma \ln V + \text{const}$、すなわち $pV^\gamma = \text{一定}$ が得られます。

⚠️ 落とし穴:ボイルの法則と混同する

✕ 誤:断熱変化で $pV = \text{一定}$

○ 正:断熱変化では $pV^\gamma = \text{一定}$($\gamma > 1$)

$pV = \text{一定}$(ボイルの法則)は等温変化のみ。断熱変化では $\gamma$ 乗がつきます。

4p-Vグラフ上の断熱変化

断熱変化は p-V グラフ上で等温線より急な曲線として表されます。

等温線は $pV = \text{一定}$($V$ の $-1$ 乗に比例)ですが、断熱線は $pV^\gamma = \text{一定}$($V$ の $-\gamma$ 乗に比例)です。$\gamma > 1$ なので断熱線の方が急勾配になります。

💡 ここが本質:断熱線が急な理由

断熱膨張では、膨張による圧力低下に加えて、温度低下による圧力低下も起こります。

等温変化では温度は一定なので、圧力低下は膨張分だけです。

つまり、断熱膨張では圧力が「二重に」下がるため、等温線より急になるのです。

🔬 深掘り:断熱変化と比熱比 $\gamma$

$\gamma = C_p / C_v$ は気体の種類によって異なります。

単原子分子(He、Ar等):$\gamma = 5/3 \approx 1.67$

二原子分子(N₂、O₂等):$\gamma = 7/5 = 1.40$

$\gamma$ が大きいほど断熱線はより急勾配になり、膨張・圧縮時の温度変化も大きくなります。

5この章を俯瞰する

断熱変化はカルノーサイクルの構成要素であり、エンジンの動作原理の核心です。$Q = 0$ という条件から生まれるポアソンの式は、等温変化のボイルの法則と対をなす重要な関係です。

つながりマップ

  • ← T-4-1 熱力学第一法則:$Q = 0$ のケースとして第一法則が $\Delta U = -W$ になる。
  • ← T-4-4 等温変化:$\Delta U = 0$ の等温変化と対比される。p-Vグラフの傾きの違い。
  • ← T-4-6 モル比熱:比熱比 $\gamma = C_p/C_v$ がポアソンの式に登場。
  • → T-4-7 p-Vグラフ:断熱線と等温線の傾きの違いが視覚的に理解できる。
  • → T-4-9 熱機関:カルノーサイクルの断熱過程として登場。

📋まとめ

  • 断熱変化は熱の出入りがない変化。$Q = 0$
  • 熱力学第一法則:$\Delta U = -W$(膨張すれば温度低下、圧縮すれば温度上昇)
  • ポアソンの式:$pV^\gamma = \text{一定}$、$TV^{\gamma-1} = \text{一定}$
  • 比熱比 $\gamma = C_p/C_v$:単原子分子 $5/3$、二原子分子 $7/5$
  • p-Vグラフでは等温線より急な曲線
  • 等温変化と断熱変化は「温度一定」vs「熱の出入りなし」で根本的に異なる

確認テスト

Q1. 断熱変化で気体が外部にした仕事 $W > 0$ のとき、内部エネルギーと温度はどう変化しますか。

▶ クリックして解答を表示$\Delta U = -W < 0$ なので、内部エネルギーは減少し、温度は下がります。

Q2. ポアソンの式を書いてください。$\gamma$ は何を表していますか。

▶ クリックして解答を表示$pV^\gamma = \text{一定}$。$\gamma = C_p/C_v$ は比熱比で、単原子分子では $5/3$、二原子分子では $7/5$ です。

Q3. 断熱圧縮するとディーゼルエンジンの燃料が着火するのはなぜですか。

▶ クリックして解答を表示断熱圧縮では $Q = 0$ で $\Delta U = -W > 0$(圧縮で $W < 0$)となり、温度が大幅に上昇するため、燃料の着火温度に達して自然着火します。

Q4. p-Vグラフ上で、断熱線と等温線はどちらが急勾配ですか。その理由は?

▶ クリックして解答を表示断熱線の方が急勾配。断熱膨張では温度低下も加わって圧力がより大きく低下するためです。

8入試問題演習

断熱変化を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

4-5-1 A 基礎 断熱変化計算

単原子分子理想気体を断熱的に圧縮したところ、外部から $600\,\text{J}$ の仕事をされた。内部エネルギーの変化と温度変化の向き(上昇・下降)を答えよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\Delta U = +600\,\text{J}$(温度は上昇する)

解説

断熱変化なので $Q = 0$、$\Delta U = -W$。外部から仕事をされたので $W = -600\,\text{J}$(気体がした仕事は負)。

$\Delta U = -(-600) = +600\,\text{J}$。$\Delta U > 0$ なので温度は上昇する。

B 発展レベル

4-5-2 B 発展 ポアソンの式計算

単原子分子理想気体($\gamma = 5/3$)が圧力 $p_0$、体積 $V_0$ の状態から断熱的に膨張し、体積が $8V_0$ になった。

(1) 膨張後の圧力を $p_0$ で表せ。

(2) 膨張後の温度は元の温度の何倍か。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $p_0/32$

(2) $1/4$ 倍

解説

(1) $pV^\gamma = \text{一定}$ より、$p_0 V_0^{5/3} = p_2 (8V_0)^{5/3}$

$p_2 = p_0 \left(\frac{V_0}{8V_0}\right)^{5/3} = p_0 \left(\frac{1}{8}\right)^{5/3} = p_0 \cdot \frac{1}{8^{5/3}}$

$8^{5/3} = (2^3)^{5/3} = 2^5 = 32$ なので $p_2 = p_0/32$

(2) $TV^{\gamma-1} = \text{一定}$ より、$T_0 V_0^{2/3} = T_2 (8V_0)^{2/3}$

$T_2 = T_0 \left(\frac{1}{8}\right)^{2/3} = T_0 \cdot \frac{1}{4}$

採点ポイント
  • ポアソンの式を正しく適用(各3点)
  • $8^{5/3} = 32$ などの指数計算(各2点)

C 応用レベル

4-5-3 C 応用 断熱+等温比較

同じ初期状態(圧力 $p_0$、体積 $V_0$、温度 $T_0$)の単原子分子理想気体を、(a) 等温変化 (b) 断熱変化でそれぞれ体積 $2V_0$ まで膨張させた。

(1) 各過程での最終圧力を比較し、どちらが大きいか理由をつけて答えよ。

(2) 各過程で気体がした仕事 $W$ は、p-Vグラフ上のどこに対応するか説明し、どちらの仕事が大きいか答えよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 等温変化の最終圧力の方が大きい。

(2) 等温変化の仕事の方が大きい。

解説

(1) 等温変化:$p_2 = p_0/2$。断熱変化:$p_2 = p_0/2^\gamma = p_0/2^{5/3} < p_0/2$。断熱変化では膨張に加えて温度低下も圧力を下げるため、断熱変化の最終圧力の方が小さい。したがって等温変化の方が大きい。

(2) 各仕事はp-Vグラフで曲線と $V$ 軸の間の面積に対応。断熱線は等温線の下を通るため、断熱変化の面積(仕事)の方が小さい。したがって等温変化の仕事の方が大きい。

採点ポイント
  • (1) 圧力の大小関係を正しく答える(2点)
  • (1) 断熱変化で温度低下が圧力をさらに下げる説明(3点)
  • (2) 面積の対応を正しく説明(3点)
  • (2) 仕事の大小関係の正しい結論(2点)