気体の温度を上げるのに必要な熱量は、どのような過程で加熱するかによって異なります。
定積変化での比熱 $C_v$ と定圧変化での比熱 $C_p$ の違い、そしてそれらを結ぶマイヤーの関係 $C_p - C_v = R$ を体系的に整理しましょう。
モル比熱とは、気体 $1\,\text{mol}$ の温度を $1\,\text{K}$ だけ上げるのに必要な熱量です。単位は $\text{J/(mol·K)}$ です。
気体には「定積で加熱するか」「定圧で加熱するか」の2種類の代表的な加熱方法があり、それぞれに対してモル比熱が定義されます。
| モル比熱 | 記号 | 定義 | 単原子分子 | 二原子分子 |
|---|---|---|---|---|
| 定積モル比熱 | $C_v$ | 体積一定で $1\,\text{mol}$ を $1\,\text{K}$ 上げる熱量 | $\frac{3}{2}R$ | $\frac{5}{2}R$ |
| 定圧モル比熱 | $C_p$ | 圧力一定で $1\,\text{mol}$ を $1\,\text{K}$ 上げる熱量 | $\frac{5}{2}R$ | $\frac{7}{2}R$ |
定圧変化では膨張の仕事 $p\Delta V$ にエネルギーが使われるため、同じ温度上昇に対して定積変化より多くの熱が必要です。
つまり $C_p > C_v$ であり、その差がちょうど $R$(気体定数)になります。
内部エネルギーは気体分子の自由度(運動の仕方の数)によって決まります。
各自由度に $\frac{1}{2}k_BT$($k_B$はボルツマン定数)のエネルギーが均等に配分されます。$1\,\text{mol}$ あたりでは各自由度に $\frac{1}{2}RT$ です。
| 分子の種類 | 自由度 $f$ | 内訳 | $U$ | $C_v$ |
|---|---|---|---|---|
| 単原子分子(He, Ar) | $3$ | 並進3 | $\frac{3}{2}nRT$ | $\frac{3}{2}R$ |
| 二原子分子(N₂, O₂) | $5$ | 並進3 + 回転2 | $\frac{5}{2}nRT$ | $\frac{5}{2}R$ |
$$U = \frac{f}{2}nRT, \quad C_v = \frac{f}{2}R$$
二原子分子は並進運動($x$, $y$, $z$ の3方向)に加えて、分子軸と垂直な2つの軸まわりの回転運動があります。
分子軸まわりの回転は(原子を質点とみなすと)慣性モーメントがほぼ $0$ なので自由度に数えません。
高温では振動の自由度(2つ)も加わり、$f = 7$、$C_v = \frac{7}{2}R$ になりますが、高校物理では通常 $f = 5$ を使います。
$$C_p - C_v = R$$
$$C_p = C_v + R = \frac{f+2}{2}R$$
定圧変化で $n\,\text{mol}$ の気体を $\Delta T$ だけ加熱するとき、
熱量:$Q = nC_p\Delta T$
内部エネルギー変化:$\Delta U = nC_v\Delta T$
仕事:$W = p\Delta V = nR\Delta T$(状態方程式の変化量から)
第一法則 $Q = \Delta U + W$ に代入すると、
$$nC_p\Delta T = nC_v\Delta T + nR\Delta T$$
$n\Delta T$ で割ると $C_p = C_v + R$
$C_p$ と $C_v$ の差 $R$ は、定圧変化で1 molを 1 K 上げるときの膨張仕事 $p\Delta V = R$ に対応します。
定圧変化:温度上昇分 $C_v$ + 膨張仕事分 $R$ = $C_p$
この $R$ の差は気体の種類によらず一定です。
✕ 誤:マイヤーの関係は単原子分子でのみ成り立つ
○ 正:マイヤーの関係 $C_p - C_v = R$ はすべての理想気体で成り立つ
$C_v$ の値は分子の種類によって変わりますが、$C_p - C_v$ の差は常に $R$ です。
定圧モル比熱と定積モル比熱の比を比熱比 $\gamma$と呼びます。断熱変化のポアソンの式に登場する重要な量です。
$$\gamma = \frac{C_p}{C_v} = \frac{f+2}{f}$$
$\gamma$ を使うと、$C_v$ と $C_p$ を次のように表せます。
$$C_v = \frac{R}{\gamma - 1}, \quad C_p = \frac{\gamma R}{\gamma - 1}$$
ポアソンの式 $pV^\gamma = \text{一定}$ で $\gamma$ が大きいほど、p-Vグラフ上の断熱線はより急勾配になります。
$\gamma$ が大きい(自由度が小さい)気体ほど、断熱膨張・圧縮による温度変化が大きくなります。
単原子分子ガスを使ったエンジンは、同じ体積比で圧縮しても温度がより大きく上がります。
モル比熱は熱力学の計算で繰り返し使う基本量です。$C_v$、$C_p$、$\gamma$ の関係を正確に理解することが、すべての状態変化を解く基盤となります。
Q1. 単原子分子理想気体の $C_v$ と $C_p$ の値を $R$ で表してください。
Q2. マイヤーの関係を式で書き、$R$ の差が何を意味するか説明してください。
Q3. 二原子分子理想気体の比熱比 $\gamma$ はいくらですか。
Q4. $C_p > C_v$ である理由を物理的に説明してください。
モル比熱を入試形式で確認しましょう。
二原子分子理想気体 $2.0\,\text{mol}$ を定圧変化で $200\,\text{K}$ から $350\,\text{K}$ まで加熱した。$R = 8.3\,\text{J/(mol·K)}$ として、加えた熱量を求めよ。
$Q = 8715\,\text{J} \approx 8.7 \times 10^3\,\text{J}$
二原子分子の定圧モル比熱 $C_p = \frac{7}{2}R$
$Q = nC_p\Delta T = 2.0 \times \frac{7}{2} \times 8.3 \times (350 - 200) = 2.0 \times 3.5 \times 8.3 \times 150 = 8715\,\text{J}$
理想気体 $n\,\text{mol}$ を定圧変化で温度を $\Delta T$ だけ上げた。熱力学第一法則と状態方程式を用いて、$C_p = C_v + R$ を導出せよ。
下記の導出を参照。
第一法則:$Q = \Delta U + W$
定圧変化で $Q = nC_p\Delta T$、$\Delta U = nC_v\Delta T$、$W = p\Delta V$
状態方程式の変化量:$p\Delta V = nR\Delta T$($p$ 一定)
代入:$nC_p\Delta T = nC_v\Delta T + nR\Delta T$
$n\Delta T$ で割って:$C_p = C_v + R$
ある理想気体を断熱的に体積 $V_0$ から $V_0/2$ まで圧縮したところ、温度が $T_0$ から $T_0 \cdot 2^{2/5}$ になった。
(1) $\gamma - 1$ の値を求めよ。
(2) この気体の比熱比 $\gamma$ と $C_v$ を求め、この気体は単原子分子か二原子分子か判定せよ。
(1) $\gamma - 1 = 2/5$
(2) $\gamma = 7/5$、$C_v = \frac{5}{2}R$。二原子分子。
(1) $TV^{\gamma-1} = \text{一定}$ より、$T_0 V_0^{\gamma-1} = T_0 \cdot 2^{2/5} \cdot (V_0/2)^{\gamma-1}$
$V_0^{\gamma-1} = 2^{2/5} \cdot V_0^{\gamma-1} / 2^{\gamma-1}$
$1 = 2^{2/5} / 2^{\gamma-1} = 2^{2/5 - (\gamma-1)}$
$2/5 - (\gamma - 1) = 0$ → $\gamma - 1 = 2/5$
(2) $\gamma = 1 + 2/5 = 7/5$。$C_v = R/(\gamma-1) = R/(2/5) = 5R/2$。$C_v = \frac{5}{2}R$ は二原子分子の値。