第14章 気体の状態変化

モル比熱
─ 定積モル比熱と定圧モル比熱

気体の温度を上げるのに必要な熱量は、どのような過程で加熱するかによって異なります。
定積変化での比熱 $C_v$ と定圧変化での比熱 $C_p$ の違い、そしてそれらを結ぶマイヤーの関係 $C_p - C_v = R$ を体系的に整理しましょう。

1モル比熱とは

モル比熱とは、気体 $1\,\text{mol}$ の温度を $1\,\text{K}$ だけ上げるのに必要な熱量です。単位は $\text{J/(mol·K)}$ です。

気体には「定積で加熱するか」「定圧で加熱するか」の2種類の代表的な加熱方法があり、それぞれに対してモル比熱が定義されます。

モル比熱 記号 定義 単原子分子 二原子分子
定積モル比熱 $C_v$ 体積一定で $1\,\text{mol}$ を $1\,\text{K}$ 上げる熱量 $\frac{3}{2}R$ $\frac{5}{2}R$
定圧モル比熱 $C_p$ 圧力一定で $1\,\text{mol}$ を $1\,\text{K}$ 上げる熱量 $\frac{5}{2}R$ $\frac{7}{2}R$
💡 ここが本質:同じ温度上昇でも必要な熱量が違う

定圧変化では膨張の仕事 $p\Delta V$ にエネルギーが使われるため、同じ温度上昇に対して定積変化より多くの熱が必要です。

つまり $C_p > C_v$ であり、その差がちょうど $R$(気体定数)になります。

2自由度と内部エネルギー

内部エネルギーは気体分子の自由度(運動の仕方の数)によって決まります。

エネルギー等分配則

各自由度に $\frac{1}{2}k_BT$($k_B$はボルツマン定数)のエネルギーが均等に配分されます。$1\,\text{mol}$ あたりでは各自由度に $\frac{1}{2}RT$ です。

分子の種類 自由度 $f$ 内訳 $U$ $C_v$
単原子分子(He, Ar) $3$ 並進3 $\frac{3}{2}nRT$ $\frac{3}{2}R$
二原子分子(N₂, O₂) $5$ 並進3 + 回転2 $\frac{5}{2}nRT$ $\frac{5}{2}R$
📐 一般的な関係

$$U = \frac{f}{2}nRT, \quad C_v = \frac{f}{2}R$$

$f$:分子の自由度。自由度が多いほど内部エネルギーが大きく、$C_v$ も大きい。
🔬 深掘り:なぜ二原子分子の自由度は5なのか

二原子分子は並進運動($x$, $y$, $z$ の3方向)に加えて、分子軸と垂直な2つの軸まわりの回転運動があります。

分子軸まわりの回転は(原子を質点とみなすと)慣性モーメントがほぼ $0$ なので自由度に数えません。

高温では振動の自由度(2つ)も加わり、$f = 7$、$C_v = \frac{7}{2}R$ になりますが、高校物理では通常 $f = 5$ を使います。

3マイヤーの関係 $C_p - C_v = R$

📐 マイヤーの関係

$$C_p - C_v = R$$

$$C_p = C_v + R = \frac{f+2}{2}R$$

この関係は気体の種類(単原子・二原子)によらず、すべての理想気体で成り立つ。
▷ マイヤーの関係の導出

定圧変化で $n\,\text{mol}$ の気体を $\Delta T$ だけ加熱するとき、

熱量:$Q = nC_p\Delta T$

内部エネルギー変化:$\Delta U = nC_v\Delta T$

仕事:$W = p\Delta V = nR\Delta T$(状態方程式の変化量から)

第一法則 $Q = \Delta U + W$ に代入すると、

$$nC_p\Delta T = nC_v\Delta T + nR\Delta T$$

$n\Delta T$ で割ると $C_p = C_v + R$

💡 ここが本質:$R$ の差は膨張仕事の分

$C_p$ と $C_v$ の差 $R$ は、定圧変化で1 molを 1 K 上げるときの膨張仕事 $p\Delta V = R$ に対応します。

定圧変化:温度上昇分 $C_v$ + 膨張仕事分 $R$ = $C_p$

この $R$ の差は気体の種類によらず一定です。

⚠️ 落とし穴:マイヤーの関係の適用範囲

✕ 誤:マイヤーの関係は単原子分子でのみ成り立つ

○ 正:マイヤーの関係 $C_p - C_v = R$ はすべての理想気体で成り立つ

$C_v$ の値は分子の種類によって変わりますが、$C_p - C_v$ の差は常に $R$ です。

4比熱比 $\gamma = C_p / C_v$

定圧モル比熱と定積モル比熱の比熱比 $\gamma$と呼びます。断熱変化のポアソンの式に登場する重要な量です。

📐 比熱比

$$\gamma = \frac{C_p}{C_v} = \frac{f+2}{f}$$

単原子分子($f=3$):$\gamma = 5/3 \approx 1.67$
二原子分子($f=5$):$\gamma = 7/5 = 1.40$
$\gamma$ は常に $1$ より大きい。自由度が大きいほど $\gamma$ は $1$ に近づく。

$\gamma$ を使った便利な表現

$\gamma$ を使うと、$C_v$ と $C_p$ を次のように表せます。

$$C_v = \frac{R}{\gamma - 1}, \quad C_p = \frac{\gamma R}{\gamma - 1}$$

🔬 深掘り:断熱変化の「急さ」と $\gamma$ の関係

ポアソンの式 $pV^\gamma = \text{一定}$ で $\gamma$ が大きいほど、p-Vグラフ上の断熱線はより急勾配になります。

$\gamma$ が大きい(自由度が小さい)気体ほど、断熱膨張・圧縮による温度変化が大きくなります。

単原子分子ガスを使ったエンジンは、同じ体積比で圧縮しても温度がより大きく上がります。

5この章を俯瞰する

モル比熱は熱力学の計算で繰り返し使う基本量です。$C_v$、$C_p$、$\gamma$ の関係を正確に理解することが、すべての状態変化を解く基盤となります。

つながりマップ

  • ← T-4-2 定積変化:$C_v$ が定義される変化。$Q = nC_v\Delta T$。
  • ← T-4-3 定圧変化:$C_p$ が定義される変化。$C_p = C_v + R$(マイヤーの関係)。
  • → T-4-5 断熱変化:$\gamma = C_p/C_v$ がポアソンの式 $pV^\gamma = \text{一定}$ に登場。
  • → T-4-9 熱機関:カルノー効率の計算でモル比熱を使う。
  • ← T-3 分子運動論:自由度とエネルギー等分配則がモル比熱の理論的基礎。

📋まとめ

  • 定積モル比熱 $C_v = \frac{f}{2}R$:単原子 $\frac{3}{2}R$、二原子 $\frac{5}{2}R$
  • 定圧モル比熱 $C_p = \frac{f+2}{2}R$:単原子 $\frac{5}{2}R$、二原子 $\frac{7}{2}R$
  • マイヤーの関係:$C_p - C_v = R$(すべての理想気体で成立)
  • 比熱比 $\gamma = C_p/C_v$:単原子 $5/3$、二原子 $7/5$。$\gamma > 1$
  • $\Delta U = nC_v\Delta T$ はすべての過程で成り立つ(内部エネルギーは状態量)
  • $C_p > C_v$ の理由:定圧変化では膨張仕事の分だけ余分に熱が必要

確認テスト

Q1. 単原子分子理想気体の $C_v$ と $C_p$ の値を $R$ で表してください。

▶ クリックして解答を表示$C_v = \frac{3}{2}R$、$C_p = \frac{5}{2}R$

Q2. マイヤーの関係を式で書き、$R$ の差が何を意味するか説明してください。

▶ クリックして解答を表示$C_p - C_v = R$。差の $R$ は、定圧変化で 1 mol を 1 K 上げるときの膨張仕事に対応します。

Q3. 二原子分子理想気体の比熱比 $\gamma$ はいくらですか。

▶ クリックして解答を表示$\gamma = C_p/C_v = \frac{7/2}{5/2} = 7/5 = 1.4$

Q4. $C_p > C_v$ である理由を物理的に説明してください。

▶ クリックして解答を表示定圧変化では温度上昇に加えて膨張の仕事にも熱が使われるため、同じ温度上昇に必要な熱量が定積変化より多くなります。

8入試問題演習

モル比熱を入試形式で確認しましょう。

A 基礎レベル

4-6-1 A 基礎 モル比熱計算

二原子分子理想気体 $2.0\,\text{mol}$ を定圧変化で $200\,\text{K}$ から $350\,\text{K}$ まで加熱した。$R = 8.3\,\text{J/(mol·K)}$ として、加えた熱量を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$Q = 8715\,\text{J} \approx 8.7 \times 10^3\,\text{J}$

解説

二原子分子の定圧モル比熱 $C_p = \frac{7}{2}R$

$Q = nC_p\Delta T = 2.0 \times \frac{7}{2} \times 8.3 \times (350 - 200) = 2.0 \times 3.5 \times 8.3 \times 150 = 8715\,\text{J}$

B 発展レベル

4-6-2 B 発展 マイヤーの関係導出

理想気体 $n\,\text{mol}$ を定圧変化で温度を $\Delta T$ だけ上げた。熱力学第一法則と状態方程式を用いて、$C_p = C_v + R$ を導出せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

下記の導出を参照。

解説

第一法則:$Q = \Delta U + W$

定圧変化で $Q = nC_p\Delta T$、$\Delta U = nC_v\Delta T$、$W = p\Delta V$

状態方程式の変化量:$p\Delta V = nR\Delta T$($p$ 一定)

代入:$nC_p\Delta T = nC_v\Delta T + nR\Delta T$

$n\Delta T$ で割って:$C_p = C_v + R$

採点ポイント
  • $Q$、$\Delta U$、$W$ を正しく表す(各2点)
  • $p\Delta V = nR\Delta T$ の導出(2点)
  • 最終結果の導出(2点)

C 応用レベル

4-6-3 C 応用 比熱比論述

ある理想気体を断熱的に体積 $V_0$ から $V_0/2$ まで圧縮したところ、温度が $T_0$ から $T_0 \cdot 2^{2/5}$ になった。

(1) $\gamma - 1$ の値を求めよ。

(2) この気体の比熱比 $\gamma$ と $C_v$ を求め、この気体は単原子分子か二原子分子か判定せよ。

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解答

(1) $\gamma - 1 = 2/5$

(2) $\gamma = 7/5$、$C_v = \frac{5}{2}R$。二原子分子。

解説

(1) $TV^{\gamma-1} = \text{一定}$ より、$T_0 V_0^{\gamma-1} = T_0 \cdot 2^{2/5} \cdot (V_0/2)^{\gamma-1}$

$V_0^{\gamma-1} = 2^{2/5} \cdot V_0^{\gamma-1} / 2^{\gamma-1}$

$1 = 2^{2/5} / 2^{\gamma-1} = 2^{2/5 - (\gamma-1)}$

$2/5 - (\gamma - 1) = 0$ → $\gamma - 1 = 2/5$

(2) $\gamma = 1 + 2/5 = 7/5$。$C_v = R/(\gamma-1) = R/(2/5) = 5R/2$。$C_v = \frac{5}{2}R$ は二原子分子の値。

採点ポイント
  • $TV^{\gamma-1} = \text{一定}$ の適用(3点)
  • 指数方程式の正しい処理(3点)
  • $\gamma$ から分子の種類を正しく判定(4点)