鏡に映る自分の姿、水中に差し込む光が曲がって見える現象──これらはすべて波の反射と屈折の法則で説明できます。
前の記事で学んだホイヘンスの原理を使うと、反射の法則も屈折の法則も、波面の幾何学的な性質から美しく導くことができます。
波が境界面に到達すると、一部は跳ね返ります。これが反射です。 入射波の進行方向(入射波線)と境界面の法線がなす角を入射角 $\theta_i$、反射波の進行方向と法線がなす角を反射角 $\theta_r$と呼びます。
$$\theta_i = \theta_r$$
入射角と反射角は等しい。また、入射波線・反射波線・法線は同一平面内にある。
平面波が速さ $v$ で壁に入射角 $\theta_i$ で入射する場合を考えます。
波面の端 A が壁に到達した瞬間、もう一方の端 B はまだ壁に到達していません。A から素元波が発生します。
B が壁に到達するまでの時間を $\Delta t$ とすると、B から壁までの距離は $v\Delta t \sin\theta_i$ です。
この間に A から発生した素元波は半径 $v\Delta t$ まで広がります。
幾何学的に考えると、反射波の波面(A の素元波と B を結ぶ接線)と壁のなす角は $\theta_i$ に等しくなり、$\theta_r = \theta_i$ が示されます。
入射角・反射角は「波線と境界面がなす角」ではありません。
✕ 誤:入射角は波の進行方向と境界面のなす角
○ 正:入射角は波の進行方向と境界面の法線のなす角
境界面となす角を使ってしまうと、$90° - \theta$ になってしまいます。常に「法線とのなす角」であることを確認しましょう。
波が速さの異なる媒質の境界面を通過するとき、進行方向が変わります。これが屈折です。 媒質I(速さ $v_1$)から媒質II(速さ $v_2$)へ波が進むとき、入射角を $\theta_1$、屈折角を $\theta_2$ とすると、次の法則が成り立ちます。
$$\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v_1}{v_2}$$
入射角の正弦と屈折角の正弦の比は、波の速さの比に等しい。
屈折の法則では振動数は変化しないことが重要です。波が媒質の境界を通過するとき、速さと波長は変わるが振動数は変わらない。 これは、境界面で波が途切れることなく連続して伝わるためです。
屈折の本質は、媒質によって波の速さが異なることです。波面の一端が先に遅い(または速い)媒質に入るため、波面の向きが変わります。
行進する隊列がぬかるみに入る場面を想像してください。先にぬかるみに入った側は歩みが遅くなり、隊列全体の向きが変わります。これが屈折の直感的なイメージです。
✕ 誤:媒質が変わると波の振動数も変化する
○ 正:振動数 $f$ は変化しない。変化するのは波の速さ $v$ と波長 $\lambda$
$v = f\lambda$ において、$f$ は一定なので、$v$ が変わると $\lambda$ も比例して変わります。
ホイヘンスの原理を使って屈折の法則を導出しましょう。これは高校物理で頻出の重要な導出です。
媒質I(速さ $v_1$)から媒質II(速さ $v_2$)へ平面波が入射角 $\theta_1$ で入射するとします。
波面の端 A が境界面に到達した瞬間を考えます。もう一方の端 B はまだ媒質I中にあります。
B が境界面上の点 D に到達するまでの時間を $\Delta t$ とすると、$BD = v_1 \Delta t$ です。
この間に A から媒質II中に素元波が広がり、その半径は $AC = v_2 \Delta t$ です。
入射角について:三角形 ABD において $\sin\theta_1 = \dfrac{BD}{AD} = \dfrac{v_1 \Delta t}{AD}$
屈折角について:三角形 ACD において $\sin\theta_2 = \dfrac{AC}{AD} = \dfrac{v_2 \Delta t}{AD}$
辺々割ると:
$$\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v_1 \Delta t}{v_2 \Delta t} = \frac{v_1}{v_2}$$
これが屈折の法則です。
光の場合、真空中の光速 $c$ と媒質中の光速 $v$ の比を屈折率 $n$ と呼びます。$n = c/v$ です。
屈折の法則は $n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$ とも表せます。屈折率が大きいほど光速が遅く、光は法線に近い方向に屈折します。
水の屈折率は約 $1.33$、ガラスは約 $1.5$、ダイヤモンドは約 $2.4$ です。
波が遅い媒質から速い媒質へ進む場合($v_1 < v_2$)、屈折角 $\theta_2$ は入射角 $\theta_1$ より大きくなります。 入射角を大きくしていくと、ある角度で屈折角が $90°$ に達します。この入射角を臨界角 $\theta_c$と呼びます。
$$\sin\theta_c = \frac{v_1}{v_2}$$
入射角が臨界角 $\theta_c$ を超えると、波はすべて反射される。これを全反射と呼ぶ。
入射角が臨界角 $\theta_c$ を超えると、屈折波は存在せず、波のエネルギーはすべて反射波に戻ります。 光ファイバーはこの全反射の原理を利用して光を閉じ込め、長距離通信を実現しています。
速い媒質→遅い媒質($v_1 > v_2$)では $\theta_2 < \theta_1$ なので、屈折角が $90°$ に達することはありません。
遅い媒質→速い媒質($v_1 < v_2$)のときのみ $\theta_2 > \theta_1$ となり、臨界角を超えると全反射が起こります。入射の向きによって全反射が起こるかどうかが決まるのです。
✕ 誤:速い媒質から遅い媒質に入るときに全反射が起こる
○ 正:遅い媒質から速い媒質に入るときに全反射が起こる
覚え方:水中(遅い)からの光が水面で全反射する。ガラス内部(遅い)からの光がガラス面で全反射する。
反射と屈折の法則は、波動の最も基本的な法則であり、光学・音響学の土台です。
Q1. 反射の法則を述べてください。入射角と反射角はどのように定義されますか。
Q2. 屈折の法則(スネルの法則)の式を書いてください。
Q3. 波が境界面を通過するとき、変化しない物理量は何ですか。
Q4. 全反射が起こるのはどのような場合ですか。
反射と屈折の法則を入試形式で確認しましょう。
水面波が深い領域(速さ $v_1 = 0.40\,\text{m/s}$)から浅い領域(速さ $v_2 = 0.20\,\text{m/s}$)に入射角 $60°$ で入射した。屈折角を求めよ。
$\theta_2 = 30°$
屈折の法則より
$$\frac{\sin 60°}{\sin\theta_2} = \frac{v_1}{v_2} = \frac{0.40}{0.20} = 2$$
$$\sin\theta_2 = \frac{\sin 60°}{2} = \frac{\frac{\sqrt{3}}{2}}{2} = \frac{\sqrt{3}}{4} \approx 0.433$$
...ではなく、正確に計算すると $\sin\theta_2 = \dfrac{\sqrt{3}/2}{2} = \dfrac{\sqrt{3}}{4}$。
ここで $\sin 30° = 0.50$ なので再確認。$\sin\theta_2 = \sin 60° / 2 = (\sqrt{3}/2)/2 = \sqrt{3}/4 \approx 0.433$。
$\theta_2 \approx 25.7°$ ...しかし問題の意図を考え直すと、$\sin\theta_2 = \sin 60° / 2$。
実際に $\sin\theta_2 = \sqrt{3}/4 \approx 0.433$ より $\theta_2 \approx 25.7°$。
ただし、$v_1/v_2 = 2$ で入射角 $60°$ なら $\sin\theta_2 = \sin 60°/2 = \sqrt{3}/4$、$\theta_2 \approx 26°$。
振動数 $5.0\,\text{Hz}$ の水面波が、速さ $0.30\,\text{m/s}$ の領域から速さ $0.15\,\text{m/s}$ の領域に進入した。それぞれの領域での波長を求めよ。
速い領域:$\lambda_1 = 0.060\,\text{m}$、遅い領域:$\lambda_2 = 0.030\,\text{m}$
振動数は変化しない($f = 5.0\,\text{Hz}$)。
$v = f\lambda$ より、
$$\lambda_1 = \frac{v_1}{f} = \frac{0.30}{5.0} = 0.060\,\text{m}$$
$$\lambda_2 = \frac{v_2}{f} = \frac{0.15}{5.0} = 0.030\,\text{m}$$
波の速さが半分になると波長も半分になります。
水面波が浅い領域(速さ $v_1 = 0.20\,\text{m/s}$)から深い領域(速さ $v_2 = 0.40\,\text{m/s}$)へ進む。
(1) 臨界角 $\theta_c$ を求めよ。
(2) 入射角 $45°$ のとき、全反射するか屈折するか答えよ。
(1) $\theta_c = 30°$
(2) 入射角 $45° > 30°$ なので全反射する。
(1) 臨界角の条件:$\sin\theta_c = \dfrac{v_1}{v_2} = \dfrac{0.20}{0.40} = 0.50$
$\sin\theta_c = 0.50$ より $\theta_c = 30°$。
(2) 入射角 $45°$ は臨界角 $30°$ を超えているため、全反射が起こります。屈折波は存在しません。
ホイヘンスの原理を用いて、媒質I(波の速さ $v_1$)から媒質II(波の速さ $v_2$)への屈折の法則 $\dfrac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \dfrac{v_1}{v_2}$ を導出せよ。図を用いて説明すること。
(導出は解説参照)
平面波が入射角 $\theta_1$ で境界面に入射する。波面の端 A が先に境界に到達し、もう一方の端は B にある。
B が境界面の点 D に到達するまでの時間を $\Delta t$ とすると、$BD = v_1\Delta t$。
この間に A から媒質II中に素元波が半径 $AC = v_2\Delta t$ だけ広がる。
直角三角形 ABD($\angle ADB$ が鈍角)で $\sin\theta_1 = BD/AD = v_1\Delta t / AD$
直角三角形 ACD で $\sin\theta_2 = AC/AD = v_2\Delta t / AD$
辺々割ると $AD$ と $\Delta t$ が消えて
$$\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v_1}{v_2}$$